第335回 自我を持ったAIアバターの作り方


ロボマインド・プロジェクト、第335弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

心を持ったAIアバターが、人間と一緒に暮らすメタバース、エデン。
プロジェクト・エデンの続きです。

たとえば、めちゃめちゃマジメなクラスメートがいたとします。
授業にちゃんと出て、ノートを完璧に取ってます。
わからないことを質問したらすぐに答えてくれます。
レポートも、頼んだらやってくれます。
でも、冗談は通じなかったり、日常会話は続きません。
「好きな映画は何?」って聞いても、「私には、好きとか嫌いがありません」って答えます。
こんなクラスメート、友達にはなれませんよね。
ただ、試験前にノートを見せてもらったり、レポートを提出するときだけ友達になります。

これが、今のAI、ChatGPTです。
ChatGPTを搭載したAIアバターを作ったとしても、テスト用とかレポート提出用の友達にしかなれないんですよ。
そんなの嫌でしょ。

本当の友達になれるAIアバターが欲しいですよね。
じゃぁ、友達になれるAIアバターには、何が必要なんでしょう。
それは、自我です。
人間らしい心です。
これが今回のテーマです。
自我を持ったAIアバターの作り方
それでは、始めましょう!

さて、自分を作り上げてるものって何でしょう?
それは、記憶です。
どこで生まれて、どこの学校を卒業して、今、どんな仕事をしてるかって記憶です。
記憶には、大きく分けて二種類あります。

一つは意味記憶、もう一つはエピソード記憶です。
今説明した、自分を作り上げてる記憶っていうのはエピソード記憶です。
もう一つの意味記憶っていうのは、リンゴは赤いとかって知識に関する記憶です。

実は、エピソード記憶を持てるのは人間だけなんですよ。
そして、言葉を生み出すのも、じつは、エピソード記憶が重要な役目を果してるんですよ。
人間に最も近いサルといわれるボノボってチンパンジーがいます。
ボノボに言葉を教えた有名な実験があります。

ねぇ、ちゃんと言葉を理解してるでしょ。
なんと1000語もの単語を覚えてるそうです。
でも、長い会話が続くことはないそうです。
なぜかと言うと、ボノボが理解できるのは、目の前に起こってる出来事だけです。
昨日、こんなことがあったよって会話はできないんです。
つまり、エピソード記憶は持てないってことです。

エピソード記憶って、それだけ複雑で難しいってことです。
それじゃぁ、まずは、動物でも持てる意味記憶を、マインド・エンジンでどうやって実現していくかを考えていきます。

眼などの感覚器からの情報を基に、無意識は現実仮想世界を作ります。
意識は、現実仮想世界を介して世界を認識します。
現実世界に机があるとすると、現実仮想世界に3Dの机オブジェクトを作ります。
オブジェクトはメモリ上に生成され、意識が認識するのは、メモリのデータです。
オブジェクトには、色とか大きさといったプロパティが設定されてるので、意識はオブジェクトにアクセスすることで、色や形を認識することができます。
そして、これが、意味記憶になるんです。
「リンゴは赤い」って知識は、リンゴオブジェクトの色プロパティで実現できます。

オブジェクトは色とか形だけじゃなくて、動きといったメソッドも持ちます。
犬は「オテ」とか「マテ」って言葉を理解できますよね。
これは、「オテ」って言う言葉と、動作を結び付けてるわけです。
これは、メソッドを使った意味記憶と言えます。

さて、さっきのボノボ、「鍵を冷蔵庫にいれる」って文の意味を理解してましたよね。
目的語をもった文を理解できてるんです。
すごいですよね。
ただ、表現できるのは、現実にあるオブジェクトのメソッドとプロパティを使って表現できることだけです。
つまり、これも一種の意味記憶です。
「昨日、公園で鬼ごっこをした」とかって昨日の出来事は理解できません。
つまり、意味記憶はできるのに、エピソード記憶はできないんです。
なぜかわかりますか?

それは、意味記憶とエピソード記憶とは構造的に全く異なるからです。
動物が理解できるのは、目の前の世界に対する行動だけなんです。
だから、理解できる文は、「オテ」とか「マテ」とか、または、「鍵を冷蔵庫に入れて」って命令文です。
どれも、現実仮想世界で表現できるものです。

では、エピソード記憶はどうでしょう?
昨日の思い出って、現実仮想世界じゃ、再現できないんです。
じゃぁ、どうすればいいんでしょう?

それは、現実仮想世界とは別に、もう一つ、仮想世界を用意するんです。
過去を思い出したり、未来を想像するときに使う想像仮想世界です。
それでは、想像仮想世界を使って、思い出す仕組みについて考えてみます。

太郎君が花子さんとジャンケンして、負けたとします。
これを後からマインド・エンジンで思い出せるようにします。
まずは、現実世界でジャンケンを経験します。
これは、前回までで説明しましたけど、おさらいしておきます。

眼からの情報を基に、現実仮想世界に花子オブジェクトと太郎ぶジェクトがつくられます。
ふたりは、ジャンケンすることになりました。
すると、現実仮想世界にジャンケン世界がロードされます。
これがジャンケン世界です。

ジャンケン世界というのは、ジャンケンのルールをスクリプト・プログラムで記述したものです。
このスクリプト・プログラムを実行するのは意識プログラムです。

意識プログラムは、ジャンケンのルールを順番に読み込んで、バーチャルマシンで実行します。
まず、「じゃん、けん、ぽん」と言いながら手を出します。
そして、相手が出した手を認識して、勝敗を判定します。
今、花子がパーを出して、太郎がグーを出して、太郎が負けたとします。
負けと判断すると、「悲しい」って感情が生成され、意識は、悲しみを感じます。
以上が、現実に起こった出来事です。

さて、これを後から思い出すにはどうすればいいでしょう?
思い出すとは、想像仮想世界で再現することです。

現実仮想世界を生成するのは無意識でしたよね。
目からの情報を基に、無意識は、現実仮想世界にオブジェクトを生成します。
想像仮想世界の場合、それを意識がしないといけません。
これ、どうやって実現したらいいでしょう?

意識の特徴として、世界を後から変更できたり、新たに作ったりできましたよね。
たとえば、ジャンケンも、教えてもらって後から作られたものです。
この仕組みを使うんです。

それじゃぁ、ジャンケン世界はどうやって作られていたでしょう?
それは、スクリプト・プログラムを使っていましたよね。
つまり、起こった出来事をスクリプトで保存すれば、現実世界で起こったことを再現できます。
これがエピソード記憶です。
それでは、さっきのジャンケンの出来事をスクリプトで書き出してみましょう。
これが、そのスクリプトです。

順に見ていきます。
思い出って、場面で思い出しますよね。
ここでは、場面をscene A として定義します。
場面には、時と場所と登場人物が定義されます。
昔話も、出だしは「昔々、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました」ってなってますよね。
昔話が、自然とそうなってるってことは、人の頭は、時と場所と登場人物で場面を管理するようにできてるってことです。

今回の登場人物は、太郎と花子です。
太郎が自分です。
時は、昨日で、場所は太郎の部屋です。

次に、その場面で使われる世界の定義です。
ここでは、ジャンケン世界となります。
その後、その場面で展開されるストーリーが記述されます。
太郎がグーをだして、花子がパーを出しました。
ここまでが場面の定義です。

次に、この場面をオブジェクトとして作成して、再生します。
すると、想像仮想世界に昨日の部屋が作成されて、そこに太郎と花子が配置されてジャンケンをします。
太郎がグーを出して、花子がパーを出します。
ジャンケン世界の判定ロジックによって太郎が負けたと判定されます。
すると、無意識が太郎の感情を悲しいと設定します。
それを受けて、太郎は悲しいと感じるわけです。
昨日の出来事を思い出して悲しくなったわけです。

どうです。
思い出したら、また、悲しくなったんです。
これって、人間と同じですよね。
思い出すたび、悔しさや怒りがよみがえってくるってよくありますよね。
そんな人間らしいAIアバターが再現されたんですよ。

さて、これを実現するとしたら、このスクリプトは、いつ、作られるんでしょう?
おそらく、それは、現実世界で経験しながらリアルタイムでスクリプトに変換すると思われます。
メモリには、場面を順に保存する場所があって、そこに現在の場面のスクリプトが保存されるんです。

ジャンケンの後、お母さんと一緒にお昼ご飯を食べたとします。
場面が変わったので、次の場面のスクリプトを生成するわけです。
そして、お母さんに「部屋で何してたの?」って聞かれます。
すると、場面を保存してるスクリプトを検索して、「ジャンケンしてたよ」って答えるわけです。
こうやって、自然な会話ができますよね。
普段、当たり前のように会話してますけど、これ、こうやって管理してるからできるんです。
たとえば、コンピュータなら、撮影した光景は、動画ファイルで保存してますよね。
動画ファイルを使った会話するとすれば、「何分何秒の画像の右上の画素は何色ですか?」ってことぐらいです。
そんな会話してる親子なんか、見たことないでしょ。
でも、今のAIで会話しようとすると、そんなことになってしまうんですよ。
意味理解って、データの管理の仕方を人間の脳と同じにすると言ってもいいと思います。

さて、人間の場合、エピソード記憶は、脳の海馬を介して大脳新皮質に保存されます。
そして、これが行われるのは、夜寝てるときです。
昼間、起きてるあいだに起こった出来事は、おそらく、前頭葉とかに保存されていて、すぐに取り出せるようになってるんですよ。
それを夜寝てるときに保存するんです。
保存するときは、整理して保存します。
だって、起こった出来事、全部、そのまま保存してたら脳がパンパンになりますから。

整理するときは、その日の出来事を再生しながら分類するんですよ。
過去に同じような出来事があったらまとめないといけないので、過去の思い出も再生してるはずです。
この時、眠りが浅くなると、それを見てしまうんですよ。
それが夢です。
夢って、小学校の同級生と、今の同僚が一緒に出てきて、普通にしゃべってたりしますよね。
あれって、記憶の整理してるとこを意識が見てしまったからやと思うんですよ。
まぁ、これは僕の仮説ですけどね。

それから、覚えておくものは、大雑把な見た目だけで充分ですよね。
写真みたいに記憶しなくても、見たとき、それとわかれば充分です。
でも、その場で見てるときは、細部まではっきり見えてますよね。
細部まではっきり見えてるってことは、現実仮想世界に生成するオブジェクトは細部まで生成してるわけです。
それを、情報量を落として記憶する仕組みがあるんでしょう。
でも、もし、その仕組みがなかったとしたら、どうなるでしょう。
もしかしたら、写真そっくりに記憶するんでしょうか?
そんなこと、あるんでしょうか?
では、これ見てください。

写真と思うでしょ。
実は、これ、記憶だけで描いてるんですよ。
これを描いたのは、サヴァン症候群の人です。
サヴァン症候群というのは、自閉症の中で、特殊な能力を持ってる人を言います。
この人は、写真記憶といって、写真のように記憶できる能力を持っいます。
おそらく、見たものを記憶するとき、省略するって機能が働かなくなってるんだと思います。

逆に、エピソード記憶ができない人もいます。
第317回~319回で、記憶喪失になった大庭さんを紹介しました。
大庭さんは、起きてる間は記憶を保持できます。
ところが、いったん寝ると、次、起きたとき、昨日の記憶が全くなくなってるんですよ。
記憶喪失になる直前の10年以上前の記憶しか思い出せないんですよ。

これって、起きてるときに作成したスクリプトを、寝てるときに大脳新皮質に書き込むところが損傷してると言えそうですよね。
起きてる間は記憶が保たれるってことは、経験して、リアルタイムでスクリプトに書き出して保存するとこまではできてるわけです。

記憶障害の中には、これもできない人がいます。
記憶が7秒しか持たない人がいます。
その人は、おそらく、経験をリアルタイムにスクリプトに書き出す機能が損傷してるんでしょう。
だから、今、目の前に起こってる出来事、つまり、現実仮想世界で再現されてる出来事しか記憶できないんです。
現実仮想世界から消えた出来事は思い出せないんです。

マインド・エンジンが完成すれば、記憶や心の具体的な仕組みもわかってくると思います。
それが脳のどこに対応してるか分かってくると、脳障害の治療にも役立つんではないかと思っています。

はい、今回の動画が面白かったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、マインド・エンジンの基盤となる意識の仮想世界仮説については、この本で詳しく語ってますので、よかったら読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!