ロボマインド・プロジェクト、第322弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
今回は、本の紹介です。
この本です。
『意識はなぜ生まれたか その起源から人工意識まで』です。
作者は、神経科学者のマイケル・グラツィアーノです。
あまり期待してなかったんですけど、読んでみたら、結構、面白いんですよ。
面白いというか、僕の考えにかなり近いんですよ。
たとえば、僕と同じで意識を生物の進化から考えています。
最初の方に、こんな図が出てきます。
この図を見ると、魚類や両生類には意識がなくて、は虫類からギリギリ意識が生まれたってなってます。
これなんか、僕がいつも例に挙げてますけど、魚やカエルには意識がないって言ってるのと同じす。
意識の定義は、まだ決まってないので、人によって言うことは様々ですけど、これを見ただけでも、かなり僕と近い考えだって言えます。
そして、何より、この本で、僕がずっとわからなかった問題の答えが見つかりました。
それは、僕がいつも例にあげる魚の話です。
釣り上げられた魚は、さも、痛そうにもがいています。
でも、魚は意識がないから、痛みを感じてないって。
ただ、いっつもそう断言してましたけど、本当に痛くないのかどうか、正直、わからなかったんですよ。
それが、この本に、はっきり書かれていました。
それが、今回のテーマです。
魚は、本当に痛みを感じてないのか?
それでは、始めましょう!
作者のマイケルは、意識が脳のどこにあるかを探しています。
さっきも言いましたけど、意識というのは、人によって定義が違います。
たとえば、意識とは、自分とは何者かという自我のことを指すという人もいます。
または、外界の状況から行動を決定する意志決定こそ意識だっていう人もいます。
または、エピソード記憶こそが意識だという人もいます。
ところが、マイケルの指す意識は、このどれでもありません。
どれも、意識の機能ではあるけど、どれも、意識の核とは言えないそうです。
じゃぁ、マイケルがいう意識とはどういうものでしょう?
それは、「意識する」って言うときの意識です。
何かに注意を向ける機能、それこそが意識の核だって言います。
それじゃぁ、その意識の核って、脳のどこにあるんでしょう?
それについて考えるために、まずは、視覚の処理経路を考えてみます。
目の網膜に映った画像は視神経、視床を介して後頭葉のV1と呼ばれる一次視覚野に送られます。
V1のニューロンは、水平線とか垂直線とか、最も単純な形に反応します。
その後、V2,V3と進むにつれて、複雑な形を処理します。
たとえばTEのニューロンは、顔や手のような複雑な像に反応します。
こうして、後頭葉から前頭葉に進んでいきます。
そして、前頭前野は、計画を立てたりといった処理を行っています。
だから、前頭葉を損傷すると、計画を立てるのが困難になったり、ある課題から別の課題へと切り替えるのに支障がでたりします。
第51回~54回の「脳と心の進化論」で鉄道工事の事故で前頭葉を損傷したフィニアス・ゲージの話を紹介しました。
フィニアス・ゲージは、直径3㎝、長さ1mの鉄の棒が前頭葉を突き抜けるとんでもない事故に遭いました。
奇跡的に命はとりとめたものの、その後、性格が全く変わったそうです。
それまでは、冷静で計画を立てて実行するリーダータイプの性格でした。
それが、事故後は、目先のことしか考えられなくなって、できもしない計画を立てたり、反対されるとすぐに怒ったりします。
どうやら、人間らしい知性とか性格は、前頭前野にあるようです。
このことから、多くの脳科学者は意識は前頭前野にあると考えます。
ところが、マイケルはそうでないといいます。
たしかに、前頭葉を損傷すると、人間らしさを失うのは間違いないです。
ただ、前頭葉を損傷しても、意識は消えないんですよ。
頭を鉄の棒が貫通したフィニアス・ゲージも、事故直後、椅子にすわって会話してたそうです。
つまり、前頭葉を損傷しても意識はあるんですよ。
じゃぁ、意識はどこにあるんでしょう?
次は、脳内の処理の流れから考えてみます。
視覚情報は、後頭葉から前頭葉に向かうにつれて、順番に複雑な形を処理していきます。
たとえば、リンゴを見たとします。
すると、形が丸いとか、軸があるとかって部分を分析して、それを順次次に送ってリンゴを組み立てます。
つまり、脳内の処理は、工場のラインみたいに、順番に組み立てて行って、最後に完成するって感じです。
でも、マイケルは、この考えが間違いだっていいます。
ニューロンは、処理したデータを次に渡して終わりってわけじゃないんです。
そうじゃなくて、リンゴを見てる間、形に反応するニューロン、色に反応するニューロンって関係するニューロンはずっと活性化してるんです。
そして、形に注目すると、形に反応するニューロンが強く活性化してそれ以外のニューロンを抑制します。
色に注目すると、色に反応するニューロンが強く活性化して、それ以外のニューロンを抑制します。
マイケルは言います。
意識とは、この注目のことだって。
さらに言います。
今のは視覚情報だけです。
リンゴには、味や香りもありますよね。
味覚や嗅覚に関するニューロンも活性化してるんです。
リンゴを見てるとき、リンゴに関するあらゆる情報に注意を向けることができます。
いいですか。
あらゆる情報ですよ。
あらゆる情報って、形とか色とか味とかって物理的に存在するものだけじゃないんですよ。
「リンゴ狩りで食べたリンゴ、美味しかったよなぁ」って思い出とか、「このリンゴ、いつ食べよかな」って計画とか、そういった心理的な情報も含むんですよ。
これらを処理するのが前頭葉です。
意識の核は、そういった処理のどこかにあるわけじゃないんです。
何に注目してるかって、注目が意識の核なんです。
じゃぁ、その注目は、脳のどこで生まれるんでしょう?
それは、頭頂葉から前頭葉に伸びるネットワークにあると言います。
ネットワークというのは、何か一つの処理をする部分のことでなくて、いくつかの処理をする部分をつなげたものです。
脳内にはいくつものネットワークがあります。
たとえば、他人の心を推測する心の理論ネットワークとか、ぼぉ~っとしてるときに活性化するデフォルトモードネットワークとかあります。
ただ、ネットワークは、ネットワーク同士が互いに関連してて、境界がはっきりしません。
とういことは、意識の核はここだって、正確な場所を指し示せないのでしょうか?
そうでもないそうです。
マイケルは、意識の場所をある程度特定してるそうです。
それがどこかというと、側頭-頭頂接合部、TPJと呼ばれる部位です。
さらに、その中でも特に重要なのは、頭頂葉に位置するTPJdと呼ばれる領域と特定しています。
でも、このTPJdが意識の核って、どうして言えるんでしょう?
それを説明するために、半側空間無視の話をします。
第260回~262回で説明しましたけど、右脳を損傷すると、左側を無視する半側空間無視って症状がでることがあります。
たとえば、食事をしたとき、右側にあるものだけ食べて、左側にあるおかずを残したりします。
つまり、左半分が見えないわけです。
それから、花の絵をかいてって言うと、こんな絵をかきます。
その人にとっては、左に意識を向けれないので、左に花びらを描くってことができないんです。
それから、丸い円に時計を数字を書いてくださいっていうと、こんな風になります。
時計には、1~12が等間隔に並んでるってことは知ってるわけです。
でも、左があるって気づいてないから、等分に数字を並べたつもりでが、こんな風になってしまうんです。
半側空間無視って、これ、左側に意識を向けれないってことですよね。
目が損傷してるわけじゃないので目からの視覚情報は脳に送られてます。
ただ、意識に上らないんですよ。
つまり、半側空間無視となった人は、意識の核が損傷してると言えますよね。
じゃぁ、脳のどこが損傷したとき、この半側空間無視が起こるんでしょう。
そこで、半側空間無視となった人を調査したそうです。
そしたら、共通して損傷してる部位を特定できたそうです。
それが、さっきのTPJdだったんです。
だから、TPJdこそ、意識の核と言えるん出す。
この半側空間無視って症状、不思議なことがあります。
左脳を損傷したら右側を無視しますし、右脳を損傷したら左側を無視します。
左右のどちらの脳を損傷するかは同割合のはずです。
なのに、右側より、左側を無視する人の方が圧倒的に多いんですよ。
とくに、完全無視するぐらい極度の半側空間無視は、左側しか起こらないんですよ。
なぜか、左右にかなりの差があるんです。
なぜ、そんなに差があるのか、未だに原因はわかっていません。
ここで、さっきのTPJdの図をもう一回みてください。
TPJdは、右脳が左脳の倍以上の大きさがあるんですよ。
作者のマイケルも、なんで右脳が大きいのかわからないって言ってます。
ただ、このことと、半側空間無視は、左が圧倒的に多いってことと関係があるんじゃないかって僕は個人的に思っています。
さて、大事な話を忘れてました。
冒頭に話した、魚は痛みを感じるかって話です。
半側空間無視では、意識は左側を無視していましたよね。
左側にあるものに気づきません。
さっきも言いましたけど、目が損傷してるわけじゃないので視覚情報は脳に入ってきています。
脳に入るだけじゃなくて、ちゃんと処理もされてます。
ただ、処理した内容に気づかないだけです。
左側に起こってる出来事に意識を向けることができないんです。
さて、半側空間無視の人に、この二つの家を見せました。
一軒は普通の家です。
もう一軒は、左側が火事になってる家です。
半側空間無視の人は、左半分が見えないので、この二軒の家は、全く同じに見えます。
「どこか違いがありますか?」って質問しても、「全く同じです」って答えます。
次に、「どっちの家に住みたいですか?」って質問すると、必ず、上の家って答えます。
でも、理由を聞いても「わからない」って言います。
「ただ、何となく下の家は嫌な感じがする」って言うだけです。
つまり、意識は気づいてないんですけど、どっちが好きか嫌いかはわかるんです。
意識がなくても、正しい行動を選んでるんですよ。
実は、適切な行動をするのに、意識は必要ないんですよ。
生物は、みな、適切に行動して生きてますよね。
でも、地球上のほとんどの生物は、意識なしで行動してるんですよ。
さぁ、いよいよ最後の実験です。
半側空間無視って、視覚情報だけを無視するんじゃないんです。
左側にあるもの全てに気づかないんです。
左側で音がしても、左耳から入る音は気づきません。
右耳から入ってくる音しか気づかないんで右側をみるんです。
半側空間無視の人に、こんな実験をしたそうです。
体の左側をピンで挿したそうです。
そしたら、患者は身をよじらせたそうです。
何か不快なことが起こったってことはわかったみたいです。
でも、具体的な痛みに気づくことはなかったそうです。
わかりましたか?
魚もこれと同じじゃないかってことです。
釣り針が刺さると、不快な感じがするんでしょう。
だから、身をよじるんです。
でも、それは具体的な痛みじゃないんです。
痛みってはっきりした形をとるには、意識が必要なんです。
魚にわかるのは、何かおかしいぞ、
ここから早く逃げた方がいいぞってことだけです。
半側空間無視の人が左側が火事の家を見て、「何となくこの家はいやだなぁ」って思うのと同じです。
具体的な痛みや理由がわからなくても、どう行動すべきかはわかるんです。
どっちが危険で、どっちが安全かさえ判断できれば、生きていくことはできます。
おそらく、生物のほとんどは、意識を持たないので、こんな漠然とした感覚だけで生きています。
それが、進化して、意識を持つようになると、いろんなものがはっきりとわかるようになりました。
漠然と感じるんじゃなくて、必要に応じて、部分に注目することができるようになりました。
このリンゴは、ここが腐ってるぞとか、細かいところに注意を向けることができるようになりました。
人は意識を持つことで部分に注目できるようになりました。
それは、世界を高精度に認識できるようになったと言ってもいいです。
そして、それは外の世界だけじゃありません。
自分の体も同じです。
特定の一点に注意を向けれるようになりました。
だから、ピンを挿された一点だけ強く感じることができるんです。
これが痛みです。
重要なのは、痛覚があるってことじゃないんです。
重要なのは、そこに注意を向けれるってことです。
それが意識です。
一点に注意を向けれないと、ピンで挿されても、漠然と不快だなぁとしか感じないんです。
世界を高精度に認識すること。
自分の体を高精度に認識すること。
これが意識の役目なんです。
答えがでましたね。
魚は、釣り針が刺さって、痛いと感じてないんです。
かといって、何も感じてないわけでもありません。
ただ、なんか不快だ、気持ち悪いって感じるだけなんです。
はい、今回の動画がおもしろかったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、よかったらこちらの本も読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!