ロボマインド・プロジェクト、第386弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
錯視ってありますよね。
たとえば、こんなのです。
これ、曲がった直線と円が切り取られた図形の組み合わせです。
でも、じっと見てると、手前に白い大きな三角形があるように見えてきますよね。
描いてあるわけじゃないけど、白い三角の縁まで感じますよね。
白の背景に白い三角なので、境目なんか見えるわけないんですけど、はっきりと白の直線を感じます。
不思議です。
次へ、この図です。
真ん中のオレンジの円、どうみても、右の方が大きいですよね。
でも、これ、じつは、どっちも同じ大きさなんです。
そんなわけないやろって思って、定規で測ってみたんですけど、ホンマに全く同じ大きさでした。
いやぁ、不思議ですよね。
実は、錯視って、視覚だけでなくて、聴覚にもあるそうです。
錯聴っていうそうです。
例えば、最初に、ピッ、ピッって短い音を二つ聞かすでしょ。
つぎに、ピーって一つの長い音を聞かせます。
このとき、短いピからピまでの長さと、長いピー一音の長さを同じにします。
それでも、なぜか、ピー一音の方が長く聞こえるんです。
これを、ワン・イズ・モア錯聴というそうです。
今回取り上げるのは、ちょっとややこしい話です。
音を聞かすんじゃなくて、無音を聞かせるんです。
そしたら、短い二つの無音より、長い一つの無音の方が長く聞こえたそうです。
ちょっと何言ってるかわからないですよね。
それじゃ、もうちょっと詳しく説明します。
これが今回のテーマです。
人は無音を聴いている
それでは、始めましょう!
この研究、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学の研究チームが行いました。
さっきのワン・イズ・モア錯聴を無音で試してみたわけです。
どうやって無音の音を聞かせるかと言うと、生活音の中に無音を入れ込めるんです。
それじゃぁ、さっそく試してみます。
はじめ、がやがやと生活音が聞こえます。
数秒すると「ワン」と聞こえてから、一瞬、無音になって、元のがやがやが一瞬聞こえて、また一瞬、無音が聞こえて、がやがやに戻ります。
その後、「ツー」と聞こえてから、無音になって、しばらく続いてから、がやがやに戻ります。
最初の二つの無音の間と、二番目の長い無音の時間は同じ長さです。
でも、なぜか、二番目の無音の方が長く感じられます。
今から流すので、集中して聞いてください。
どうでしたか?
二番目の無音の方が長く感じたでしょ。
これが錯聴というものです。
この実験から分かるのは、人は、無音を聴いてるということです。
でも、無音を聴くって、どういうことでしょう?
まずは、人の意識はどうやって世界を認識するかってことから考えてみます。
僕は、意識の仮想世界仮説を提唱しています。
どういうものかと言うと、人は、目で見た世界を頭の中に仮想世界として構築します。
意識は、この仮想世界を介して現実世界を認識するというものです。
これを、コンピュータで説明してみます。
まず、カメラで目の前の部屋を撮影します。
それを画像解析して3DCGで部屋を再構築します。
たとえば、3Dの部屋の中に机の3Dオブジェクトがあるとかです。
これが仮想世界です。
そして、この仮想世界を認識するのが意識プログラムです。
意識プログラムは、机の形とか、色とか重さのデータを取得できます。
これは、人が机を見て、重そうやなぁって感じることと同じことです。
この意識モデルで重要なのは、意識が認識するのは、全て仮想世界にあるオブジェクトだってことです。
つまり、意識は直接、現実世界を見てないってことです。
直接現実世界を見てるのはカメラです。
そして、カメラ映像からオブジェクトを生成してるのが無意識です。
さっきの錯視の例で考えましょう。
カメラ映像には白い三角形などは映っていません。
これを見て、無意識がオブジェクトを生成するわけです。
無意識は、単純なアルゴリズムでオブジェクトを推測しながら生成します。
たとえば、世界には奥行きがあって、奥にある物は手前にあるもので隠されるとかです。
それから、二本の直線があって、それが延長してつながるなら、一本の直線の一部が隠れて見えないんだろうとかって推測するわけです。
それから、できるだけオブジェクトの数が少なくなるように推測します。
こんなアルゴリズムでこの図をオブジェクトで描きなおすと、一番手前に白い大きな三角形オブジェクトを配置します。
その後ろに、直線で描かれた三角形を配置して、その三角形の各頂点の後ろに、小さい黒丸オブジェクトを配置するんです。
意識が認識するのは、こうやって無意識によって作り出されたオブジェクトです。
だから、この図をみると、一番手前にはっきりと白い大きな三角形が見えるんです。
それじゃぁ、次は、これはどうでしょう?
真ん中のオレンジの丸、どう見ても右の方が大きいですよね。
この錯視に関して、第368回で、面白い実験を取り上げました。
それは、この錯視図とそっくり同じ形をタイルで作って、真ん中のタイルを指でつまんでもらいます。
この時、親指と人差し指に特殊なセンサーを取り付けて、つまむときの指の開き具合を正確に測定するんです。
そしたら、何が分かったと思います?
何と、真ん中の円を摘まむとき、右も左もどっちも、指の開き具合は全く同じだったんです。
何が言いたいかわかりますか?
つまり、指はどっちの円も全く同じ大きさだって知ってるってことです。
これ、どういうことか分かりますか?
じつは、脳は、現実世界を二つの方法で捉えてるんです。
目からの視覚情報は後頭部の一次視覚野に送られて、そこから側頭葉の腹側視覚路と、頭頂葉の背側視覚路に処理が二つに分かれます。
腹側視覚路は色や形を分析して、最終的にそれが「何か」を特定します。
だから、別名「何の経路」とも呼ばれます。
背側視覚路は、位置や動きを分析して、最終的にどのように動いたらいいかを決めます。
だから、別名「どこの経路」とも呼ばれています。
こう考えたら、さっきの話も理解できますよね。
指でタイルを摘まむとき、「どこの経路」を使ってたんです。
じゃぁ、なんで、何の経路は錯視が起きるんでしょう?
これは、意識があるのが何の経路だからです。
正確に言うと、何の経路の先に仮想世界があって、意識は、その仮想世界を見てるわけです。
そして、仮想世界には無意識が生成したオブジェクトが配置されます。
つまり、錯視の原因は、無意識が生成したオブジェクトなんです。
それじゃぁ、もう一度、さっきの図をみてみましょう。
どう見ても、右のオレンジの丸の方が大きいですよね。
そう見えるのは、無意識が右のオレンジの丸を大きく作り出してるからです。
じゃぁ、次は、錯視が起こる仕組みについて考えてみます。
右の方が大きいと感じるということは、オブジェクトは大きさを持ってるわけです。
オブジェクトというのは、プログラム言語の一種のオブジェクト指向言語から取ってきています。
オブジェクトは、色とか大きさとかってプロパティを持ってます。
そして、大きさプロパティは、何ミリとかって絶対的な大きさじゃなくて、周りと比較した相対的な大きさとして持ってるんです。
周りのグレーの円と、中心のオレンジの円を比較するわけです。
すると、左だと、真ん中の円は小さいとなって、右だと大きいとなるわけです。
さて、ここでコンピュータで考えてみます。
コンピュータではオブジェクトはメモリに生成されます。
正確に言うと、メモリにはヒープ領域というのがあって、そこにオブジェクトが生成されます。
メモリはアドレスと値を持っています。
この場合だと、左の円のオブジェクトは、1000番地以降に格納されます。
そして、1001番地には色がオレンジで、1002番地には形が丸で、1003番地には大きさが小さいって値が格納されるわけです。
それから、プログラムは変数でオブジェクトの先頭のメモリアドレスを管理してます。
たとえば、
左の円:1000番地
右の円:2000番地
とかって管理してます。
さて、質問されて考えるのは意識です。
今、「右の円と左の円、どちらが大きいですか?」って質問されました。
すると、意識は、左の円と右の円の大きさに注目します。
注目するっていうのは、暗に無意識に指示してるわけです。
無意識は、その指示を受けて答えます。
この場合だと、無意識がメモリから左の円は小さい、右の円は大きいと答えます。
答えると言っても言葉で答えるわけじゃないです。
無意識の答えは、オブジェクトを介して意識に伝えられます。
つまり、意識がオブジェクトを感じ取るという形で答えが返ってきます。
それが、これです。
左より右の方が大きいって感じるでしょ。
これが脳の中で行われてる処理です。
ようやく、最初の話に戻ります。
無音を聴くって話です。
今までは視覚の話でしたよね。
聴覚も同じです。
つまり、音もオブジェクトとして管理してるんですよ。
そして、音オブジェクトは、音の大きさとか、音の高さ、音の長さってプロパティがあるわけです。
そして、音の大きさが0の音があるわけです。
それが無音って音です。
音がないというより、音の大きさが0の音オブジェクトです。
意識が認識できるのはオブジェクトです。
だから、たとえ音が聞こえなくても、オブジェクトがあるかぎり、意識は認識できるんです。
認識できるというのは、注意を向けられるってことです。
じゃぁ、オブジェクト自体がなかったら、どうなるでしょう?
それは、気付くこともできないってことです。
これが、音が存在しないのと、無音のオブジェクトが存在するのちがいです。
無音のオブジェクトは、聞くことができるってことです。
さて、オブジェクトがある限り、認識することができます。
そして、認識できるなら、比較することもできます。
だから、「どっちの無音が長いですか?」って質問にも答えることができます。
オブジェクトを作るのは無意識でしたよね。
そして、オブジェクトのプロパティは何秒とかって絶対時間じゃなくて、相対時間です。
つまり、その前後の音との比較です。
今の場合、背景に生活音がずっと流れてます。
1番目は、短い無音、短い生活音、短い無音、そして元の生活音となります。
つまり、生活音に比べて短い無音となるわけです。
2番目は、無音が来たら、無意識はさっきと同じ長さを期待しますけど、無音が続きます。
だから、2番目は長い無音となります。
これらがプロパティに設定されるわけです。
さて、今、最初の短い二つの無音と、二番目の長い無音で、どちらが長く感じましたかって質問されました。
すると、無意識はオブジェクトのプロパティを基にして答えを返します。
1番目は、短い無音+短い生活音+短い無音だから、合計が「短い」となります。
二番目は、長い無音となります。
この結果の答えを意識に返します。
無意識の答えは、感じ方の違いです。
それじゃぁ、本当に、無意識は、2番目の方を長いと感じさせるでしょうか?
もう一度ながしますので、確認してください。
どうです?
2番目の無音が長く聞こえますよね。
これが無意識の答えです。
そして、なぜ、無意識がこう答えるかも理解できましたよね。
これが、錯視や錯聴がおこる仕組みです。
はい、今回はここまでです。
今回の動画がおもしろかったら、チャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、今回紹介した意識の仮想世界仮説については、良かったらこちらの本を読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!