ロボマインド・プロジェクト、第380弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
東田直樹さんの『自閉症の僕が跳びはねる理由2』を読み進めてるんですけど、1行1行、凄いことが書いてあって、なかなか読み進められなくて、ようやく第一章が読み終わりました。
この本、何がそんなに惹きつけるのか自分でもよく分からなかったんですけど、その理由がズバリ、第一章の終わりに書いてありました。
そこには、こう書いてあります。
原始人は、おたけびで答えていたと思います。
自閉症の人の中には、あいまいな表現や難しい言葉が分からない人もいるかもしれませんが、言葉を楽しむ感覚は持っていると思います。「ウワワワワー」といったおたけびは僕もよく出ます。
なぜ、僕が原始人のような性質をもったまま生まれたのかはわかりませんが、原始人の見ていた世界を、僕は体験していると思います。
まさに、これなんですよ。
『サピエンス全史』のユヴァル・ノア・ハラリは言いました。
7万年前、認知革命が起こったと。
ホモ・サピエンスより脳も大きく、知能も高いといわれていたネアンデルタール人を滅ぼして、なぜ、ホモ・サピエンスだけが生き残ったのか。
その原因が認知革命です。
認知革命とは、新たに獲得した言語能力です。
今までも簡単な言語は使えていました。
ただ、認知革命で獲得したのは、今までにない能力です。
そのことをハラリは、虚構を生み出す能力と言います。
目の前にないものを想像する力です。
その能力で噂を語り、物語を作りだし、やがて宗教が生まれました。
そして、同じ神のもと、多くの人が集まり一体となりました。
それまでの社会の上限は150人と言われています。
それが、共通の神のもと、何千、何万人が一致団結して協力しあうようになったんです。
おそらく、一致団結したホモサピエンスがネアンデルタール人を滅ぼしたんでしょう。
ここまでは想像できます。
ただ、分からないことがあります。
それは、認知革命の中身です。
人類学が根拠としてるのは化石とか石器です。
それによって脳の大きさとか、どのような生活をしていたかはわかります。
でも、分かるのはそこまでです。
つまり、外から見た様子です。
でも、僕が一番知りたいのは中身です。
認知革命は、脳の中で起こりました。
それまで見てた世界と違う世界を認識できるようになったんです。
僕たちは、認知革命後の脳でしか世界を認識できません。
今、見て、感じてる、この世界が当たり前だと思っています。
でも、認知革命前の人類はそうじゃなかったはずです。
その時見てた世界って、どんな世界なのか。
どんなふうに感じて生きていたのか。
まさに、その答えが、この本には書かれてるんです。
これが、今回のテーマです。
認知革命前、ホモ・サピエンスはどう感じていたのか
それでは始めましょう!
東田さんは、文字盤を使うことで会話できるようになりました。
いまでも、文字盤がないと会話できません。
だから、いつも文字盤をもってて、会話するとき文字盤を取り出して会話すると思っていました。
ところが、そうじゃないんです。
この本には、こう書いてあります。
僕は、文字盤を携帯して、自分が話したいときに使うことがまだできません。
でも、いつかそうなれることを目標にしています。
えっ、どういうこと?
言ってる意味が、よくわかりません。
もう少し読むと、他にもできないことが書いてありました。
寒くなったら上着を着て、温度を調整するとかもできないそうです。
それから、メガネが汚れても、メガネを拭くことができないそうです。
ますます意味がわかりません。
でも、できることもあります。
出かけるとき財布を持つことはできるそうです。
ボウリング場で会員証を提示することも、言われなくてもできるそうです。
でも、寒くなったら上着を羽織ったり、メガネが汚れて見えにくくなったから眼鏡を拭くこともできないそうです。
出来ないというか思いつかないそうです。
誰かと会話するとき、文字盤を使うことを思いつかないそうです。
文字盤を差し出されたら使えるけど、自分から文字盤を思いつかないそうです。
さっぱり意味がわからないでしょ。
ボウリング場の会員証と文字盤で何が違うんでしょう?
次々、こんな意味不明な話が出てきて、そのたびに、「どういうこと?」って考え込んでるから、全然進まないんですよ。
この二日間、ずっとこのことを考えてました。
でも、ようやく、こういうことじゃないかなってものが見えてきました。
第376回で、東田さんは、お菓子が食べたくても「食べたい」って言えないって話をしましたよね。
今回のは、要望を言えないのとは違って、そもそも思いつかないんです。
でも、ボウリング場で会員証を提示することは思い出せます。
おそらく、場所に関連した記憶はできるんじゃないかと思うんですよ。
ある特定の場所に来れば、何をしないといけないといった形で覚えることはできるわけです。
そういえば、東田さんは、同じ人でも、別の場所で出会ったら分からないとも言ってました。
どうも場所を含んだ状況に関連付けて記憶するみたいです。
それから、毎朝、起きたらメガネを洗ってるそうです。
出かけるときは財布を忘れずに持って行きます。
朝起きるとか出かけるとか、これもベッドとか、玄関とか、特定の場所を含んだ状況ですよね。
やはり、特定の場所を含んだ状況に関連付けて記憶してるみたいです。
それじゃぁ、そういう世界観をコンピュータで再現するとしましょう。
それは、毎日起きたら、決められた場所に行くってことが繰り返される世界です。
ゲームでいえば、たとえばスーパーマリオブラザーズみたいな世界です。
決められたルートがあって、スタートすると世界が進み始めて、決められたことが起こると決められたアクションをするって世界です。
ブロックがあったら、ジャンプして崩すとか、キノコがきたらジャンプして上に乗るとかです。
予想されることが起こる世界で、特定の出来事がおこると、それに応じた行動は取れるわけです。
出かけるときは財布を持つとか、ボウリング場に来たら会員証を提示するとかも一緒です。
でも、予想してない状況が起こると、うまく対処できません。
よく、自閉症の人は、予定が変更されると、うまく対処できなかったりパニックになったりするといいます。
これは、スーパーマリオをやってたのに、突然、ドラゴンクエストになったようなもんだと思います。
キノコが出てきたら対処できるけど、スライムがでてきたら、どうすればいいのか分からなくなるわけです。
予想してない状況に、うまく対処できないわけです。
東田さんは、朝起きたらメガネを洗うことはできるけど、メガネが汚れてきたら拭くってことを思いつけません。
それから寒くなってきたから上着を着るといった服装の調整もできないそうです。
これができるようになるには、何が必要なんでしょう?
おそらく、それは抽象的な思考だと思います。
でも、メガネが汚れるとか、肌寒いとかって具体的ですよね。
でも、そう考えるのは僕らだけなんです。
そこで、何が具体的で何が抽象的かを整理したいと思います。
第139回でアマゾンの未開の民族、ピダハンの話をしました。
ピダハンは、目の前の現実とか、具体的な物しか信じません。
だから、過去とか未来の話はしませんし、抽象的なものも認識できません。
たとえば、色とか数を表す言葉もないんです。
だからといって、色を識別できないわけじゃないんです。
赤とか緑って言葉がないだけです。
じゃぁ、赤や緑について語らないといけないとき、何ていうと思います?
赤なら血の色っていいます。
緑なら、熟してない実って言います。
つまり、具体的な物を起点にして色を言うわけです。
なんでそんな面倒くさいことをしないといけないんでしょう?
それは、具体的なものから、色だけ取り出して認識することができないからです。
リンゴが三つあるからといって、そこから「3」って数だけ取り出して認識することはできないんですよ。
認識できるのは、あくまでも3個のリンゴです。
リンゴが具体的な物です。
具体的な物を起点にしてしか色とか数を考えられないんです。
さて、ここでオブジェクトについて考えてみます。
オブジェクト指向プログラムでは、あらゆるものをオブジェクトとして表現します。
オブジェクトには、属性を表すプロパティと、動作を表すメソッドがあります。
たとえば人間オブジェクトなら「太郎」とかって名前プロパティと、「歩く」ってメソッドをもっています。
そう考えると、色とか数ってプロパティになりますよね。
それから「話す」は人間オブジェクトが持つメソッドです。
だから、「寒い」って感覚も、プロパティと言えそうです。
分かってきましたか?
抽象っていうのは、オブジェクトのプロパティとかメソッドといえそうです。
そう考えると、何が記憶できて、何が記憶できないか見えてきますよね。
まず、最初に認識するのは世界です。
これが最も大きいレベルです。
その一段下のレベルが、場所とか状況です。
世界の一部を切り出したわけです。
これが、朝起きるとか、出かけるとか、ボウリング場に来たとかって状況です。
状況はオブジェクトで組み立てられます。
場所とか人間とかです。
これが、状況の一段下のレベルです。
そして、その下のレベルがオブジェクトのプロパティとかメソッドです。
これが一番細かい段階です。
このレベルのものだけを取り出したものが抽象です。
オブジェクトに結びついてない色とか数とかってことです。
上のレベルを認識するのは簡単です。
だから、状況とか場所に紐づけて記憶して、思い出すことはできるんです。
でも、下のレベルだけを取り出して認識することは難しいです。
だから、プロパティとかメソッドに紐づけて記憶することはできないんでしょう。
そう考えたら、東田さんの言ってることも理解できますよね。
寒いは温度プロパティなので、プロパティに関連づけて記憶することはできないんです。
だから、寒いと感じたとき、上着を着るとかって行動を思いつけないんです。
それから、メガネが汚れて見えにくくなったとします。
見にくいって感じもプロパティです。
だから、プロパティに関連して、メガネを拭くって行動を結び付けることができないんです。
会話は、人間オブジェクトのメソッドですよね。
うまく会話できないって感じてもメソッドだけを取り出してるので、それに文字盤を使うって状況を結び付けるのは難しいんです。
上の状況レベルから下のプロパティレベルに降りていくことはできます。
だから、「寒かったら上着を着たら」って提案されると、上着を着ることができます。
文字盤を出されたら、文字盤を使って会話できます。
つまり、目に見える具体的なオブジェクトを提示されると、そのプロパティやメソッドを使った状況を想像できるんです。
でも、寒いとか、会話とかってプロパティやメソッドを起点として、上のレベルの状況を想像することはできないんですよ。
プロパティやメソッドから、上のレベルを想像できるようになったのが7万年前に起こった認知革命です。
それじゃぁ、プロパティやメソッドから上のレベルを想像できるようになると、何が起こるか分かりますか?
それは、見たこともないものを想像できるようになるってことです。
ハラリが言う虚構を生み出す能力です。
強いとか、偉大とかって、プロパティですよね。
そんなプロパティから、最も強くて、最も偉大な存在を想像できるようになるんです。
それが神というオブジェクトです。
よく考えたら、神って、プロパティとメソッドの集合体なんですよ。
でも、その実体である神オブジェクトは誰も見たことがないんですよ。
そんな誰も見たことがない神を認識できる、いや、信じれるからこそ、何千人、何万人って人が一致団結することができるんです。
これが、7万年前に起こった認知革命です。
東田さんは、この認知革命前夜の感覚をまだ持ってるとも言えます。
その頃の人類が、どんなふうに感じて、どんなふうに世界を認識してたのかってことをリアルに教えてくれるわけです。
この本は、そんな貴重な記録なんです。
ただ、誤解しないでほしいのは、だからといって、東田さんの知能が劣ってるってことじゃないですよ。
ただ、世界の認識の仕方が違うってだけです。
僕らと違う感性をもっているだけです。
たとえば、東田さんの文章を読んでみます。
本当の僕は、何の制約も受けることなく、時間という枠を超え、ただひたすら声の限りに叫び、大地を駆けていたいのです。
あるいは、音も言葉もない静寂な水の中で、じっと息を殺し、永遠に続く宇宙の鼓動を感じ続けていたいのです。
どうです。
これ、東田さんが高校3年の時に書いた文章ですよ。
これだけの文章、大人でもなかなか書けないですよね。
たぶん、僕らが感じれない生の世界を直接感じ取ってるんだと思います。
そんな僕らが失った感性を持った人から学ぶべきことは、本当に無限にあると思います。
そんな世界を、分かりやすく翻訳して伝えるのが僕の役目だと思っています。
はい、今回は、ここまでとしときます。
今回の動画が面白かったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、よかったらこちらの本も読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!