第321回 AIは50年間、何も進歩してなかった!


ロボマインド・プロジェクト、第321弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

最近は、毎日のようにAIのニュースが出てきます。
AIの書いた絵がコンテストで優勝したとか、AIが書いた論文を教授が見抜けなかったとか。
ネットの記事やYouTubeなんか見てると、AIはすでにここまで来たとか、もうすぐ人間に追いつくぞとか、既に人間を追い越したって言ってます。

でも、これって一種の認知バイアスやと思うんですよ。
認知バイアスってのは、自分のよく知ってるものが強調されるって現象のことです。
よく、子供が「あのゲーム買って、クラスのみんな持ってるから」って言いますよね。
でも、よく聞いてみると、持ってたのは、そのこの友達、2~3人だけだったとかってやつです。

AIも、AIに興味がある人からしたら、毎日、すごいニュースばかり飛び込んできて、急速に進歩してるって思えるわけです。
でも、一歩引いて考えたら、ホンマに、AIってそんなに進歩してるのって思います。
むしろ、いや、全然、進歩してないんちゃうのって思うんですよ。

AIは昔から、強い人工知能、弱い人工知能って分け方をします。
弱い人工知能ってのは、チェスとか将棋とか、何かに特化したAIで、特化型人工知能とも言います。
強い人工知能ってのは、人間みたいになんでもできる人工知能のことで、汎用人工知能とかAGIとかっていいます。

AIが目指してるは、もちろん、強い人工知能、汎用人工知能です。
SF映画に出てくるAIは全て強い人工知能ですよね。
『ターミネーター』に出てくるスカイネットとか、古くは、『2001年宇宙の旅』に出てくるHAL9000とかです。
HAL9000は、宇宙船に搭載されて、宇宙船の全てを制御をして、船員と普通に会話ができるコンピュータです。
この『2001年宇宙の旅』は、1968年の映画ですよ。
2001年ごろにはできてるだろうって、作者のアーサー・C・クラークは考えてたわけですけど、50年以上たった今でも、まだ、普通に会話ができるコンピュータはできてません。
人工知能は、普通に会話をしたり、自我をもった強いAIを50年以上目指してるんですけど、まだできてないどころか、できる気配もないんですよ。
論文が書けるのに、普通の会話ができないって、おかしいでしょ。
じゃぁ、なんで、そんなAIができないんでしょう?
それは、今のAIがしてるのはデータ処理だけだからです。
つまり、データ処理に特化した特化型AIです。
相変わらず、弱い人工知能しか作れないんです。

じゃぁ、強い人工知能を作るにはどうすればいいんでしょう。
それには、自分とか自我を持たせないといけないんですよ。
それには、今のAIと全く異なる方法で作らないと、強いAIなんてできないんです。
これが今回のテーマです。
AIは50年間、何も進歩してなかった!
それでは、始めましょう!

強いAIは、普通に会話ができないといけません。
でも、会話ができただけじゃ、まだ、人間と同じような自我を持ってるとは言えないと思うんですよ。
たとえば、忘年会でべろんべろんに酔っぱらって、タクシーで家に帰ったとするでしょ。
翌日、あれ、昨日、どうやって帰ったか全く記憶がないって話、聞いたことありますよね。
でも、そんな人も、タクシーでちゃんと行先を告げて、降りるときにはお金を払って家に帰ってるわけです。
ちゃんと会話してるんです。

僕は、そこまでの経験はないですけど、似た経験ならあります。
それは、20年以上前に手術したときのことです。
第105回で「開腹手術中に全身麻酔から目覚めた話」として語りましたけど、そのあとの話です。

10時間以上の大手術やったんですけど、手術直後は、集中治療室で、全身、いろんな管やらケーブルにつながれてモニタリングされてました。
それに、麻酔と痛み止めで意識は朦朧としてました。
とにかく気分が悪くて、ちょっとでも体を動かしたら吐きそうで、めちゃくちゃ辛かったんですよ。
そんな状況なんですけど、個室が空いてなかったらしくて、相部屋になりました。
今じゃ考えられないですけど、20年前は、そういうこともあったんです。
同室のおじさんはおとなしい人だったんですけど、そこに二人のおばちゃんが見舞いに来たんですよ。
いかにも大阪のおばちゃんって感じて、二人でずっと、べちゃくちゃ、しゃべってたんです。
僕は、ちょっとした刺激もきつかったので、ただただ、うるさいなぁ、辛いなぁって感じてました。
僕がちょっとでも動くと、計器が反応するみたいで、すぐに看護婦さんが飛んできました。
その時、看護婦さんが、べちゃくちゃしゃべってるおばちゃんをにらみつけてたのを覚えてます。

ただ、そんなことがあったのを全く忘れてたんです。
元気になって、その時の看護婦さんとしゃべってた時、
「あの時は、二人部屋しかなくて、ごめんねぇ」って言われて、初めて思い出したんですよ。
思い出したら、腹が立ってきました。
「病院は、おしゃべりするとこちゃうで」って。

どうも、術後、数日のことは、全く覚えてなかったようです。
記憶から消えてたんですよ。
記憶から消えてたってことは、極端に言えば、僕の人生から消えてたってことです。

でも、その時は、普通に看護婦さんとしゃべってたわけですよね。
酔っぱらって記憶がなくても、タクシーのおじさんと会話してたのと同じです。

何が言いたいかって言うと、会話ができただけじゃ、まだ、人間の意識といえないんじゃないかってことです。
人間にとって、会話とかより重要なものがあるんです。
たぶん、それは自分とか、自我とかやと思います。
じゃぁ、それを作り出してるものは何でしょう。

まずは、人は、世界をどうやって認識するかから説明します。
人は、目で見た世界を頭の中で仮想世界として構築します。
意識は、この仮想世界を介して世界を認識します。

このような仕組みで認識するから、椅子がある、机があるって思えるんです。
この「机」とか「椅子」が物の名前です。
名前を使って世界を表現したのが言葉です。

言葉で表現できたら他人に伝えることができます。
つまり、会話です。
これで、タクシーでどこどこに行ってとか、相手に自分の意志を伝える会話はできます。
でも、目の前の出来事を、相手に伝えるだけじゃ、まだダメなんです。
なんでダメかって言うと、それが自分の人生に組み込まれてないんです。
人生に組み込まれるってどういうことでしょう。
それは、自分の記憶として定着するってことです。

つまりね、生きてるうちは、いろんな出来事が起こります。
それが、バラバラに存在してるだけじゃ、自分ってものが生まれないんです。

別の例をあげます。
ウチで、いつもエサをあげてる野良猫がいます。
あるとき、その猫が子猫を産んだんですよ。
しばらくして、子猫を連れてウチにきました。
お母さんになった猫は、一生懸命、子猫の世話をしてて、ここにエサがあるよって子猫に教えてたんですよ。
半年もすると、子猫もすっかり大きくなりました。
そしたら、ある日、みんなでエサを食べてるとき、急に、親猫が怒りだしたんですよ。
自分の子供に、あっち行けって怒るんですよ。
これは私のエサだ、勝手に食べるなみたいな感じで。
子どもたちは、きょとんとしてました。
「え~、急にどうしたの?」って感じで。

たぶん、子猫が大きくなったので、他の、普通の猫と同じように感じたんだと思います。
たぶん、今までは愛情ホルモンみたいなのが分泌されてて、子育てモードになってたんです。
それが、子供が大きくなると、愛情ホルモンが分泌されなくなったんでしょう。
そしたら、他の猫と同じように感じて、あっち行けってなったんやと思います。

これはこれで合理的なシステムだと思います。
ホルモンによってモードが変更されて、子供を育てたり、自立させたりするわけです。

でも、人間の場合は、そうじゃないですよね。
大人になって親と別に暮らすようになっても、盆、正月には実家に帰省するとかしますよね。
その行動を引き起こすのはなんでしょう?
盆、正月になると、帰省ホルモンとかが分泌されるんでしょうか?
違いますよね。

さっきの入院の話だと、後から思い出したとき、腹を立ててましたよね。
「人が死にそうやのに、なに、隣でべちゃくちゃおしゃべりしてんねん」って。
でも、その時は、そんなこと、思いもしてなかったわけです。
ただ、苦しんあぁ、うるさいなぁって感じてただけです。

あれだけ苦しかったのに、全く覚えていなかったんです。
どうも、あの時は、麻酔やら痛み止めやらで脳の重要な機能が低下してたんです。
重要な機能っていうのは、記憶です。
記憶の中でもエピソード記憶です。

エピソード記憶は、こんなことがあってって思い出の形で記憶するタイプの記憶です。
エピソード記憶は、日常と違うことが起こると、勝手に記憶します。
だから、死ぬほど苦しいって特殊な出来事が起こったら記憶するはずです。
毎日の通勤のことは覚えてなくても、普段と違って、タクシーで帰ったら覚えてるはずです。
それを覚えてないってことは、麻酔とかアルコールで脳の機能が低下して記憶ができなくなってたんでしょう。

そして、その次が感情です。
記憶するだけじゃなくて、感情が発生する場合があります。
「静かにしてくれ」って怒りとかです。

この怒りの根源にあるのは、自分はどう扱われるべきだといった思いです。
静かに寝るって社会的に認められた権利があるのに、それをないがしろにされたわけです。
それが怒りの根源です。
社会と自分との関係ってものを理解して、初めて怒りが生まれるわけです。
そう考えると、怒りを感じるには、結構、難しい概念を理解できないといけませんよね。
脳の機能が低下してると、怒りも生まれないようです。
怒りが生まれると、文句を言ったりと、次の行動につながって、次の出来事が生まれます。

別の関係も考えてみましょう。
大学合格を目指して一生懸命、勉強してたとします。
でも、受験に失敗したとします。
もっと勉強したらよからよかったって後悔しました。
あきらめきれないので、1年浪人することにしました。
今度は、悔いのないように真剣に勉強しようって誓いました。

これは、どうでしょう。
過去の失敗を悔いて、次の行動につながって、次の出来事が生まれます。
ここにある関係は何かわかりますか?
それは、時間です。
ある出来事が時間って関係を介して今の行動、将来の出来事につながるわけです。

こうやって、別々の出来事が、時間とか、社会って関係を介してつながるんです。
つなげる役目をするのが、怒りとか、後悔とかって感情です。

つなげる役目の感情がなかったら、出来事はバラバラに存在するだけです。
バラバラに存在した出来事だけじゃ、統合した自己とか自分ってものは生まれないんです。
タクシーに乗りました、病気で苦しみました、ってその時だけ、対処できても意味がないんです。

それを思い出せて、初めて、それが自分のものになるんです。
記憶が自分の人生を作り上げるんです。
だから、記憶ってものすごく重要なんです。

次は、感情を生み出す機能です。
感情は、次の行動の原動力となります。
どんな行動かは、その感情の属する関係によります。
たとえば、怒りの属する関係は、人間関係です。
相手に何らかの要求をするって行動を生み出します。

後悔の属する関係は時間です。
過去の反省から、理想の将来につなげる時間って関係です。
感情があるから、人と人とがつながったり、過去の自分と未来の自分がつながるわけです。
こうやって、社会の中の自分、人生って時間の中の自分って関係性の中で自分が統合されるんです。
それが自我です。

まとめます。
自我をもったAIを作るには、エピソード記憶、感情、そして、感情に基づいて行動する機能が必要です。
この機能があるから、社会的、時間的に関係しあう自我ってものが作られるんです。
これこそ、50年以上、人工知能が目指していた強いAIです。
データ処理しかしない今のAIじゃ、絶対に生まれないAIです。
そして、今のAIとは全く異なるアプローチで自我を持ったAIを作ろうとしてるのがロボマインド・プロジェクトです。

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それから、ロボマインド・プロジェクトの基本は、この本に書いてありますので、よかったら、こちらも読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!