第340回 自由意志実験で、誰もが勘違いしてたものとは


ロボマインド・プロジェクト、第340弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

ここんとこ、クラファン用に今までの話を整理してたら、いろんな理論がどんどん洗練されてきました。
その中でも、一番面白いのは、やっぱり自由意志です。
特に、リベットの実験です。
あの実験には、意識と脳のいろんな問題が関わってます。
というか、あの実験って、普通に考えたら、あり得ないことが起こってるわけです。
それを、整合性の取れるように解釈したら、自由意志が存在しないってなったわけです。
当たり前に存在してると思ってた自由意志がないとするのは、それは、解釈の一つだと思います。
でも、他にも解釈の仕方ってあるんじゃないかってことです。
つまり、あの実験で、当たり前と思ってたけど、本当は当たり前じゃなかったことって、他にもあるんじゃないかってことです。
その視点でみると、リベットの実験がものすごくすっきりするんです。

これが今回のテーマです。
自由意志実験で、
誰もが勘違いしてたものとは
それでは、始めましょう!

まずは、リベットの実験の説明です。
ベンジャミン・リベットはカリフォルニア大学の生理学者です。
リベットは、人間が自発的に行動を決定してから、実際に動くまでの脳波を厳密に測定しました。
まず、被験者に、好きなタイミングで指を動かしてくださいと言っておきます。
実際に指が動いたタイミングは筋電図によって記録します。
「今、動かそう」って脳で思ったタイミングは、脳波で測定します。
ただ、これだけでは、まだ、不十分です。
ここで測定したのは、客観的に測定できるデータだけです。
でも、「今、動かそう」って決めたのは意識ですよね。
意識が、「今」と思った瞬間って、実は、客観的に測定できません。
だって、他人が頭の中で、何を考えてるかなんか、分からないでしょ。
分かるのは、本人だけです。
だから、意識が「今」と思った瞬間も、自己申告してもらうしかないんです。
それじゃぁ、どうやって、意識が思ったタイミングを正確に測定できるでしょう?

さて、こうやって測定した結果がこれです。

0の位置が、実際に筋肉が動いた時刻です。
そして、その550ミリ秒前から、脳波が立ち上がっています。
さて、問題は、意識が「今」と感じた時刻です。
それは、ここです。

筋肉が動く200ミリ秒前でした。
さて、これ見て、おかしなことに気づきませんか?

まず、全ての始まりは、「今、動かそ」って、意識が決めたことですよね。
そう思ってから、脳から筋肉に指令が言って、指が動くわけです。
ところが、これ、見てください。
意識が「動かそ」って思う、350ミリ秒も前に、脳波が出てるんですよ。

じゃぁ、この最初に出た脳波って何?ってなりますよね。

これ、そのまま解釈したら、この脳波が、「今、動かそうと思え」って指令を出したことになります。
そして、意識は、その指令を受けて、「そうや、今、動かそ!」って思ったってなります。

ええ、どういうこと?
「動こ」って自分で決めたんじゃなくて、誰かに思わされてた?
じゃぁ、そう思わせたのは誰?
神?
宇宙人?
そうなりますよね。

ここは一つ落ち着きましょ。
落ち着いて、科学で納得できる説明を考えましょ。

まず、筋肉を動かしてるのは脳なのは、間違いないです。
つまり、脳の活動が体を動かしているわけです。
そして、今、こうして感じてる意識があるのもまぎれもない事実です。
でも、その意識は、脳の活動の後、「動かそ」って思い浮かんだわけです。
この条件を満たす意識があるとすれば、それは、どんなものでしょう。

考えられるとすれば、それは、自分の体が動くのを観察して、あたかも自分が動かしたと思う意識です。
観察するだけで、体を動かせない意識です。
ただし、本人は、自分が体を動かしてると思ってます。
つまり、自由意志がない意識です。

これがリベットの実験の結論です。
実際、現代の科学者の多くは、人間には自由意志がないと考えています。
さて、本当にそうなんでしょうか?

もしかしたら、この実験、なにか、根本的に勘違いしてるとこはないでしょうか?
たとえば、現実の世界と、意識が見てる世界って、全く同じと思っていいんでしょうか?
もし、それが違うとすれば・・・

今まで、誰も疑問に思ったことのなかったことに目を向ければ、意外な事実が浮かび上がってきました。
そのことを、丁寧に紐解いていきます。

まずは、盲視です。
盲視っていうのは、眼球は問題なくて、脳が損傷して見えなくなった障害です。
盲視には興味深い現象があります。
黒板をレーザーポインターで示して、「光の点がどこにあるかわかりますか?」って質問します。
すると、当然「見えないので分かりません」って答えます。
そこで、「あてずっぽうでもいいので指で指してください」って言います。
そしたら、「ちゃんと正しい位置を指差しできるんです」
「なんでわかったんですか?」って聞いても、「わからない」って言います。
本当にあてずっぽうで指を指してたようなんです。

目からの情報は、後頭部の視覚野に送られると二つの処理経路に分かれます。

一つは、頭頂葉に向かう背側視覚路です。
この経路は、物と位置や動きを分析するので「どこの経路」と呼ばれています。
そして、もう一つは、側頭葉の腹側視覚路です。
こちらは物の色や形を分析するので「何の経路」と呼ばれています。
そして、盲視患者の場合何の経路が損傷しています。
「物が見えない」と思ってるのは意識ですよね。
「何の経路」が損傷すると、見えなくなるわけです。
つまり、意識は、何の経路の先にあるようです。
ただ、「どこの経路」は生きているので、意識が見えないと感じても、指差しできたんです。

さて、僕の提唱する意識の仮想世界仮説では、意識が見るのは脳が作った仮想世界です。
何の経路で物の色や形を分析したあと、その先に仮想世界が作られるんです。
意識が見えないって感じるのは、何の経路が損傷して、仮想世界が作られないからです。

さて、第289回では、固有感覚の話をしました。
固有感覚というのは、関節からのフィードバックのことです。
手首を曲げると関節で回転しますよね。
この時、関節から、今、関節が回転してるってフィードバック信号が脳に送られてるんですよ。
このフィードバックのことを固有感覚っていいます。
それだけかって思われるかもしれませんけど、これ、ものすごく重要なんですよ。
脳の障害で、全身の固有感覚を感じられなくなった女性がいます。
さて、どうなったと思います?
この女性、ベッドから起き上がることができなくなったんです。
起き上がるどころか、指一本、動かすことができなくなりました。
もちろん、骨も筋肉も、どこも異常はありません。
ただ、関節からのフィードバックを受けられなくなっただけです。
それだけで、指一本動かせなくなったんです。

実は、体を動かすって、単に、筋肉に指令を送るだけじゃないんです。
たとえば、手首を動かそうと思ったら、脳は、手首の筋肉に指令を出して動かします。
それと同時に、手首の関節からのフィードバック信号を受け取ります。
フィードバックを受け取ることで、今の指令が、手首を動かす指令で間違いなかったって理解するわけです。

ここで、もし、フィードバックがなかったらどうなるでしょう?
脳は、今出した指令が、手首を動かす指令じゃなかった、間違ったって思うんです。
そうしたら、それ以上、手首を動かす指令を出さなくなりますよね。
結果として、手首を動かそうと思っても、手首が動かないわけです。
これが、固有感覚を感じれなくなった女性に起こったことなんです。

さて、第337回では、アハ体験の解説をしました。
アハ体験って、画像の一部が少しずつ変化しても、そのことに気づかないって現象です。

たとえば、この画像で、案内表示機が少しずつ消えても気づかないんですよ。

さっき説明しましたけど、物を見るというのは、無意識が仮想世界を作りだして、意識がそれを見ることです。
ただ、無意識が気づかないぐらいゆっくり変化したとしたら、それを仮想世界に反映させることができません。
だから、案内表示機が消えたことに、意識も気付かないんです。

でも、もう一回、見直すと、ちゃんと消えていくのが分かります。
これは、なぜでしょう?

それは、注目してるからです。
注目することで、無意識がその変化をとらえて、案内表示機の変化を作り出すんです。

これ、さっきの固有感覚と一緒って、分かりますか?
手首を曲げるって行為は、曲げるって意志だけじゃなくて、曲げた結果のフィードバックを受けて、初めて手首を曲げることができるんでしたよね。

注目して見るって行為も、これと同じなんです。
まず、見るって意志が発生しますよね。
無意識は、それを受け取って、注目してる部分の世界を更新して、更新し終わったら意識に通知します。
意識はその通知を受け取って、注目した部分を見るわけです。
分かりましたか?

注目して見るって言うのは、一方通行の行為じゃないんです。
意識から発生した「見る」って意志と、無意識がそれを受けて、世界を更新して、それを意識に戻すわけです。
この一巡する情報の流れ、それで初めて、意識は「見た」って感じるんです。

はい、ようやく準備が整いました。
以上を踏まえて、リベットの実験を見直します。

まず、被験者は回転してるタイマーを見ています。

皆さんも、今、回転してるタイマーが見えてますよね。
でも、今見えてる光景は、現実じゃなくて仮想世界です。
つまり、本当に回転してるタイマーを見てるわけじゃないんですよ。

どういうことかと言うと、意識が見てる世界って、「何の経路」で分析されて、最終的に仮想世界が作られましたよね。

目からの情報は、最初、後頭部の第一視覚野V1に送られます。
ここでは、縦じまとか横じまとかって単純な形が分析されます。
それが、順に処理されて、例えばTE野だと、顔や手といった複雑な像を分析します。
それからMT野は、滑らかな動きを作り出します。
このMT野が損傷した女性がいます。
その人は、街を歩いてたら、自動車がパっパっパっって、近づいてくるように感じるそうです。
つまりね、僕らが滑らかに動く自動車を感じるのは、脳のMT野で動きを作り出してるからなんです。
元のデータは、1秒に1枚ぐらいしか更新されてないんですよ。
その間の画像を、脳が補完して作り出してるから、滑らかに動いてるように感じるんですよ。
これが、ただ、漫然と、世界を見てるときです。
アハ体験で、案内表示機が消えても気付かない見方がこれです。

リベットの実験に戻ります。
さて、今、意識は、「今、動かそ!」って意志が発生しました。
それがこの位置です。

この時、同時に「タイマーを見よ」って意志も発生しています。
これは、今までの漫然と見てた世界とは違います。
「注目して見る」です。
ここで、無意識のシステムは仮想世界を切り替えるわけです。
どう切り替えるかと言うと、自動で回転させてただけのタイマーから、正確に現実世界を反映させた世界にです。
タイマーの更新が完了したら、それを、意識に通知します。
それを受けて、意識はタイマーを見ます。
この瞬間が、見ようと思った瞬間なんです。

普段「見よう」って思って見ますよね。
これ、一瞬の出来事と思ってるでしょ。
じつは、そうじゃないんです。
これ、誰もが勘違いしてることです。
リベットすら、疑ってません。
でも、そこが間違ってたんです。

いいですか?
「指を動かそ」と「タイマーを見よ!」って思った瞬間がここです。

思ったから、脳波が立ち上がりました。
そこから、無意識は、仮想世界を書き換えて、完了したら意識に通知します。
それがここです。

この瞬間が、「見た」です。
つまり、「指を動かそ」って自由意志は、ちゃんと、ここで発生してたんです。

ただ、その瞬間を意識が感じたのがここだってことだけです。

この体を動かしてるのは、まぎれもなく、意識です。
自由意志で体を動かしてます。
自由意志があるって、無意識に思わされてたわけじゃありません。
思わされていたのは、「見よう」って思った瞬間に世界が「見える」と思うことです。

勘違いしてたのは、「見よう」と思ったら、その瞬間に「見える」と思うとこだったんです。
そこにタイムラグがあるなんて、だれも思ってもみなかったわけです。
そのタイムラグを説明しようとして、無理やり思いついたのが、自由意志がないって説なんです。

そう考えたら、自由意志がないなんて、ちょっと、無茶な話ですよね。
安心してください。
自由意志はちゃんとあります。
よかったですねぇ。

はい、今回の動画が面白かったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、今回の動画で紹介した意識の仮想世界仮説に関しては、よかったら、こちらの本も読んでください。
それでは、次回も、おっ楽しみに!