第357回 スピリチュアルズ 「わたし」の謎2 〜空気を読むAI


ロボマインド・プロジェクト、第357弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

会話AIのChatGPT、よくできてますよね。
ちょっと前に流行ったAIスピーカーとは全然違います。
AIスピーカーは、こう質問されたらこう答えるってシナリオが用意されてるだけでした。
でも、人が話す会話なんて、無限にあります。
あらゆるシナリオを用意するなんか不可能です。

それが、ChatGPTは、単語単位でその場で文を生成するので、どんな質問をしても、それらしい回答ができるわけです。
しかも、何千億個ってパラメータを内部に持ってるそうです。
ただ、単語の意味を理解してるわけじゃないです。
単語の次に出てくる単語を予測してるだけです。

これは明らかに人の心とはちがいますよね。
人は単語の意味を理解してますし、何千億個ものパラメータなんか持ってないです。
性格の違いを決めるパラメータはあると思いますけど、たぶん10個ぐらいです。

前回、第356回から紹介してるのが、橘玲の本、『スピリチュアルズ「わたし」の謎』です。

この本では、人の性格を8個に分類してます。
そして、その性格を決めるパラメータをいくつか特定しています。

たとえば、内向的、外交的の性格は、刺激に対する反応と、ドーパミンの出やすさで決まるって話をしました。
意外な実験で、内向的か外向的かがわかるんですよ。
舌にレモン汁を垂らして唾液がよく出る人は内向的、唾液があまり出ない人は外向的なんです。
なんでこうなるかっていうと、内向的な人は、パーティとか人込みとか刺激がストレスになります。
刺激に敏感に反応するわけです。
外向的な人は、刺激に鈍感です。
だから、外部刺激に対する反応特性を調べたら内向的か外向的かわかるんです。
外部刺激の一つがレモン汁ってことです。
この刺激に対する反応特性が、内向的か外向的かのパラメータになるわけです。

もう一つのパラメータは、脳内物質ドーパミンの出やすさです。
ちょっといいことが起こっただけでドーパミンが出て楽しいって興奮する人が外向的で、あまりドーパミンが出ない人は内向的となります。
こんな風に、内向的か外向的かって、二つのパラメータで決めることができるんです。

こんなこと、本人もわかってないです。
ただ、何となく人に会うのが苦手やなぁとか、人に会うと楽しいって感じてるだけです。
そんなふわっとした感覚が、たった二つのパラメータで決まるんです。
AIに人格を持たせようと思ったら、こういったパラメータから設計しないといけないんです。

さて、今回は、どんな性格について分析するかというと、協調性です。
人とうまくやっていくには、協調性が必要ですよね。
別の言い方をすれば、空気を読むとか、同調するとかです。
こんなの、AIで実現できるのでしょうか?
これが今回のテーマです。
空気を読むAIの作り方
それでは、始めましょう!

昔から、パーソナル心理学っていう性格分析があります。
そこではビッグファイブといって、性格を決める主要な因子は五つあるっていいます。
開放性、誠実性、外向性、協調性、神経症傾向の五つです。
橘玲も、これをベースにしています。
ただ、ビッグファイブは、あまり科学的根拠はないとして、新たに組み替えてます。
たとえば、ビッグファイブには協調性ってあります。
でも、ビッグファイブの協調性は、共感性と同調性が混ざってるって批判します。
共感と同調とは分けるべきだってのが橘玲の主張です。

たとえば、同調性は、みんなに合わせることです。
共感性は、人情にあついとかです。
これ、必ずしも、同じじゃないんですよ。
たとえば、同調性は高いけど、共感力が低い人なんて、会社によくいます。
会議で、「私も社長と同じ意見です」っていうオッサンは、同調してますけど、たぶん、社長に共感してるわけじゃないですよね。

その反対の同調性は低いけど、共感力の高い人です。
橘玲は、フリーランスで活躍する女性に多いって言います。
「今まで、ほんと、苦労されたんですねぇ」ともらい泣きしながらインタビューするライターとか、共感力が高いです。
でも、その人が、会議では、バンバン反対意見を言ったりすることってよくありますよね。
つまり、同調性が低いわけです。
こんな風に、共感性と同調性は別なんです。
今回は、協調性の中でも同調性について解明していきます。

アッシュの同調実験っていう面白い実験があります。
被験者は、部屋に呼ばれると、すでに、6人がテーブルについてて、空いてる席に座ります。
そこに、この2枚の紙が渡されます。

そして、「右の3本の線から、左の基準線と同じ長さの線を選んでください」って言われます。
簡単な問題ですよね。
正解はCです。
これは、99%以上の正答率になります。

問題は次です。
今度は、6人と一緒に同じ問題を解きます。
このとき、自分以外の6人全員が、Aを選んだとします。
さて、この時、被験者は、正しい線を選ぶかって実験です。

この実験、50人の被験者のうち、なんと37人、75%もの人が6人の圧力に押されてAを選んだんです。
これが同調圧力です。

まぁ、気持ちは分からないでもないです。
正解はCと思いますけど、他の人、全員がAって言うから、
「あれ、もしかして、自分がまちがったのかな?」って思ったんでしょう。
「おっと、もうちょっとで恥をかくところだった」って、何食わぬ顔で、Aって答えたんです。
まぁ、さしずめ、そんなところです。
この実験が報告されたのは1951年の当時は、みんな、そう思ってました。

ところが、そんな単純な話じゃなかったんですよ。
面白くなってくるのはこっからです。

2005年、神経科学者のグレゴリー・バーンズは、この実験を、fMRIで測定しながら行いました。
間違った答えを出すとき、脳の中のどの部位が活性化するか調べましたんです。
そしたら意外なことがわかったんです。

被験者は、周りの人の答えを見て、自分の答えを決定したわけです。
意思決定をするのは、前頭皮質なので、前頭皮質が活性化すると思いますよね。
ところが、そうじゃなかったんです。
活性化したのは、視空間認知にかかわる部分だったんです。

これ、どういうことか分かりますか?
前頭皮質が変化しなかったってことは、意思決定で悩んでないってことです。
つまり、間違ってると知りながら、仲間外れになるのを恐れてみんなと同じ答えを選んだんじゃないんですよ。
そうじゃなくて、同調圧力によって「見え方」が変わったんです。
つまり、本当に、線の長さが同じに見えたんですよ。
だから、視空間認知に関わる部分が活性化したんです。
そんなことってあるの?って思いますよね。

これを理解するために、物を見るとはどういうことかってことから考えないといけません。
まず、こうやって世界を見て、感じてるのは意識ですよね。
意識が見てる世界は、無意識が作りだした仮想世界だってのが僕が提唱する意識の仮想世界仮説です。
つまり、僕らは、現実世界を直接見てるんじゃなくて、無意識が作りだした仮想世界を見てるんですよ。
これは、簡単な実験で証明することができます。
それは盲点の実験です。

この図を右目をつむって左目の前に黒丸が来るようにして、顔を前後に移動させてください。
すると、あるところで十字が消えます。
そこが盲点です。

盲点って言うのは、眼球の視神経が集まってるとこで、唯一、視細胞が存在しないところです。
だから、この一点だけ、見えないんです。

さっき言いましたけど、無意識が仮想世界を作って、意識はそれを見てます。
無意識が仮想世界を作るとき、盲点のある一点は見えないわけです。
でも、見えないからと言って、穴の開いた世界を作るわけにはいかないですよね。
だって、そんな世界みたら、意識がびっくりしてしまいます。

「何じゃこりゃ、世界に穴が空いてる!」って。
そんな世界、今まで見たことないでしょ。
なんでかって言うと、そうならないように、無意識さんが全部、整えてるからです。
それが無意識さんの役目です。

つまりね、無意識っていうのは、意識に矛盾のない世界を提供するのが目的です。
意識さんには、もっと大事な仕事があるわけです。
人と話したり、YouTube見たりするのが意識さんの仕事です。
そんな大事な仕事に集中できるように、意識さんに余計な負担をかけないようにするのが無意識さんの役目です。

だから、盲点が見えないからと言って、そのまま、穴の開いた世界を作るわけにはいかないんですよ。
おそらくこうだろうって自分で判断して完璧な世界を作るんです。

盲点の場合なら、周りが全部白いから、おそらく、この見えないとこも白に違いないって思うわけです。
そう思って白で塗りつぶしたんです。
だから、結果として、十字が消えたんです。

まぁ、盲点みたいな一点だけなら、これで、無意識さんも悩むことはないです。
それじゃぁ、もし、一点じゃなくて、もっと大きな部分が見えなかったらどうでしょう?
それを試した実験もあります。
今まで何度も紹介したラマチャンドラン博士の『脳の中の幽霊』に書かれています。

そこには、網膜の一部が損傷して、大きな盲点を持つ被験者が出てきます。
盲点でなくて、暗点というそうです。
その人に、小さいxが縦に並んでて、真ん中だけ、xが3つ抜けてる図を見せます。

x
x
x

x
x
x

そして、暗点の部分が、ちょうど真ん中になるように見てもらうんです。
すると、どう見えたと思います?
なんと、真ん中に、抜けてるxが見えたそうです。
つまり、無意識さんが、「暗点で見えないけど、ここにはxが詰まってるんだろうなぁ」ってxを書き込んだんです。
そんな世界を作って意識に見せたわけです。

次は、xでなくて数字です。
小さい数字を縦に並べます。
上に123、間をあけて、下に789と6個の数字です。
1
2
3

7
8
9

暗点が間にくるように見てもらいます。

「数字が何個見えますか?」って聞くと、9個って答えます。
「それじゃぁ、上から数字を読んでください」って言うと、「123と789は読めますけど、間の3つの数字が読めません」って言います。
「読めないけど、数字ってことだけは分かる」って、意味の分からないこと言うんです。

上下に数字があるから、その間にも数字があるにちがいないって、無意識さんは思ったんでしょう。
でも、実際の数字は見えないから、数字らしきものだけ作って3つ、置いといたんでしょう。

そんなことあるのって思いますけど、じつは、僕も、同じようなものを見たことがあるんです。
この話は、第32回「クオリアってなんだ」シリーズの第3回でしました。

机にこうやって顔を伏せて昼寝してて、ぼんやり目が覚めたときです。
寝てるとも起きてるともつかないと状態です。
顔を伏せてる目の前にお札が見えたんです。
目をつむってたので、実際に見たんじゃなくて、変性意識状態でみた明晰夢だったんでしょう。
何円札かなぁって見ようとしたら、数字ってのは分かるんですけど、1とか5とかって数字は分からなかったんです。
どうも、これは、無意識が作りだした数字みたいでした。
意識が見たり感じたりするものをクオリアっていいますけど、あれは、数字のクオリアやったと思います。

暗点の中に3つの数字が見えたのも、無意識が作りだした数字のクオリアやったんです。

さて、同調圧力の実験の話に戻ります。
6人がAを選んだわけです。
無意識さんは、「あれ? 正解はCじゃないの?」って、一瞬思いました。
でも、無意識さんの役目は、完璧な世界を作ることです。
意識さんに、余計なことを考えさせないために、自分でわかることは自分でやっちゃいます。

自分以外の6人全員がAと基準線が同じといってるんだから、たぶんAが正解なんだろう。
最近、ちょっと疲れてるから、Cと基準線が同じに見えただけだろう。
Aと同じ長さになるように、基準線の長さをちょっと短くしておこう。
たぶん、こんなとこです。

だから、これを見た意識さんは、何も悩むことなく、Aを選ぶんです。
だから、意思決定する前頭皮質は活性化しないんです。

これが、同調圧力の実験で起こってたことです。
そうはいっても、何となく釈然としないですよね。
見えないxを埋めるのは、分かります。
でも、今回はちゃんと見えてるわけですし、見えてるものの長さを変えるって、そんなこと、本当にあるの?って思いますよね。

でも、これも世界とは何かって考えたら分かります。
xの棒は、個人で完結する世界です。
でも、人は社会的生物です。
個人で見る世界があるのと同じで、社会全体で見る世界があるわけです。

個人で見る世界が、矛盾がないように作り上げるのが無意識の役目です。
それと同じように、社会で見る世界も、矛盾のない世界を創り上げないといけません。
自分だけ、ほかの人には見えないものが見えるなんて、あってはならないわけです。
だから、自分以外全員が、基準線とAが同じ長さに見えるっていうなら、無意識さんは、Aが同じ長さになるように基準線の長さを調整するんです。

このことを検証した実験もあります。
一人でも、Cが正解って言う人がいると、被験者は、Cって答えるようになるんです。
わかりましたか?
これが同調圧力なんです。

同調圧力って、無意識が世界をゆがめてることなんです。
僕らは、ありのままの世界を見てないんですよ。

世界って、ゆがめられてるんです。
今、こうして見てる瞬間も、盲点が無意識によって消されてるんです。
でも、そんなこと、誰も気づいてないでしょ。

しかも、この世界は、自分の目が見て作り上げてるだけじゃないんですよ。
自分以外の人が見たことで、自分が見る世界がゆがめられるんです。
そして、一番の問題は、そのことに、意識は気付いてないってことです。

つまり、同調圧力に屈して、間違ったことを言ってるんじゃないんですよ。
本人は、本当に、そんな世界を見てるんです。
同調圧力が恐ろしいのは、ここなんですよ。
気付かないうちに、ほかの人の意見と同じ意見になるように、世界がゆがめられてるんです。

じゃぁ、そのこと気づくことはできないんでしょうか?
出来ないことはないです。

それは、疑ってみることです。
暗点で存在しない数字が見えた実験がありましたよね。
でも、その数字が何かを聞かれたら、意識は分からなかったですよね。
たぶん、そう聞かれなかったら、その人は、何も違和感を感じなかったと思うんですよ。
ただ、数字が九つ縦に並んでるだけだって思っただけだと思うんですよ。
でも、改めて、その数字を見たら、おかしいって気付きました。
ありもしない数字をみてたことに気付きました。

同調圧力の実験も同じです。
一人でも、違う答えを言う人がいたら、間違わないんです。
これを、常に意識するんです。
もしかしたら、自分以外の全員が間違ってるかもしれないんですよ。
当たり前と思ってるものほど、疑ってみて下さい。
それが、真実の世界を見る唯一の方法です。

はい、今回の動画はここまでです。
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それでは、次回も、おっ楽しみに!