ロボマインド・プロジェクト、第363弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
今回は、以前に取り上げたヘレン・ケラーについて、再考しようと思います。
ヘレン・ケラーとChatGPTを比較したら、いろんなことが見えてきました。
どちらも、眼も見えませんし、耳も聞こえません。
そして、どちらも、その状況で言葉を覚えます。
たぶん、最初は、ChatGPTも、ヘレン・ケラーも、同じだと思うんですよ。
でも、ある瞬間、ヘレン・ケラーは、言葉の本当の意味を獲得したんです。
それが、あの有名なシーンです。
映画や舞台で有名な『奇跡の人』の井戸のシーンです。
井戸の水に触れて、水の意味を理解したときです。
あの時、ヘレン・ケラーは何を獲得したのか。
ChatGPTは、ヘレン・ケラーと同じ意味を理解してるのか。
これが今回のテーマです。
ヘレン・ケラー v.s. ChatGPT
言葉の意味を理解してるのはどっちだ!
それでは、始めましょう!
ヘレンは、目も見えず、耳も聞こえないので、ご両親も、どうしつけていいかわからなくて、わがままに育っていました。
そこに呼ばれたのが家庭教師のアニー・サリヴァンです。
サリヴァン先生は、ヘレンに言葉を教えました。
たとえば、左手に人形を渡すと、右手の手に平にさっとドールって書きます。
こうやって、単語を教えようとしたんです。
左手にカップを渡すと、手のひらにカップって書きます。
頭のいいヘレンは、すぐにこのゲームを覚えました。
自分でも、ドール、カップって、指で綴れるようになりました。
でも、これって、言葉の意味を理解してるっていえますかねぇ?
これに触ったら、こう指を動かすって覚えてるだけです。
これ、ある意味、ChatGPTと同じです。
ChatGPTは、入力された単語に続く単語を予測して出力します。
その予測精度はかなり高いです。
質問したら、ちゃんと答えてくれます。
だから、一見、会話してるように錯覚します。
でも、実際は、入力に対して、正しい出力ができるようになっただけです。
ヘレン・ケラーとChatGPTも、言葉の本当の意味を理解してるわけじゃないんです。
サリヴァン先生も、そのことに気づいていました。
そこで、サリヴァン先生は、カップの中に水をいれて、中に入ってるのが水、入れてる容器がカップって分からせようとしました。
でも、ヘレンには、どうしてもその違いが分かりません。
同じものを触ってるのに、なぜ、カップになったり、水になったりするのか意味が分からないわけです。
わがままに育てられていたヘレンは、思い通りにならないと、すぐに癇癪を起していました。
カップと水の違いがわからなくて、癇癪を起したヘレンは、手に持っていた人形を床にたたきつけました。
すると、大きな音がして、人形がバラバラに砕けるのを感じました。
バラバラになった人形は、サリヴァン先生がほうきで掃いて、部屋の隅に片づけました。
人形が片づけられるのを感じながら、イライラの原因が取り除かれて、せいせいしたと、後にヘレンは語ってます。
その後、サリヴァン先生は外に行く準備を始めました。
帽子を取り出す音をきいて、ヘレンは喜びました。
散歩に行く準備をしてるってわかったからです。
さっきまで怒っていたのに、散歩に行くことがわかったとたん、もう、喜んでます。
まるで、動物みたいです。
そうして、二人で外に散歩に出かけました。
そして、運命の井戸に辿り着きました。
サリヴァン先生が井戸の水を出して、ヘレンの左の手のひらに流します。
そして、右の手のひらに素早く、ウォーターって綴ります。
それを繰り返してたら、ヘレンの様子が変わりました。
今まで、楽しそうにしてたのが、急に、真顔になって、じっと動かなくなりました。
何か、大事なことに気づいたようです。
今、左の手のひらを、さらさら流れているもの。
それは、今朝、カップの中に手を入れたとき感じたものと同じです。
でも、状況が違います。
でも、どちらも同じウォーターだって、サリヴァン先生は言ってます。
「どういうこと?」
このとき、ヘレンは大事なことに気づきました。
今までやってたゲームは、左手で何かに触れると、それに対応する指の動きをするってゲームでした。
重要なのは、正しい指の動きをするってことだと思ってました。
でも、そうじゃないって、気づいたんです。
左手に水を感じました。
これは、水ってものを頭の中で認識したってことです。
ここが重要なんです。
すぐに右手を動かすんじゃなくて、頭の中に留めたんです。
頭の中に留めたものに気づいたとき、ヘレンは、動かなくなったんです。
今までと、全く違うってことに気づいたんです。
今までと何が違うかわかりましたか?
さっきは、左手から右手に情報を変換しただけです。
何かを感じたら、行動するってのが、今までのヘレンでした。
嫌なことが起こると、すぐに癇癪を起すとか。
楽しいことが起こると、喜ぶとか。
まるで動物です。
これと同じです。
左手に感じたら右手を動かす。
それだけの単純なシステムです。
これは、ChatGPTも同じです。
入力があるとそれに応じた出力をするだけです。
これを第一のシステムと呼ぶことにしましょう。
でも、今は違います。
左手に感じたものを、頭の中に留めたんです。
頭の中に留めるって、物が存在するってことを理解できたってことです。
じゃぁ、物が存在するって、どうやったら理解できるか分かりますか?
それには、存在する側と、認識する側が必要です。
コンピュータで実現するなら、存在する側はデータです。
認識する側は、そのデータを受け取るプログラムです。
存在する側のデータというのは、たとえば、3DCGの3Dオブジェクトで作ります。
認識する側のプログラムというのは、3Dオブジェクトをパラメータとして受け取って、オブジェクトのデータを取り出すプログラムです。
たとえば、リンゴを認識することをコンピュータで再現するとしましょう。
まず、3Dモデルのリンゴを生成します。
そして、その3Dモデルを受け取るプログラムを作るわけです。
そのプログラムは、3Dモデルのデータを取り出せるので、「リンゴは赤い」とか「リンゴは丸い」って認識することができるわけです。
これが、リンゴの意味を理解するということです。
そして、認識するプログラムがあるわけです。
このプログラムが何かわかりますか?
それは、意識です。
分かってきましたか?
ものを認識するとは、まず、頭の中に、その物を作り出すわけです。
そして、作り出したものを認識する意識があるわけです。
これだけの仕組みがあって、初めて、頭の中に作り出したものに名前を付けることができるんです。
これだけの仕組みがあって、はじめて、言葉を扱えるんです。
あの時、ヘレンの頭の中で、この新しいシステムが動き出したんです。
これを第二のシステムと呼ぶことにします。
話は、これで終わりません。
本当の奇跡は、その10分後に起こりました。
全ての物には名前があると知ったヘレンは、興奮して、その足で家に戻りました。
家に戻って、自分の部屋に入った時、足に何かを感じました。
それは、人形の破片でした。
今朝、癇癪を起こして、床にたたきつけた人形の破片です。
急いで、部屋の隅に行くと、そこには、サリヴァン先生が片づけた壊れた人形がありました。
その人形は、サリヴァン先生にもらった大切な人形だということを思い出しました。
その大切な人形を壊したのは、他でもありません、ヘレン自身です。
そのことを思い出したんです。
ヘレンは、その大事な人形を抱きしめると、自然と、涙があふれてきました。
「なんてことをしてしまったんだ」って。
大好きなサリヴァン先生にもらった大切な人形です。
それを、イライラしたからって、床にたたきつけて壊してしまったんです。
ヘレンは、生まれて初めて、後悔というものを感じました。
さて、ここです。
今、何が起こったかわかりましたか?
今朝までのヘレンは、動物のようでした。
すぐに怒ったり、喜んだり。
一瞬、一瞬のその場の刺激に反応してただけです。
それが、今は、自分の犯した過ちを悔いているわけです。
いってみれば、動物から人間になったんです。
じゃぁ、一体、何が変わったんでしょう?
まず、世界には物が存在するって形で世界を認識できるようになったんですよね。
その物の一つが人形です。
その人形が、今は、壊れてるんです。
それを理解したんです。
壊れる前も、壊れた後も同じ人形です。
ヘレンが、何を理解したかわかりますか?
物は変化するってことです。
物が変化するってことを理解するには、もう一つ、重要な概念を理解できないといけません。
それが何か分かりますか?
それは、時間です。
時間って概念を理解できるから、物が変化するって理解できるんです。
物の変化を認識したとき、同時に感じてるのが時間の流れなんです。
まだ、続きますよ。
時間を理解できるようになると、もう一つ、重要な概念も理解できるようになります。
それは、原因と結果です。
原因があって、物が変化します。
変化した後が結果です。
原因と結果。
その間に流れるのが時間です。
さて、今、人形が壊れています。
じゃぁ、その原因は、何でしょう。
それは、自分が床にたたきつけたことです。
はい、ここで、一番重要な概念が出てきました。
それは、自分です。
ヘレンは、世界には、物があるって理解できるようになりましたよね。
これは、言い換えれば、世界からものを切り出して、別々に分けて認識するようになったわけです。
そして、それは物だけじゃなくて、人もです。
サリヴァン先生や、お父さんやお母さんです。
そして、最後に認識するのが、自分です。
自分は最後なんです。
最初じゃないですよ。
なんでか分かりますか?
だって、自分って見えないでしょ。
僕らは、今、こうやって部屋を見てますよね。
この感じ方は、動物も持ってます。
今、この瞬間を感じてる自分です。
これが第一のシステムの自分です。
それとは別に、今、自分はこの部屋の中にいるって考えることができますよね。
これができるのは、世界には物や人がいるって形で世界を捉えることができるからです。
これができるのが第二のシステムです。
第二のシステムは、頭の中に世界を構築しました。
その世界には、自分もいるわけです。
これが、第二のシステムの自分です。
さて、世界の中に自分がいるって理解できました。
その自分は、生まれてから今まで、ずっと続いてますよね。
どこで生まれて、どこの幼稚園に行ってって思い出すことができます。
未来の自分も想像できます。
過去から、未来へとずっと続く自分を想像できます。
そんなことを想像できるのは、第二のシステムがあるからです。
第一のシステムの自分は、今、この瞬間しか感じられません。
第二のシステムの自分は、どこで生まれたとか、将来、どんな仕事をしてるとかの自分です。
これは、自我とも言います。
ヘレンは、この第二のシステムの自分を獲得したわけです。
部屋に戻ったヘレンは、足元に人形の破片を感じて、一瞬で今朝の出来事を思い出しました。
自分が人形を壊したって理解したんです。
これが理解できるのは、第二のシステムの自分を獲得したからです。
もし、ヘレンが第一のシステムしかもってなかったら、足元に人形の破片を感じても、ただ、痛いって感じてただけです。
第二のシステムを獲得したから、自分の過去の過ちを理解できたんです。
大切な人形を壊したのは、他でもない、自分だって。
そして、生まれて初めて後悔したわけです。
そしたら、自然と涙が流れてきたんです。
どうです?
これが言葉の意味を理解するってことです。
ここまで、ほんの10分ほどのことです。
言葉の意味を理解するとは、どういうことか、理解できましたか?
ChatGPTは、文章を要約したり、言葉の意味を調べるのに便利です。
でも、だからといって、自我や意識を持つ人間の心とは全くの別物です。
そのことは、ヘレンと比べたらよく分かるでしょ。
ヘレン・ケラーは、脳の中に、第二のシステムを持っていたわけです。
ただ、目が見えず、耳も聞こえなかったため、第二のシステムにアクセスできてなかっただけです。
それが、井戸の水に手を触れたとき、偶然、そこにアクセスしたわけです。
ChatGPTも、第二のシステムを持っていれば、いずれ、自我が芽生えるかもしれません。
でも、ChatGPTのプログラムは、単語の並びから、次の単語を予測するだけです。
どう考えても、これって第一のシステムですよね。
入力に対する出力の精度を競ってるのが今のAIです。
意識とか、言葉の意味とか、人間の心の本質の議論はほとんどされていません。
いや、無いわけじゃないんですけど、浅い議論しかありません。
たとえば、司法試験の問題を解けるんだから、意識がないわけないとか。
でも、それが意識の証明になるなら、小学校の問題を間違ったら、意識がないってことになりますよね。
これが浅い議論です。
それじゃぁ、深い議論というのは、どういうものでしょう?
それは、たとえば、具体的な心のモデルを提唱するとかです。
どんなモデルなら、人間と同じ意識といえるかとか、言葉の意味を理解してるといえるとかです。
そういった具体的なモデルが提案されると、人間とは何か、動物と何が違うのか、といった広がりが出てきますよね。
実際、今のAIは、人間の心にはほとんど言及していません。
その証拠に、ChatGPTには心があるって言ってる心理学者なんか、一人もいません。
ChatGPTがスゴイって言ってるのは、AI関係者だけです。
ChatGPTの影響の範囲は、AIにとどまっているんです。
人間の心の具体的な心のモデルに興味がある方は、この動画『次世代AIの提言』を、ぜひ、見てください。
それから、基本的な概念は、こちらの本で紹介していますので、よかったらこちらの本も読んでください。
はい、今回の動画が面白かったら、チャンネル登録、高評価、お願いしますね。
それでは、次回も、おっ楽しみに!