第319回 記憶喪失3 〜なぜ、前世の記憶を忘れるのか?


ロボマインド・プロジェクト、第319弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

前回、前々回とアベマTVで紹介されてた記憶喪失になった大庭英俊さんをとりあげています。
大庭さんは、41歳の時、仕事中に急性心筋梗塞で倒れて13分間も心臓が止まりました。
目が覚めたとき、今までの記憶を一切失っていました。
それだけでなく、新たに覚えることもできなくなりました。
事故から14年たった今も、同じ状況です。
毎朝、目が覚めると、「ここはどこ、私は誰?」って思うそうです。
部屋の壁にA4に拡大した自分の免許証を貼ってあります。
毎朝、起きたら、まず、それを見て、自分が誰かを確認するところから1日が始まります。
いや、1日が始まるんじゃなくて、人生が始まります。

この話を聞いたとき、もしかしたら、僕らも大庭さんと同じじゃないかって思ったんですよ。
僕らも、毎回、忘れてるんじゃないかって。
毎回ってのは、毎日のことじゃなくて、毎回の人生のことです。
つまり、何度も生まれ変わってると仮定するわけです。
そうすると、毎回、前世を忘れてるわけです。

毎回、ゼロからやり直して、一生を過ごすんです。
でも、死んだらすべて忘れるんです。
これって、ある意味、大庭さんと同じじゃないですか?

もしかしたら、僕らも一種の記憶障害をもってるって言えないでしょうか?
じゃぁ、なんで僕らは前世の記憶を忘れてしまったんでしょう?
そのヒントは、大庭さんの言葉から見えてきます。
これが今回のテーマです。
なぜ、前世の記憶を忘れたか。
それでは、始めましょう!

アベマTVでは、記憶喪失になって記憶が回復した大和イチロウさんも紹介されていました。
大和さんは、高校生の時、バイク事故で記憶喪失になったそうですけど、記憶をほぼ全部取り戻したそうです。
記憶が戻るきっかけは、インスタントラーメンの匂いだったそうです。
実は、嗅覚って、五感の中でも特殊で、唯一、大脳辺縁系に直結しています。
大脳辺縁系は、感情を発生させるところで、記憶を司る海馬も隣接しています。
つまり、匂いと記憶は直結してるんです。
たしかに、匂いをきっかけに、子供時代のことをリアルに思い出すことってありますよね。

大和さんは、インスタントラーメンの匂いをきっかけに記憶を取り戻しました。
でも、それは、決して楽しい経験じゃなかったそうです。
記憶というのは、楽しい記憶、辛い記憶、いろいろありますけど、どちらかというと辛い記憶の方が多いんです。
なぜかというと、生物は生きていくために、危険や苦痛をさけなければいけません。
そのために、危なかったり、辛かった出来事を覚えておく必要があるんです。

大庭さんも、同じことを言っていました。
記憶が一気に戻ることをフラッシュバックといいます。
大庭さんも、何度か、記憶を呼び戻そうとしたことがあったそうです。
でも、フラッシュバックが起きそうになると、いつも、怖くて、シャットダウンしてしまうそうなんです。
フラッシュバックって、苦しかったり、辛かったりした記憶が巨大な流れとなって、一気に押し寄せてくるんです。
いったんそれが起こると、自分じゃコントロールできません。
目や耳からの入力なら、目を閉じたり、耳をふさいだりすれば止めることができますけど、フラッシュバックはそうはいきません。

大庭さんはこう言ってます。
「もし、全ての記憶が一気に戻ったら、おそらく、自分は耐えられなくて死ぬんじゃないか」って。
それほど、フラッシュバックってキツイものなんです。

さて、さっき五感のなかで嗅覚だけ、大脳辺縁系に直結してるって言いましたよね。
じゃぁ、それ以外の感覚はどうなのかというと、大脳新皮質に向かいます。
たとえば、視覚情報なら側頭葉の「何の経路」を介して前頭葉に向かいます。
前頭葉の前頭前野には意識があります。

ここで、意識の仕組みについておさらいしておきます。
人は、目で見た世界を頭の中で仮想世界として構築します。
意識は、この仮想世界を介して現実世界を認識します。
これは、僕が提唱する意識の仮想世界仮説です。
この仮想世界が作られるのが前頭葉だと思っています。

仮想世界は、現実世界を認識するだけでなくて、過去の思い出や、未来を想像するときにも使います。
これを想像仮想世界と言います。
想像仮想世界の中で、過去の出来事を再現するわけです。
このタイプの記憶をエピソード記憶と言います。
仮想世界の最大の特徴は、時間の概念を持つことです。
あんなことがあって、その後こんなことがあってって、思い出の中には時間が流れてますよね。
つまり、時間というのは、仮想世界の中に存在するんです。

この仮想世界を使った世界認識は、左脳による認識です。
脳にはもう一つ右脳がありますよね。
右脳は、仮想世界とは全く違う方式で世界を認識します。
それは直観です。

第316回で直観の話をしました。
ロバートは、コンビニに入った瞬間、嫌な予感がして外に出ました。
その直後、中から銃声がしました。
コンビニ強盗がいたんです。
ロバートは、直観で、ここはやばいと思って外に出たわけです。

さて、ロバートは、どうやって危険を察知したんでしょう。
後から考えると、店員の様子がいつもと違ったり、店内に不自然な男がいたりしたのを思い出したそうです。
どうも、それらを無意識でキャッチして、「何かおかしい」って思ったようです。

これは、理屈で判断する左脳とは別の機能です。
左脳は仮想世界を使って、こうなるとこうなるって、シミュレーションして考えます。
右脳は、そうじゃなくてパターンを覚えてます。
いつものコンビニ店員の動きとか、コンビニにいる客とかってパターンです。
いつものパターンと違うって判断したわけです。
この判断は、シミュレーションじゃないので、一瞬です。
そのかわり、なぜ危険を感じたのかといった理由はわかりません。
一瞬なので、時間も存在しません。
ぱっと、ここは危険だって思い浮かぶわけです。
これが右脳の直観です。

さて、直観で一番有名な現象は、デジャビュでしょう。
始めて来た場所なのに、「あれ、ここ、前に来たことあるぞ」って思うとかです。
これは、左脳じゃなくて、右脳で一場面として覚えてるんでしょう。
だから、理由もなく、突然、ふと思い浮かぶんです。
そして、もしかしたら、それは、生まれる前の記憶かもしれません。

さて、ここで、前世の話が出てきました。
ここでは、前世というものがあると仮定して話を進めます。
前世の記憶が、どこかに残されてるとしましょう。
おそらく、それは強烈な記憶でしょう。
たとえば、戦国武将で、壮絶な死に方をしたとかって記憶とかです。
そんな記憶が一気に戻ってくるとしたら、そりゃ、耐えられないですよね。
だから、無意識でストッパがかかって、思い出せないようになってるんです。
大庭さんが過去を思い出すのが怖いっていうのと同じです。
そして、これは、左脳が認識するタイプの記憶です。

でも、右脳は違います。
右脳が感じるのは、「なんかやばいぞ」とか、「あれ、ここ、前に来たことがあるぞ」とかって感覚です。
これは、思い出すというより、ふと、感じるってだけです。
だから、こちらには無意識のストッパはかかりにくいんでしょう。
だから、ふと、デジャビュを感じたりするんです。

さて、大庭さんは新しい記憶ができないですけど、毎日、起きたとき、鏡を見るのが怖いって感じるそうです。
そして、恐る恐る鏡をのぞき込むと、そこには、思ってもない自分の姿が映し出されます。
事故が起こったのは41歳の時でした。
見た目も細くて痩せてました。
今は、55歳で、薬のせいで太っています。
自分は41歳で痩せてると思ってるのに、鏡を見ると、55歳の太った自分が映ってるんです。
毎朝、それにショックを受けるそうです。

でも、夜寝ると、そのことは忘れてしまうんです。
でも、何となく、鏡を見ると嫌なことが起こりそうって感覚だけ覚えてるんです。
これは、右脳の記憶ですよね。
左脳の記憶はできなくなっても、右脳の記憶は残るようです。
もし、前世の記憶が残ってるとしたら、左脳より右脳の方が思い出しやすいんじゃないでしょうか。

最後に、前世について、いろんな角度から見ていこうと思います。
まずは量子力学です。

電子とか光子といった量子は、位置を特定することができません。
この位置に存在する確率は何%って波動関数があるだけです。
この波動関数のことをシュレーディンガー方程式といいます。
ただし、量子は、観測することで位置を特定できます。
このことを波動関数の収縮っていいます。

有名な思考実験にシュレーディンガーの猫と言うのがあります。
1時間後に崩壊する確率が50%の放射性物質があるとします。
箱の中に、この放射性物質と猫と、放射性物質が崩壊したら猫を殺す装置を入れます。
シュレーディンガーの方程式から言えるのは、生きてる状態50%、死んでる状態50%が重ね合わさった状態です。
そして、箱を開けたとき、死んでるのか生きてるのかわかります。
これが波動関数の収縮です。

さて、これとは別の解釈があります。
箱のふたを開けたとき、猫が死んでるってわかりました。
でも、それはこの世界だけと考えるんです。
どういうことかというと、ふたを開けた瞬間、猫が生きてるもう一つの世界が生まれたとするんです。
重ね合わせが崩れたとき、もう一つの可能性の世界が生まれたと考えるんです。
世界は、可能性の数だけ、無限に存在するって解釈です。
これを、エヴェレットの多世界解釈といいます。

さて、僕らは頭の中の仮想世界の中を生きています。
自分はどこで生まれて、どこの学校に通ってってあるのは頭の中ですよね。
毎日起きて、記憶から自分の世界を構築してるわけです。

エヴェレットの多世界解釈では、可能性の数だけ世界が存在します。
それと同じように、人の数だけ、世界が存在すると考えるんです。
人の数だけ存在する頭の中の世界と、それとは別に、頭の外に一つだけ世界があるんです。
それが現実世界です。
ただし、現実世界が存在するのは、今、この一瞬だけです。
一秒前の現実世界は、それぞれの記憶の中にしか存在しません。

さて、頭の中の世界は記憶で作り上げられます。
記憶とは情報です。
次は、ソフトウェアで考えてみます。

ソフトウェアの世界ではボットとかエージェントと呼ばれるプログラムがあります。
これは、たとえばインターネット内を自律的に動き回って、特定の情報を収集したりするプログラムのことです。

記憶で作られた世界をインターネットと仮定します。
そう考えると、エージェントプログラムが僕らの意識と言えそうです。
意識のエージェントプログラムが、自分の記憶を行き来するわけです。
人それぞれが、自分の世界を持つとは、それぞれが、自分のインターネットを持ってるって感じです。
自分のインターネットは、部分的に、他人のネットとデータを共有してます。
これが、同じ経験をして同じ記憶を持ってるってことです。

データの共有でなくて、別のネットが接続されることがあるとします。
LANに、別のLANが接続されるって感じです。
つまり、自分のLANに、他の人のLANが接続されるわけです。
そうなると、自分の意識エージェントは、他人の記憶に入ることができるようになります。
これが、前世の記憶を思い出すってことでしょう。
他人の人生の記憶を、あたかも自分の記憶のように思い出すことができるわけです。

もしかしたら、誰もが、本当は前世の記憶とつながってるのかもしれません。
ただ、その間にはファイアーウォールがあるんです。
ファイアウォールでポートが遮断されてて、過去世は見えないんです。
それが、何らかのきっかけでポートが解放されると、前世の記憶がよみがえるわけです。
そのポートは、おそらく左脳にあるんでしょう。
過去世の左脳のエピソード記憶につながってるんです。

ファイアウォールには、アクセス可能な安全なポートも設定されてるんですよ。
たぶん、そのポートは右脳にあるんですよ。
そこにアクセスすると、ふと、何か感じるんです。
音楽を聞いたら楽しいって思ったり、絵を描いたら、夢中になって描いたり。
人それぞれ、趣味とか嗜好が違いますよね。
生きがいとか、やりたいことも違いますよね。
それって、過去世でやってたこと、やり残したことだと思うんですよ。
過去世の右脳のポートにアクセスしたとき、それを思い出すんです。

どうやら、自分の人生って思ってますけど、それって、誰かの人生を基にして作られてるみたいです。
そして、過去世の記憶にはアクセスできないようにファイアウォールが設定されてるんです。
通常は、現世の記憶のみアクセス可能に設定されてあります。
だから、朝起きたら、昨日までの人生を思い出せるんです。
それが、事故とかがきっかけで、そのポートが閉ざされることがあるんです。
それが起こったのが大庭さんです。
つまり、記憶喪失です。
逆に、過去世のポートが、何らかのきっかけで解放されることが、過去世を思い出すことです。

じゃぁ、いったい、そんなポート設定したのは誰ってなりますよね。
いや、そもそもそんなシステムを作ったのは誰って。

これを説明する仮説は一つしかありません。
それは、シミュレーション仮説です。
高度に文明が発達した宇宙人がいるわけです。
彼らのシミュレーション実験として作られたのが、僕らの意識が感じてるこの世界です。
このシミュレーション世界では、人が死ぬと、その人が記憶を基にして、新たな別の人を生み出します。
ただ、やることは、ファイアウォールのポートの切り替えだけです。
たぶん、それはネットワークスペシャリストの資格を持ってる宇宙人がやるんでしょう。

さて、どうなんでしょうねぇ。
これが本当かどうか、誰にも分りませんけどね。

はい、今回の動画が面白かったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、動画で紹介した意識の仮想世界仮説に関しては、こちらの本で詳しく解説していますのでよかったら読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!