第339回 クラウドファンディングします! 〜ロボマインド・プロジェクトの全貌2


ロボマインド・プロジェクト、第339弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

前回、クラウドファンディング用にアニメを作ったって話をしましたよね。
そもそも、なんで、アニメを作ろうって話が出てきたのかって話をしてませんでした。
じつは、去年の春ごろ、大手映画会社から連絡がありましてね。
名前を聞いたら誰でも知ってる会社です。

何の話かというと、AIに意識が宿るってアニメ映画の企画があって、それの監修をしてくれないかって話だったんですよ。
もちろん、即、OKしましたよ。
プロデューサーと何度か打ち合わせしたりして、脚本を練ってたんです。
これは、なかなか楽しい作業でした。
でも、途中でポシャっちゃったんです。
まぁ、よくあることみたいですけど。

そんなことがあった直後だったんで、クラウドファンディングの動画を作るってなった時、あの企画の続きをやりたいなぁって、出てきたんですよ。
元の映画の脚本とは、全く別物になりましたけど、『エデン』は、僕らが本当に描きたかった世界になりました。

今回も、ちょっとチラ見せしますね。

はい、本編公開まで、もう少し待ってください。

今回は、前回の、ロボマインド・プロジェクトの概要の続きです。
それでは、始めましょう!

マインド・エンジンというのは、人間の心をプログラムで再現したものです。
意識をもって、人間と普通に会話ができる会話エンジンとなります。

マインド・エンジンの解説の前に、人間と動物の意識の違いについて考えてみます。
現代科学では、まだ、意識の定義すら決まっていません。
人によっては、石ころにも意識が有ると言う人もいるぐらいです。
そこで、ロボマインド・プロジェクトで目指す意識について、簡単に定義しておきます。
これは、あくまでも僕の考える定義です。

僕は、意識を脳の進化の過程で生まれたものとして、意識自体も、進化したと考えています。
そして、意識の進化を3段階に整理しました。
これを、脳の系統発生図を見ながら説明します。

濃い青が脊髄で、ピンクが小脳、脳幹で、薄い青が大脳です。
僕は、意識は大脳に宿ると考えています。
魚や両生類は、大脳がほとんどありませんよね。
だから、意識もほとんどないと思っています。
このレベルの生物は、意識はほとんどなくて、無意識だけで生きてると思っています。
さっき説明しましたけど、熱い鍋に触って思わず手を引っ込める脊髄反射などが無意識です。
魚とかカエルは、脊髄反射みたいな原始的な意識しかないと思っています。
つまり、外部環境に自動で反応するような処理だけです。
カエルだったら、目の前で虫が動いたら、反射的に捕まえて食べるとか、天敵の鳥の影を感じたら、反射的に池に飛び込んで逃げるとかです。
盲視の話で説明しましたけど、意識がなくても、外界に反応することができましたよね。
あれがカエルの感じてる世界だと思います。
意識では何も感じなくても、正しい行動ができるって世界です。
このレベルの意識を、カエルレベルの意識とします。

じゃぁ、意識はどこにありましたか?
それは、何の経路の先でしたよね。
つまり、「ものがある」って感じる感覚、目の前に世界があるって感じる感覚。
こう感じれるのは、意識があるからです。
これを実現するの仕組みが仮想世界です。
目で見た世界を仮想世界として構築して、それを観察するのが意識です。
そして、これを実現するのが大脳だと思います。
大脳が発達してくるのは哺乳類からです。
犬とかになると、教えたら芸ができるようになりますよね。
オテとかマテができるようになります。

じつは、これって、すごいことなんですよ。
こういう入力があったら、こういう行動をするって、もともと遺伝子に刻まれてるわけです。
つまり、それは生まれる前から決まってるわけです。
それだけで行動してるのがカエルレベルの意識です。
それが、生まれてから、入力に対する行動を変更したり、学習できるようになったんです。

それを実現するには、入力に反射的に反応してたらダメなんですよ。
まず、それが何かって認識しないといけないんですよ。
それが「物を見る」ってことです。
「世界がある」って形で感じれるってことです。

まず、何かがあるって認識するでしょ。
「オテ」って言われて、飼い主が手を差し出したことを認識しました。
その上に前足を乗せたら、褒められました。
こうして、「オテといわれたら、前足を乗せるんやな」って学習するわけです。
これができるには、仮想世界を使ってものを認識する意識が必要なんです。
このレベルの意識を犬レベルの意識と呼ぶことにしましょう。

その次の段階が人レベルの意識です。
人間と犬の最大の違いは、言葉です。
動物は、人間のように言葉を話すことができません。
でも、もしかしたら訓練したら話せるようになるかもしれませんよね。
類人猿で最も頭がいいといわれてるのがボノボです。
ボノボに言葉を教えたって有名な実験がありました。

スゴイですよねぇ。
ちゃんと言葉を理解してますよねぇ。
なんと1000語もの単語を覚えてるそうです。
でも、長い会話が続くことはないそうです。
なぜかと言うと、ボノボが理解できるのは、目のまえに起こってる出来事だけだからです。
「昨日、こんなことがあったよ」って会話はできないんです。
つまり、昨日の思い出とかって記憶ができないようなんです。
ここに重要なヒントがあります。
どんなことを覚えれるかって記憶の仕組みが、人間と動物で違うようなんです。

ここで、記憶について、探っていきます。
まず、意識が認識するのは仮想世界でしたよね。
仮想世界は、目で見た現実世界を頭の中に構築したものです。
コンピュータだと3DCGで作れましたよね。
そして、仮想世界に配置される物体はオブジェクトです。
オブジェクトには属性を表すプロパティがあります。
ボノボは、1000語もの単語を覚えたって言ってましたけど、これはオブジェクトの名前プロパティを覚えたんでしょう。

それから、オブジェクトは動きを表すメソッドもあります。
犬の「オテ」は、人が差し出した手に、前足を乗せるって動作ですよね。
これは、前足オブジェクトのメソッドとして表現できます。
こう考えると、犬やボノボが覚えることができるのは、オブジェクトのプロパティやメソッドのようです。
そして、そのオブジェクトは、目の前の現実世界にあるものだけです。
つまり、犬やボノボが覚えることができるのは、目の前にあるオブジェクトのプロパティやメソッドです。

長期記憶には二種類あるといわれています。
一つは意味記憶、もう一つはエピソード記憶です。
意味記憶っていうのは、リンゴは赤いといった知識です。
言い換えたら、これはオブジェクトのプロパティです。
犬やボノボが覚えることができるのは意味記憶というわけです。

エピソード記憶というのは、「昨日、こんなことがあった」って思い出のことです。
ボノボは、1000もの単語を覚えましたけど、「昨日、こんなことがあった」って会話はできなかったですよね。
つまり、エピソード記憶ができないんです。

昨日、起こった出来事っていうのは、今、目の前で起こってることじゃないですよね。
つまり、目の前にない世界を、作り出してるわけです。

目の前の現実世界というのは、無意識が作りだした仮想世界でしたよね。
意識は、その仮想世界を認識するわけです。

昨日の出来事を思い出すのも意識ですよね。
つまり、昨日の出来事を思い出せるってことは、意識が昨日の世界を作りだせたってことです。
これ、すごいことなんですよ。
今まで、無意識しかできなかったことを、進化によって、意識ができるようになったんです。
この進化は大きいですよね。

しかも、思い出すだけじゃないですよ。
自由に世界を作れるなら、過去の記憶だけじゃなくて、未来のこととか、自由に想像できますよね。
自由に世界を想像できる機能を持てるようになったんです。
それも、自分だけでなくて、相手も持ってます。
そうしたら、何が起こると思います?

コミュニケーションです。
「あの山の向こうに、ライオンがいたぞ」とかって言葉で言います。
それを聞いた相手は、あの山の向こうにライオンがいるところを想像するんです。
これがコミュニケーションです。
これができるには、目の前にない光景を頭の中に作り出す仕組みが必要ですよね。
まず、必要なのは仕組みです。
言葉は、その後です。

いいですか?
犬は、目の前のものを認識できる仕組みは持ってます。
ただ、これで出来るコミュニケーションは、目の前にあって、お互いが共通に認識してる世界に対してだけです。

それが、人の意識になると、目の前にない世界を想像できるようになりました。
これによって、目の前になくても、頭で考えてることを相手に伝えることができるようになったんです。
重要なのは、自由に想像できるって仕組みです。
お互いにこの仕組みを持っているから、複雑な出来事を伝えることができるんです。
その時に使う表現の一つが言葉です。
言葉って、奥にある仕組みの上で、表面に現れた現象です。
だから、表面的な言葉だけ、いくらいじくってても意味ないんです。
重要なのは、世界をどうやって認識するかって心の仕組みです。
そして、それをコンピュータで実現したのがマインド・エンジンです。

それでは、そのマインド・エンジンの説明をします。

マインド・エンジンは、メタバースのAIアバターに搭載されます。
メタバースも、その中で生きるアバターも全て3DCGで作られています。
さて、AIアバターの眼は、目の前の光景をカメラで捉えます。
カメラで捉えたメタバースの光景、これが現実世界です。

AIアバター全体を制御してるのは無意識です。
無意識は、カメラで捉えた現実世界を解析して、それを3DCGで再現して現実仮想世界を作ります。
現実仮想世界も、メタバースと同じく3DCGで再現されます。
ただし、自分で生成したので、3Dオブジェクトのデータに直接アクセスできます。

たとえば、意識プログラムが、机オブジェクトの位置プロパティにアクセスすることで、1m先に机があると思うわけです。
この意識プログラム自体を起動したり、終了したりするのも無意識です。
意識プログラムを起動するとは、目が覚めるってことです。
終了するとは、眠るってことです。

意識が机を認識して、机のとこまで行こうって決めたとします。

すると、その決定は無意識に送られ、無意識が身体を動かします。
人間なら、手足の筋肉を動かして歩かせるわけです。
このように、全てを制御してるのは無意識です。
意識は無意識の上で動いてるだけといえます。
こういうと、意識には、自由意志はないように思いますけど、ちょっと違います。
無意識は、コンピュータでいえばOSで、意識は、OSの上で動くアプリケーション・ソフトです。
無意識と意識の関係は、OSと、その上で動くソフトの関係。
これが大前提となりますので、よく覚えておいてください。

これを踏まえたうえで、無意識と意識の役割分担について説明します。
ぼくは、よく、自転車を例に挙げます。
自転車に初めて乗るときって、ハンドルを握って、ペダルを漕ぎながらバランスを取ってって、頭で考えながら乗りますよね。
でも、頭で考えてるうちは、うまく運転できません。
でも、何度も練習してると、だんだんうまく乗れるようになってきます。
このとき、頭で考えてないんですよ。
自動でバランスを取りながらペダルを漕いで運転してます。
この、自動で運転してるのが無意識です。
じゃぁ、意識は何のためにあるんでしょう?
それは、行動の選択です。
自転車を運転していて、分かれ道に来ました。
どっちに行けばいいのか?
それは、目的地によって異なりますよね。
それを考えて、決めるのが意識の役目です。

分かってきましたか?
いつも行なってる行動は自動でできますよね。
それをするのが無意識です。
でも、初めての状況とか、考えないと決めれないことがあります。
それを決めるのが意識です。
この関係を、しっかり覚えておいてください。

さて、それでは、こっからは具体的な話をしていきます。
AIアバターを太郎君とします。
そこに、花子ちゃんがやってきて、二人でジャンケンをするとします。
これを、マインド・エンジンでどうやって実行するかを解説していきます。

まず、ジャンケンをすると決めると、ジャンケンのプログラムを読み込みます。
これが、ジャンケンのプログラムです。

大雑把に説明すると、ジャンケン・プログラムは三つのルールからなります。
ルール0は、プレイヤーはグー、チョキ、パーの三つの手を出すとか、パーはグーに勝つとかって勝利条件が書いてあります。
ルール1は、最初に「じゃん、けん、ぽんって」言いながら、出す手を決めて、同時に手を出すってことが書かれてます。
その次のルール2で、誰が勝ったかを判定します。

実際のプログラムは、これがさらに細かく分解されますが、そういった細かい話は置いておいて、これが何を意味するのかって話をします。
まず、このプログラムはジャンケン世界って呼ばれています。
この世界っていうのは、三次元世界の世界に対応しています。

今まで、ずっと、現実世界は三次元の物理世界で、コンピュータでは3DCGで再現するって説明してきましたよね。
物があるとか、物が落ちるとかってことは三次元の物理世界で定義できます。
たとえば、「上」って単語の意味は、三次元空間と重力を設定した3DCGを使えば、重力に反する方向が「上」だって定義できますよね。
今までのAIで定義できなかった言葉の意味が、こうして現実世界にしっかり着地して定義できたんでしたよね。

ただ、これで定義できるのは、三次元の物理世界だけです。
僕らは、物理世界にないことも考えれますよね。
たとえば、物の売買です。
売買って、物の所有権とお金を交換することです。
でも、所有権って、物理世界じゃ定義できません。
そこで、所有権とかお金ってのを定義した所有権世界ってものを作ります。
所有権世界を作れば、売るとか買うって言葉の意味を定義できますよね。
その他、貸し借りとか、盗むとかって言葉も所有権世界で定義できます。

何が言いたいかって言うと、言葉の意味というのは、世界と、その世界で使われるオブジェクトで定義できるってことです。
そして、その世界というのは、三次元世界以外に、所有権を定義した所有権世界とか、人間関係を定義した人間関係世界とか、もう、いっぱいあるってことです。

そんな中に勝ち負け世界ってのがあるんですよ。
勝ち負け世界には、ルールとプレイヤーがあって、勝ち負けが決まるって世界です。

そして、勝ち負け世界には、スポーツ、戦争、ゲームがあって、ゲームの中に将棋やジャンケンがあります。
今回は、この中のジャンケン世界の話になるってわけです。
分かってきましたか?

整理しますよ。
意識が認識するのは世界です。
そして、世界には、三次元の物理世界以外に、いろんな世界があるわけです。
何をするか、何の話をしてるかによって、意識が認識する世界が変わります。
世界っていうのは、世界と、それに含まれるオブジェクトで構成されます。
勝つとか負けるって言葉は、勝ち負け世界で定義されるわけです。
そして、勝つとか負けって、勝ち負け世界の動きですよね。
それを実現するとすれば、プログラムになりますよね。

言葉って、こんな静的な意味ネットワークで定義できるもんじゃないってわかりますよね。
言葉は世界の中のプログラムとして、動的に定義されるものなんです。
分かってきましたか?

それから、もう一つ、重要な話をします。
勝つとか負けるとかって、人間が作ったルールですよね。
それは、自然界のルールとは違います。
自然界のルールは物理世界で定義されます。
そして、それを扱うのが科学です。
逆に言えば、科学が扱えるのは物理世界だけなんですよ。
ジャンケンとか人間関係って、科学で扱えませんよね。
今、やろうとしてるのは、ジャンケンとか人間関係を、科学と同じ地平線で扱おうとしてるんですよ。
物理世界を定義できるなら、人間関係世界とか、勝ち負け世界も定義できるんですよ。
世界を定義さえすれば、神も悪魔も、同じシステムで扱うことができます。
そして、僕らの心は、まさにそれをやってますよね。
つまり、重力や電磁力と同じように、人間関係も、神も悪魔も同じプラットフォームで扱えるジャンルを生み出そうとしてるんです。
科学を拡張しようとしてるといってもいいです。
これが、僕らがやろうとしてることです。
AIとか、脳科学とか、狭い範囲の話じゃないです。
科学そのものをを再構築しようとしてるんです。
このことを忘れないようにしてください。

ジャンケンから、大きい話になりましたけど、まだ、大きい話は続きます。
次は、変えれるものと変えれないものって話をします。

どういうことかと言うと、カエルレベルの意識は、生まれたときから、行動が決まってましたよね。
犬レベルの意識になると、教えたら、オテとかマテができるようになります。
生まれた後に、行動を変えることができるわけです。
ただし、変更できるのは、目の前にあるものだけです。

人レベルの意識になると、完全に自由に世界を想像できます。
ジャンケンを教えたらジャンケンできるようになります。
教えたらできるって、当たり前って思ってたでしょ。
でも、教えたらできるって、これって、すごいことなんですよ。
だって、ジャンケンって一種の世界です。
世界その物を、新たに作り出すことができるんです。
そう考えたら、これってすごいことなんですよ。
人間まで進化して、脳の中で全く新しい仕組みができたってことなんですよ。
じゃぁ、その世界を作りだす仕組みって、コンピュータでどうやって実現したらいいんでしょう?

ここで、コンピュータ・プログラムの話をします。
プログラマーは、「a = b + 100」とかってプログラムを書きます。
これは、bって変数に入ってる値に100を足し算して、aって変数に代入しなさいって意味です。
ただ、CPUは、このプログラムを直接実行できません。
なぜなら、CPUが理解できるのは01で書かれた二進数だけだからです。
そこで、「a = b + 100」ってプログラムを二進数に変換します。
これをコンパイルって言います。

さて、プログラマーが書くプログラムは何百、何千行ってなります。
これをコンパイルしてCPUで実行できる形にしたものを実行プログラムといいます。
こうやって予め、実行プログラムを作るタイプのプログラムをコンパイラ言語って言います。
コンパイラ言語には、C言語とか、C#、javaなどがあります。

それとは別に、実行時に、1行ずつコンパイルしながら実行するタイプのプログラムもあります。
このタイプのプログラムをスクリプト言語って言います。
スクリプト言語としては、JavaScriptやphp、pythonなどがあります。
そして、スクリプトプログラムを実行するプログラムをヴァーチャルマシンとかインタプリタといいます。

さて、コンパイルして01の二進数になると、もう、意味がわかりませんので、修正することは不可能です。
だから、コンパイラ言語の場合、プログラムを運用し始めたら、プログラムを修正することはできません。
修正するには、一度止めて、コンパイルしなおさないといけません。

一方、プログラマーが書いたプログラムは、意味が分かるように書かれてるので、修正することができます。
そして、スクリプト言語は、運用時に、CPUが実行する直前にコンパイルします。
だから、運用しながらでも、プログラムを修正することができるんです。

さっきも言いましたけど、人は、生まれた後に、世界を作ったり、変更できましたよね。
ジャンケン世界もその一つです。
さっき、ジャンケンのプログラムを見ましたよね。

じつは、これはスクリプト言語で書かれてるんです。
マインド・エンジン専用のスクリプト言語です。

そして、重要なのは、このスクリプト言語は、マインド・エンジンを動かしてる途中で、読み込んで実行できるってことです。
つまり、運用中に、後から世界を教えることができるってことです。
ジャンケンって、こうやってやるのよって教えることができるんです。
それができるのは、スクリプト・プログラムを解釈実行できる仕組みがあるからです。

もし、スクリプト言語でなく、コンパイラ言語だけでマインド・エンジンを作っていたとしたらどうなると思います。
ジャンケンは、起動する前に教えておかないといけないんです。
つまり、生まれる前から、できることが決まったシステムになります。
カエルや犬の意識は、コンパイラ言語で作られてるってことです。
これで、人の意識が、カエルや犬と、根本的に違うってことが分かりますよね。

この話、まだ、続きます。
さて、ジャンケンってどうやって教えますか。
これがチョキよ、パーに勝つのよって、実際にやって見せながら言葉で教えますよね。
実際に見せるってことは、現実世界を認識してるわけです。
そして、それをスクリプトに変換したわけです。
スクリプトに変換したら、後からそれを実行できます。
さらに、ルールを変更することもできます。
これもチョキよって、新しいチョキの形を教えることもできます。
教えたら、新しいチョキでジャンケンできるようになります。
これが、意味を理解してるってことです。
つまり、言葉の意味を理解するっていうのは、自然言語をスクリプトに変換することと同じなんです。

それから、もう一つ重要なことを言います。
このスクリプトを書いたり、変更したりするのは誰かわかりますか?
それは、意識プログラムです。
何が言いたいか分かりますか?

スクリプトは、プログラマーのためにあるんじゃないんです。
意識プログラムのためにあるんです。
意識プログラムが理解したり、考えたりするのに使うのがスクリプトです。
決して、マインド・エンジンを開発するプログラマーのためにあるんじゃないんです。
ここを勘違いしないでおいてください。

そして、このスクリプトは、エピソード記憶にも使われます。
ジャンケンをしたって出来事は、スクリプトで記録されます。
そして、後から、スクリプトを読み出して再現するわけです。
「昨日、花子ちゃんとジャンケンをして遊んだ」って、思い出せるわけです。

さて、以上で、心を構成する重要な要素が全てそろいました。
と言いたいのですが、まだ、一つ、重要な要素が残っています。
今のままでは、行動する動機がないんですよ。
行動の原動力となるものが必要です。
それが何かわかりますか?

それは、感情です。
お腹が空いたら何か食べたい、恐怖を感じたら逃げたい。
行動の原動力となるのは感情です。
生物の基本的な行動原理は、マイナス感情を避けて、プラス感情を求めると言うものです。
マイナス感情というのは、恐怖とか、空腹、悲しいです。
プラス感情というのは、安心とか、満腹、嬉しいです。
意識は何らかの感情を感じて、行動を決定します。

意識が感じるということは、感情もクオリアの一種です。
恐怖のクオリア、空腹のクオリア、痛みのクオリアといったものがあるわけです。
クオリアは、マインド・エンジンだと仮想世界い配置されるオブジェクトになります。
つまり、行動の原動力となるオブジェクトです。

さて、ジャンケンは勝ち負け世界に属していましたよね。
勝つと、自分の評価が高くなるので嬉しいです。
負けると、自分の評価が下がるので悲しいです。
ジャンケンに勝つと、ジャンケンが楽しくなって、ジャンケンが好きになります。
負けると、ジャンケンが嫌いになります。
こうやって、経験、感情、行動が結びついていくわけです。
こうやって、個性が生まれるんです。

さて、好き嫌いだけなら、動物でも持てます。
でも、人間の場合、もう少し複雑です。
ジャンケンで負けても、次はどうやって勝てるかって考えることができます。
思考です。

思考には二種類あると言われています。
ノーベル経済学者のダニエル・カーネマンは、著書『ファスト&スロー』で、速い思考と遅い思考っていう概念を提唱しました。

速い思考っていうのは、一瞬で答えがわかるタイプの思考です。
直観とか、ふと、思いつくタイプの思考です。
遅い思考というのは、じっくり考えるタイプの思考です。
理論的に考えて答えを出すのが、このタイプです。

じつは、今のAIは、全て速い思考なんです。
今のAIは、大量のデータを入力すれば、特徴を自動で学習します。
一度学習すれば、何かデータを入力すればすぐに答えを出してくれます。
例えば、店の売り上げデータと、曜日や天気など、様々なデータを学習させます。
すると、商品を入力すれば、雨の水曜日の午後に売れやすいとかって出力してくれます。
一瞬で答えてくれるのはいいんですけど、なんで雨の水曜に売れるのか、理由がわからないですよ。
説明ができない。
これが今のAIの課題なんです。

さて、マインド・エンジンは、出来事をエピソード記憶として覚えておくことができます。
エピソード記憶というのは、オブジェクトがどのように動いて、どういう結果となったかってことをスクリプトで記述したものでしたよね。
たとえば、太郎がグーを出して、花子がパーを出して、太郎が負けたって記憶があったとします。
これを思い出して、「そうや、チョキを出したら勝てたんや」って思ったとしましょ。
そう思って、次はチョキを出すんです。
まぁ、それで勝てるかどうかは分からないですけど、思考の過程は分かりますよね。
相手がパーを出すと考えたからチョキを出したわけです。
つまり、理論的に考えて答えを出したわけです。
どうです?
今のAIじゃ不可能な、遅い思考ができたんです。
これがマインド・エンジンです。

さて、このパートの最後は、人間しか持てない心理について考えます。
それは、善悪といった倫理観です。
人は、秩序だった社会を形成しています。
それを保つ根底にあるのが善悪です。
ただ、善悪は、他の感情とちょっと違います。

さっき、感情は行動の原動力だって言いましたよね。
マイナス感情を避けて、プラス感情を求めるってのが、人間も動物も共通に持ってる行動原理です。
ところが、善悪って、プラスマイナス感情に結びついてないんです。
善い行い、悪い行いって、いってみれば「~すべき」「~すべきでない」ってことですよね。
お年寄りに席を譲るべき、道にゴミを捨てるべきでないとかです。
好きで善い行動をすることもあれば、いやいや行動することもあります。
重要なのは、好きとか嫌いとかって感情は関係ないってことです。
これができるのって、考えたらすごいことなんですよ。

カエルレベルの意識で考えてみます。
カエルは、天敵の鳥の影を感じたら、素早く逃げます。
カエルを突き動かしてるのは恐怖です。
脳の中で恐怖を生み出すのは偏桃体です。
偏桃体は進化的に古くからある脳の機能です。
カエルレベルの意識は、感情を受けて自動で行動します。
逆らうことはできません。

犬レベルの意識になると、目の前にエサがあって、食べようとしても、マテを教えられると、待つことができます。
感情から生み出される行動を変更することができます。
これができるようになったのは、仮想世界を使って現実世界を認識するようになったからです。
仮想世界に配置されるオブジェクトのプロパティを書き換えることで、行動を変更することができたんです。
これは、仮想世界を持てないカエルにはできないことです。

ただ、行動のきっかけとなってるのは感情です。
感情と行動の結びつきは変更できるとしても、行動の出発点が感情であるという点では、カエルも犬も同じです。

それが、人間になると、感情と関係なくても、行動することができるんです。
人は、感情と切り離した行動ができるようになったわけです。
「こういう場合はこうする」って決めて、行動できるようになったんです。
これって、別の言い方をすれば、ルールです。
たとえば、ジャンケンのルールです。
ジャンケンポンって言って、同時に手を出すって決まり事です。
こうするってルールを自由に作ることができたわけです。

そして、ルールを作れるって仕組み、それが、スクリプト・プログラムです。
運用しながら、自分を動かすプログラム自体を変更することができる仕組みです。
感情に結びついた行動しかできなかったのが、自由に行動できるようになったんですよ。

これ、自由度が増したといえますよね。
カエルや犬は、感情を起点にしてしか行動できなかったわけです。
それが、人間は、感情の呪縛から抜け出たわけです。
こう考えたら、ルールを作れるって、いかにすごいかってわかるでしょ。
これって、生物の進化の歴史の中で、とんでもない進化です。
僕は、これこそが、自由意志の第一歩だと思うんですよ。

自由意志に関しては、あとでまた取り上げるとして、これで、ようやく善悪が定義できます。
さて、善悪の根本原理って、何か分かりますか?
自分の感情じゃないのは分かりますよね。
それじゃぁ、ただのルールでしょうか?
それも違います。

善悪を構成するもの。
それは、自分じゃなくて相手の感情です。
「善」を定義するとすれば、相手がプラス感情となるような行動となります。
だから、お年寄りには席を譲るべきなんですよ。
困ってる人がいれば、助けるべきなんですよ。
道にゴミを捨てるべきでないのは、道にゴミを捨てると、その町に住んでる人が嫌な思いをするからです。

感情って、本来、自分にしか理解できないことです。
それを、相手の感情を想像するんです。
その仕組みが、想像仮想世界です。
人間の意識は、想像仮想世界に自由にオブジェクトを配置して、そのオブジェクトにアクセスすることができます。
相手のオブジェクトを想像して、その感情にアクセスするんです。
すると、おばあさんは、立ってるのは辛いだろうなぁって想像できます。
そして、相手がプラス感情となるような行動をすべきってルールがあるわけです。
これだけのことが理解できて、ようやく善悪が定義できるんです。

長くなりましたので、今回はここまでとします。
チャンネル登録、高評価、お願いしますね。
それから、よかったらこちらの本も読んでください。
そらじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!