第352回 自閉症を治したら、突然、他人の気持ちが理解できた


ロボマインド・プロジェクト、第352弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

今日は、この本の紹介です。
『ひとの気持ちが聴こえたら -私のアスペルガー治療記-』

第343回~347回まで、自閉症の東田直樹さんの本を紹介しました。
自閉症は、最近はASD(自閉スペクトラム症)と言って、症状が軽いものをアスペルガー症候群、重いものを自閉症と、区別するようです。
今回、紹介する本の著者、ジョン・エルダー・ロビンソンは、正確にはアスペルガー症候群となりますけど、ここでは、自閉症と呼ぶことにします。

自閉症の特徴は、他人の気持ちが分からないことといわれてます。
ジョンもその傾向がありましたけど、長いこと、自分が自閉症だと気づかなかったそうです。
でも、社会的にも大成功しています。
若いころは、音楽関係の仕事をしていました。
なんと、ピンク・フロイドの音響エンジニアとして、一緒にツアーに参加してたそうです。

それから、キッスのトレードマークとなってる火を噴くギターや、ロケットを発射するギターの設計もしたそうです。

その後、自動車のエンジニアとなって、自動車修理会社を経営して、これもかなり成功しています。
また、今はカメラマンとしても活躍してますし、作家としてベストセラーも出しています。
それでも、ずっと、自分はみんなと違うって悩んでたそうです。
なぜ、みんなみたいに友達ができないんだろうって。
それが、40歳のとき、自閉症と診断されました。
それで、すべて納得したそうです。
そうか、自分は自閉症だから、他人の感情が分からないのかって。
でも、それが分かったからと言って何も解決しませんでした。

ところがあるとき、自閉症を治す治療を受けてみないかって誘われたそうです。
なんでも、新しい治療法で、大学が被験者を探したそうです。
それは、TMS治療というものです。
日本語で、経頭蓋磁気刺激というもので、特殊なコイルで脳を刺激します。
ジョンは、悩みましたけど、思い切って受けてみることにしました。

そしたら、初めてTMSを受けた直後から、はっきりと効果が表れたそうです。
突然、他人の気持ちがわかったそうです。
普通の人は、こんな風に感じてるのかって、心底驚いたそうです。
これが今回のテーマです。
自閉症を治したら、突然、他人の気持ちが理解できた。
それでは、始めましょう!

この話、ほんとかなぁと思いましたけど、紛れもないもない事実です。
試しに、TMSで検索してみたら、今では、日本でも普通に行われてる治療法でした。
元々は、うつの治療に使われてたものらしいですけど、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、LD(学習障害)とか、発達障害にも効果があることがわかってきたそうです。

自閉症の人は、よく、特殊な能力があると言いますけど、ジョンもそうでした。
ジョンは、10代のころから音響エンジニアとして活躍していました。
普通の人が聞き分けられない音をはっきりと聞き取ることができたそうです。
巨大なコンサートって、100個ものスピーカーを使うそうです。
それぞれ、低音とか高音とか、役割が違います。
アンプを通してスピーカーを鳴らすんですけど、全てのスピーカーを調和させて鳴らすのって、かなり難しいそうです。
ジョンは、スピーカーが鳴ってる音を、オシロスコープの波形のように見えるそうです。

音がひずむと、その波形がひずんで見えるそうです。
だから、わずかなひずみを感じ取って、アンプの出力を完璧に調整することができたそうです。
音が見えるって、これは、共感覚です。

共感覚というのは、ある感覚が別の感覚として感じ取れる人のことです。
数字や音に色や形を感じたりとかです。
自閉症の人に共感覚が多いというのは、統計上でも明らかになっています。

ジョンのエンジニアとしての才能は、音響だけでなく、自動車でも発揮されます。
エンジン音を聞くと、内部でエンジンが回転してる様子がはっきりと感じそうです。
わずかな音の違いで、どこが調子が悪いかすぐに分かるそうです。
ジョンは、今は、自動車修理会社を経営してますけど、お客さんの車が来たら、音だけで誰が来たか分かるそうです。
駐車場に同じ車種の車が並んでても、全部、誰の車か見分けがつくそうです。
僕らが見たら、全部同じに見えますけど、ジョンには、一つ一つ違って見えるそうです。

でも、自動車は見分けれるのに、ジョンは人の顔を見分けることができないんです。
これを、相貌失認っていいます。
これも、40歳を過ぎてからわかったそうです。
画像合成で、全く同じ服で、顔だけ変えた写真を用意したら、自分の息子を言い当てられなかったそうです。
これには、本人もびっくりしてました。
いままで、服装とかで、何となく見分けてたようなんです。

それから、自閉症の人は、表情から感情を読み取るのが苦手です。
これも、なかなか理解しにくいですけど、簡単な実験で僕らも似たようなことを経験することができます。
たとえば、この絵を見てください。

モナリザが逆さまになってます。
逆さまになってるだけで、特に違和感は感じないですよね。
それじゃぁ、これをゆっくり回転しますよ。

はい、どうです。
表情がおかしいですよね。
これは、モナリザの目と口の上下逆さまにしてるからです。
こうやって見ると、おかしいってすぐに気づきますけど、逆さまになってた時は気付かなかったですよね。
たぶん、自閉症の人は、さっきの逆さまになったモナリザみたいな感覚なんですよ。
表情の違いが読み取れないんですよ。

逆に言えば、僕らは、微妙な、ほんのわずかな違いを読み取ってるんです。
怒ってるのか、喜んでるのかって、ほんの微妙な違いなんですよ。
ほんの1ミリの違いで、全然違う印象を感じるんです。

ジョンは、自動車の微妙な違いや、エンジン音の違いはわかっても、なぜか、人の表情を読み取ることができないんです。
だから、会話するとき、何の話しをしたらいいのか分からなかったそうです。
相手が退屈そうにしてるとか気づかないで、一方的に自分が話したいことだけ話したりすることがよくあったそうです。
それから、皮肉とか、嫌みを言われても、それが分からないそうです。
言葉は、その言葉どおりに捉えることしかできないそうです。
言外の意味を汲み取るなんて、どういうことか、理解できないそうです。
普通の人は、テレパシーでも使ってるのかって思ってたそうです。

それが、TMSの治療を受けて激変したそうです。
治療の前と後で、同じ試験をします。
いろんな表情の顔写真を出されて、その表情を読み取るんですけど、治療前は、さっぱり分からなかったそうです。
写真を一瞬しか見せられないので、そんな一瞬じゃ分からないってイライラしてたそうです。
僕らが、逆さまのモナリザを見て、微笑んでるのか、機嫌が悪いのかわからないのと同じだと思います。

ところが、TMSの治療を受けた後は、全然、違ったそうです。
顔写真をパッと見ただけで、その人の感情が飛び込んできたそうです。

これを見て、一瞬で、おかしいって思うのと同じです。
なんで、今まで、表情が分からなかったんだろうって思ったそうです。

治療のあと、車で家に帰る途中、音楽を聴いてると、突然、涙が出てきたそうです。
これが音楽かって、初めて理解したそうです。
今までは、音楽は、ただ、音を聞き分けてただけでした。
音の波形は見えましたけど、音楽、そのものを聴いてなかったって気づいたそうです。
楽しい曲か、悲しい曲かは、わかってました。
でも、曲から感じる感覚とか、歌い手の感情というものは感じ取れてなかったんです。

それから、何でもないニュースで、涙するようになったそうです。
今までは、ニュースを見て泣く人の気持ちが分からなかったそうです。
地球の裏側で起こったバス事故のニュースで泣いてるおばさんとか見て、知り合いが事故したわけでもないのに、なんで泣くんだろうって思ってたそうです。
それが、ちょっとした、ニュースで、なんて悲しいんだって涙するようになったそうです。
突然、感性が豊かになったんです。

これ、じつは、僕も、経験あるんですよ。
第105回で、全身麻酔の手術中に麻酔から目覚めたって話を語りました。
それは、その後に起こりました。
なぜか、手術の後、急に涙もろくなったんですよ。
当時、まだサラリーマンで、会社の同僚とか後輩が、見舞いに来てくれてました。
そしたら、「こんな、俺のために、わざわざ見舞いに来てくれて」って、泣けてくるんですよ。
そんなこと、今まで絶対なかったです。
それから、同じ頃、仲の良かったいとこの女の子が、白血病になって入院したんですよ。
その子のことを考えたら、「なんで、あんないい子が、そんな病気になるんや」って毎日泣いてました。
なんでか、お腹を切ったら、涙もろくなったんですよ。
ただ、悲しくなるのは他人のことだけで、自分の病気のことで、泣くことはなかったです。
あと何年生きれるかわからないって言われてましたけど、「まぁ、しゃあないかな」って思うぐらいでした。
こんなにすぐに泣いてたら社会に復帰できないなぁて思ってましたけど、半年ほど入院してるあいだに、かなりマシになりました。
でも、明らかに、手術以降で、感性が変わったのは確かです。

ジョンは、他人の感情を感じられるようになって、見たくない事実も見えてきました。
たとえば、友達と思ってた人が、いつも、自分をバカにしてるってことに気づいたそうです。
今までは、皮肉とか、冗談が分かってなかったようなんです。
友達のふりをして話しかけてくれてると思ってたら、バカにされてたってことが分かったそうです。
これは辛いですよねぇ。

それから、ジョンの奥さんは、うつ病でした。
それでも、今までは、うまくやってたそうですけど、ジョンが相手の気持ちを汲み取れるようになると、奥さんのうつの感情を自分も感じるようになったそうです。
そしたら、奥さんの感情に引きずられて、自分もうつになって、朝起きれなくなったり、仕事に行けなくなったそうです。

もちろん、いいこともいっぱいあります。
細かい気づかいや、感謝の気持ちを感じれるようになったことです。
でも、悪いことの方が多いと言ってます。
この世の中は、不安とか、悲しみとか、負の感情で満ちていて、それに引きずられてしまうっていいます。

最後に、ジョンがTMS治療で、ブローカー野を刺激したときの話をしたいと思います。
これも、僕と同じだったんですよ。

ブローカー野は、左の前頭葉にあって、言語を司るところです。
TMSを当てると、小さくバンって感じがするそうです。
すると、一瞬で言葉が消えたそうです。
僕らは、常に何か考えてますよね。
「今日は、何をせなあかん」とか「冷蔵庫に、何が残ってる」とか。
そんな風に、ずっと頭の中でおしゃべりが続いてます。
それが、一切、消えたそうなんです。
消えただけでなくて、しゃべろうと思っても、言葉が浮かんでこないそうなんです。
かといって、見えてる光景は今までと全く同じです。
ドアがあるとか、どうやってドアを開けたらいいかって考えることはできます。
ただ、それを言葉で表現できないんです。

ジョンは、そのときの様子を、犬の感じてる世界もこれと同じだって思ったそうです。
言葉を話せない犬は、こんな風に世界を認識してるだけだって。
あのドアを開けて、向こうに行こうとかって、言葉でなくて映像で考えるんだろうって。
そして、何か気になるものを見つけたら、わんわん吠えるって。
犬の言葉はそれだけだって。

僕と同じだってのは、ここです。
これと同じことを、僕は、第128回の、「僕がまだ、犬語を話したてた頃」で語りました。
僕は、言葉の本質を理解するために、言葉を使わない生活をしたことがあるんですよ。
言葉を使うとしても、当時飼ってた犬と話すときだけです。
それが、犬語です。
目に見える物を、ただ、認識するだけです。
ポテトチップスとか、気になるものを見つけたら、わんわんって吠えてました。
ジョンの話を読んで、犬語を理解できる仲間を見つけたと思ったんですよ。

まぁ、犬語はともかく、TMSとか、脳を直接刺激することで、自閉症が治る時代になってきたみたいです。
今後は、こんな風に、脳を外から刺激したり、脳に電極を埋め込んで治療する方法が増えてくるかもしれません。

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それでは、次回も、おっ楽しみに!