第336回 AIの最終進化形 〜遅い思考のプログラム


ロボマインド・プロジェクト、第336弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

人工知能には、汎用人工知能と特化型人工知能って分け方があります。
特化型人工知能というのは、画像認識とか音声認識とか、何かに特化した人工知能です。
今の人工知能は全て特化型人工知能です。
それに対して、人間みたいになんでもできる人工知能のことを汎用人工知能って言います。

これは、1980年代の第二次AIブームのころは、弱い人工知能、強い人工知能って言われてました。
弱い人工知能が特化型人工知能で、強い人工知能が汎用人工知能に、ほぼ当てはまります。

これに対して、最近は、ディープラーニングで有名な松尾豊教授なんかが、速い思考、遅い思考って言い方を提唱しています。
速い思考、遅い思考っていうのは、ノーベル経済学賞を受賞した心理学者のダニエル・カールマンの著書『ファスト&スロー』に出てくる概念です。

カールマンは、一瞬でパッと思いつく、直観的な思考のことを速い思考といって、それを「システム1」と呼びました。
その反対に、理論的にじっくり考える思考を「システム2」と呼びました。

そして、松尾教授は、ディープラーニングはシステム1だといいます。
画像認識とか音声認識とかは、直観で一瞬で思いつく速い思考だからです。
速い思考の問題は、なんでその答えになったか説明できないことです。
これは、ディープラーニングの問題の一つでもあります。
このことからも、ディープラーニングに代わる新しいシステムを作る必要があるって指摘しています。

強い人工知能、汎用人工知能、遅い思考。
時代とともに、呼び方は変わってますけど、言いたいことは、みな同じです。
今の人工知能は、人間のような思考ができないってことです。
それと、もう一つ、面白いことに気づきます。
呼び方が、だんだん具体的になってきてるんですよ。
強い人工知能って、曖昧で、何が言いたいのかよくわかりません。
それが、汎用型って言うことで、何でもできる人工知能を目指すべきって具体的になってきました。
そして、「遅い思考」っていうことで、理論的に考える思考を目指すべきって、目標が機能的に示されるようになってきました。
ただ、どうやって遅い思考を実現するかは、松尾教授もわかっていません。
おそらく、遅い思考のシステム2を開発してるのは、世界中でロボマインドだけだと思います。
そこで、今回は、遅い思考の具体的な実現方法を、プログラムレベルで解説したいと思います。
これが、今回のテーマです。
AIの最終進化形
遅い思考のプログラム
それでは、始めましょう!

AIには、2種類の手法があって、一つはニューラルネットワーク、もう一つはルールベースです。
そして、ディープラーニングはニューラルネットワークに属します。

ルールベースって、第二次AIブームの頃に流行った手法で、AならばBってルールで答えを導きます。
病気診断システムなら、熱が出て、咳が出たら風邪って答えを出すわけです。
AならばB、BならばC、よってAならばCって三段論法とか使えます。
こう見ると、ルールベースって、論理的思考をしてますよね。
もしかして、ルールベースこそ、遅い思考になるんじゃないでしょうか?

ところが、そうはならないんですよ。
ルールベースも、データを入力したら、一瞬で答えがでます。
人が、じっくり考えるのとは、ちょっと違うようです。
じゃぁ、人がじっくり考えるって、どういうことなのでしょう?

たとえば、ああしたらどうかな、こうしたらどうかなって考えるでしょ。
このああしたらとか、こうしたらとかって、要するに、いろんな場合でシミュレーションしてるわけです。
たとえば、何か行動を決めるとき、Aした場合はどうやろ?、Bの場合はどうやろ?って頭の中でシミュレーションしてるわけです。
これは、一瞬で、パッと答えが思い浮かぶって直観とは違いますよね。
これが遅い思考です。

それじゃぁ、これを踏まえて、プロジェクト・エデンのAIアバターは、どうやって考えるかについて解説します。
プロジェクト・エデンというのは、ロボマインドが作ろうとしてるメタバースで、人が操作するアバターと、AIアバターが共に暮らします。
最大の特徴は、AIアバターは、人間と同じ心をもっていて、人と普通に会話ができることです。
そして、AIアバターの心というのが、ロボマインドが開発したマインド・エンジンです。

さて、AIアバターの太郎君は、花子さんとジャンケンをして負けました。
前回は、この出来事を思い出すエピソード記憶の仕組みを解説しました。
太郎君は、また、花子さんとジャンケンすることになったとします。
このとき、太郎君がジャンケンで何を出すか、理論的な遅い思考で決定する方法について解説します。

まずは、昨日のジャンケンを思い出します。
出来事はスクリプト・プログラムで記憶されるんでしたよね。
これが、ジャンケンのスクリプト・プログラムです。

登場人物は太郎と花子で、時は昨日で、場所は太郎の部屋です。
世界はジャンケンとなっています。
世界というのは、何に関する出来事かってことです。
位置とか距離に関する出来事なら三次元世界、ジャンケンについての出来事ならジャンケン世界となります。
世界がジャンケン世界というのは、要するに、ジャンケンしたってことです。
そして、ストーリーは、太郎がグーを出して、花子がパーを出したとなっています。
これを再生します。

再生するというのは、ジャンケン世界の中で、今のエピソード記憶を実行するってことです。
ジャンケン世界も、こんな風にスクリプト・プログラムで書かれています。

グー、チョキ、パーの手があるとか、パーはグーに勝つとかって勝利条件が書いてありますよね。
太郎がグーを出して、花子がパーを出したってことは、太郎が負けとなります。

さて、もう一回、ジャンケンするとしたら、太郎はどんな手を出したらいいでしょう?
これを理論的に考えるわけです。

まずやるべきは、出来事の中から、自分の意志で変更できるものを選ぶことです。
つまり、自分の行動です。
それでは、さっきのエピソード記憶を見てみましょう。

この中の登場人物で、aが自分です。
そして、自分の行動を探すと、グーを出したって見つかりました。
変更できるのはこの行です。
つまり、何の手を出すかを変更できるわけです。
それじゃぁ、今度は、ジャンケンのルールを見てみましょう。

花子は、パーを出していましたよね。
勝利条件をみてみると、パーに勝つのはチョキでしたよね。
どうも、チョキを出したら花子に勝てそうです。

もちろん、次も、花子がパーを出すとは限りません。
ただ、ここでやりたいのは、理論的に考えて行動を決定するってことです。
そして、今のやり方で、それができたわけです。
これで、何ができるようになったかわかりますか?

なぜ、チョキを出したか、説明できるようになったんです。
つまり、今のAIでは絶対不可能と言われていた説明ができるようになったんです。
これだけでも、すごいことなんですよ。

話は、これでは終わりません。
重要なのは、これが、本当に人間と同じ思考かってことです。

たとえば、花子がパーを出すと思ってたのに、グーを出したとしましょ。
そしたら、太郎君は、また、負けますよね。
同じ理論を繰り返しても、負け続けます。
毎回、同じことしてたら、太郎はバカだって思われるでしょう。
やっぱりAIは人間には勝てないって。

それじゃぁ、どうすれば人間と同じ思考と言えるでしょう。
それは、花子は前回と別の手を出すかもしれないって気づくことです。
でも、それに気づいても、花子が出す手を変更した場合をシミュレーションしないといけませんよね。
でも、それって、プログラムを変更することになりますよね。
実行中に、プログラムを書き換えることなんかできるんでしょうか?

はい、できます。
スクリプト・プログラムなら、出来ますよね。
スクリプト・プログラムは、実行時にバーチャルマシンが、プログラムを1行ずつコンパイルしながら実行するので、実行時に変更することも可能なんです。

これを、今のAIと比較してみましょう。
ディープラーニングがやってることは、パラメータの調整です。
できるのは、ほんのちょっとずつ、変更するだけです。
プログラムのロジックをごっそり変更するなんてできないんですよ。
ルールベースにしても同じです。
熱がでて咳がでたら風邪だってルールがあったとして、変更できるのは、せいぜい、咳の代わりに鼻水に変えるってことぐらいです。
ロジック自体を変更する仕組みは、今までのAIじゃ不可能だったんです。
それを、マインド・エンジンでは可能となったわけです。

まだまだ続きますよ。
つぎは、もうちょっと深い話です。
そもそも、意識が考えるって、どういうことでしょう?
つまり、意識と無意識の違いって、なにかってことです。

僕は、よく、自転車の運転でたとえます。
初めて自転車に乗った時、ハンドルを握って、バランスを取りながらペダルを漕いでって、全て意識してたでしょ。
でも、それだとうまく運転できないんですよ。
うまく乗れるようになってきたときって、無意識で運転してるんですよ。
意識せずとも、自然とバランスを取りながらペダルを漕いでます。
逆に言えば、意識って、一つ一つの処理を意識してるってことです。
一つ一つ、感じて、確認しながら処理するのが意識です。

さて、これが意味することって何でしょう。
もうちょっと、探っていきますよ。

無意識って、自動の処理でしたよね。
たとえば反射反応なんかも無意識です。
熱い鍋に触って思わず手を引っ込めるとか。
これが何を意味するか、分かりますか?

これ、無意識の処理は変更できないってことです。
鍋が熱いと判断したら、気が付いたら手を引っ込めてますよね。
今回は、1秒我慢してから手を引っ込めようなんて、変更できないですよね。

それに対して、意識は、どうでしょう?
ジャンケンをシミュレーションして、チョキを出したら勝つぞって結果が返ってきたとします。
そのままチョキを出すこともできますけど、「いや、待てよ」って考え直すこともできますよね。
「いや、待てよ、花子さんが、今回もパーを出すとは限らないぞ」って思いなおすことができますよね。
ここなんですよ。
意識と無意識の決定的な違いは。

どういうことかというと、処理の結果が返ってきたら、それを実行するかどうか、最終決定権は意識が持っているんです。
その権利を手渡したら、無意識の計算結果の通りにしか動けないんです。
このことを、なんて言うかわかりますか?
自由意志がないです。

意識は、無意識の結果に従うことも、拒否することもできるんです。
これが自由意志です。

じゃぁ、その仕組みは、どうやって作ったらいいんでしょう?

意識は、バーチャルマシンで処理した結果を受け取ります。
この時、何も考えずに、結果通り実行しちゃダメなんです。
ここで、いったん、状況を見渡すんです。
たとえば、現実仮想世界を確認したり、現在の感情を確認したりってことです。

これ、言い換えたら、「我に返る」って言ってもいいと思います。

考えるって言うのは、シミュレーションすることでしたよね。
シミュレーションは、想像仮想世界で行いましたよね。
つまり、考えてるとき、意識は、想像仮想世界を向いてるんです。
それを、現実仮想世界に、いったん戻すんです。
この時、考え直すチャンスがあるんです。
「本当にこれでいいのか?」
「花子がパーを出さなかったらどうするのか?」って考える機会があるんです。

スクリプトからの結果を受け取るごとに、考え直す機会があるんです。
一つ一つ、処理結果を考えながら、次の処理を進めるんです。
だから、答えを出すのに時間がかかるんです。
これが、遅い思考です。
仕組み上、遅くならざるを得ないんです。

今のAIは、一瞬で答えをだしますよね。
ChatGPTに「哲学の論文を書いて」ってお願いすれば、一瞬で、それらしい論文を書いてくれます。
でも、それって、絶対、考えてないですよね。
今のAIは、人間みたいに、考えて書くことができないんです。
一言、一言、悩んで文章を書くってことができないんです。

そして、一言、一言、悩むって仕組み。
これでいいのか、本当に大丈夫かって確認しながら処理を進める仕組み。
この仕組みこそが、自由意志の根源なんです。
意識が感じるこの一瞬、一瞬。
ここに自由意志があるんです。
分かってきましたか?

最後に、善悪について考えてみます。
善悪も、ジャンケンと同じで、あるルール、社会のルールがあるわけです。
それは、「困ってる人を助けなさい」とか「みんなが気持ちよく暮らせるように行動しなさい」といったことです。
プログラムっぽく言えば、「相手のプラスマイナス感情がプラスとなるように行動を選択せよ」ってなります。

さて、太郎君が電車で座っていたとき、おばあさんが乗ってきたとします。
この場合、太郎君の取り得る行動として、「おばあさんに席を譲る」と、「そのまま座り続ける」って二つの選択肢があるとします。
そこで、この二つの行動をシミュレーションします。
すると、席を譲った場合は、おばあさんは楽になるので、おばあさんはプラス感情になります。
一方、自分は席を立って疲れるのでマイナス感情となります。
そのまま座り続けたら、おばあさんはマイナス感情で、自分はプラス感情となります。

そこに、善のルールを適用すると、「席を譲る」って結果が返ってきました。
そして、意識プログラムはそれを受け取ります。
そのとき、受け取った結果通りに実行するのは、自由意志のないロボットです。
マインド・エンジンの意識プログラムは、結果を受け取った時、もう一回、考え直すことができます。
現実の状況を見たり、感情を観察したりするわけです。
すると、「自分も疲れてるし、座り続けたいなぁ」って思ったり、「周りの目も気になるし、おばあさんに声をかけるの、気恥ずかしいなぁ」とかって思ったりします。
太郎君は、悩みました。
でも、席を譲るって決めました。
勇気をだして、ちっちゃい声で言います。
「おばあさん、どうぞ」って。

どうです?
こんなAI、どう思います?
もう、これ、心ってもいいんじゃないですか?
何も考えずに、さっと立ち上がって、大声で、「おばあさん、どうぞ」っていうAIとどっちがいいですか?
「あなた方は、なぜ、席を譲らないのですか?」って、大声で質問してくるAIとか、どう思います。
そんなAIとは、絶対、友達になれませんよね。

プロジェクト・エデンのAIアバターは、みんな、人間らしい心をもってます。
恥ずかしがる心も、ちっちゃい勇気も持っています。
そんな繊細なAIなら、きっと、友達になれますよね。
よかったら、プロジェクト・エデンを応援してください。

そのためには、まずは、チャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、マインド・エンジンの基礎となる意識の仮想世界仮説に関しては、こちらの本に詳しく書いてありますので、よかったら読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!