第376回 自閉症と自由意志仮説


ロボマインド・プロジェクト、第376弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

いつも本を紹介しますけど、面白い本って、なかなかないですよね。
書評YouTuberっていますけど、よく、毎回、面白い本を見つけられるなぁって思います。
僕の場合、面白いと思う本と、そうでない本の差が極端なんですよ。
話題になってるからといって読んでも、面白いと思うこと、あんまりなくて、そんな本は、ほんと、しゃべることないんですよ。
逆に、面白い本やと、いくらでもネタが見つかって、一冊の本で何本も動画が撮れるんですよ。
最近やと、橘玲の『スピリチュアルズ』(vol.356〜362)とか、『私は既に死んでいる』(vol.297~303)とか、一冊で何本も撮りました。
そういう面白い本って、めったに見つからないかというと、実は、そうじゃないんですよ。
この本読んだら、その本の紹介ばっかりになるから、あえて手に取らないようにしてる本もあります。

その中の一冊が、今回紹介するこの本です。
東田直樹さんが書いた『自閉症の僕が跳びはねる理由2』です。

「1」は第343回から4回(vol.343,345,346,347)にわたって紹介しました。
「1」は、東田さんが中学3年の時にかいた本です。
そして、今回紹介する「2」は、その続編で、高校3年の時に書いた本です。
読み出したら、一行一行、凄いことが書いてあって、なかなか読み進められないんですよ。

東田さんは、重度の自閉症で、普通なら、コミュニケーション取るのも難しいんですけど、東田さんの場合、文字盤ポインティングをつかって会話ができます。

この本は、普通の人が自閉症の人に対して、いろいろ疑問に思うことを東田さんが丁寧に答えるってスタイルで書かれています。

たとえば、最初のページには、「なぜ、雄叫びのような奇声を発するのか?」って質問に対して、あれは、自分の意志と関係なく出るって書いてます。
僕は、なんとなく、本人は恥ずかしいと感じてないと思ってました。
でも、そうじゃなかったんです。
本人も、出したいと思って出してるわけじゃなかったんです。
それがわかると、「じゃぁ、なんでそうなるの?」って思いますよね。
つまり、思った通りに、何で行動できないのって思います。
もっと言えば、思った通りに行動できるって、もしかして、当たり前じゃないの?って考え込んでしまいます。

ページをめくると、次は、お菓子を食べたくても、「お菓子食べたい」って言えないって話が出てきます。
でも、おやつの時間になると、「お菓子食べたい」って言えるそうです。
これ、おやつの時間まで我慢してるわけじゃなくて、言いたくても言えないそうなんです。

ええ?、決まった時間にならないと、言えないってどういうこと?
言葉が時間に依存してるってこと?
って、また、考え込んでしまいます。

頭がこんがらがってきます。
こんな調子やから、とてもまともに読み進めることが出来ません。
8ページまで読んだところであきらめました。
今回は、一旦ここまでにしよって。

ここまで読んだだけで、大きなテーマが出てきました。
それは、頭で思った通りに行動できるとはどういうことかってことです。
言い換えれば、自由意志です。
これが今回のテーマです。
自閉症と自由意志仮説
それでは、始めましょう!

自由意志の話をすると、「人には自由意志がない」って、コメントが必ず入ります。
それで、いつも、「自由意志がないって、どういうことですか?」って質問するんです。
それも、「こういう場合は自由意志があるといえますか?」ってしつこく質問すると、最後は必ず返事がなくなるんです。
自由意志がないって思ってる人は多いんですけど、ちゃんと理解してないというか、理解の精度が低いんです。
ところが、東田さんの本を読んでると、自由意志がないってこういうことかって、はっきりとわかります。

さっきも言いましたけど、自閉症の人は、怒ったり、悲しかったり、嬉しかったりすると、雄叫びのような奇声が出ます。
そのことに対して、反射とは違うって言います。
僕らも、びっくりしたら、思わず「あっ」って言いますけど、これが反射的です。
これは、自分で言おうと思って言ってるわけじゃありません。
つまり、この部分は、僕らも自由意志がないと言えます。
そうやって考えたら、自由意志と、自由意志でない行動の具体的な違いがわかってきますよね。

もう少し続けます。
東田さんは、自分の意志と関係なく出る言葉の例をいくつか挙げています。
たとえば、昔覚えた絵本の一節とか、繰り返し聞いたコマーシャルの言葉とかです。
それが、いつ出るのか自分でも分からなくて、勝手に口から飛び出してくるそうです。
「静かにして」と言われたら、そのときはできますけど、口を閉じ続けることは難しいそうです。

これはどうでしょう?
これだけ聞いたら、なんでそんなことになるのか理解できないですよね。
でも、頭の中だけと考えたら、よく似た状況はあります。
たとえば、コマーシャルのフレーズとか、ある曲がずっと頭の中で鳴ってるとかってありますよね。
好きとか嫌いとか関係なく、なんでその曲が鳴ってるのかわからないし、止めようと思っても止められなかったりします。
そう考えたら、東田さんの言ってることもちょっと理解できます。

じゃぁ、東田さんと僕らとはどこが違うんでしょう?
それは、頭の中で鳴ってる曲を、外に出すか出さないかです。
僕らは、頭の中で鳴ってても、それを口に出さないことは簡単です。
つまり、僕らは頭の中で、なにか思い浮かんでも、それを体で表現するかしないかは自由に決められます。
でも、東田さんの場合、それを切り離すことができないようです。
頭の中と体がつながっていて、思い浮かんだことを体で表現せずにいられないようです。

じゃぁ、次は、お菓子が食べたくても自分から言うことができないって話はどうでしょう。
今度は、さっきと逆で、頭の中で思ってることを、言葉で表現できないわけです。

でも、「何か食べる?」って聞かれたら、「食べる」って言えるそうです。
それから、おやつの時間とか、いつも食べてる時間になると「お菓子食べたい」って言えるそうです。
または、他の人がお菓子を食べていたら、「僕も食べる」って言えるそうです。

「僕、食べる」って文章や、お菓子の名前を知ってるし、言えるけど、自分が欲しいときにその言葉が使えないそうなんです。
言葉だけでなくて、お菓子を指差すとか、体で表現することもできないそうです。
食べたいって気持ちがあっても、それを表現することにフタがされてる感じだそうです。
そして、おやつの時間になったり、ほかの人が食べてるのを見たら、そのフタがあいて、「僕、食べる」って言えるそうです。

さて、これはどう解釈したらいいでしょう?
少しずつ、読み解いていきます。

まず、お菓子を食べたいと思っても、自分から、それを表現できないわけです。
でも、誰かが食べたり、決められた時間になったら表現できるわけです。
他人とか時間とかって、自分の頭で思ってることじゃなくて、外の環境ですよね。
つまり、自分の体が、頭でなくて、外の環境にコントロールされてるといえそうです。
または、自分の体が、頭の中の思考より、頭の外の世界に結びついてるとも言えます。

これは、生物の進化で考えたら、何となく分かります。
僕は、意識というのは、進化によって獲得したものだと思っています。
進化的に古い生物は、意識がなくて、外部環境への反応で生きています。
たとえば、カエルは、目の前で虫が動いたら、反射的に捕まえて食べて、天敵の鳥の影を感じたら、反射的に逃げます。
つまり、意識がなくても外部環境に反応するだけでも生きていけるんです。
これは、外部環境と体が直結してると言えますよね。

それが、意識を獲得するようになると、意識と体が結びつくようになったんです。
つまり、頭で考えた通りに体を動かせるようになるわけです。
でも、それは、0から1に切り替わるって話じゃなくて、段階があるみたいなんです。

これは、脳の系統発生図です。
これを見て分かるように、脳って、古い脳の上に新しい脳が覆いかぶさるようにして進化してきました。
つまり、進化的に古い脳は消えるんじゃなくて残ってるわけです。
だから、何かのきっかけで、進化的に古い機能が動き出すこともあるわけです。

「先祖帰り」って言葉、聞いたことありますか?
何世代も前の遺伝上の形質が、突然、ある個体に表れることです。
数年前、ブラジルで生まれた赤ちゃんに、12センチほどの尻尾のようなものが生えて生まれてきたってニュースがありました。

尻尾が生えた人の話は、昔から世界中で報告されています。

尻尾が生えるとかは、体の外見の話ですけど、これが脳の中で起こってもおかしくないですよね。
おそらく、自閉症って、一種の先祖返りなのかもしれません。

もう少し考えてみます。
僕は、意識は、哺乳類まで進化して獲得したものと考えています。
意識というのは、自分で状況を把握して、どう行動するか決めるものです。
ただ、さっきも言いましたけど、自分の行動というのは、本来は外部環境に結びついていました。
その結びつきが、進化の過程で、徐々に意識に移ってきたわけです。

意識って、何かしたいって欲求を感じますよね。
逆に、意識がないと欲求もほとんど感じないと思うんですよ。
おそらく、魚やカエルは意識がないので、欲求とかほとんど感じないと思います。
欲求を感じなくても、体が自動で反応して、エサを食べたり、天敵から逃げたりするわけです。
それが、進化して意識を獲得することで、食べたいとか、逃げたいとかって欲求を感じるようになったんです。
それとともに、外部環境に反応して体が勝手に動いてたのが、意識が体をコントロールできるようになったんです。
でも、その移行はちょっとずつです。
僕らも、完全に自分の意志で体をコントロールできてるわけじゃありません。
たとえば、びっくりしたら、つい「あっ」って声を上げてしまったりしますし、泣いたり、笑ったりも、意識でコントロールできないですよね。

東田さんの場合は、外部環境と体がかなり強く結びついているわけです。
だから、心の中で、おかしを食べたいって欲求があっても、体で表現するのは難しいんです。
でも、ほかの人が食べるとか、おやつの時間になるとか、外部環境が変化すると、それがスイッチになって、「僕、食べる」って表現できるんです。
でも、自分の意志で、そのスイッチを入れることができないみたいです。

それから、東田さんは、ごくまれに、すっと、自分の言いたいことが言えることがあるそうです。
そのときは、周りの人もびっくりするそうです。
自分でもどうしてうまく言えたのかわからないそうです。
「もう一回言って」といわれても出来ないそうです。

これって、人類がかつて経験したことなんじゃないかと思います。
何万年か前、意識が、ある日、自分の体を制御できるようになった瞬間があったと思うんですよ。
でも、完全に切り替わったんじゃなくて、最初、できたかと思っても、また、出来なくなるんです。
そんなことを繰り返しながら、だんだん、自分で思ったように自分の体を動かせるようになったんです。
今では、それが当たり前だと思ってしまいますけど、実は、それって当たり前じゃないんですよ。
人類が長年かけて獲得した、ものすごく重要なことなんです。
そんな、人類の歴史の中でも最も重要な瞬間を、東田さんは、今、体現してるんですよ。
そう考えたら、凄いことですよねぇ。

それでは、ここまでの話を整理したいと思います。
動物は、もともとは外部環境に反応して生きていました。
外部環境と体が強く結びついていたわけです。
進化することで、やがて、意識が生まれました。
それは、自分とか心といってもいいです。

意識は、いろんなものを感じます。
その一つは、外の世界です。
外の世界が、今、どういう状況か認識できるようになります。
それから、内側から沸き起こるものも感じます。
食べたいとか、怖いといった欲求とか感情です。

意識というのは、さまざまなデータを受け取って処理する一種のプログラムです。
外部環境のデータというのは、いわば外の世界を表現したデータです。
感情とか欲求は、内側から生み出されたデータです。
進化の過程で、外の状況や、内側から生まれ出る感情や欲求を、意識プログラムが受け取れるように変換されたのでしょう。
さらに、意識プログラムは、そういったデータを受け取るだけでなく、体ともつながっていったわけです。
つまり、自分の意志で体を動かせるように進化しました。
ただ、これらは順番に起こります。

最初は、体は外の世界と結びついていました。
だから、心でおかしを食べたいと思っても、体で表現することは難しいわけです。
でも、ほかの人がお菓子を食べるとか、おやつの時間になるとか、外部環境が変化すると、体を動かすことができます。

その次に心と体が結びつきますが、これにも段階があります。
心の中で、最初に体と結びつくのは、感情です。
だから、自閉症の子は、怒ったり、悲しかったり、嬉しかったりすると、雄叫びのような奇声を上げてしまうんです。
僕らもおかしかったら笑いますし、悲しかったら泣きますし、これも自分の意志でコントロールできません。
つまり、心と体で最も強く結びついてるのは感情といえそうです。

心の中で生み出されるのは、感情や考えだけじゃありません。
意味のない雑多なものもいっぱいあります。
東田さんの場合、昔読んだ本のセリフとか、コマーシャルのセリフとかです。
僕らも、意味もなく出てくる言葉や、曲のフレーズがあります。
東田さんの場合、それが体と直結してるので、声に出さずにいられないわけです。
僕らは、心と体が切り離されてるので、外に出さずに頭の中に留めておくことができます。

そして、最後に、心の中で思ったことと体が結びつくんです。
つまり、あれがしたいって欲求どおりに体を動かすことです。
意外と、これが一番最後なんです。
僕らは、これが当たり前って、つい、思ってしまいます。
でも、これって当たり前じゃないんです。
心の中で考えた通りに体を動かすこと。
これって、じつは凄いことなんです。
これが自由意志です。

自由意志というのは、進化の最後にようやく手に入れた、人間のみが持つ宝なんです。
自由意志とはどういうものか、かなり高精度に理解できましたよね。
もし、これを聞いても、人は自由意志がないとまだ思ってる人がいれば、ぜひ、なぜそう思うのか詳しい説明を聞かせてください。

はい、今回の動画はここまでです。
おもしろかったら、高評価、それからチャンネル登録もお願いしますね。
それから、僕の考える意識理論をもっと知りたい人は、こちらの本に詳しく書いてありますのでよかったら読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!