ロボマインド・プロジェクト、第385弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
コンピュータのシステムってバージョンアップしますよね。
あれは、ユーザーが使いやすいように機能強化したり、あまり使わない機能は削除したりしてるわけです。
それと同じ事が、脳内でもおこっています。
進化によって、脳にプログラムが追加されて行きました。
そのうちの一つが意識プログラムです。
最初は、小さいプログラムだったんですけど、意識プログラムを支えるために、いろんなプログラムが追加されていったんです。
その一つが注意って仕組みで、これはフッサールの志向性にあたります。
言語だったら指示代名詞になります。
脳内プログラムの進化って視点で考えると、一見、関係ないと思われてたものが全部つながるんです。
これが、今回のテーマです。
脳内プログラムは、いかにして進化したのか
それでは、始めましょう!
昆虫とか、単純な生物は、感覚器からのデータに反応して行動しています。
たとえば、マイコンロボットでライントレーサーってあります。
ライントレーサーは、ラインに沿って走行するように、センサー信号に応答してタイヤを制御します。
さて、ライントレーサーは、白い紙の上に黒いラインが引いてあって、自分は、それに沿って走行してるんだって思っているでしょうか?
そんなこと、思ってないですよね。
ただ、このセンサーが反応したら、こっちのタイヤの速度を落とすとかってプログラムで行動してるだけです。
こんな単純な機械だと、ちょっとラインから外れると、ラインに戻ることはできません。
それじゃぁ、困りますよね。
じゃぁ、どうすればいいでしょう?
それは、センサーに直接反応して行動を決定するんじゃなくて、今、どういう状況にあるのか、正確に把握するんです。
たぶん、生物の進化の過程で、この動きが生まれたんでしょう。
状況を正確に把握するって目的が生まれたんです。
進化って、何かの目的を持って変化してるように見えます。
たとえば、魚のヒレが足に進化して地上に上がってきたとか、前足が翼に変化して、鳥に進化したとかです。
どれも、地上に上がりたい、空を飛びたいって目的があるように見えますよね。
遺伝子が目的を持ってとは一概にはいえませんけど、少なくとも、変化の方向はありますよね。
そして、進化は体だけでなくて、脳内のプログラムにも起こります。
さて、今、脳内プログラムが目指したのは、状況を正しく把握することです。
今までセンサーデータから行動を決定してたプログラムが、センサーデータから外部状況を作り出すように変化し始めたんです。
でも、これだと、困ることが起こります。
それは、行動を決定するプログラムの行き場所がなくなったことです。
これじゃ、動けなくなりますよね。
そこで、センサーデータから作られた外部状況と、行動プログラムをつなげる新たなプログラムが生まれました。
それが、意識プログラムです。
おそらく、こうやって意識が生まれたんですよ。
外部状況を作るプログラムの目的は、外の世界を正確に再現することですよね。
究極的には、外の世界をそっくり再現するんです。
それを仮想世界と呼ぶことにしましょう。
そして、この仮想世界を認識するのが意識プログラムです。
これで、意識は、世界を正しく把握することができますよね。
さて、これで解決かというと、そうは行きません。
なぜかと言うと、外の世界を完璧に再現できることなんかできないからです。
世界を細部まで再現しようとしたら、膨大なデータを処理しないといけませんけど、それだけの計算をすることは不可能です。
つまり、計算可能な範囲で最適な行動を決定しないといけないって制約がかかるんです。
そこで生まれた仕組みが注意って機能です。
現象学の父、フッサールは言いました。
意識の本質は、「意識とは何かについての意識である」と。
これを意識の志向性といいます。
この志向性が注意です。
脳内に、新たな注意という仕組みが追加されたんです。
この仕組みにより、全体に注目したり、部分に注目したりと、世界を自由自在に認識することができるようになりました。
ようやく、世界を正しく把握できるようになりました。
今日の本題は、こっからです。
脳にある注意ネットワークについてです。
まず、注意には大きく分けて二種類あります。
能動的注意と受動的注意です。
受動的注意というのは、外界がきっかけとして生まれる注意です。
夜中にキッチンに行ったら、カサカサって音がして、その方向をみたらゴキブリがいたって、ありますよね。
このとき、カサカサカサって音の方向に、意識を向けさせるのが受動的注意です。
次は、そーっと、近づいていって殺虫剤をスプレーします。
ゴキブリは素早く冷蔵庫に後ろに逃げようとしますけど、追いかけてスプレーを浴びせかけます。
このときは、意識的にゴキブリに注意を向けてますよね。
この意識から出発する注意が能動的注意です。
僕らの意識は、二つの注意を介して現実世界を認識します。
ゴキブリを見つけたら、わっと驚くのが受動的注意です。
ゴキブリを仕留めようとゴキブリに注目するのが能動的注意です。
こうやって受動的注意と能動的注意がうまくバランスをとって世界認識してるわけです。
じゃぁ、もし、このバランスが崩れたらどうなるでしょう?
たとえば、受動的注意の活動が大きくなったらどうなるでしょう。
そうなると、周りのちょっとしたことが気になりますよね。
たとえば、授業中は、先生の言葉とか、黒板に注意を向けないといけません。
これは能動的注意です。
でも、受動的注意が活性化してると、窓の外の音とか、廊下の音とかが気になってしまいます。
そしたら、授業中でも、つい立ち上がってうろうろしてしまいます。
これがいわゆるADHDです。
注意欠如とか、多動症といわれる症状です。
一つのことに集中してじっとできなくて、すぐに動きまわってしまうわけです。
普通なら、ちょっとした物音ならなんとも感じないですけど、ADHDの人に取ったら、教室にゴキブリやネズミが出て走り回ってる感覚なんでしょう。
さて、能動的注意と受動的注意は脳の中でも分かれています。
能動的注意は背側注意ネットワークといわれて、受動的注意は腹側注意ネットワークと言われています。
実際、ADHDの人は、受動的注意にかかわる腹側注意ネットワークの活動が高いことが確かめられています。
これは、ADHDの人は、常に外から注意が仕向けられてるといえます。
そりゃ、落ち着きがなくなりますよね。
常に、いろんなものに注意が行く世界で生きてるんでしょう。
この注意ネットワークが脳卒中などで損傷したときにおこるのが半側空間無視という症状です。
半側空間無視のというのは、たとえば、自分の左側半分の空間を無視する症状です。
これは、従来、頭頂葉の空間認識の障害として扱われてきましたが、最近は注意ネットワークの障害と言われるようになってきました。
症状としては、たとえば食事をしたとき、自分の左側の食事だけ残すというものがあります。
これなど、まさに左側に注意を向けられないからです。
単に左側に注意を向けられないだけじゃありません。
たとえば、こんな例があります。
車いすにのった半側空間無視のあるおばあさんは、自分が左側の食事を残すことを知っています。
だから、食事を全部食べ終えたと思ったら、車いすを回転させて、自分の右側に、食事の左側が見えるようにします。
ここまでは分かるんですけど、問題は車いすを回転する方向です。
左に回転すればいいんですけど、なぜか、そのおばあさんは右回りにほとんど一周回転するんですよ。
なぜそんなことをするかって聞くと、左側に注意を向けれないおばあさんにとったら、左に回転するってことすら思いつけないんです。
たとえば車を運転してて、T字路の行き止まりに来た時、普通なら右に曲がるか左に曲がるかって悩みますよね。
でも、半側空間無視の人は右しか注意を向けられないから、左に曲がるってことを思いつけないわけです。
これと同じで、このおばあさんは、左回転を思いつけないから、右回転するんです。
そうやって、ほぼ一周回転したら右の視野に食べ残したおかずが現れてきて気づくわけです。
左側を思いつけないって、こういうことです。
これが能動的注意ができないってことです。
今度は受動的注意です。
半側空間無視の患者に、この絵を見せます。
そして、「二軒の家に何か違いがありますか?」って聞くと、「違いはありません」って答えます。
下の家は、左側が火事になっていますけど、それに気づかないんです。
これが受動的注意が機能してないってことです。
ただ、この話、これで終わらないんです。
さて、この患者に、今度はこう質問します。
「この二軒のうち、どちらの家に住みたいですか?」って。
すると、必ず「上の家」って答えるんです。
理由を聞いても分からないと言います。
ただ、何となく上の家の方がいいっていうだけです。
これ、何が起こってるかわかりますか?
この時使ったのは、意識じゃありません。
意識を使わない行動決定です。
行動決定は、意識が生まれる前から行っていました。
それは、感覚器からのデータパターンだけで決定するタイプの選択です。
意識が介入せずに、決定してます。
意識は知らないので、分からないとしか答えられないんです。
このことから、意識や注意って仕組みは、進化的に後から追加された機能だってわかりますよね。
今までは、能動的注意と受動的注意の例でした。
注意にはそれ以外にも、全体に対する注意と部分に対する注意って機能もあります。
能動的注意と受動的注意もそうでしたけど、二つの注意をうまく切り替える機能も必要です。
この機能が損傷した患者に漢字を書かせると、全体はだいたい合ってるけど、部分がおかしいってことになります。
たとえば、こんな漢字を書いたりします。
「雲」の横棒の数が多かったり、「冬」の点々の数が多かったり、「買う」の中の縦線、横線の数が多くなったりします。
意識してないですけど、僕らは漢字を書くとき、漢字全体と、その中の部分とを分けて認識してるようです。
全体注目と部分注目を瞬時に切り替えて漢字を認識してるんです。
どうです?
脳内のプログラムがどのように進化してきたか分かってきましたか?
意識が生まれる前は、世界を認識せずに、ただ感覚器からのデータパターンで行動を決めていました。
それが、世界全体を正確に把握したいって目的をもって、脳が進化したわけです。
そこで編み出されたのが外の現実世界を脳内に仮想世界として構築し、それを意識が認識するという仕組みです。
ただ、完璧な仮想世界をつくることは不可能なので、そこで編み出されたのが注意です。
そして、その注意にもいろんな種類があります。
その一つが、受動的注意と能動的注意です。
もう一つが全体的注意と部分的注意です。
意識は、これらを瞬時に切り替えて、必要なところに注目しながら世界を正しく把握することができたんです。
この切り替えをやってるのが無意識です。
だから、僕らは意識しなくても、自然と細かいところまで見ることができます。
一見、世界全体を細部まで認識してるように感じてますけど、本当は、裏で無意識が瞬時に切り替えてたんです。
実によくできたシステムですよねぇ。
それから、「あれ」とか「これ」って指示代名詞ってありますよね。
指示代名詞って、じつは、注意機能の切り替えを促してるんです。
日常会話で何気にでてくる「あれ見て」とか、「これ、どう思う」って意味を正しく理解するには、この注意機能を持ってないと理解できないんですよ。
つまり、「あれ」「これ」って単語の意味を理解するには、仮想世界、意識、注意機構で世界を認識するシステムを持ってる者でないと理解できないんです。
もし、将来、宇宙人がやってきて、僕らと違う世界認識システムで世界を認識してたら、「あれ」とか「これ」の翻訳すら出来ないことになります。
言葉の意味理解って、こういった機能を一つ一つ、丁寧に作っていかないといけないってことがわかりますよね。
大量の文書から単語の関係だけを学習させた大規模言語モデルじゃ、言葉の意味なんか、到底理解できないってことです。
そして、脳の機能を丁寧に作り込んで、言葉の意味を理解させようとしてるのがロボマインド・プロジェクトです。
はい、今回の動画がおもしろかったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、今回紹介した意識の仮想世界仮説に関しては、こちらの本に詳しくかいてありますのでよかったら読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!