第384回 自閉症と芸術と集中力


ロボマインド・プロジェクト、第384弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

東田さんの『自閉症の僕が跳びはねる理由2』を読んでますけど、今回は絵とか芸術について語ります。

自閉症の子って、みんな、ものすごいアートの才能を持ってるんですよ。
その源は集中力です。
東田さんの言葉をそのまま抜き出します。

絵の具を塗ってるときは、自分が塗ってると言うより、絵の具の色そのものになりきります。
その色になりきって、画用紙の上を自由に描画するのです。
周りで何がおこっていても全く気になりません。
ただひたすら、絵を描いてさえいれば満足なのです。

いやぁ、凄い集中力ですよね。
自閉症の子のアートについては、第300回で、滋賀県にある福祉施設「やまなみ工房」を紹介しました。
ここでは、自閉症の子は、誰もが独特の世界観を持っていることに気づいて、みんなに絵を描かせてるそうです。
そしたら、みんな、こんな素敵な作品を作り出したんです。

いやぁ、圧倒されるでしょ。
こんな作品を、みんな、一心不乱に作るそうです。
ものすごい集中力です。

この才能と集中力はどこから来るんでしょう?
これが今回のテーマです。
自閉症と芸術と集中力
それでは始めましょう!

僕の考えでは、生物は進化の過程で意識を獲得しました。
脳の進化の系統図を見てください。

意識は、大脳の前頭前野にあると考えられています。
だから、哺乳類ぐらいにならないと意識は生まれません。
ヒトの脳は、ほとんどが大脳で、前頭葉が最も発達しています。
つまり、ヒトになって意識が急速に発達したと思うんですよ。

じゃぁ、魚類やは虫類はどうでしょう?
大脳はあまり発達していませんけど、体を制御する小脳はあります。
それから、安全か危険かを判断する機能もあります。
だから、危機を察したら、すぐに逃げることができます。
危険って信号が、直接体を動かしてるわけです。
これは、脊髄反射と同じです。

そこから進化して意識が生まれたわけですけど、突然、意識が発生したわけじゃありません。
まず、その下地として、世界の認識の仕方が変わりました。

どういうことかというと、それまでの生物は、現実世界に直接反応して生きていました。
熱い鍋に触って思わず手を引っ込めるという、脊髄反射のような行動だけで生きてきたわけです。
それが、「〜がある」って形で世界を認識できるようになったんです。
どうやるかっていうと、目で見た世界を頭の中で再構築するんです。
そうすることで、目の前に「リンゴがある」とかって思えるようになります。
それまでは、世界に反応するしか出来ませんでした。
それが、「ある」って考えることができるようになったんです。

じゃぁ、それで何が嬉しいでしょう?
それは、行動を変更できるようになったんです。
例えば犬は、しつけすればマテとかオテができるようになりますよね。

本能の欲求は、エサを見たら食べたいです。
だから、それまでの生物なら、エサをみたら飛びつくしかしません。
それが、エサを見ても、マテといわれたら、食べるのを我慢できるようになったんです。
自分の意志で体を制御できるようになったんです。
それじゃぁ、体を制御してるものは何でしょう?

それが、意識です。
世界を認識して、頭で考えて、体を制御するのが意識です。
仮想世界を使って世界を認識するようになると、それを認識する意識も生まれました。
ただ、意識が、すぐに体を制御するようになったかというと、そういうわけじゃありません。

だって生物は、何億年も意識を持たないで生きてきたんです。
人類は、何万年という時間をかけて、徐々に意識が体をコントロールできるようになってきたんです。
現代に生きる僕らは、ようやく、自分の思った通りに体を動かせるようになりました。
ただ、自閉症の人はそうじゃないようです。
東田さんも、思ったように手足を動かすのは難しいって語っています。

強いこだわりがあって、やりたくなくても体がつい、動いてしまうそうです。
こだわりというのは、好きでやってるわけじゃなくて、自分でもやめたいのに、つい体が反応して、止めることができないものだそうです。
これが、考えた通りに体を動かすのが難しいってことです。

さて、こっからが本題です。
自閉症の人は、なんで、ものすごい集中力があるのかって話です。
ここで、冒頭の東田さんの文章をもう一度読んでみます。

僕は、絵の具を塗ってるときは、自分が塗ってると言うより、絵の具の色そのものになりきります。
その色になりきって、画用紙の上を自由に描画するのです。

不思議なことを言ってましたよね?
「絵の具の色そのものになりきる」です。
東田さんは、このほかにも、鳥の声を聞いてると、鳥の鳴き声に浸ってしまうといっています。
自分が鳥になった気になって、鳥の鳴き声のメッセージを聞き取ろうとするそうです。
ここでも、自分が鳥になるって言ってますよね。

ここから一つの仮説が考えられます。
それは、「自閉症の人の意識は、体から離れて対象に乗り移ることができる」って仮説です。
はたして、そんなこと、あり得るんでしょうか?

これを、コンピュータ・プログラムで考えてみます。
僕は、コンピュータで心のモデルを設計しています。
その基礎となるのが、さっき説明した意識モデルです。

人は、目で見た世界を頭の中に仮想世界として構築します。
意識は、この仮想世界を介して現実世界を認識します。
そして、この仮想世界には自分の体も配置されます。

意識プログラムは、この体に接続されます。
そして、仮想世界の体を介して外界を感じます。
意識は、仮想世界の体を動かすと実際の体も動きます。
これが心のシステムの全体像です。

仮想世界に配置されるものはすべてオブジェクトとして作られます。
3Dオブジェクトと同じようなものです。
仮想世界には、机オブジェクトとかリンゴオブジェクトがあるわけです。
そして、自分の体もオブジェクトです。
自分の体オブジェクトに意識プログラムはつながってるわけです。
つまり、意識プログラムはオブジェクトにつながることができるわけです。

ということはですよ。
自分の体オブジェクトじゃなくて、他のオブジェクトにつながってもいいですよね。

東田さんは、いってました。
絵の具を塗ってると、絵の具そのものになるって。
その色になって、画用紙の上を自由に描画するって。

これ、意識プログラムが絵の具オブジェクトにつながったといえますよね。
意識は、つながっているオブジェクトを介して世界を認識します。
たとえば、体オブジェクトにつながってたら、お腹がすいたりします。
空腹感が原動力となって、食べ物を探します。

じゃぁ、絵の具オブジェクトにつながったらどうなるでしょう。
たぶん、画用紙に自分を塗りたいって欲求が生まれるんじゃないでしょうか。
東田さんは、まさにそう言ってましたよね。
絵の具になって、画用紙の上を自由に描画するって。

白い画用紙は、自分が自由になれる世界です。
その世界で、無我夢中で自分の世界を作り上げるんです。
誰にも邪魔されず、自分だけの世界に没頭するんです。

たとえば、これ、冒頭に紹介した「やまなみ工房」の人の絵です。

背景に、何か細かく、びっしり書き込まれてますよね。
拡大するとこうなります。

じつは、ちっちゃい人が、ぎっしりと書き込まれているんですよ。
これが、この人の感じる世界なんでしょう。

こんな風に一心不乱に描き続けるそうです。
まさに、その世界に入り込んで、自分だけの世界を作り上げてると言えますよね。

東田さんも言ってました。
絵を描いてるときは、周りで何が起こってるのか全く気にならないって。
絵を描いてるとき、心は完全に体を離れて、絵の中の世界に入り込んでるんですよ。

これ、意識プログラムが、ペンオブジェクトにつながったわけです。
ペンオブジェクトにとっての世界は画用紙です。
ペンオブジェクトに乗り移った意識が望むものは、画用紙に自分の世界を作り上げることです。

自閉症の人に取ったら、この体、乗りこなすには大きすぎるんでしょう。
だから、現実世界で思った通りに動かせないんです。
でも、絵の具やペンは、自閉症の人の意識にとったらちょうどフィットするんでしょう。
現実世界より、画用紙の中の世界の方がちょうど合うんでしょう。
自分の意識にちょうど合う世界をみつけたんです。
この時、意識は、初めて自由になれたんです。
だから、無我夢中で描くんです。

ただ、今までの説明は、あくまでもコンピュータプログラムです。
実際の人間の場合も、意識が体を離れることなんてあるんでしょうか。

ないことはないです。
あるとすれば、それは、体外離脱です。
幽体離脱ともいいます。
魂が体から抜け出るって話です。

僕も、中学の頃から幽体離脱に憧れて、何度も挑戦したことがありました。
ただ、そう簡単に幽体離脱なんかできません。
でも、ある条件のとき、幽体離脱できることに気づいたんです。
それが何かというと、それは、明晰夢です。

明晰夢っていうのは、夢の中で、これは夢だって気づくことです。
夢の中で意識だけが目覚めた状態です。
夢と気づいたら、夢の中で何でも自由にできるんです。

なんでもできるなら、幽体離脱しようって思ったわけです。
それで、ある時、ついに成功したんですよ。
たしかに、意識が体から飛び出ました。
ただ、自分が寝てる姿までは見えなかったです。
それから、そのまま、窓の外に飛び出しました。
窓の外の屋根の上を飛んだのを覚えています。
でも、はっきりと外の世界が見えたわけじゃなかったです。
ただ、空中を飛んでる感覚ははっきりとありました。

それから、もう一つ、覚えてるのは幼稚園のときです。
意識が体から飛び出して自由に飛び回ってる夢を見たんです。
そのとき、「あっ、これ、久しぶりや」って思ったんです。
「これ、赤ちゃんの時、毎晩体験してた」って思い出したんです。

明晰夢を見てた時って、変性意識状態にあると思います。
変性意識っていうのは、瞑想とか、ドラッグとかでなる意識状態のことです。

普段は、意識は、仮想世界の自分の体にしっかりと結びついています。
それが、変性意識状態になると、その結びつきが弱くなるんでしょう。

仮想世界も自分が作り出した世界です。
なので、体から離れた意識は、世界を自由に飛び回ることができるんです。
ただ、実際に見てるわけじゃないので、はっきりとは見えなかったんだと思います。

変性意識状態にならなくても、赤ちゃんは、まだ、体と意識の結びつきが弱いんだと思います。
だから、赤ちゃんの頃は、毎晩、意識が体から離れて自由にさまよっていたんでしょう。
それが、だんだん成長するにつれて、自分の体と意識が、がっちり結びつくようになったんです。

おそらく、自閉症の人は、成長しても、その結びつきが弱いんでしょう。
何か気になるものを見つめてると、意識が体を抜け出て、それに吸い込まれてしまうんでしょう。
東田さんは、全体より部分が気になるって言ってます。
蝶の羽の模様とか見てると、その模様に吸い込まれそうになるって言います。

絵を描くときも同じでしょう。
意識が、絵の具に吸い込まれるんです。
絵の具の気持ちになって、画用紙を埋め尽くしたいって思うんでしょう。

それがこんな緻密な絵になったり、

こんな緻密な作品になるんでしょう。

その世界に入り込んで、その世界を完成させたいって思いが伝わってきます。

僕らは、変性意識状態にならないと、意識が体から離れて自由になることはないです。
でも、自閉症の人たちは、簡単に意識が体から離れて、いろんなものに吸い込まれて行くようです。
たぶん、そっちの世界の方が、自由になれるからでしょう。
現実世界より、画用紙や粘土の世界の方が合ってるんでしょう。

僕らの意識は、自分の体は自由に動かせますけど、自分の体に閉じ込められています。
一方、彼らは自分の体は思うように動かせませんけど、意識は簡単に体から抜け出ます。
抜け出ると言うか、対象に吸い込まれます。
そこには自分だけの世界があって、そこで本当の自由を感じるんです。

そう考えると、どっちが自由なのか分からなくなりますよね。
僕らは、この体に閉じ込められて、この体で感じる世界しか体験できません。
生まれてから死ぬまで、この体で感じる世界しか知らないんです。
そう考えたら、彼らの方が自由じゃないかって思えてきます。

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それから、今回紹介した意識の仮想世界仮説に関しては、こちらの本で詳しく語っていますので、よかったら読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!