ロボマインド・プロジェクト、第327弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
意識の仕組みについては、かなりわかってきました。
コンピュータで再現可能な意識モデルについては、今までの動画でもさんざん、語ってきました。
でも、どうしてもわからないことがあるんですよ。
それは脳です。
脳は、ニューラルネットワークで情報処理してますよね。
だから、ニューラルネットワークで意識を生みだせないと、本当の意識を解明したことにならなんですよ。
わからないってのは、そこなんです。
ニューラルネットワークから、意識を生み出す理屈が、どうしてもわからなかったんです。
これじゃぁ、意識を解明したといっても片手落ちです。
それが、ようやくわかりました。
ただ、わかったのはいいんですけど、それは、脳科学にとって絶望的な結果になることも見えてきました。
これは、今の脳科学の手法が意味をなさないともいえるので、最後にきちんと説明します。
まずは、一番大事なことから話します。
今回のテーマはこれです。
ニューラルネットワークから意識を生み出すには
それでは、始めましょう!
まず、コンピュータの仕組みから説明します。
19世紀、イギリスの数学者、ジョージ・ブールによってブール代数が提唱されました。
それは、AND、OR、NOTの三つの論理演算です。
こんな表、教科書で見たことありますよね。
20世紀に入ると、今度は、クロード・シャノンが、この論理計算を電気的なスイッチで実現できることを示しました。
回路図で描くとこうなります。
シャノンが提案したのは、それだけじゃなくて、とんでもないことも言いました。
それは、あらゆる計算は論理演算の組み合わせで実現できるって言ったんです。
たとえば、これは足し算回路です。
もちろん、出来るのは足し算だけじゃないですよ。
掛け算も割り算も、ありとあらゆる計算ができることを証明したんです。
これがコンピュータの基本原理です。
さて次は脳です。
脳で情報を伝達するのは神経細胞、ニューロンです。
ニューロンは、シナプスを介して別のニューロンに情報を伝達します。
これをプログラムで模したのがニューラルネットワークです。
さて、次のようなニューラルネットワークがあったとします。
この場合、入力と出力の関係はこんな式で表されます。
この式のパラメータを調整するとこんな表ができます。
これ、何を示してるかわかりますか?
ANDとかORの論理演算がニューラルネットワークでできるってことを示してるんですよ。
論理演算を組み合わせれば、あらゆる計算できるんでしたよね。
つまり、ニューラルネットワークはコンピュータと同様にあらゆる計算ができることが証明されてるんですよ。
このことを画像処理で考えてみましょう。
JPEGって画像圧縮がありますよね。
JPEGの仕組みは、まず、画像を数十ピクセル×数十ピクセルの小さい四角に分割して、それを基本パターンで表現します。
基本パターンっていうのは、こんな感じです。
縦じまとか横じまとか、格子模様とか64パターンあります。
分割した小さい四角を、たとえば、Aパターン3枚と、Bパターン2枚とかって組み合わせで表現するんです。
こうして、1枚の大きな写真を、小さいパターンの組み合わせで表現することで情報量を圧縮するんです。
この処理で使われる数学理論が、フーリエ変換です。
フーリエ変換は、画像圧縮だけじゃなくて、動画や、音声圧縮などあらゆるところで使われます。
そして、フーリエ変換は、内部的には足し算と掛け算を何度も繰り返して実行します。
このような処理は、一般に専用LSIで実現します。
専用LSIは、足し算回路、掛け算回路が直列に何十、何百個って並んでて、データを入れると、バタバタバタって次々に計算して、一瞬でフーリエ変換を実行できるんですよ。
専用LSIは、とにかく処理が速いのが特徴です。
さて、同じような画像処理は脳内でも行われています。
例えば、これは視覚処理の流れです。
網膜で受け取った画像は後頭部の一次視覚野V1に送られます。
一次視覚野のニューロンは、縦じまや横じまといった単純なパターンに反応します。
その後、V2野,V3野と処理が進んで、たとえば、TE野のニューロンは、顔や手といった複雑なパターンに反応します。
こうして、最終的に、リンゴとか、見てるものが何かを判定します。
最近では、トム・クルーズのみに反応するニューロンまでもが見つかってるそうです。
トム・クルーズニューロンは、トム・クルーズの正面の顔だけでなく、横顔や、さらには、「トム・クルーズ」って文字にも反応するそうです。
こうやって見てるものを判断できれば、それに応じた行動をとることができます。
カエルだったら、ハエと判断したら捕まえて食べたり、天敵の影と判断したら逃げたりします。
こういった動作は、速さが重要ですよね。
一瞬の判断で生死が分かれたりしますから。
さて、こういった瞬時の判断とは別にゆっくり考えることもありますよね。
「ああしたら、こうなるからなぁ」とかって。
論理的に考えるってことです。
どうも、脳の処理には、素早く答えを出す思考と、じっくり考えて答えを出す思考の二種類があるようです。
このことを、ノーベル経済学者のダニエル・カーネマンは「速い思考」と「遅い思考」と呼んでます。
詳しくは、この本、『ファスト&スロー』に書いてあります。
速い思考というのは、一瞬で判断したり、パッと思いつくタイプの思考です。
言い方を変えると直観です。
第316回で、直観でヤバイと感じて行動することで、命拾いしたって話をいくつかしました。
これは右脳で感じるものです。
それに対して、遅い思考というのは論理的な思考で、これは左脳で考えるタイプの思考です。
カーネマンは、速い思考のことをシステム1、遅い思考のことをシステム2として、別のシステムといってます。
ただ、カーネマンは、経済学者なので、システム1とかシステム2とか名付けても、脳の中でどうやって実行されてるとかまでは考えていないようです。
そこで、これらの二つの思考をコンピュータと脳で、具体的にどうやって実現するかについて考えていきます。
こっからが、本題になります。
速い思考って、たとえばカエルがエサを取ったり、天敵から逃げたりするときに使います。
一瞬でも遅れれば、エサのハエに逃げられたり、天敵に捕まったりします。
だから速くないといけないんです。
これは、現実世界にリアルタイムで反応する場合に必要といってもいいです。
一方、遅い思考は、じっくり考える場合に使います。
リンゴをもらったとして、今すぐ食べようか、食後に家族で食べようかって考えたりしますよね。
これ、リアルタイム性を求められてるわけじゃないですよね。
目の前の現実世界よりも、食後とか、未来の世界を考えてるわけです。
もっと言えば、想像した世界で考えてます。
それが、遅い思考です。
じゃぁ、想像した世界で考えるってどうしたらいいんでしょう?
まず、これはリンゴだって、物を認識しますよね。
これは、脳内の画像認識処理でできましたよね。
そして、認識したリンゴを、どうやって食べようって考えるわけです。
じゃぁ、その考えるっていうのは、何が考えるんでしょう?
それは、意識です。
リンゴを認識したら、意識が、それをどうするか考えるわけです。
ということは、まずは、意識が認識するリンゴを生成する必要がありますよね。
この意識が認識するリンゴのことを、リンゴオブジェクトと呼ぶことにします。
これをコンピュータで実現する仕組みを考えます。
まず、認識したものを配置する器として世界を仮想的につくります。
そして、その仮想世界に、リンゴオブジェクトを配置します。
これで、意識はリンゴを認識できます。
仮想世界に配置したリンゴは、現実に存在するわけじゃないので、いつ食べようとか、自由に考えることができます。
これが遅い思考です。
もう少し見ていきます。
仮想世界にオブジェクトを配置して、意識が、それをあれこれ操作して考えるわけですよね。
じゃぁ、この中で、思考はどこになりますか?
それは、あれこれ考えるってとこですよね。
じゃぁ、あれこれ考えるってどういうことですか?
「もし、こうならこうしよう」とかって考えることですよね。
これは、状況によって、さまざまに変化しますよね。
リンゴをもらいました。
「今日は、家族が実家に帰っていて、自分一人だ」とか考えるわけです。
さて、今、「文」で考えましたよね。
つまり、考えは「文」で表現できるわけです。
じゃぁ、「文」をコンピュータで表現するとすれば、それは何でしょう?
それは、プログラムです。
そして、そのプログラムは、状況によって、さまざまに変化するわけです。
つまり、遅い思考というのは、自由に書き換え可能なプログラムと言えるんです。
さっきの速い思考と比べてみます。
速い思考っていうのは、エサを取ったり、天敵から逃げたり、決められた処理をする場合に使います。
これは、コンピュータでいえば専用LSIです。
足し算と掛け算を何百個も並べて、決められた処理をするのはめちゃくちゃ速いです。
でも、処理の内容、つまりプログラムは変更できません。
それに対して、遅い思考は、プログラムを変更できないといけません。
じゃぁ、プログラムを変更するには、どうすればいいんでしょう?
プログラムを変更できるコンピュータってあるんでしょうか?
あります、というか、僕らが普段使ってるコンピュータがそれです。
PCに入ってるCPUは、一つのプログラムだけでなくて、いろんなプログラムを実行できますよね。
これを、ノイマン型コンピュータと言います。
その仕組みを簡単に説明します。
CPUには、足し算回路とか掛け算回路とかって、何百個もの基本回路が組み込まれてます。
たとえば「A+B=C」ってプログラムがあるとします。
CPUは、まず、このプログラムを読み込んで、実行します。
つまり、変数Aと変数Bを足し算回路に入れて、その結果を変数Cに入れます。
CPUは、こんな風にしてプログラムを読み込んで実行します。
逆に言えば、別のプログラムを読み込ませれば、全く別のプログラムを実行できるんです。
つまり、プログラムを自由に変更できるんです。
さて、CPUは、半導体の論理回路で作られます。
つまり、ハードウェアで作られます。
ですが、論理回路はハードウェアでなくても、ソフトウェアで作ることもできます。
つまり、プログラムで、ノイマン型コンピュータを作ることができます。
これを、ヴァーチャルマシンとか仮想マシンと言います。
最近のソフトはMacでもウィンドウズでも動いたりしますけど、これも、ヴァーチャルマシンの上で動いてるからです。
さて、次は脳で考えてみましょう。
脳の中の速い思考は、さっき、検討しましたよね。
縦線とか横線、手や顔って次々に処理して、見たものが何かを認識するわけです。
基本回路が直列につながっていて、物体認識という一つの処理だけを行うわけです。
これは専用LSIと同じですよね。
これが速い思考です。
遅い思考は、認識した物について、ああだこうだって考えることができます。
じゃぁ、これは、どうやって実現するんでしょう?
こっからが、今まで、誰も考えたことのない話です。
いいですか。
遅い思考は、コンピュータだと、ヴァーチャルマシンで実現できましたよね。
とういことは、脳で動くヴァーチャルマシンを作ればいいわけです。
でも、そんなこと、できるんでしょうか?
これ、出来ないことはないんです。
なぜなら、バーチャルマシンは論理回路の組合せで出来てましたよね。
そして、論理回路はニューラルネットワークで実現できましたよね。
だから、ニューラルネットワークで作られた脳で、ヴァーチャルマシンを作ることも可能なんです。
どうです。
わかりましたか?
脳には、ニューラルネットワークで作られたヴァーチャルマシンがあるんです。
遅い思考というのは、そのヴァーチャルマシンで実行されるプログラムです。
そして、そのプログラムを実行するのが意識です。
脳、意識、コンピュータ、全てがキレイにつながりましたよね。
脳の神経細胞から、いかにして意識を発生させるか、全て解明できました。
さて、今、脳科学はものすごい勢いで進歩しています。
最近だと、脳に電極を埋め込むBMI技術が発達してきています。
有名なのは、イーロンマスクが創業したニューラリンク社です。
BMI技術で、脳がニューロンレベルで解明されつつあるんです。
でも、ニューロンがどんな処理をしてるのかわかるのは、それは、そのニューロンの処理が決まってる場合です。
画像認識だと、縦じまに反応するとか、トム・クルーズに反応するとかです。
言い換えれば速い思考のニューロンです。
でも、遅い思考はどうでしょう。
まず、ニューラルネットワークで論理回路を作るわけです。
その論理回路がバーチャルマシンを作るわけです。
そのヴァーチャルマシンの上でプログラムが実行されるわけです。
そして、そのプログラムの中身が、思考の内容です。
どんだけ複雑やねんってことです。
何が言いたいか、わかりますよね。
つまりね、たとえ、ニューロンの挙動を完璧に解明できたとしても、思考の中身なんか、絶対にわからないってことです。
たとえ、ある瞬間、あるニューロンがリンゴを指し示してるって特定できたとしても、別のプログラムに変わったとたん、全く別のものを指し示すんですから。
これが脳科学の限界なんです。
脳に電極を埋め込んでわかるのは、速い思考だけです。
意識とか、遅い思考は、今の脳科学じゃ太刀打ちできないんです。
これが冒頭に語った、脳科学にとって絶望的って話です。
じゃぁ、意識や心の謎は、永久に解明できないんでしょうか?
いえ、それも違います。
脳からのアプローチは絶望的でも、コンピュータで再現するというアプローチは可能です。
つまり、コンピュータで意識や心のモデルを作るってアプローチです。
そして、それをやってるのがロボマインド・プロジェクトです。
はい、今回の動画が面白かったらチャンネル登録、高評お願いしますね。
それから、ロボマインド・プロジェクトの中身について詳しく知りたい方は、こちらの本を読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!