第356回 スピリチュアルズ 「わたし」の謎1 橘玲


ロボマインド・プロジェクト、第356弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

今回は、橘玲のこの本、『スピリチュアルズ -「わたし」の謎』の紹介です。
第348回~351回で橘玲の『バカと無知』を紹介しましたよね。
あれ読んで、橘玲と僕とは目指してるのが同じだなぁて思ったんですよ。
僕は、コンピュータで人間と同じ心、マインド・エンジンを作ろうとしてます。
そのために、コンピュータで実装できるぐらい具体的な心のモデルを解明しようとしてます。
ただ、心って、全体像は、まだ誰も分からないんです。
でも、脳や心の部分部分の機能は分かってきてます。
そんなのを調べながら、僕は、心の全体像を解明しようとしてるんです。

橘玲も、同じようにして心の全体像を解明しようとしてるのが、この本を読むと、よくわかるんですよ。
一番驚いたのは、最終的にできてきた心のモデル、これが、僕の考えてるモデルと驚くほど似てるんですよ。
これが今回のテーマです。
スピリチュアルズ 「わたし」の謎
それでは、始めましょう!

この本でやろうとしてるのは、分かりやすく言えば性格分析です。
パーソナリティ心理学といったものが昔からあります。
外交的とか、情緒不安定とか、心理テストで性格を分類する方法です。
あれを、この本では、最新の脳科学の研究を踏まえて、きれいに整理しなおしたんです。
そしたら、僕の考える心のモデルとほぼ同じ構造になったんです。

たとえば、タイトルになってるスピリチュアルズ。
これは、無意識のことです。
僕は、心を大きく意識と無意識の二つの階層にわけますけど、橘玲も同じです。
それから、橘玲は、意識って、は虫類や魚類はなくて、たぶん、哺乳類からあるだろうって言ってますけど、これも、僕と全く同じ意見です。

さて、無意識は膨大な処理をしていて、意識が受け取るのは、ほんの一部です。
たとえば、五感から脳に送られるデータは、1秒に1100万要素以上あるそうです。
ところが、意識が処理できるのは、最大でも1秒に40要素だそうです。
つまり、無意識が膨大な処理をしてるってことです。
この無意識の処理、気が付かないだけで、かなり意識に影響を与えてるそうです。

それを示す面白い実験があります。
大学に呼ばれた被験者は、エレベータで、両手を荷物でふさがれた人に、
「すみませんけど、ちょっと、このコーヒーを持ってもらえますか」って声をかけられて、コーヒーを手渡されます。
その後、被験者は、研究室で、ある架空の人物の資料を渡されて、その人の印象を尋ねられます。
そしたら、穏やかな暖かい人だと答える人と、怒りっぽい冷淡な人だと答える人にはっきりと二つに分かれたそうです。
その原因は、どこにあったかというと、なんと、エレベータで渡されたコーヒーだったんですよ。
ホットコーヒーを渡された人は、人物の印象を温かい人だって答えて、アイスコーヒーを渡された人は、冷淡だって答えたんです。
冗談みたいな話ですけど、人の印象って、それだけのことで、簡単に変わるんです。
つまり、気付かないところで、無意識が処理をしてるんです。
この本は、こんな実験から、無意識でどんな処理が行われて、それがその人のどんな性格を作り上げてるかを証明していきます。

最初の性格は、外交的と内向的です。
外交的な内向的かわかる簡単な実験があります。
それは、舌の上にレモン汁を数滴たらして、どれだけ唾液が出るかを調べるんです。
あまり唾液が出ない人は外交的、唾液がよく出る人は内向的です。

えっ、そんなことで、性格なんかわかるの?

って、そう思うでしょ。
でも、無意識は、感覚器からの膨大な情報を処理をしてるんですよ。
意識は、そのことに気づかない間に影響受けてるんですよ。
手に持ったコーヒーの温度だけで、相手の印象が変わるんです。

じゃぁ、レモン汁のテストって、何を調べてるか分かりますか?
これ、外部刺激に対する、反応特性を調べてるんですよ。
外向的か内向的かって、外の世界をどう受け止めて、どう反応するかです。
分かりやすく言えば、外の世界を心地よいと考えたら、積極的に外に出ます。
これが外向的です。
外の世界が不快だと考えたら、外に出なくなります。
これが内向的です。
だから、外の世界をどんなふうに感じるかで、その人が外向的か、内向的か分かるんですよ。

レモン汁で調べたのは、同じ刺激に対して敏感か、鈍感かってことです。
敏感ってことは、ちょっとの刺激がストレスなるってことです。
鈍感ってことは、少々の刺激じゃ物足りないって感じることです。
たとえば、敏感な人は、人込みとかパーティーの喧騒がストレスになるわけです。
だから、あまり人が集まるとこに行きたくないわけです。
鈍感な人は、人々の喧騒とか、パーティが刺激で楽しいわけです。
だから、積極的に人が集まるとこに行くわけです。
これが刺激と内向的か外向的かの関係です。

次は、神経伝達物質です。
内向的が外交的かって、ドーパミンと関係することもわかっています。
ドーパミンは快感を生み出す神経伝達物質で、期待よりいい結果が出たとき分泌されます。
外向的な人は、ドーパミンがよく分泌されます。
これって、期待値が低いってことです。
期待値が低いと、ちょっといいことがあっただけで楽しい!ってなるわけです。
パーティで、いろんな人とお話しただけで、ドーパミンが出て、楽しい!ってなるわけです。
逆に、内向的な人は、期待値が高いわけです。
だから、同じ経験しても、それほど楽しいとは思いません。
それより刺激が苦痛になります。
外に出たり、人と会ったら疲れるだけで、楽しくないわってなるんです。
こんな風に、外部刺激に対する反応と、期待値で、内向的か外向的かって性格が決まるんです。
プログラムで考えたら、二つのパラメータがあって、それで内向的か外向的かの性格がきまるわけです。

次は、楽観的か悲観的かです。
この話、僕の心のモデルが、そっくりそのまま証明されるんです。
これは、かなり面白いですよ。

悲観的な性格っていうのは、一言で言えば、鬱傾向にあるってことです。
じゃぁ、鬱ってどういう状態かって言うと、同じことをずっと考えて、そこから抜け出れない状態です。
たとえば、「あんなことしなかったらよかったのに」って、どうしようもない過去のことをずっと考えてしまうとかです。

ここで、僕が考える心のモデルの説明をしておきます。
人は、目で見た世界を頭の中で仮想世界として構築します。
意識は、この仮想世界を介して現実世界を認識します。
これを、意識の仮想世界仮説といいます。
つまり、意識は直接現実世界を見てないんです。

さて、意識が認識する仮想世界は、じつは、もう一つあります。
それは、過去を思い出したり、未来を想像したりするときに使う想像仮想世界です。
想像仮想世界があるから、目の前の現実とは別に、過去や未来の自分を想像できるんです。

「あのとき、あんなことしなかったら」とかって想像するのは、一種のシミュレーションです。
そんなシミュレーションができるのも、想像仮想世界があるからです。

今回、一番驚いたのは、この想像仮想世界、それが脳の中で、ほぼ、特定できたんです。
それは、デフォルトモード・ネットワークといわれる部分です。
デフォルトモード・ネットワークというのは、何も行動してないときに活性化する脳のネットワークです。
その反対は、アテンショナル・ネットワークで、これは外界からの注意喚起で活性化するネットワークです。
たとえば、サッカーとか、スポーツをしてるときに活性化するところです。

デフォルトモード・ネットワークが活性化してる状態というのは、行動せずに、頭の中で、ああでもない、こうでもないってずっと考えてる状態です。
まさに、想像仮想世界を使ってシミュレーションしてる状態です。

そして、頭の中で同じことをぐるぐる考えて、行動できなくなるのが鬱です。
鬱になった人は、堂々巡りの檻の中に閉じ込められてるようだって言います。

この鬱に対して、最近、LSDなどの幻覚剤をつかった治療法が注目されています。
鬱病患者に幻覚剤を使うと、
「はまり込んでた思考パターンから解放された」とか、
「ベールが取れて、世界がはっきり見えるようになった」とか言うそうです。
まさに、鬱から抜け出たんです。

そして、その時の脳を調べると、デフォルトモード・ネットワークが沈静化してることがわかりました。
つまり、鬱とは、デフォルトモード・ネットワークでの思考から抜け出れないことだったんです。

デフォルトモード・ネットワークでは、過去や、未来のこと想像するときに使います。
そこに一貫してあるのは、自分です。
つまり、過去から未来へと一貫してある自分って感覚は、デフォルトモード・ネットワークの中にあるわけです。
それが、幻覚剤を使うことで、デフォルトモード・ネットワークの中にいた自分が、外に抜け出たわけです。

この実験では、さらに衝撃的なことがおこりました。
それは、さらに実験を進めると、なんと、自分って感覚が溶けて消えたっていう人が何人も現れたんです。
これは、どういうことでしょう?

デフォルトモード・ネットワークというのは想像仮想世界のことです。
想像仮想世界は、たとえば3DCGで作ります。
3Dの三次元世界で、自分の過去の出来事がシミュレーションで再現されます。
それを見てるのが意識プログラムです。
「あの時、ああしたらよかった」ってシミュレーションを繰り返して、止まらなくなったのが鬱です。
繰り返せば繰り返すほど、想像仮想世界の中の自分がはっきりしてきます。
そうなると、どんどん抜け出せなくなります。

幻覚剤を使うと、デフォルトモード・ネットワークが沈静化しましたよね。
これは、いってみれば、想像仮想世界の自分がだんだん薄くなっていったわけです。
これが、幻覚剤を使うと、自分が溶けて、消えていくってことなんでしょう。

この話をきいたとき、もう一人、思い出した人がいます。
それは、このチャンネルでも何度も取り上げてるジル・ボルト・テイラーです。
ジルは、左脳が脳卒中になって、右脳の世界を体験しました。
その時、自分の体の境界が消えていくのを感じたって言ってます。
体が消えて、やがて世界と一体化したって。
このとき、頭の中のおしゃべりがぱったり止んだとも言ってます。
さらに、そこには時間の流れが存在しないとも言ってます。
あるのは、今、この瞬間だけだって言ってます。
そして、そのとき、この上ない幸福感を感じたそうです。

これ、今までの話と完全に一致しますよね。
ジルが経験したのも、想像仮想世界の消失です。
だから、自分が溶けて消えるって感じたんでしょう。

脳卒中が起こったのが左脳だったので、ジルは、左脳と右脳で説明してましたけど、正確には、脳卒中で止まったのはデフォルトモード・ネットワークじゃないかと思います。

そして、頭の中のおしゃべりが止まったともいってますよね。
頭の中のおしゃべりって、想像仮想世界で行うシミュレーションです。
脳卒中で、デフォルトモード・ネットワークが停止して、それが止まったんでしょう。

さらに、時間の流れも消えたって言ってましたよね。
過去を思い出したり、未来を想像したりできるのは、想像仮想世界があるからです。
想像仮想世界があるから、時間の感覚も生まれるわけです。
それが、脳卒中で消えたわけです。
そしたら、感じるのは今だけになりますよね。

今って瞬間は、もう一つの仮想世界、現実仮想世界にあります。
現実仮想世界とは、感覚器が捉えた今の世界をリアルタイムで再現したものです。
つまり、現実仮想世界には、まさに、今しかないわけです。

さて、ここで注目してほしいのは、自分が消えたと言っても、意識は消えてないわけです。
だって、意識を失ったら、何も感じないですし、覚えてもないはずですから。
でも、その意識はちゃんとあるんです。
ということは、意識と自分とは厳密には分けるべきなんです。
自分とか自我というのは、想像仮想世界にある自分の3Dオブジェクトです。
意識というのは、それを見てる意識プログラムのことです。

つまり、自分と言った場合、この意識してる自分と、想像仮想世界の自分の両方を指してるんです。
でも、普段、それを使い分けることはありません。
たとえば、友達と、「今日の昼、何食べよ」ってしゃべってて、「昨日の昼はカレー食べたなぁ」って思い出したりするでしょ。
その時、「何食べよ」って思ってる自分と、「カレー食べてる昨日の自分」とは別なんですよ。
本当は、二種類の自分があるんですけど、つい、どちらも同じ自分だって思ってしまいますよね。

今、こうして感じてるのが意識です。
カレー食べてた昨日の自分は、想像仮想世界の中の自分です。
生まれてから今まで、ずっと存在してる自分は、想像仮想世界の中にいるわけです。

いいですか?
重要なことを言いますよ。

生まれてからずっと続いてる自分がいますよね。
じつは、それは幻想です。
本来、そんな自分は存在しないんです。
だから、幻覚剤や脳卒中で簡単に消えてしまうんです。
そして、本当の自分っていうのは、今、この瞬間にあるこの意識、こっちです。
消えることのない自分、それは、この、今、この瞬間、今の世界を感じてる意識です。
こっちが本物です。
これを勘違いしたらだめですよ。

幻想の自分にとらわれて、現実から切り離されてるのが鬱です。
そこには幸せはありません。

ジルは、脳卒中になって、自分が消えて、この上ない幸福感を感じたといいます。
幻覚剤で鬱から抜け出た人もこう言ってます。
「急に世界がくっきり見えるようになったんです。世界が輝いて見えました。植物を見て、きれいだと感じたんです」って。

これが、想像仮想世界から抜け出て、現実を見たときの感想です。
この話を聞いたとき、もう一人、思い出した人がいます。
それは、第343回~347回で紹介した自閉症の東田さんです。
僕の考えでは、自閉症は、想像仮想世界が機能してない障害です。
東田さんは、こう語ってました。
「普通の人は、なんで、世界がこんなに美しいってことに気づかないんだ」って。

いろいろ考えさせられますよね。
この続きは、次回にしたいと思います。
それから、ただいま、絶賛、クラウドファンディング中です。
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それでは、次回も、おっ楽しみに!