ロボマインド・プロジェクト、第390弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
久しぶりに面白い本、見つけました。
この本『動物たちは何をしゃべっているのか?』です。
山極寿一(やまぎわじゅいち)先生と鈴木俊貴先生の対談です。
山極先生は、アフリカでゴリラの研究をしてて、京都大学の総長も務めました
鈴木先生は、シジュウカラの言語を解明したことで有名です。
どちらも動物と会話ができるって話は聞いてたので、二人の対談本が出ると聞いてすぐに予約しました。
8月9日に出版されたばかりの新刊です。
いやぁ、面白かったです。
面白いだけじゃなくて、僕の説が完全に間違ってたってことも明らかになったんですよ。
僕の説っていうのは、エピソード記憶に関する説です。
エピソード記憶っていうのは、「昨日、動物園で象を見た」とかって思い出のことです。
いつ、どこで、何をしたかって思い出って、人間しか持てません。
って、僕は、何度もいってきました。
ところが、この本には、ゴリラが思い出を語る話がでてきたんですよ。
マイケルってゴリラに手話を教えたそうです。
そしたら、ある日、突然、捕らえられた時の様子を語りだしたそうです。
「群れで暮らしていたんだけど、お母さんが密猟者に首を切られて殺されたんだ。
ボクは手足を縛られて、棒にぶら下げて連れてこられたんだ」って。
完璧なエピソード記憶です。
僕の今までの説が覆されました。
これが、今回のテーマです。
田方、完全敗北
動物たちは何をしゃべっているのか?
それでは、始めましょう!
二人は外で対談してるんですけど、鳥が鳴くと山極先生が、「あれは何て言ってます?」って聞くんですよ。
そしたら、鈴木先生が、「『ジュリリ』って言ったでしょ、あれは、『みんな近くにいてね』って意味です。
「今のはなんて言ってます?」って聞いたら、「『チュリリッリ』って聞こえたでしょ。あれは『みんな、気をつけろ』です。ほら、オオタカが飛んでるでしょ」って答えます。
いやぁ、スゴイですよねぇ。
本当に、鳥の言葉を理解してるんですよ。
鈴木先生の専門はシジュウカラです。
シジュウカラは小さい鳥なので、ヘビやタカを警戒しないといけないそうです。
それで、「警戒せよ」って仲間に知らせるにしても、空なのか、地面なのか、鳴き声で区別するわけです。
それがシジュウカラの言葉です。
さて、それじゃぁ、「ヘビに気をつけろ」と言われて、地面に注目するには、どんな機能が必要でしょう?
ある部分に注意を向けられるってことは、その前提として、全体に世界があるってことがわかってるわけです。
そして、注意を向けるのが意識です。
つまり、世界と、それを眺める意識という関係が必要です。
それを実現する心のモデルとして、僕が提唱する意識の仮想世界仮説が使えます。
人は、目で見た世界を頭の中で仮想世界として構築します。
意識は、この仮想世界を介して現実世界を認識します。
これを意識の仮想世界仮説といいます。
仮想世界は、分かりやすくいうと3DCGで作った三次元世界です。
三次元空間の中に3Dオブジェクトがあるわけです。
意識は、この仮想世界を眺めるって関係にあります。
これなら、意識は一部に注目することができますよね。
これが最も単純な心のシステムです。
さて、このシステムを使えば、世界を認識できることはわかりました。
じゃぁ、出来ないことは何でしょう?
それは、自分の認識です。
このシステムだと、世界の中にヘビやタカがいることは認識できます。
でも、そこには、自分は見えないですよね。
じゃぁ、自分を見るとしたら何を使います?
そう、鏡ですよね。
さて、それじゃぁ、動物は、鏡に映った自分を見て、それが自分だと分かるでしょうか?
それを調べるミラーテストってのがあります。
それは、その動物の額に白いペンキを塗って、鏡を見せます。
もし、そのペンキを取ろうと自分の額を触れば、鏡に映ってるのが自分と認識してると言えます。
これ、意外と難しいですよ。
ヒト以外でミラーテストに合格するのはチンパンジーやゴリラといった類人猿ぐらいです。
ニホンザルとか犬は合格できません。
犬は、鏡の自分に向かってワンワン吠えるだけです。
鏡に映ってる犬を、他の犬と思ってるようです。
面白いのは、ニホンザルは、鏡の仕組みは理解してるんですよ。
自分の後ろの机にバナナがあるのが鏡で見えたら、振り向いて、バナナを取ることはできるんです。
でも、鏡に映ってるのが自分とは理解できないんです。
鏡に映ってる机やバナナは理解できるけど、自分が映ってるとは思ってないってことは、自分は机やバナナとは違うと思ってるわけです。
もっと言えば、この三次元世界に机やバナナが存在するってことは分かるけど、この自分も同じ世界にいるとは思ってないわけです。
自分は、世界の外にいると思ってるようです。
それを、ミラーテストに合格するってことは、自分もこの世界に存在するってことを理解できてるわけです。
ここで言う自分っていうのは、正確には自分の体です。
そして、それを理解するのは意識です。
意識が、鏡の中に映るのが自分の体だと理解したわけです。
つまり、自分の体は机やバナナと同じ、この三次元世界にいると理解したわけです。
それだけじゃありません。
自分がいて、鏡があって、鏡の中に自分が映ってるって関係を理解したわけです。
つまり、その時の意識の視点は、感覚としては体の外にいますよね。
外から客観的に自分を認識してるわけです。
そして、その自分の額に白いペンキがついてると認識するわけです。
だから、手でペンキを取ろうとします。
手を動かすのは意識ですよね。
つまり、このときは意識は体の中に入ってるわけです。
分かってきましたか?
ミラーテストに合格する動物は、意識が体の中に入って自分の体を制御したり、体の外に出て自分を客観的に認識したりと自由に動けるんですよ。
そう考えたら、これは、かなり複雑なシステムと言えますよね。
類人猿になって、心のシステムが大幅にバージョンアップしたわけです。
バージョンアップで何を獲得したかというと、意識の視点を自由に変更できる仕組みです。
さて、面白くなってくるのはこっからです。
意識の視点を自由に変更できるようになると、次に、何ができるようになると思います?
それは、相手を欺くってことです。
檻の中に強いチンパンジーと弱いチンパンジーがいます。
机があって、弱いチンパンジーにだけ見えるように、机の中に外バナナを入れます。
弱いチンパンジーは、バナナを取り出して食べようとすると、強いチンパンジーに取り上げられてしまいます。
そこで、弱いチンパンジーは、わざと机から離れて、何もない風を装うんです。
そして、強いチンパンジーが何もないと思って向こうを向いてる隙に、机からバナナを取り出して食べるんですよ。
つまり、相手を欺いたわけです。
さて、これ、どうやったんでしょう?
弱いチンパンジーは、相手の立場ならどうするかってことを考えたわけですよね。
そのために、意識の視点を、自分から相手に変更したわけです。
つまり、相手の視点で考えることができるから、相手を欺けるわけです。
相手の視点で考えることができるってのは、意識の視点を自由に変更できないといけません。
つまり、ミラーテストに合格できて、初めて相手を欺くことができるわけです。
話はこれで終わらないんですよ。
二回目は、強いチンパンジーは、わざと向こうを向くんです。
そうやって、弱いチンパンジーを油断させといて、強いチンパンジーは、弱いチンパンジーの動きをそっと監視するそうです。
いやぁ、大分、人間らしい心になってきましたよね。
さて、今回のテーマは、エピソード記憶です。
エピソード記憶っていうのは、いつ、どこで、何をしたかって過去の思い出のことです。
じゃぁ、エピソード記憶以外にどんな種類の記憶があるでしょう?
一つは意味記憶です。
意味記憶は、リンゴは赤いとか甘いとかって、辞書に載るタイプの記憶です。
場所や出来事に関係しない記憶です。
これ、意識の仮想世界仮説で言えば、オブジェクトのことです。
オブジェクトというのはプロパティって属性を持っています。
たとえば、リンゴオブジェクトの色プロパティは赤で、形プロパティは丸いとかです。
つまり、意味記憶ができるっていうことは、オブジェクトを記憶できるってことです。
それに対してエピソード記憶というのは過去の出来事です。
出来事というのは、いつ、どこで、誰と何をしたとかってことです。
これは、仮想世界でオブジェクトが再生される状況とか場面と言ってもいいです。
エピソード記憶の特徴は、「いつ」とか「場所」とかってデータを含んでることです。
さて、この本には、エピソード記憶は、鳥も持ってるって話が出てきました。
それは、カケスが、食べ物を蓄えておく場所を記憶してるって実験から明らかになりました。
カケスは地面に食べ物を埋めて、後から掘り出して食べます。
食べ物の中には、すぐに腐る幼虫から、長期間保存できる木の実まで、いろんな種類があります。
実験で、すぐに腐る幼虫を先に取り出して食べることが確認できました。
つまり、何を埋めたかってだけじゃなくて、「いつ」ってことまでも覚えてたわけです。
これが、カケスはエピソード記憶を持つって証拠です。
ただ、この話を聞いて、僕は正直、これはエピソード記憶とはいえないんじゃないかって思いました。
同じことを実現するには、たとえば埋めた物のオブジェクトに、場所といつ埋めたかってプロパティを持たすんです。
つまり、オブジェクトに「場所」と「いつ」って情報ももてるように拡張するわけです。
これだけのデータをもってたら、カケスと同じ行動を再現できますよね。
そして、この記憶はオブジェクトとして記憶してるだけですから、これは意味記憶です。
つまり、カケスはエピソード記憶を使ってないと言えるんです。
エピソード記憶で一番重要なのは、過去の場面として記憶することですよね。
でも、今のシステムの場合、意識が認識できるのは、今、ここで起こってる現実世界だけです。
今、ここを認識するときに使う仮想世界を現実仮想世界と呼ぶことにします。
じゃぁ、過去の場面を記憶するには、何が必要でしょう?
それは、今、ここでないことを想像する仮想世界です。
それを想像仮想世界と呼ぶことにします。
人の心のシステムは、進化によって想像仮想世界を獲得したんです。
想像仮想世界を持つことで、今、こことは違う別の時刻、別の場所で起こった出来事を想像できるようになるんです。
それがエピソード記憶です。
さて、こっからが本題です。
冒頭に語ったゴリラのマイケル、自分が捉えられた様子を手話で語りましたよね。
これ、間違いなくエピソード記憶です。
じゃぁ、ゴリラは想像仮想世界を獲得したんでしょうか?
僕はそうとは限らないと思うんですよ。
どういうことかというと、想像仮想世界を使わない方法で過去の出来事を思い出してるんじゃないかと思うんですよ。
ここで思い出すのが東田直樹さんです。
東田さんは、このチャンネルで何度も紹介してますけど自閉症の作家です。
僕は、自閉症の人は、想像仮想世界がうまく機能してないと思っています。
東田さんの本に、自分の記憶についてこう書かれていました。
「いつ、どこで、誰と何をしたかってことは覚えてるはずですけど、全部がバラバラでつながらないのです。
僕たちが困ってるのは、このバラバラの記憶が、今起こってることのように、頭の中で再現されることです。
再現されると、突然、嵐のように、その時の気持ちが蘇ります」
今の話、丁寧に読みといてみます。
まず、「いつ、どこで、誰と、何をしたかがバラバラでつながらない」っていってましたよね。
これらはオブジェクトです。
オブジェクトということは、これは意味記憶です。
オブジェクトを想像仮想世界に配置して、過去の出来事を再現したのがエピソード記憶です。
つまり、想像仮想世界がオブジェクトをまとめ上げてるわけです。
バラバラでつながらないってのは、おそらく、想像仮想世界がうまく機能してないってことだと思います。
そして、この記憶が再現されるとき、まるで、今起こってるかのように再現されるっていってましたよね。
つまり、過去の出来事が、今、ここを認識するときにつかう現実仮想世界で再現されたわけです。
普通は、過去の出来事は想像仮想世界で再現されます。
想像仮想世界で再現されるってことは、今、ここの現実とは違うってことを理解してるわけです。
言ってみれば、一歩引いて、客観的に眺めてる感じです。
映画を見てるような感じでしょう。
でも、現実仮想世界で起こることは、直接体験です。
東田さんはこう言ってます。
「再現されると、突然、嵐のように、その時の気持ちが蘇ります」と。
ねぇ。
過去の思い出なのに、今、まさに体験してるのと同じなんです。
そりゃ、その時の気持ちがありありと蘇りますよね。
想像仮想世界がうまく機能していなかったり、想像仮想世界を持つまで進化してないときのエピソード記憶って、こんな感じやと思うんですよ。
それは、何の前触れもなく、突然、再生されます。
今、目の前の現実世界に重なって、当時の出来事が、まるで、今、目の前に起こってるかのように再現されるわけです。
それが、ゴリラのマイケルにも起こったんです。
密猟者が突然現れたかと思うと、お母さんの首を切り落とします。
何が起こったのか分からず、暴れて逃げようとすると手足を縛られて棒に吊り下げられました。
あの日の出来事が、今、起こっているかのように感じたんでしょう。
その時、マイケルは手話を習っていました。
だから、その時の状況を手話で語り始めたんです。
ここも重要なポイントだと思います。
マイケルは、他のゴリラと違って、語る方法を持っていたんです。
東田さんも、普通なら、ほとんどしゃべれない重度の自閉症です。
それが、文字盤を使うことで会話できるようになりました。
同じような話は、第378回でも紹介した『みんな言葉を持っていた』の本にも書かれていました。
ほとんど動けず、しゃべることもできない重度障害者に、専用のワープロの使い方を教えたそうです。
そしたら、言葉を理解してなかったと思ってた人がワープロを使って語り始めたんです。
それも、自分の言葉でしっかりと自分の気持ちを語り始めたんです。
これには、周囲の人が一番驚きました。
だって、まさか、言葉を理解してると思ってなかったわけですから。
しかも、そんな人が何人もいたんです。
つまり、言葉を理解してないと思われていた障害者の多くは、実は、表現できないだけで、ちゃんと周囲の言葉を聞いて理解してたってことがわかったんです。
ここからわかるのは、言葉での表現は、一番最後だってことです。
頭の中には表現したいことがあっても、それを表現する手段がないと、表現できないわけです。
ゴリラのマイケルも、手話を教えたから、思い出を語ることができたわけです。
もしかしたら、語る手段を持ってないだけで、言葉を理解してる動物って、意外と多いのかもしれません。
はい、今回の話はここまでです。
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それから、今回取り上げた意識の仮想世界仮説に関しては、こちらの本で詳しく語ってますのでよかったら読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!