第346回 自由意志を自閉症とサイコパスから考える


ロボマインド・プロジェクト第346弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

このチャンネルで、何度も取り上げてるのが自由意志問題です。
「今日の昼、何食べようかなぁ」って考えて、「そうや、駅前のラーメン屋に行こ」って決めたとします。
これ、自由意志で決めたと思ってますけど、じつは、そうじゃないって言うのが最近の科学、哲学の考えです。
その理由の一つが決定論です。
出来事は、先行する出来事の結果として起こります。
だから、あらゆる出来事は、最初っから決まってるって考えです。
つまり、ビッグバンが爆発したとき、既に、今日の昼、駅前のラーメン屋でラーメンを食べることは決まってたってことです。
さすがに、これはないんじゃないかなぁって思いますよね。
でも、本気でこれを信じてる人がいっぱいいるようなんです。

それから、よく言われるのは意識は観察するだけだって説です。
本当に決定したのは無意識で、意識は、それを観察して、あたかも、自分が決定したと思いこんでるだけだって説です。
典型的なのが受動意識仮説です。

これ、心をプログラムで考えたら、簡単に解決するんですよ。
プログラムって、小さいプログラムをいっぱい作って、それをグループ分けして作ります。
意識プログラムってのは、意識グループに分けられたプログラムの集まりです。
無意識プログラムも、無意識グループに分けられたプログラムの集まりです。

さて、今の場合なら、無意識がラーメン食べよって決めたんですよね。
つまり、無意識グループに入ってるプログラムがラーメンを食べよって決めたわけです。
じゃぁ、このプログラムを、意識グループに入れたら、意識が決めたことになりますよね。
意識は観察するだけって説は、プログラムのグループ分けの問題なんですよ。

さて、今回は、もっと根本的なところから自由意志について考えようと思います。
自分の体を、自分の意志でコントロールできたら自由意志があるわけですよね。
ということは、自分の体を、自分の意志でコントロールできなかったら自由意志がないわけです。
そのことについて考えさせられるのが、第343回から取り上げてるこの本『自閉症の僕が跳びはねる理由』です。

著者の東田直樹さんは、重度自閉症です。
重度自閉症患者は、普通、会話もできませんが、東田さんは、文字盤ポインティングで言葉を使うことができるようになりました。

この本には、自分の意志では、どうにもできない苦悩が書かれています。
それを読むと、自由意志とは何かについて改めて考えさせられました。
そして、自閉症の逆を考えると、サイコパスとなることも見えてきました。
これが今回のテーマです。
自由意志を自閉症とサイコパスから考える
それでは、始めましょう!

僕は、意識を三段階の進化で考えています。
第一段階は、カエルの意識です。
カエルは、反射反応だけで行動しています。
天敵の鳥の影を見たら、恐怖で池に逃げます。
発生した感情に自動的に反応して行動するのがカエルの意識です。
本能のプログラムといってもいいです。
自動的な反応は、自由意志とは言えないですよね。

次は、哺乳類です。
犬は、目の前にエサがあるとすぐに食べます。
でも、しつければ、マテといわれたら待ちますし、ヨシと言われてから食べるようになります。

犬も、エサを食べたいって感情があります。
その感情を受けて、食べようとするわけです。
感情が行動の原動力となっているところは、カエルと同じです。

犬の場合、しつけたら、すぐに食べるって行動を変更できるわけです。
行動を変更してるのが意識です。

これを実現する仕組みを、意識の仮想世界仮説で説明します。
哺乳類は、目で見た現実世界を頭の中に仮想世界として構築します。
意識は、この仮想世界を介して現実世界を認識します。
これが意識の仮想世界仮説です。

仮想世界に配置されるのは、現実世界にあるオブジェクトです。
オブジェクトというのはプログラミング用語で、メモリ上に生成されるデータのまとまりです。
オブジェクトには、色とか形、それから動作のデータが関連付けられてます。
たとえば、餌オブジェクトには、食べるって動作が関連付けられてます。
だから、好きなエサが出てきたら、すぐに飛びついて食べようとします。
これが、マテができるようになるってことは、エサに結びついてる動作を変更できるってことです。
つまり、意識は、自分の意志でオブジェクトに結びついてる行動を変更したってことです。
これは、自由意志が生まれたとも言えますよね。
心のシステムに、自由意志を実現するプログラムが追加されたといってもいいです。

人になると、さらにプログラムが追加されました。
それは、過去を思い出したり、未来を想像したりするときに使う想像仮想世界です。
目の前の現実世界を認識するときに使うのは、現実仮想世界です。
人は、想像仮想世界を持つことで、目の前にないことでも自由に想像できるようになりました。

たとえば、「宿題しなかったら、先生に怒られるだろうなぁ」って思うのは、宿題せずに学校に行って、先生に怒られてるとこを想像してるからです。
怒られるとこを想像することが、宿題するって行動の原動力となるわけです。
こうやって、想像によって感情を生み出すことで、より行動の幅が広がったわけです。
言い換えると、自由意志がさらに広がったと言えますよね。
これが、人レベルの意識です。

こうしてみると、全ての生物に共通するのは、行動の原動力は感情であるって分かります。
感情がいかに重要かってことか、わかりますよね。
そして、感情のコントロールというのが、自由意志に大いに関係がありそうです。

さて、これは、脳の系統発生図です。

これを見たらわかるように、脳って、古い脳の上に新しい脳が追加されて進化してます。
つまり、古いプログラムを残したまま、その上に新しいプログラムを追加してるわけです。
たとえば、恐怖って感情は、偏桃体という古い脳で発生します。

その感情に基づいて体を動かすプログラムがあるわけです。
これが本能のプログラムです。
そして、進化によって徐々にプログラムが追加されて、意志で体をコントロールできるようになったわけです。
でも、人間でも完全に感情をコントロールできてません。

たとえば、高いつり橋とか渡るとき、怖くて足がすくんだりしますよね。
安全だって理性でわかっていたとしても、体が自動的に反応してしまいます。
これは、恐怖と体が、本能のプログラムで結びついてるからです。
本能が消えることはありません。
理性の新たなプログラムが追加されると、本能のプログラムの影響力が弱められるだけです。
お酒とかたばことかギャンブルとか、理性で止めようと思っても止められないのも同じです。
湧き起こる感情と体は、古いプログラムでいつまでも結びついてるんです。

東田さんの本にも、自分で自分の行動をコントロールできない苦悩が書かれてあります。
たとえば「すぐにどっかに言ってしまうのはなぜですか?」って質問に、「目についた場所に飛んでいきたくなる気持ちを抑えきれない」とか、「気が付いたら体が動いてしまう」って答えてあります。
「悪魔が取りついたかのように、自分が自分でなくなる」とも、「今も、その衝動と戦っている」とも答えています。
無意識の衝動で動かされる体と、それを理性で抑えつける意識プログラムがうまく機能していないようです。

それから、東田さんは、幼稚園のころ、何度も家を飛び出してたそうです。
何か目的があって飛び出すわけじゃなくて、何かに誘われるように体が動いてしまうと言います。
それが、あるとき、車にひかれそうになって、その恐怖で、それからは、ひとりで家から出ることはなくなったそうです。
家を出たいって感情を抑えるのも、恐怖って感情だったってことです。
理性で変えられない行動も、感情なら変えられるってことです。
感情が、どれほど強力かってわかりますよね。

逆に言えば、感情を理性で抑えて、理性で自分の体をコントロールできたとき、完全な自由意志を獲得したと言えそうです。
でも、感情を感じず、理性だけで行動することなんか不可能ですよね。
そんな人、いるんでしょうか?

はい、います。
それが、サイコパスです。
サイコパスって、映画『羊たちの沈黙』のレクター博士みたいな猟奇殺人者とか思い浮かべますけど、あれはかなり極端な例です。

サイコパスの特徴は、他人の痛みを感じないことです。
それから、頭がよくて、言葉巧みに人を騙すのも得意です。
おそらく、あらゆる感情を切り離して、理性だけで考えて行動できるんでしょう。
ただし、自分の欲望は持ってます。
だから、殺人が快楽に感じる場合、レクター博士のようになるんでしょう。
そうでない場合は犯罪に走ることなくて、社会的に成功してる人も多くいます。
だって、他人の感情に左右されず、理性で考えた通りに行動できるんですから。
そう考えると、最も進化した心がサイコパスなのでしょうか。
それが正しい進化かどうか分かりません。
ただ、どうしようもない感情のはざまで悩む方が、人間らしいと思いますよね。

さて、最後に、東田さんの本を読んで、多くの人が意外に思った点について語ろうと思います。
この本を読むまでは、重度自閉症患者って、突然暴れたり、大声を出したりして、たぶん、何も感じてないだろうって思ってました。
ところが、そうじゃなかったんです。
本人は、思い通りにならない体のことで悩んでるんです。
頭でわかってるのに、何度言われても同じことをしてしまう自分のことを情けないと思ってるんです。
「何が一番つらいですか?」って聞かれて、こう答えています。
「僕たちが一番辛いのは、自分のせいで悲しんでいる人がいることです。
自分が辛いのは我慢できます。
でも、自分がいることで周りを不幸にしていることに耐えられないんです」って答えています。

こんな風に思ってるなんて、僕も、正直思ってませんでした。
というのも、自閉症の人は、他人の気持ちが理解できないってよく言われます。
だから、ままごととかごっこ遊びが苦手です。
その原因は、前回も話しましたけど、自閉症の人は、想像仮想世界をうまく使えないからです。
想像仮想世界に相手を配置して、相手がどう考えてるかって想像するのが苦手なんです。

でも、東田さんは、周りの人の気持ちを感じてましたよね。
これは、どういうことでしょう。
この話を聞いたとき、第190回~192回で取り上げた支援学校の先生をしてる友達の話を思い出しました。
あるとき、その学校で、クリスマス・キャロルって劇をすることになったそうです。
クリスマス・キャロルには、スクルージっていう意地悪なおじさんが出てきます。
そのスクルージ役に選ばれたのが自閉症の子だったそうです。

そしたら、意外なことに、その子は、本気で、スクルージ役に取り組んだそうです。
授業中に、呼びかけても返事をしなくなったそうです。
「スクルージ」って呼びかけないと返事をしなくなったそうです。
「俺は、今日からスクルージや。元の名前は捨てたんや」って言ってたそうです。

前回、自閉症の子は、想像仮想世界を使えないから、全て、現実仮想世界で感じるって話をしました。
思い出とかも、普通に思い出すんじゃなくて、いきなり、その時の状況がよみがえって、今、目の前で起こってるかのように感じるって。
普通は、想像仮想世界で再現して、それを客観的に眺めるんですけど、自閉症の子は、現実仮想世界で再現されるから、リアルに感じるんです。

ままごとやごっこ遊びは、想像仮想世界を使う遊びです。
でも、スクルージ役の子は、現実仮想世界を使ってたんです。
自分がスクルージになってたんです。

よく、女優には二つのタイプがいるっていいます。
一つは、カメラが回ったら、すぐにその役に切り替えられるタイプ。
もう一つは、撮影中は、プライベートも含めてずっと、その役になりきってしまうタイプ。
役が乗り移って、日常生活でも、性格がまるっきり変わってしまうそうです。
たぶん、このタイプの女優って、現実仮想世界でその役になってるんだと思います。
スクルージ役の子も同じだと思います。

現実仮想世界で再現するのって、想像してるんじゃなくて、まさに、リアルに体験してるわけです。
想像仮想世界で感じる感情が50%なら、現実仮想世界で感じる感情は100%です。
そう考えると、東田さんの言葉が、より深く刺さります。
「自分がいることで、周りを不幸にしてることに耐えられない」って言ってましたよね。
これって、相手の気持ちを、ただ、想像してるんじゃないんですよ。
相手になりきって、相手の悲しみを感じてるんです。
自分みたいな人間がいる家族の立場になって、その悲しみを100%感じてるんです。
そして、その原因は、他でもない自分だってことも理解してるんです。
そう考えたら、東田さんの感じてる悲しみが、どれだけ深いかって思いますよね。
自閉症だからって、他人の感情を理解できないってのは完全な間違いです。

自閉症の人が、普通の人と違うのは、心のプログラムの一部がうまく機能してないからです。
でも、そのプログラムの奥には、僕らと同じように感情を感じる心はあるんです。
いや、常に、100%感情を感じてるので、僕ら以上に深く感じてます。

最も進化した心がサイコパスだって言いました。
相手の感情を感じることはなく、理性的に行動できます。
だから、他人の気持ちに左右されず、無慈悲に、自分に最も有利な行動が取れます。
そのおかげで、社会的に成功してる人も多いです。

自閉症とサイコパス。
心にとって、何が一番大事なんでしょう。
いろんなことを考えさせられます。

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それから、意識の仮想世界仮説に興味があれば、こちらの本を読んでください。
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それでは次回も、おっ楽しみに!