ロボマインド・プロジェクト、第326弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
今回の話の種本は、この本です。
『ぼくが13人の人生を生きるには身体がたりない。 解離性同一性障害の非日常な日常』
解離性同一障害というのは、多重人格のことです。
著者のharuさんは、自分以外に12人の人格を持っています。
多重人格が生まれる原因は、重度のストレスといわれています。
たとえば、haruさんの場合、性同一性障害も抱えていて、haruさんの人格の一人は、それが原因で生まれました。
haruさんは、生まれもった性は女性ですけど、心は男で、そのことを中学時代、かなり悩んでいたそうです。
その時、結衣って女の子の人格が生まれたそうです。
haruさんは、スカートを履くのが嫌で、男っぽい恰好をしたがるんですけど、結衣は、かわいい恰好が好きで、いかにも女の子っぽい性格です。
世間から求められてて、自分にないものを別人格として作り出したようです。
何が原因で別の人格が生まれたのかについて、この本でも詳しく語られていますけど、僕が興味あるのは、そこじゃありません。
僕が興味があるのは、そもそも人格とは何かってことです。
僕は、コンピュータで心をつくろうとしています。
感情や性格とか、人間と同じ心をもったキャラクターを生み出したいんです。
そのために、人は、なぜ、人格を持つようになったのか、人格を生み出すのに必要な要素は何なのか、それが知りたかったんです。
そのヒントになる話が、この本にはたっぷり書いてありました。
そして、最も重要な要素として、意外なものが見えてきたんです。
人間らしさを作り出すものは、意外なものでした。
これが今回のテーマです。
多重人格
人格を作り出す意外なものとは?
それでは、始めましょう!
人格というのは、ざっくり言えば、その人をまとめ上げるものです。
じゃぁ、その人をまとめるのに必要なものって何でしょう。
一番の中心は、記憶だと思います。
それも、自分が経験したという記憶です。
自分の経験の記憶のことを、エピソード記憶と言います。
思い出って形の記憶です。
記憶を失った話としては、第317回~319回で記憶喪失になった大庭さんの話を取り上げました。
haruさんの話を読んでると、大庭さんの話と共通する点が結構あるんですよ。
大庭さんは、心筋梗塞になって12分も心臓が止まりました。
その間、脳への血流も止まって脳が損傷して記憶喪失になりました。
脳は、損傷しやすいところから損傷します。
損傷しやすいところというのは、脳の表面、つまり大脳新皮質です。
大脳新皮質は、人間になってから大きく発達したところです。
だから、脳の機能障害で最初に発症するのは、人間になってから獲得した機能です。
そして、その一つが記憶、とくにエピソード記憶です。
だから、大庭さんは自分の過去の思い出を全て忘れたんです。
さて、大庭さんは、記憶以外にも失った機能がいくつかあります。
たとえば、空腹を感じなくなったそうです。
あるとき、急に動けなくなったそうです。
思い出したら、ずっと何にも食べずに過ごしていたそうです。
それ以来、お腹が空かなくても、時間になったら何かを食べる習慣にしてるそうです。
何かを食べるって、生きる上で最も重要ですよね。
だから、空腹感って、生物にとって最も基本的な感覚なはずです。
つまり、進化的にもっとも古くからある感覚だと思うんですよ。
人間になって獲得したものじゃないと思うんですよ。
それが消えたってのが不思議だったんです。
それが、haruさんも、空腹感をぎりぎりまで感じないって書いてました。
スマホの電源でいえば、普通の人なら30%ぐらいになったらお腹が空いたって感じると思うけど、haruさんは、3%ぐらいにならないと気づかないそうなんです。
Haruさんも、空腹感が消えてるんですよ。
ということは、空腹感って、生物がもつ基本的な感覚じゃなくて、人類が獲得した新しい感覚みたいなんですよ。
たしかに、1日三食食べるようになったのは、日本だと江戸後期からですし。
そもそも、決まった時間に食事をするのは人間だけです。
以前、アメリカの犬のしつけ番組を見てたんです。
その番組で、犬と狼の混血の犬の悩み相談をしてました。
その犬は、餌をあげても食べないことが多くて、何日も食べないのが悩みだって飼い主が言ってました。
しつけの先生は、それに対して、狼とか野生の動物は、定期的に餌を食べる習慣がないので、何日も食べないのは普通のことだって説明します。
毎日、定期的にご飯を食べるのは、人間と家畜だけだって。
どうも、ごはんの時間になったらお腹が空くって感覚は、人間になって獲得した新しい感覚のようです。
それから、大庭さんは眠気も感じないそうです。
だから、毎晩、睡眠薬を飲んで寝てるそうです。
これも、毎晩、深い眠りにつくのは、人間だけです。
野生の動物は、いつ、他の動物に襲われるかわからないので、深く眠ることはないそうです。
つまり、眠いって感覚も、人間になって獲得したもののようです。
こう考えると、人間しか持ってない感覚って、意外と多い気がします。
さて、ここでharuさんの他の人格について紹介します。
最も古い人格は、2歳の時からすでにいた洋祐です。
洋祐は、その時17歳でした。
haru以外の人格は12人いて、年齢もバラバラです。
ただし、ほとんどの人格はその年齢で歳を取らないそうです。
歳をとるのは、今紹介した洋祐と、中学の時に出現した圭一の二人だけだそうです。
圭一が出現したとき、haruより2歳年上で、圭一はharuと一緒に歳をとってるそうです。
洋祐は、haruの年齢に追いついたら一緒に歳をとるようになったので、haruと同じ年齢です。
それ以外の人格は、みんな、haruより若いそうです。
洋祐の一番古い記憶は、幼稚園のときのトイレトレーニングだそうです。
オマルに座らされてトイレの練習をさせられたそうですけど、ものすごく恥ずかしかったって言ってました。
そりゃ、洋祐は17歳ですから、恥ずかしいに決まってますよね。
ここで考えたいのは、年齢とは何かってことです。
肉体が年を取ることが年齢ですけど、肉体年齢とは別に精神年齢ってのがありますよね。
だから、haruの肉体が年をとっても、ほとんどの人格は歳を取らないってことが起こるんです。
じゃぁ、精神年齢って、いったい何でしょう?
ここで注目したいのは、haruが2歳の時、洋祐は17歳の心を持っていたってことです。
それから、圭一は、haruが15歳のときに17歳として生まれて、それから一緒に歳をとっています。
ここから一つの仮説が考えられます。
それは、人の精神年齢って、17歳ぐらいまでは生まれたときからすでに持っているんじゃないかってことです。
それが、成長ホルモンなんかで、適切なタイミングで出現するように、生まれたときからスケジュールされてるんですよ。
だから、何かの拍子に、2歳の時に17歳の洋祐が出現することもあり得るんです。
ということは、逆に言えば、17歳以上の心は生まれ持ってないわけです。
そっから先は、人それぞれの経験で心が形作られていくんでしょう。
それが心の成長です。
17歳以降、どんな風に成長するかは、その人次第ってことみたいです。
さて、次は、それそれの人格がどんなふうに暮らしてるのかについて説明します。
haruの脳内イメージはこんな感じだそうです。
メインの人格のharuが表に出てるときは、左の机に座っています。
部屋の奥には、haru以外の人格が普段いるカプセルホテルみたいなのが並んでます。
その中から、出てきた人格が中央の円卓に座ると、その人格が表にでます。
表に出るっていうのは、haruの体を操縦するってことです。
他の人格が表に出てる間は、haruは、右の水槽に入ってるそうです。
だから、他の人格がharuの体を操縦してる間に起こったことは、haruは覚えていないそうです。
たとえば、別の人格が友達とご飯を食べに行って、そこでトイレに行ったとします。
その瞬間、はたとharuに戻ったら、haruは、トイレから席までの戻る道順がわからなくなります。
そんな時は、さっきまでの人格が、席までの道順を教えてくれるそうです。
さて、こんな部屋を13人の人格が共有してるわけです。
この話で、僕が興味をもったのはクオリアです。
クオリアっていうのは、意識や主観で感じるもののことです。
物理世界には色とか音がありますよね。
それは、心の側からも感れますよね。
心で感じる色とか音がクオリアです。
でも、心で感じる物って、物理的に検出できませんよね。
だから、同じ赤を見ていたとしても、僕が見てる赤と、あなたが見てる赤が同じだとは言えないんです。
つまり、クオリアって本当に存在するのかって、証明のしようがないんです。
さて、haruの脳内の部屋、これを見てるのは13人もいるわけです。
しかも、この部屋は物理世界に存在しないですよね。
つまり、主観だけが見える部屋なわけです。
これ、どういうことかわかりますか?
この部屋にあるもの、すべて純粋なクオリアってことです。
物理世界にあるものを、心で感じたものがクオリアでしたよね。
一般に、物理世界を心の中に投影したものがクオリアと言われます。
物理世界が先なわけです。
でも、僕は、それは逆じゃないかって思ってます。
つまり、心の中が先だって。
心で感じることができるものを世界に投影してるわけです。
投影というか、心で感じることができる材料を使って、目で見た世界を作り出すってことです。
この心で感じることができる材料ってのがクオリアです。
つまり、先にあるのがクオリアなんです。
そのクオリアを使って組み立てた世界を、意識は感じ取ってるわけです。
さっきのharuの脳内の部屋、これって物理世界には存在しませんよね。
意識や主観にしか見れません。
しかも、見てるのはharuだけじゃないです。
haru以外の12人も同じ部屋を見ています。
つまり、自分しか感じれないクオリアを、自分以外も感じてるわけです。
これって、クオリアが存在する証拠と言えるんじゃないでしょうか。
さて、最後に、人格について考察します。
haruは複数の人格を持っています。
じゃぁ、一つの人格としてまとめ上げてるのは何でしょう?
最初にも言いましたけど、それは記憶です。
haruは、他の人格が表に出ているとき、その記憶がないと言います。
つまり、記憶でつながった一連の自分というものがあるわけです。
それが途切れて、別のまとまりが作られると、それが別の人格となるわけです。
だから、たとえ、同じ体であったとしても、別の人格が生まれるんです。
ただ、これだけだと、うまく説明できないんですよ。
この本によると、haru意外の他の人格は、記憶を共有しているそうです。
他の人が何をしたか、全て知っているそうです。
つまり、単なる記憶の共有じゃダメなようです。
じゃぁ、何が必要かというと、それは、経験です。
自分の経験が必要なんです。
ここ、もっと掘り下げてみます。
自分の経験と、他人の経験の違いって何でしょう?
それは、自分が行動したか、他人が行動したかってことですよね。
じゃぁ、行動って何でしょう?
それは、体を使って現実世界で動くことですよね。
じゃぁ、体を動かすのは誰でしょう?
さっきのharuの脳内の部屋でいえば、中央のテーブルに座った人が、その時のharuの体を操縦できるんでしたよね。
その人格が、手を上げたいと思ったらharuの体の手が上がるわけです。
今、ものすごく重要なことを言いましたけど、何かわかりましたか?
いいですか。
手を上げようと思って手を上げたわけです。
じゃぁ、その手を上げようと思ったものは何ですか?
それは、意志ですよね。
自由意志です。
別の人格がharuの体を操縦してるとき、haruは、水槽の中にいましたよね。
自分の体を自分で動かせないわけです。
つまり、このとき、haruは自由意志がないんです。
いろんなものがつながってきました。
自由意志を持って、自分が行動するわけです。
これが一つのまとまりです。
つまり、これが一つの人格です。
そして、それを記憶したものがエピソード記憶です。
そう定義したら、たとえ体が一つだとしても、一つの体に複数の人格を持ち得るわけです。
それが解離性同一性障害、いわゆる多重人格です。
逆に言えば、自由意志を持たず、環境に反応していきてる生物、たとえばカエルとか魚は、人格というものを持たないと言えそうです。
カエルや魚の行動は、環境と、生まれ持った遺伝子で全て決まるわけです。
人は、自由意志を持って行動を決定し、それをエピソード記憶として覚えておくことができます。
人それぞれの、異なるエピソード記憶があって、それに基づいて、次の行動を決めるわけです。
行動を決めるとき、過去に一度失敗したからといってあきらめる人もいれば、過去に失敗したからこそ、もう一度挑戦しようっていう人もいます。
それが性格です。
同じ経験をしても、人によって行動が変わるわけです。
これが心の成長というものです。
17歳までは、遺伝子で決められたスケジュール通りに心も体も成長します。
でも、17歳以降は、人によって心の成長が大きく異なります。
それによって人生もかなり変わってくるでしょう。
さて、あなたは、一度失敗したら、あきらめるタイプですか?
それとも、失敗したからこそ挑戦するタイプですか?
はい、今回の動画が面白かったら、チャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、よかったらこちらの本もお読み下さい。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!