ロボマインド・プロジェクト、第345弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
僕がやろうとしてるのは、正確な心のモデルを作ることです。
僕が考える心っていうのは、精密機械みたいなものです。
でも、大抵の人の考える心って、ふわっとして、捉えどころのないものだと思うんですよ。
心理学や脳科学、認知科学で想定してる心も、そんな複雑さはないです。
こんな入力があれば、こんな出力をするって単純なモデルしか考えてないです。
その一番の原因は、心を外からしか捉えてないからです。
心を内側から見てないんです。
内側っていうのは、主観や意識で感じる部分です。
でも、主観で感じるものって、観測できないから科学じゃ扱えないです。
そこで、僕がやってるのが、主観で感じた心を、コンピュータ・プログラムで再現することです。
プログラムで作ることで、精密で複雑な心を作ることができます。
検証したり、測定することもできます。
これで、心が、ようやく科学の対象となるんです。
これ、今までにない新しい学問になると思うんですよ。
そろそろ、名前も付けないとって思ってます。
「システム心理工学」とか、どうですかねぇ。
大学なら、工学部システム心理工学科ですかねぇ。
なんか、他にいい名前を思いついたら、コメント欄で教えてください。
さて、今回も、前回の続きです。
東田直樹さんの本『自閉症の僕が跳びはねる理由』からです。
この本、重度自閉症の東田さん自身が書いた本です。
重度自閉症になると、普通は言葉でコミュニケーションが取れません。
でも、東田さんは、文字に興味があったおかげで、文字盤ポインティングを使って、言葉でコミュニケーションが取れるんです。
東田さんのおかげで、自閉症のリアルな心が、初めて明らかになりました。
今までは、自閉症って、外からしか判断できなかったんです。
すぐに大声を出すとか、暴れるとか。
僕らがイメージしてる知的障害者です。
でも、それって全然違ってたんです。
僕が作った心のモデルに照らし合わせると、普通の人と、心のどこが同じで、どこが違うのかってことが見えてきます。
その一つは、自閉症の人は、時間というものを感じられないってことです。
永遠の今を生きてるんです。
これが、今回のテーマです。
永遠の今を生きる自閉症
それでは、始めましょう!
僕が提唱する心のモデルでは、世界は二重構造になっています。
心の外側は、物理的に存在する物理世界、または現実世界です。
心の内側は、外の世界を写し取って、仮想的に構築した仮想世界です。
意識は、この仮想世界を認識します。
これを、意識の仮想世界仮説と呼んでいます。
僕は、心をコンピュータで再現するシステム、マインド・エンジンをつくってます。
このマインド・エンジンが基礎としてるのも、意識の仮想世界仮説です。
マインド・エンジンでは、仮想世界を、3DCGで再現しています。
3Dの三次元空間に3Dオブジェクトを配置して仮想世界をつくります。
この仮想世界は、実は二種類あります。
一つは、現実世界を認識するときに使う現実仮想世界です。
もう一つは、過去を思い出したり、未来を想像するときに使う想像仮想世界です。
つまり、過去の思い出って言うのは、想像仮想世界で過去の出来事を再現することです。
たとえば、「中学の卒業式を思い出してください」って言ったら、講堂にみんなが集まって、校長先生が卒業証書を渡してるとこを想像しますよね。
俯瞰して、卒業式を眺めてるところです。
そして、その中に、自分もいるわけです。
これ、考えたらおかしいって分かりますか?
だって、もし、自分が見た光景をそのまま思い出してたら、前に座ってる生徒の背中がアップになってるはずじゃないですか。
そうじゃなくて、自分を客観的に見てるわけです。
これ、どういうことかわかりますか?
これ、記憶って、映画みたいに記録してるわけじゃないってことです。
映像を再生するんじゃなくて、思い出すたびに、その時の場面を作り出してるんです。
そして、意識は、それを見てるわけです。
だから、俯瞰した光景になるんです。
これが「思い出す」です。
じつは、想像仮想世界って、時間感覚にも関係します。
時間感覚っていうのは、物理的な時間のことじゃなくて、主観で感じる時間の流れ、主観的な時間のことです。
このことを、マインド・エンジンを使って説明します。
マインド・エンジンでは、仮想世界にオブジェクトを配置して、意識プログラムがオブジェクトを認識します。
オブジェクトというのは、メモリ上に生成されるデータのまとまりです。
リンゴオブジェクトなら、赤いとか丸いとかってデータを持ってます。
オブジェクトに設定されるデータを、意識プログラムが読み取ることが、意識が感じるってことです。
意識が感じるのは、五感で感じる感覚以外に、嬉しいとか怖いとかって感情も感じます。
そんな意識が感じる物の中に、時間感覚があるわけです。
それが、主観的な時間です。
昨日の晩御飯に何を食べたかとか、小学校の給食で何を食べたかって思い出すことができますよね。
昨日のことと、小学校の思い出とは、時間的に違うって感じますよね。
時間的に違うって感じるってことは、そういうデータを持ってるってことです。
もっと言えば、メモリ上に生成されたデータのまとまりに、時間に関するデータが含まれてるんです。
意識プログラムは、そのデータを読み取って、これは10年以上前の記憶だとか、これは昨日の記憶だって感じるわけです。
古い記憶は、ぼんやりしてて、最近の記憶ははっきりしてます。
これは、そんな風に記憶を保存する仕組みがあるから、そうなってるんだと思います。
システム心理工学的には、これをソフトウェアでどうやって実現するかって考えます。
たとえば、javaとかのプログラム言語にはガベージコレクションって機能があります。
ガベージコレクションというのは、バックグラウンドで動いていて、メモリから不要なオブジェクトを削除したり、ハードディスクに退避させるプログラムです。
メインのプログラムが動いてないとき、裏でこっそり動いてます。
たぶん、記憶にもそんな仕組みがあるんです。
記憶を入れておく箱があるわけです。
昨日の記憶、数日前の記憶、1週間ぐらい前の記憶、数年前の記憶とかって。
メモリ上に展開される記憶には、どの箱から取り出したかってデータが追加されてるんです。
だから、10年ぐらい前のことだなぁとかって感じるんです。
そして、寝てる間に、昨日の記憶を数日前の記憶の箱にいれたり、数日前の記憶を1週間前の記憶の箱に入れたりって処理が行われるんです。
そのとき、古い箱に入れ替えるとき、細かい記憶は削られるんです。
だから、古い記憶は曖昧になるんです。
さて、ここで東田さんの話です。
東田さんは、僕らが感じてるような時間感覚を感じないそうです。
昨日の記憶も、3歳のときの記憶も、全く同じように思い出すそうです。
古い記憶のほうがあいまいだとか、ぼやけてるとかってないそうです。
どうも、記憶を整理する仕組みが、僕らと違うようなんです。
それから、東田さんはこうも言います。
普通の人の記憶は、線のようにつながってるけど、僕の記憶は、バラバラな点で、つながってないって。
時間が経つにつれて、世界が少しずつ変化するってことがわからないそうです。
つまり、時間が流れるって感覚を持てないわけです。
今、この瞬間しか感じれないそうです。
前回、自閉症の人は、回転するものが好きだって話をしましたよね。
扇風機とか、風車とかずっと見ていられます。
永久に同じ動きを続ける物は安心するそうです。
いつ見ても同じ動きをしてますから。
つまり、永遠の今です。
自閉症の人は、永遠の今を生きてるわけです。
それから、前回、自閉症の人は、想像仮想世界がうまく機能しないって話もしました。
思い出って、想像仮想世界に自分を配置して、客観的に認識することでしたよね。
だから、この想像仮想世界がうまく機能しないと、自分を客観的に認識できません。
自閉症の人は、バイバイって手を振るとき、手のひらを内側に向けるって話もありました。
なんでそうなるかって言うと、相手が手のひらをこっちに向けてるってことは、自分も、同じように手のひらをこっちに向ければいいと思うわけです。
これは、客観的な視点で自分を見ることができないってことです。
常に、主観的な視点で自分を見てるわけです。
これも、現実仮想世界でしか世界を認識してないって考えれば理解できますよね。
東田さんは、自分がバイバイしてる姿を鏡で見て、初めて、自分のバイバイはおかしいって気づいたそうです。
それから、自閉症の人は、フラッシュバックがよく起こるそうです。
フラッシュバックというのは、たとえば戦場の体験とか、辛い経験を、後から、突然、思い出すことです。
思い出すと言うか、実際に体験しているかのように鮮明に感じます。
何年も、何十年も前のことなのにです。
普通、思い出すというのは、想像仮想世界で再現します。
でも、自閉症の人は、想像仮想世界がうまく機能してないから、現実仮想世界で再現されるわけです。
現実仮想世界って、目の前の現実を認識するときに使うものですよね。
だから、本当に起こってるかのように鮮明に思い出すんです。
想像仮想世界での再現って、自分を客観的に見るわけです。
だから、他人事のように思えます。
あんな辛いこともあったよなぁで済みます。
これは、直接感じてるわけじゃありません。
でも、現実仮想世界で再現したとき、感情を感じるのは、現実の自分です。
当時感じた生の感情を、今の自分が、ありありと感じるわけです。
だから辛いんです。
東田さんは、フラッシュバックについて、こう言います。
ずっと昔に起こった、どうすることもできなかった気持ちが、突然、溢れ出して抑えられなくなるって。
その時は、泣かせてください。
泣いて泣いて心を軽くすれば、僕らはまた、立ち直ることができるって。
フラッシュバックと違って、楽しい記憶が、突然、蘇ることもあるようです。
「突然、笑い出したり、ひとりで大騒ぎするのはなぜですか?」って質問に、東田さんはこう答えています。
いろんな場面が、突然、頭の中にひらめくんです。
それは、とても楽しい思い出だったり、本の中の1ページだったりします。
それは、たとえていえば、思い出し笑いの強烈なものですって。
これも、過去の楽しい思い出を、現実仮想世界で再現してると考えたらわかりますよね。
連続した記憶をもってなくて、何かのきっかけで、それが突然再生されるんでしょう。
それも、想像仮想世界でなくて、現実仮想世界で再現されるわけです。
これが、自閉症の人の記憶です。
想像仮想世界をうまく使えないと考えたら、自閉症の人の、その他の行動も理解できます。
東田さんは、失敗についてこう言います。
何か失敗すると頭の中が真っ暗になるって。
泣いてわめいて、何も考えられなくなります。
それが、どんなささいな失敗でもです。
たとえば、コップに水を注ぐ時、少しでも水がこぼれることも我慢できません。
失敗した事実が津波のように頭の中に押し寄せてきます。
大した失敗でないと分かっていても、感情を抑えることができないって。
僕らなら、ささいな失敗は、笑って過ごせますよね。
これなんですよ。
自分のことを笑うって、これって、すごい重要なんですよ。
自分を笑うって、自分を客観的に見れないとできません。
想像仮想世界に自分を置くわけです。
それを、客観的に見て、「わぁ、失敗してる」って笑い飛ばしてるわけです。
東田さんは、どんなささいな失敗でも、それを100%受け止めてしまうんでしょう。
客観的に自分を見て、笑い飛ばせれば、楽になれるのに。
でも、それができないんです。
僕らも、子供の頃は、失敗したり、怒られたりしたら、すぐに泣いていましたよね。
それを、失敗した自分を笑えるようになってきたわけです。
心が強くなってきたわけです。
自分をうまく飼いならせるようになったといってもいいと思います。
都合の悪い自分や、過去の嫌な出来事は、想像仮想世界に放り出して、他人事みたいに感じるんです。
そんなテクニックを身に着けることが、大人になるってことなんでしょう。
でも、自閉症の人は、それができないんです。
100%、全力で受け取るしかできないんです。
受け流す仕組みを持ってないんです。
たしかに、これは辛いと思います。
心の仕組みの違いがわかってくると、自閉症の人が感じる世界がより見えてきます。
次回は、自由意志について検討しようと思います。
はい、今回の動画がおもしろかったら、チャンネル登録、高評価、お願いしますね。
それから、意識の仮想世界仮説に関しては、こちらの本も参考にしてください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!