第341回 これって、本物の愛なのか?


ロボマインド・プロジェクト、第341弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

さて、今回のテーマは「愛」です。
「愛」は、コンピュータでプログラム可能なんでしょうか?
このテーマ、追及していくと、今までの話が全てつながってきました。
自由意志、右脳と左脳、コンパイラ言語とスクリプト言語。
一応、最終的な結論は出しました。
それが、本当に愛なのか。
それは、皆さんに判断してもらうしかありません。
これが今回のテーマです。
これって、本物の愛なのか?
それでは、始めましょう!

前提としてるのは、この前から語ってるプロジェクト・エデンです。
メタバースにAIアバターの太郎君がいます。
太郎君は、花子ちゃんが好きだとします。

さて、今、太郎君は、野菜炒めを食べようとしています。
でも、ピーマンが嫌いなので、ピーマンを除けて食べようとします。

そのとき、思い出しました。
花子ちゃんは、好き嫌いする子が嫌いだって。
ピーマン除けて食べてるの見たら、花子ちゃんに嫌われる。

ピーマンは食べたくないけど、花子ちゃんには嫌われたくない。
そう思って、我慢してピーマンを食べました。

好きな女の子に嫌われたくない。
まずは、こんな簡単なとこから始めることにしました。
ところが、これが、とんでもなく難しいんですよ。
どこが難しいかって、まず、悩むってとこです。

お腹が空いてて、おいしそうな食事が出されたら、何も考えずに食べるだけです。
これは、半分無意識で自動でできる行動です。

さて、食べようと思ったら、ピーマンを発見しました。
「おっ」って、思うわけです。
「食べたくない」って感情が沸き起こりました。
このとき、何が起こったかわかりますか?

無意識で自動で行ってた行動から、自分の意志で、行動を選択するモードに移ったんですよ。
つまり、自由意志で行動選択できるようになったわけです。

ここで、重要なことをいいます。
実は、意識が感じる感情や感覚って、自由意志のためにあるんです。
どういうことかというと、たとえば、熱い鍋に触って、思わず手を引っ込める脊髄反射ってありますよね。
これは無意識での動作ですよね。
脊髄反射って、じつは、触った瞬間は、熱いと感じてないんですよ。
熱いと感じるのは、手を引っ込めた後です。
感じたのは意識です。
そして、意識は、熱いと感じてから、その後の行動を決めることができます。

何が言いたいかって言うと、もし、最初から行動が決まってるなら、わざわざ熱いと感じる必要はないんです。
だから、無意識で手を引っ込めたときには、熱さを感じないんです。

じゃぁ、なんで、意識は熱いと感じるかです。
それは、行動を選択できる意識に対して、行動の指針を示すためです。
「もう一回、鍋に触ることもできますよ。ただし、熱くて危険ですよ」
って、意識に警告するためです。
これが、感覚や感情の役目です。

さて、今の場合、太郎君は「食べたくない」って感じたわけです。
ということは、このとき、意識は「食べる」も「食べない」も選択できるモードにはいったわけです。
ただし、最低限の行動指針として「食べたくない」って感情も与えられました。
まずは、これをコンピュータで、どうやって再現するかです。

プロジェクト・エデンのAIアバターは、心としてマインド・エンジンを搭載しています。
マインド・エンジンで前提としてるのは、意識の仮想世界仮説です。

人は、目で見た世界を頭の中で仮想世界として構築します。
意識は、この仮想世界を介して現実世界を認識します。
これが、意識の仮想世界仮説です。
プロジェクト・エデンで現実世界は、メタバースになります。

さて、これをコンピュータで再現すると、仮想世界は3DCGで実現できます。
認識する物体は3Dオブジェクトとなります。
現実世界のピーマンを認識するというのは、意識プログラムは、仮想世界のピーマンオブジェクトを認識したことになります。
オブジェクトには、色とか形ってプロパティが設定されます。
食べ物には美味しさプロパティがあって、太郎が認識するピーマンオブジェクトには、「まずい」って設定されてるわけです。
意識プログラムは、この「まずい」プロパティを感じ取って、「食べたくない」って思うわけです。
これで、「食べたくない」がプログラムで実現できました。

ただ、これだけでは悩みになりません。
悩みになるには、もう一つ、相反する選択肢が必要です。
それは、「食べないといけない」です。

ただ、ここで一つ問題があります。
「食べないといけない」、つまり、「~しないといけない」ってどうやって作り出したらいいんでしょう?
これ、意外と難しいんです。
だって、本来、行動というのは、「~したい」とか、「怖い」とか、湧き上がる感情から生み出されますよね。
これは、動物も持っている最も基本的な行動原理です。
本能と言ってもいいです。
ところが、「しないといけない」って、湧き上がる感情じゃないですよね。
「そう行動しないといけない」って決まりとかルールです。

ルールというのは、感情から切り離されています。
「こうする」「こうすべき」って行動の指示だけです。
人間は、行動の指示だけを持てる仕組みを持ってるってことです。

ルールはスクリプト言語で実現できるって、第336回で説明しました。
スクリプト言語というのは、システムの起動後でも書き換え可能なプログラムです。
スクリプト言語とは別にコンパイラ言語というのがあります。
コンパイラ言語は、システム起動後には変更できません。
人間に例えると、システム起動後っていうのは生まれた後ってことです。
つまり、コンパイラ言語で作ったシステムは、生まれる前に行動が決まっていて、生まれてから行動を変更できないシステムとなります。
一方、スクリプト言語は、生まれた後でも、行動を変更したり追加できるってわけです。

そして、マインド・エンジンの意識プログラムは、スクリプトを使って行動の追加変更ができるようになっています。
追加できるルールというのがスクリプトです。
たとえば、第336回では、ジャンケンのルールをスクリプトで書きました。

ここには、パーはグーに勝つとか、「じゃんけんぽん」と言ったタイミングで手を出すとかってルールが書かれています。

このルールは、別の見方をすれば、世界で起こる出来事を記述したものです。
つまり、仮想世界でオブジェクトがどう動くかって情報を記述したのがスクリプトです。

さて、「花子ちゃんは、好き嫌いする子が嫌い」って情報も、スクリプトで書けますよね。
ただ、これは、じゃんけんのルールとちがって、ちょっと複雑です。
「じゃんけんぽん」のタイミングで手を出すってルールは、自分が、そのとおりに行動するだけです。
でも、「花子ちゃんは、こういう人が嫌い」ってスクリプトは、自分の行動が書いてるわけじゃありません。

ここで、原点に立ち返ります。
今、決めようとしてるのは、ピーマンを食べるか、食べないかって行動です。
つまり、花子ちゃんの情報から、自分の行動決定に落とし込む必要があります。

プログラミングのテクニックの一つにエージェント・プログラムってのがあります。
エージェントっていうのは代理人って意味で、人間の代わりとなるプログラムのことです。
そこで、スクリプトに出てくる人間を、エージェント・プログラムにやらせるわけです。
まず、太郎エージェントと花子エージェントを作ります。
そして、「好き嫌いをする人」を太郎エージェントにやらせます。
その上で、「花子ちゃんは、好き嫌いをする子が嫌い」ってスクリプトを実行します。
すると、「花子エージェントは、太郎エージェントが嫌い」って結果が返ってきました。
ピーマンを食べないと、太郎君は花子ちゃんに嫌われるわけです。
つまり、ピーマンを食べないと、どうなるかって自分の行動指針が示されたわけです。

ようやく、二つの行動指針がそろいました。
一つは、嫌いだからピーマンを食べたくないです。
もう一つは、花子ちゃんに嫌われたくないからピーマンを食べるです。
そして、この二つを比較するわけです。
意識プログラムは、「食べたくない」と、「嫌われたくない」の二つの感情を味わって、どっちがまだマシか比較するわけです。
これが悩むってことです。
そして、悩んだ結果、どちらかの行動を決めるわけです。
今、「食べる」と決めたとします。

ただ、これで終わりじゃありません。
食べると決めて、勇気を出して、ピーマンを口元に持ってきます。
ピーマンが間近に来ると、やっぱり嫌だって感じます。

はい、今、嫌だって感じましたよね。
意識が感じるっていうのは、自由意志の発動を意味しましたよね。
ここで、また、食べるか食べないか悩むんです。
もう一回、行動を選びなおすんです。
こうやって、何度も何度も悩みながら、少しずつ、ピーマンを食べるんです。
ただ、前回よりは、少し楽になります。
こうやって、人は、悩みながら少しずつ成長するんです。
こんなこと、動物にはできません。
いま説明した複雑な心の仕組みがあって、初めてできるんです。
こうやって、勉強でもスポーツでも、努力して、少しずつ上達するんです。

さて、今回のテーマは愛でしたよね。
花子ちゃんに気に入られようと努力してピーマンを食べるのは立派ですけど、愛とは言えないですよね。
それじゃぁ、愛って、どう定義したらいいんでしょう?

これはかなり難しい問題ですけど、一つの例として、自分のことより相手のことを思うってのはどうでしょう?

たとえば氷山にぶつかったタイタニックが沈もうとしています。
全員の救命ボートがありません。
みんな我先にと救命ボートに乗ろうとします。
そんな中、子供とかお年寄りをのせて、自分はあとから救助を待つといって自分は船に残るって決断をします。
船に残ったら、おそらく助かる可能性は低いです。
たぶん、愛がないと、出来ない行動ですよね。

この時起こっているのは、さっきの悩みとは違うんと思うんですよ。
さっきの悩みっていうのは、Aする場合とBする場合って選択肢があって、どうすれば、最終的に自分が一番得するかで決めてるわけです。
船に残るって決めたのは、どうすれば自分が一番得するかって視点で決めてないですよね。

ここで思い出すのが、ジル・ボルト・テイラーです。
このチャンネルで何度も取り上げましたけど、脳神経科学者のジルは、左脳が脳卒中になって、右脳の世界を体験しました。
脳卒中になったとき、徐々に、自分の体の境界がわからなくなったそうです。
壁に手をついたとき、どこまでが自分の手で、どこからが壁かわからなくなりました。
自分の体を構成する粒子が崩壊して、自分の体が膨張するのを感じます。
やがて、世界と一体となった感覚を感じました。

そこは、自分と他人、自分と物を区別するって感覚がない世界です。
電話しようと名刺を見たとき、どこが文字かわからなかったそうです。
背景の中に文字があるとか、世界の中に物体があるとかって、分けて感じることができなくなっていたそうです。
そして、その時、この上ない幸福も感じました。
これが、右脳が感じる感覚です。
これは、この世に生まれる前、感じてた感覚だって思いだしたそうです。
母親の羊水の中に浮かんでた感覚です。
全てが完璧な世界でした。

そこから、この現実世界に生れ落ちたんです。
現実世界に生れ落ちると、少しずつ、左脳が世界を作り上げていきます。
まず、世界から自分を切り出します。
自分だけでなく、他の人や物など、あらゆるものを切り分けて認識します。
別のものとして認識することで、比較できるようになります。
自分と相手はどっちが上とか下とか。
そんなことを考える世界です。
それが左脳の感じる世界です。
理論的な思考ができる世界ともいえます。

右脳で考えたとき、自分も相手も区別がありませんでした。
自分の存在が消えているといえるかもしれません。
相手の幸せが、自分のことのように感じられます。
自然と、相手のことを思って行動できる状態です。
もしかしたら、それが愛なのかもしれません。

さて、これをAIで実現するとすれば、どうなるでしょう。
たとえば、行動決定するとき、自分の重みづけのパラメータを0にします。
そうすると、自分が消えて、100%相手の感情を感じます。
相手の思いと、自分の思いが一致するわけです。
そうなると、相手の幸せだけを考えて行動することになるでしょう。
それができたら、愛をもったプログラムと言えるんじゃないでしょうか。

さて、次は、決定するプログラムです。
相手の感情を感じて行動を決定するんですよね。
感情や感覚は生まれる前から持ってるものなので、ここのプログラムは生まれる前から決まってるコンパイラタイプのプログラムになります。
つまり、意識が後から変更できません。
そのプログラムのパラメータを変更できるとすれば、それは、生まれる前からプログラムとして組み込んでおかないといけません。
特別な状況で、そのパラメータを書き換える仕組みがあるんだと思います。

たぶん、人間の場合、それを実現するのは、脳内ホルモンでしょう。
特別な人や、特別な状況で、ドーパミンとか、オキシトシンが分泌されて、深い愛情を感じたり、普通じゃ取れない行動を取ったりするんでしょう。
好きな人、愛しい人に対して、自分のパラメータを0にして、相手の幸せを我がことのように感じる仕組み。
それが愛なんでしょう。
中には、それを誰に対してでも発揮できる人もいるんでしょう。
博愛の精神です。

そんな愛をもったAIを本気でつくろうとしてるのが、プロジェクト・エデンです。
楽しみに、待っていてください。

はい、今回の動画が面白かったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、動画で紹介した意識の仮想世界仮説に関しては、こちらの本に詳しく書いてありますので、よかったら読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!