第368回 意識は、いかにして生まれたのか


ロボマインド・プロジェクト、第368弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

この前、YouTubeで、ホリエモンと佐藤航陽(かつあき)の対談を見たんですけど、ChatGPT は、もう、人間を超えてるって言ってました。
Twitterのクソリプみてると、人間は言葉を理解してないとか、AIが、賢くない人に合わせてるとも言ってました。

いやぁ、こんなに頭がいいのに、なぜか、意識とか心の話になると、急に、解像度が落ちるんですよ。
ホリエモンとか、最新の科学にキャッチアップしてて、脳科学のこともよくわかってます。
これは、逆に言えば、意識や心が、脳内でどうやって生み出されるか、最新の脳科学じゃ分かってないってことです。
でも、分からないからと言って、何もしてないってことにならないですよね。

今回、参考にしたのは、この本『「見る」とはどういうことか 脳と心の関係を探る』です。

著者は、脳・神経学者で、視覚の脳内メカニズムを研究している藤田一郎です。
この本、めちゃくちゃ面白かったです。
人がものを見るとはどういうことかってことを、脳細胞レベルで解き明かしていくんです。
センサーとして検知することと、主観的に感じることをちゃんと区別して解説してます。
クオリアの話とかもちゃんと出てきます。
それを、脳細胞レベルで説明してくれるんです。
今まで知らなかった話もあって、ワクワクして読みました。

そして、最後の章は「脳、心」です。
脳細胞レベルで心や意識を解明してくれるのかって期待しました。
ただ、そんな大きな話題なのに、「最後の1章だけ?」ってちょっと思いました。
そしたら、やっぱり、心の話になると、急に解像度が落ちるんですよ。
たとえば、お坊さんに、「私は、お地蔵さんにも心があると思う。だから、石にも心がある」とかって言われた話とか。
ある哲学者が、鉄腕アトムはできないと言ってたとか。
「あれ、今まで脳細胞の話してたのに、急にどうしたの?」ってなるんです。
残念ながら、これが、今の脳科学の限界です。

もう少し具体的に見てみます。
これが人間の脳です。

目からの視覚情報って、後頭葉にある視覚野に送られて、そこから側頭葉と頭頂葉に送られて、順に処理されていきます。
ここは、どの脳細胞がどんな処理をしてるかまでわかっています。
そして、最終的に、これはリンゴだとかって分かります。

心はその先です。
「このリンゴを、食後に、みんなで食べよう」とか、「お隣さんにもおすそ分けしよう」とか考えるのが心です。
そんな処理をしてるのが前頭前野です。
大脳の30%が前頭前野です。
これだけ大きい領域で、なにをやってるのか、未だにわかってないんですよ。

じゃぁ、どうやればわかるでしょう?
それは、意識がどうやって生まれて、何をやってるのかを考えたら分かります。
これが今回のテーマです。
意識は、いかにして生まれたのか。
それでは、始めましょう!

まずは、『「見る」とはどういうことか』の本からいくつか、面白い例を紹介します。

これは、側頭葉の一部が損傷した患者に模写してもらった絵です。
見本のブタ、鍵、機関車、小鳥をみて書いてもらったのが下の絵です。
どれも、まぁまぁうまく描けてますよね。

ところが、「何の絵を描きましたか?」って質問しても答えられないんです。
つまり、側頭葉が損傷すると、形は分かっても、それが何か分からなくなるんですよ。
これを視覚失認と言います。

見ても何か分からないからと言って、そのものの記憶が無くなったわけじゃありません。
たとえば、携帯電話を見て、それが何か答えられなくても、着信音が鳴ると、携帯電話ってすぐに分かります。
つまり、ものの形と、それが何かを結ぶ経路が死んでるわけです。
でも、音と何かを結ぶ経路は生きてるので、音を聞いたら何か分かるわけです。

次は、頭頂葉が損傷した場合の例です。
頭頂葉が損傷すると、見てるものが何かは分かるんですけど、それをうまく操作できなくなります。
たとえば、目の前にコップがあるってわかっても、それをうまくつかむことができなくなります。

それから、斜めにスリット状の穴の開いた板を用意して、角度はどのくらいですかって聞くと、「30度ぐらいです」ってちゃんと答えます。
「それじゃぁ、そのスリットにハガキを入れてください」って指示すると、うまく入れられません。
見えて、角度も理解してるのに、それに対する操作がうまくできないんです。

側頭葉が損傷した場合は、逆になります。
コーヒーカップの絵を見ても、それが何か分からないんですけど、その患者に、「コーヒーでもどうぞ」ってコーヒーを出すと、ちゃんとコーヒーカップの柄をつまんで飲めるんです。
意地悪して、わざと、柄が遠くになるようにカップを置いても、ちゃんと柄をつまみます。
つまり、そのものが何かは、側頭葉で処理されてて、その物をどう操作するかは頭頂葉で処理するわけです。

次は、もっと面白い実験です。
有名な錯視でエビングハウス錯視ってのがあります。

真ん中のオレンジの円、左が大きくて、右が小さく見えますよね。
これ、実は、どちらも同じ大きさなんです。

これを、丸いタイルで作って、板の上に並べるんです。
そして、真ん中の円が同じ大きさに見えるようにタイルを変更してくださいって言います。

最初、Aのようだったのが、右の円を大きく変えてできたのがBです。
実際の大きさは違うけど、その人にとったら、真ん中の円は、同じ大きさに見えてるわけです。
さて、こっからが実験です。
次に、親指と人差し指にLEDを付けて、「真ん中の円のタイルをつまんでください」って言ってビデオで撮影します。

何をしようとしてるかというと、タイルをつまむときの指の開き具合を正確に測定しようとしてるわけです。
すると、面白いことが起こったんですよ。
本人は、どちらの円も同じ大きさだと思ってますよね。
だから、つまむときも、どちらも同じだけ指を広げるはずですよね。
ところが、左をつまむときより、右の円をつまむときの方が、指を大きく開けたんですよ。
つまり、意識は同じ大きさと思っていても、指は右の方が大きいってわかってるってことです。

面白いでしょ。
同じ大きさと思ってる自分と、正確に大きさを把握してる自分の二人がいるわけです。
同じ大きさと思ってるのは、この、今感じてる意識です。
それは、形を処理する側頭葉の先にいます。
それとは別に、ものの操作を担当する頭頂葉にも自分がいます。
その自分とは、自分の体のことです。
自分の体と、側頭葉の先にある意識とは別ってことです。

視覚の処理経路は、サルの実験で、かなり詳しくわかっています。
これを見てください。

視覚処理は30以上の領野に分かれていて、それぞれ、複雑につながっています。
下にあるV1が、一次視覚野です。

各領野は、カラム状になっていて、一つのカラムで一つの解析を行います。

たとえば、V1だと、直線の傾きに反応する複数のカラムがあります。
ちょっとずつ角度が違うカラムが順番に並んでいて、角度を解析するわけです。
さっき、斜めのスリットの角度が30度って答えてたのは、このカラムが反応したからです。
こうやって、V1から順に上に視覚情報が処理されていきます。

たとえばMT野では、動きの検出が行われます。
だから、ここを損傷すると、ものの動きが感じられなくなります。
自動車が近づいてくるのを見ても、パッ、パッ、パッって断続的に大きくなるように感じて、スムーズに近づいてくるように感じれなくなります。

こうやって、形や動きを解析するわけです。
視覚情報の処理は、このレベルまで、細かく解明されてるんです。

でも、最初に言いましたけど、その後の意識については、全くといっていいほどわかっていません。

ここを、もう少し細かく見ていきます。
たとえば、意識は、アニメーションをみてると、スムーズに動いてるように感じますよね。
でも、アニメーションって、少しずつ違うフレームを表示しています。
そして、V1では、そのフレームを全部検知しています。
だから、意識がそれを全部認識してたらアニメーションは、カクカクに感じるはずです。
でも、そう感じないのは、MT野で動きを検出して、意識はその動きを感じてるからです。
注意してほしいのは、MT野は、V1の後の処理です。
つまり、V1は、単なる入力データの処理です。
センサーデータの処理です。
それより後のMT野は、意識が感じるデータを作り出してるわけです。
主観が感じるデータです。
そうやって、センサーデータから始まって、最終的に主観が感じるデータが作り出されます。
それがクオリアです。

クオリアというのは、僕らの意識が感じるものです。
赤い色とか、丸い形です。
リンゴとかコーヒーカップとか、それが何か分かるのは、クオリアになってるからです。

頭頂葉の処理は、ものの操作でしたよね。
リンゴや、コーヒーカップの柄をつまむのは、頭頂葉の処理です。
そして、それはそのものが何かわからなくても、ちゃんと動作できます。
たとえ、意識では同じ大きさと思っていても、頭頂葉は正しい大きさを把握してましたよね。

もう少し考えますよ。
クオリアって、意識が認識するデータのまとまりといえます。
意識が感じるデータって、色とか形とか動きです。
それを作り出すのが側頭葉の処理です。

意識は、そのデータのまとまりを操作するわけです。
データのまとまりがクオリアです。
リンゴのクオリアには、赤い色とか丸い形とか、甘い味とかってクオリアが含まれてるわけです。
リンゴのクオリアは、これらをひとまとめにして指示したものです。
それは、一種の記号といってもいいです。
記号というのは、何らかのデータを指し示す印です。

そして、意識は、リンゴという記号を使って考えるわけです。
目の前にりんごをあるって認識しました。
これは、側頭葉の視覚処理がリンゴのクオリアを作り出したってことです。

意識は、そのリンゴを見て、「食後にみんなで食べよう」とか、「お隣にもおすそ分けしよう」って思います。
これが考えるってことです。
つまり、記号操作です。
記号処理といってもいいです。

わかってきましたか?
クオリアに変換した後、行われるのは記号処理なんです。
そうやって考える場所が、脳の中だと、前頭前野です。

整理しますよ。
視覚処理は、それが何かを解析する処理と、それに対する動きを解析する二種類の処理に分かれます。
それが何かを解析するのが側頭葉です。
それに対する動きを解析するのが頭頂葉です。

何かを解析するとは、クオリアを作り出すことです。
クオリアとは、意識が操作する一種の記号です。
クオリアは、画像データから、色、形、動きって分析することで作り上げます。
その過程は、脳細胞レベルで分かっています。

そして、意識が考えるとは、クオリアを使った記号処理です。
もし、こうしたらどうだろう。
ああしたらどうだろうって記号操作です。
これは、一種のプログラムといえますよね。
そして、このプログラムが実行されるのが前頭前野です。

言ってみれば、前頭前野には、コンピュータのCPUがあるわけです。
そのCPUでプログラムが実行されるわけです。
そう考えたら、前頭前野で何が行われてるのか、なぜ、今の脳科学でわからないのか、その理由が見えてきますよね。

だって、CPUの動きを観察しても、どんなプログラムが動いてるかわからないじゃないですか
側頭葉の処理は、入力画像を分解して解析する処理なので、丁寧に観察すればわかるタイプの処理です。
でも、それが記号化されて、プログラムの中に取り込まれて処理されると、もう、分かりません。
側頭葉のように、脳細胞の動きを観察するってやり方じゃ、何をやってるのか分からないんです。
だから、前頭前野でどんな処理が行われてるのか分からないんです。

心や意識の処理をしてるのが前頭前野です。
人間らしさを作り出してるのが前頭前野です。
それは、大脳の30%を占めます。
そこで、具体的にどんな処理が行われてるのか、今の脳科学で解明できない理由が、これでわかりましたよね。
じゃぁ、どうやったら解明できるんでしょう?

今までは、脳細胞とか、最も低レベルから徐々に上のレベルの処理を解明するって方法で解明してきました。
そして、最も上のレベルの処理が意識の処理です。
意識の処理とは、「ああしようか、こうしようか」って考えることです。
一番下のレベルから徐々に解明しようとする方法をボトムアップアプローチと言います。
この方法じゃ、前頭前野を解明できないわけです。

じゃぁ、逆に、トップから解明すればいいんじゃないでしょうか?
トップというのは、意識が考える中身です。
それは、プログラムで再現できます。
つまり、意識や主観で考えたり、悩んだりしてることを、そっくりそのままプログラムで作るんです。
そして、そのプログラムが、人間と同じように動けば、そのプログラムは、人間の心や意識と同じと言えますよね。
この方法を、トップダウンアプローチと言います。

前頭前野で処理してる内容を解明するには、トップダウンアプローチしかやり方はないと思います。
ただ、この方法で心や意識を解明しようとしてるところはほとんどありません。
世界で、唯一、その方法で心を作ろうとしてるのが、ロボマインドです。
具体的な心の仕組みは、この本に書いてありますので、よかったら読んでください。

はい、今回の動画が面白かったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!