ロボマインド・プロジェクト、第323弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
前回、第322回で、今までわからなかった謎が一つ解決されました。
それは、魚は痛みを感じるかどうかです。
結論は、感じてないです。
ただし、不快な感じとかは感じてます。
なぜ、そう言えるかというと、半側空間無視の患者の実験からです。
半側空間無視っていうのは、脳卒中などで、たとえば右脳の一部を損傷したとき、左側を無視するという症状です。
無視するってのは、見えないってことじゃなくて、気づかないとか、意識にのぼらないってことです。
たとえば、半側空間無視の女の人が化粧をすると、顔の左半分だけ化粧をしなかったり、髪をとかすのを忘れたりします。
まるで、自分の左側に世界が存在しないかのように思ってるみたいです。
これは、視覚にかかわることだけじゃなくて、あらゆる感覚で左側にあるものに気づかないわけです。
そこで、患者の左腕をピンで挿してみました。
すると、何か不快な感覚を感じたようで、身をよじったそうです。
痛いと感じたわけじゃないですけど、なんか気持ち悪くて、身をよじってしまったそうです。
これが、意識が有る場合と、ない場合の違いです。
つまりね、左半分は意識がなくて、右半分は意識があるんですよ。
そして、意識がないと、痛みも感じないんです。
だから、意識を持たない魚も痛みを感じてないってわけです。
この話、魚の痛みの話だけで終わらないです。
意識で、ずっとわからなかったことも分かってきたんです。
それが何かというと、意識は、どうやって生まれたかってことです。
これが今回のテーマです。
意識は、いかにして生まれたのか。
それでは、始めましょう!
半側空間無視の患者は、左半分は、意識を持たない生物、たとえば魚と同じです。
右半分だけ、人間の意識があるわけです。
つまり、右側から何かが失われると、左の意識がない自分になるわけです。
だから、何が失われたかを追求すれば、意識に必要な要素が見えてくるはずです。
たとえば記憶で考えてみます。
第317回~319回で記憶喪失になった大庭さんを取り上げました。
大庭さんは記憶喪失になって、自分の名前や過去の記憶を失いました。
さらに、新たに経験したことを覚えることもできなくなりました。
毎朝、自分が誰かを確認するところから一日が始まります。
同居してるお母さんも、毎日、初めて会った人のように感じるそうです。
不思議なのは、自分の名前やお母さんのことは覚えていないのに、モーツァルトとかは覚えてるそうです。
新たに経験したことは記憶できないのに、ニュースは毎日見てて、今の総理大臣の名前とかは答えれます。
モーツァルトとか総理大臣の名前は覚えれるのに、自分やお母さんのことは覚えれないって、これって、どういうことでしょう?
これは、世界の認識の仕方が二種類あると考えたらわかりやすいです。
一つは客観的世界です。
たとえば、日本の首都は東京であるといった客観的な事実です。
客観的な事実というのは自分とは関係なく存在する世界ともいえます。
もう一つは、自分を中心とした世界です。
自分の名前とか、どこで生まれて、親は誰で、どこの学校を卒業して、今、どんな仕事をしてるかってことです。
生まれてから今まで自分が経験してきたことです。
自分中心とする主観的な世界観と、自分は関係のない、客観的な世界観の二種類の世界観があるわけです。
人は、この二種類の世界の中で生きてるわけです。
そして、二種類の世界のうち、大庭さんが失ったのは自分を中心とした世界です。
たぶん、自分というものを認識する仕組みが失われたんでしょう。
だから、自分の過去とか、自分の親とか、自分と関係のある出来事を思い出せなくなったんでしょう。
でも、自分とは関係のない、客観的世界を認識する仕組みは残ったわけです。
大庭さんは、心筋梗塞で10分以上も心臓が止まりました。
その間、脳への血流も止まったので、脳が損傷して、記憶の機能を失いました。
血流が止まったとき、おそらく、壊れやすいところから壊れたんでしょう。
それで、まず壊れたのが、自分を認識する機能だったようです。
そして、残ったのは、客観的に世界を認識する機能です。
それから、意識も残りました。
もし意識が失われたら植物人間になっていたでしょう。
さて、壊れやすいということは、進化的に新しく獲得したもので、壊れにくいものは進化的に古いものと考えられます。
そう考えると、自分を認識する機能は、脳の進化で最後に獲得したものと言えそうです。
そして、客観的な世界観や意識は、それよりも古くからあると考えられます。
進化の流れで考えると、魚や両生類は、まだ、意識もなかったわけです。
そこから進化して、単純な意識を獲得したんでしょう。
その時、意識が認識したのは客観的世界です。
ただ、意識が生まれた頃は、まだ、自分というものは認識できてなかったわけです。
ここまではわかります。
わからないのは、最初、意識はどうやって生まれたかです。
そして、意識は、いかにして進化したかです。
ここから、この最大の難問を解明していきますよ。
さて、半側空間無視の患者は、意識のない左側にピンを挿すと、何らかの不快感を感じていました。
つまり、意識がなくても、感覚や感情は感じるようです。
つまり、意識が生まれる前から、感覚や感情は存在するようです。
生物共通の目的はできるだけ生き続けることです。
そのために、正しい行動を取らないといけません。
正しい行動とは、天敵から逃げたり、食べ物を食べるってことです。
そのために必要なのが、感覚や、恐怖といった感情です。
じゃぁ、感覚や感情を感じるものって、何なんでしょう?
それが意識のようです。
意識というのは、突然、生まれたんじゃなくて、進化によって徐々に生まれたようです。
僕らは、はっきりとした意識を持ってますけど、原初の意識は、ぼぉーっとしたものだと思います。
魚から進化して、最初、最も単純な意識が生まれて、少しずつ進化するんです。
その進化の方向っていうのが、ぼぉーとした認識から、はっきりと世界を認識する方向だと思うんですよ。
じゃぁ、そのはっきりっていうのは、何なんでしょう。
まずは、はっきり見えるのはっきりです。
ぼぉーっと見えてたのが、はっきり見えるようになることです。
ただ、はっきりは、見え方だけじゃないです。
半側空間無視の患者の左腕にピンを挿したとき、不快と感じるだけで何が起こったかわかりませんでした。
でも、右腕に挿したら、ピンポイントでどこが痛いかわかります。
これも、はっきりわかるってことですよね。
これ、言い換えたら注目できるってことです。
または意識するとか、ズームアップするってことです。
どうも、これが意識の特徴のようです。
じゃぁ、ズームアップするのに最低限必要な構成って何でしょう。
それは、地図とかマップのようなものの見方です。
マップなら、全体から部分へって注目できますよね。
そんな風に世界を認識できるってことが重要なんです。
もしかしたら、「いや、それ以外の認識の仕方なんかないでしょ?」
とかって思ってませんか?
そんなことないです。
第316回で、直観について説明しました。
直観は、パッと思い浮かぶタイプの認識の仕方です。
コンビニに入ったロバートは、何か嫌な感じがして、コンビニを出ました。
その直後、店内から銃の発砲が聞こえました。
中にコンビニ強盗がいたんです。
このとき、ロバートが感じたのが直観です。
直観は、どこかに注目して答えを出すんじゃなくて、ふと、ここは危険だって感じます。
全体から感じるってタイプの認識の仕方です。
そして、この直観を担当してるのが右脳です。
右脳は、どこかに注目して考えるってことはしなくて、いきなり、危険だって結果を出します。
ピンで挿されて、何か不快だって感じるのと同じです。
意識は、そうじゃありません。
まず、気になるとこに注意を向けます。
それができるには、マップって形で認識できないといけません。
体なら身体マップって形で認識して、痛いって場所に注意を向けるわけです。
地図なら、「ここは日本です」と言えば、世界地図の中の日本を思い浮かべますよね。
「日本の首都は東京です」と言えば、日本地図を思い浮かべますよね。
こんな風に、全体の中のある位置に注目するわけです。
位置関係で全体と部分を表したのが地図です。
位置以外の関係もあります。
たとえば人間関係です。
親子とか、夫婦とか、上司と部下とか。
それから、過去、現在、未来って時間関係もあります。
それから具体と抽象って関係もあります。
動物の中に犬とか猫がいるとか、犬の中に柴犬とかコーギーがいるとかって関係です。
全体から部分に注目できるって根本的な仕組みがあるわけです。
それをどんな関係に当てはめるかです。
位置関係か、人間関係か、時間か、具体と抽象かです。
全体と部分を自由に行き来できる仕組みを獲得して、意識は、はっきりと世界を認識できるようになったんです。
全体と部分の概念の獲得、これを獲得して、意識は一気に進化したんです。
これって、ものすごい進化ですよ。
だってね、今までは、ピンを挿されても、なんか不快だって身をよじってただけです。
それが、「イテ!」って、場所と痛みに注目できるようになったんです。
何が原因で痛いかって、わかるようになったんです。
どこがすごいかわかりますか?
それは、原因って形で出来事を認識できるようになったことです。
物事がおこるには、何か原因があるっていうふうに理解できるようになったんです。
これが、「はっきり」の力です。
はっきりわかるようになったのは、位置だけじゃないです。
たぶん、今までだったら、熱い鍋に触れても同じやと思います。
なんか不快やなぁって身をよじって逃げるだけです。
熱いか痛いかも区別できてなかったと思います。
注目することで、熱いか痛いかも区別できるようになったんです。
つまり、感じる感覚も細かく分解できるようになったんです。
こうやって、世界をいろんな形で分解して、どんどん世界認識の精度が上がっていったんです。
わかってほしいのは、感覚器の精度が上がったってことじゃないんですよ。
1万画素のカメラが100万画素のカメラになったってことじゃないんですよ。
そうじゃなくて、先に100万画素のカメラが準備されてたわけです。
でも、それだけじゃ世界の精度は上がらないんです。
世界の精度を上げたのは、注目するって機能を獲得してからです。
さて、生物の目的は、生き延びることです。
そのために正しい行動をとれないといけません。
カエルだったら、天敵の鳥の影を感じたら逃げるとかです。
たぶん、カエルは影が大きくなるのを見て、これは鳥が自分を捕まえるために舞い降りてきてるって思ってるわけじゃないんです。
そうじゃなくて、ただ、「危険だ、逃げろ」って感覚が沸き起こって、それに従って逃げたんです。
半側空間無視の患者が左側をピンで挿されて不快感で身をよじったり、右脳の直観で嫌な感じがして店を出るのと同じです。
ところが、注目する機能を獲得すると、あらゆるものを高精度に分解して認識できるようになります。
不快に感じるのは、痛みなのか熱さなのか。
体のどこで感じてるのか。
それがわかると、対処の仕方も変わります。
とげが刺さってたら抜くとかです。
じゃぁ、その対処をするのは誰ですか?
何が起こって、何を感じて、それに対してどう行動するかを決めるものは何ですか?
それは意識ですよね。
世界がはっきりして、複雑な世界を認識するようになったら、それに対する行動も複雑になります。
つまり、意識も、複雑な世界に対応して、複雑な行動をとれるようにならないといけないんですよ。
つまり、意識がはっきりしてくるんです。
これが、意識の進化です。
今、こうして世界がはっきり見えるのは、注意を向けることができるからです。
全体と部分って概念を獲得したからです。
目で見えるのは位置関係です。
それ以外にもいろんな関係がありましたよね。
たとえば人間関係です。
あの人は、旦那の上司の奥さんだとか。
あの人は、息子の同級生のお母さんで、自分が断ったPTAの役員をしてるとか。
意識は、そんな複雑な関係を認識できるようになったんです。
そんな複雑な関係を認識したら、「うぃーっす」とかって挨拶するわけにいかないですよね。
複雑な世界がはっきりみえるようになると、それに応じた、複雑な対処が必要なんです。
複雑な対処をするには、はっきりとした意識が必要になってくるんです。
そのために、意識の方も進化してきたわけです。
はい、今回の動画が面白かったら、チャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、よかったらこちらの本も読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!