第396回 孫泰三 冒険の書


ロボマインド・プロジェクト、第396弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

今回は、珍しく教育関係の本を紹介します。
この本、孫泰三さんの書いた『冒険の書 AI時代のアンラーニング』です。

孫泰三さんは、ソフトバンクの孫正義社長の弟で、パズドラで有名なガンホーの創業者でもあります。
この本は、教育の歴史を掘り起こして、人間の本質とは何かとか、生きる上で何が一番大切かってことを問い直す本です。
「今から勉強しても遅いのか」とか、「好きなことだけして生きていけるのか」って危ないテーマがバンバン出てきます。
なぜ、このテーマが危ないかというと、今までの自分の生き方を否定しかねないからです。
そんなとこに目を向けないで済むように、この社会はできてるんですよ。
そんな社会の仕組みを、どんどん暴いていくのがこの本です。
それだけ、この本は危険な本です。
これが、今回のテーマです。
孫泰三 冒険の書
それでは、始めましょう!

まずは、歴史を紐解いていきます。
現代に続く価値観とか、考え方って、たいてい17世紀ぐらいから始まります。
僕が良く取り上げる科学革命も17世紀に起こって、その後、産業革命が起こって、工場で働くサラリーマンって生き方が生まれました。
近代教育の父とよばれたコメニウスも17世紀の人です。

コメニウスは30年戦争で妻や子供を失って、こう思ったそうです。
「全ての人に世界のあらゆることを教え、立派な人間に育てるしか、社会の混乱を収めることはできない」
それで書いたのが教科書や百科事典のルーツとなった『世界図絵』です。

この考えの根本にあるのは、教育しなければ、人は欲望のままに生き、自分勝手に人間になるという考えです。

このころから、社会は急速に近代化されてきました。
ミッシェル・フーコーは『監獄の誕生』の中で、このころ生まれたパノプティコンを取り上げました。

それは中央の監視塔から常に全体を監視するシステムです。
囚人らに、常に監視されてると思いこませることで、おとなしく服従させるわけです。
フーコーは、この仕組みが、教育や医療で見られる管理システムのルーツだって言います。
学校は、監視、賞罰、試験というメカニズムを使って、自ら権力に服従する生徒を生み出す巨大なシステムというわけです。
なんか、教育というより、工業製品を生み出す考えですよね。
じつは、その考え、まんざら外れてないんですよ。

19世紀になると、粒をそろえた方が効率的に教育できるということで、同じ年齢の子供たちでクラスを作る学年制が生まれました。
これは、当時最先端だった工場の分業システムを教育に応用したものです。
17世紀に始まった教育が、産業革命が起こったイギリスで、ほぼ今の形に完成したわけです。

それじゃぁ、その前は、どうなってたんでしょう。
じつは、それまでは子供がいませんでした。
中世のヨーロッパでは、子どもは7,8歳になると奉公に出て、大人と同じように扱われました。
当時は赤ん坊の三人に一人は死んで、7歳以下の子どもは動物と同じ扱いでした。
このころは、子どもも大人も同じ空間で同じ仕事をして、区別されることはありませんでした。
つまり、子どもって概念は存在しなかったんです。

それが17世紀になると、子どもは、「けがれを知らないピュアな存在」という考えが生まれました。
さらに、学校が生まれて、子どもと大人が別の空間で過ごすようになりました。
愛され、教育が施されるべき「子ども」が発明されたわけです。

じゃぁ、学校教育は何を生み出したでしょう。
まず、学校では授業と休み時間を分けました。
ここで「遊び」と「学び」の区別が生まれました。
遊びは楽しいもの、勉強は我慢してするものって対立した考えが生まれました。
そんな風に分けなくても、好きなことを夢中になって学べる環境のほうがいいと思いますよねぇ。

それから、学ぶのは子供、大人は働くって区別も学校教育が生み出しました。
でも、大人になって学んでもいいと思いますよねぇ。

孫さんの指摘は、教育に対する思い込みにもメスを入れます。
たとえば、語学とか音楽、スポーツとか、早期教育が重要だっていいますよね。

そう思ってオリンピック選手が競技を始めた年齢を調べてみると、平均すると、どの年代も満遍なくいることが分かりました。
早期教育が重要の根拠となったのは、脳細胞や神経細胞の研究から言われたことです。
それが人間の学び全体に通じるっていうのは、論理の飛躍で、ほとんど迷信だそうです。

それから、基礎が重要だっていいますよね。
サッカーだったらドリブルやパスの練習で、絵画だったらデッサン、言語だったら文法とか。
基礎をしっかりできてから応用に進むって考えです。
孫さんは、これも間違いだっていいます。

基礎訓練って、余計なものをそぎ落とした退屈なものです。
初心者は、楽しそうだから始めるわけです。
それなのに、退屈な訓練だけさせられたんじゃ、すぐに止めてしまいます。
これじゃ意味がないですよね。
そうじゃなくて、初心者は応用から始めるべきなんです。
一番楽しいとこをやって、さらに上達するためにするのが基礎です。
つまり、基礎は中上級者がやるべきことなんです。
たしかに、その通りですよね。

それじゃぁ、理想的な教育ってどういうものでしょう?
そこで、ルソーの『エミール』を取り上げます。
子どもは、誰もが、素晴らしいものをもって生まれてきています。
ルソーは、それが、文明社会で生きているうちに、どんどん損なわれるって言います。
そんな教育は間違いです。
じゃぁ、正しい教育ってどういうものでしょう?
それは、庭師のようなものだって言います。
種の中には、花の素が入ってます。
植物が持つ花を咲かせる能力を邪魔せず、補助するのが庭師の役目です。
育つ環境を整えれば、やがて、美しい花が咲くんです。
教育の役目は庭師と同じです。
その子の持つ魅力を最大限引き出して、その子らしい花を咲かせるんです。
これこそが、教育のあるべき姿です。

でも、今の教育はそうなってません。
じゃぁ、その一番の元凶が何かわかりますか?
それは「能力」って信仰です。

かつての社会では、人の地位は、家系で決まりました。
そんな社会は不公平です。
家系とかでなく、その人のもつ能力で決めるべきです。
これが能力主義です。

でも、この能力主義の現代社会で、みんな、幸せになったでしょうか?
なってないですよねぇ。
じゃぁ、どこで間違えたんでしょう?
それについて考えてみます。

能力って社会の役に立つために使いますよね。
だからみんなが能力を高めると社会全体が良くなるわけです。
それから、その人の能力を評価するのも社会とか他人です。
つまり、能力を高める目的は、他人に評価されるためです。

問題は、ここなんですよ。
他人の評価って、たとえば試験に合格するとか、コンテストで入賞するとかです。
失敗すれば今までの努力が無駄になります。
さらに、能力がないってレッテルを貼られます。
これじゃぁ、誰も挑戦しなくなって、誰も幸せになれません。
幸せになれるのは、最後まで勝ち残った一部の人だけとなります。

この問題の原因は、社会の役に立つ能力を中心に組み立てたことです。
でも、これからの時代、役に立つ仕事って、人間だけでなく、AIがやってくれます。
今でも工場の労働はロボットがやりますし、今後は農業や、サービス業もAIやロボットがやるようになるでしょう。
さらには、医療や、法律といった分野もAIが行うようになります。
そうなってくると、能力を中心に社会を組み立てる必要なんかありませんよね。

じゃぁ、どうすればいいんでしょう?
もう一回、原点に戻ります。
その人にとって、何が一番幸せでしょう。
それは、その人が持ってる花を咲かせることです。
それは、他人や社会が決めることじゃなくて、その人が本来もってる才能です。
でも、それってどうやったらわかるでしょう?

それを一番わかってるのが、文明に汚される前の幼少期の子どもです。
たとえば、僕は、小学校の頃、工作に夢中でした。
みんなが外で野球してても、そんなの全く興味なくて、僕は家に帰って一人で工作してました。
ただ作るのが楽しくて夢中でやってただけです。

そこに、将来の夢とか勝手に当てはめるのが親とか大人です。
せっかく成長しようとしてるのに、いい学校に行った方がいいって言い出すんです。
これが、おかしいってわかりますよね。
好きでやってるだけなのに、勝手に目的を持たされて、やりたくない勉強やらされるわけです。
今まで、ぐんぐん成長してた植物も、成長が鈍くなってしまいます。
これが今の社会がやってることです。

それから、「そんなことやって、何の役に立つの?」とか、「無駄なことしないで、役に立つことしなさい」とかいう人もいます。

でも、役に立つことは限られています。
役に立つこと=仕事の種類です。
それに対して、楽しいこととか、夢中になれることの方が圧倒的に多いです。
だから、好きなことだけで生きていくことはできないんです。

でも、それは今までの社会です。
これからは、社会で最低限必要な仕事はAIがやってくれます。
そうなると、人は、好きなことだけして、何かあたらしいものを生み出すかもしれません。
そうなったら、それを面白がる人も集まるでしょう。
人が面白がるってことは、それは、人の役に立ってるわけです。
つまり、好きなことだけして、人に役に立てる社会になるんです。

ただ、ここで重要なのは、役に立つぐらいになるには、それなりの時間が必要だってことです。
何年も継続する必要があります。
でも、どうやったら、好きなことを何年も続けることができるんでしょう?
じつは、僕は、気が付いたら、そんな生き方をしていました。
そこで、最後は、僕の経験をお話します。

僕も昔は普通のサラリーマンでした。
それが、30になった時、好きなことをして生きていこうって決めました。

当時は特許事務所で働いてて、仕事はそれなりに楽しかったんですけど、自分しかできないことやろうって思ったんですよ。
その時思い出したのが、大学時代、夢中になってたことです。
キーワードは、夢中になれる事です。
夢中になれることは、子どもだけのものじゃありません。
大人でもあります。

さて、僕が大学時代に夢中になっていたのは、面白さについての研究でした。
面白さの原点は物語とかストーリーにあるって思ったんです。
研究と言っても、趣味で研究してただけですけど。
物語の構造ってのを研究して、面白い物語を自由に作りたいなぁって思ったわけです。

30のとき、そのことを思い出して、あれをコンピュータプログラムで作りたいなぁって思ったんですよ。
そんな仕事がしたいなぁって思って、調べてみたんですけど、そんな仕事があるどころか、そんなことやってる人は誰もいませんでした。
やりたいことがあっても、それにあった仕事がないわけです。
必ずしも、やりたいことができる仕事が存在するわけじゃないってことです。

それで、大学で学ぼうかとも思ったんですけど、僕がやりたいことを研究してる大学もなかったんですよ。
それで、独学で研究することにしました。
もし、ここで大学に入ることが目的になってたら、面白くない受験勉強してたと思います。

さて、プログラムを作ると言っても、今まで作ったこともありません。
だから、まずはプログラムの勉強を一から始めました。
これ、さっきの話でいくと、応用から入って、基礎に進むと同じですよね。
楽しい応用をするために、基礎が必要ってわかるから、面白くなさそうな基礎学習も楽しめるわけです。

さて、物語を作るには文の意味を理解できないといけないんですけど、じつは、言葉の意味って、未だに定義できてないってわかったんですよ。
なんでできないかって根本を考えると、それは心や意識がないからって結論になりました。
そこで、心や意識について調べたんですけど、これも、まだ解明されてません。

誰もできてないから、それであきらめるっていうのが、今までの時代です。
でも、それじゃぁ、新しいものは何も生まれません。

意識の謎は解明されてないそうですけど、たぶん、僕なら、解明できるだろうって思ったんですよ。
解明するのは、僕の得意分野なんです。

僕は、特許の仕事をしてたんで、いろんな分野を広く深く理解するのが得意でした。
それから、理解した内容を分かりやすく説明するのも得意なんですよ。
会社で、この技術はこんな風になっていて、どんなとこで使われてるって、みんなによく説明してました。
そういうのが楽しかったし、みんなも喜んで聞いてくれてました。

じつは、こういうとこも重要なんです。
やってて楽しくて、みんなも喜んでくれること。
そういうとこに、その人の隠れた才能があるものです。

だから、意識の謎も考えたら解明できるって思ったんですよ。
ただ、それには集中して考える環境が必要です。
それで始めたのが、YouTubeです。
週二回、YouTubeに動画を上げることで、強制的に考えないといけない環境を作ったわけです。
難しい話を、分かりやすく説明するのが得意なので、YouTubeは僕に合ってました。

ただ、チャンネル登録とか再生回数を伸ばすことを目指すと意味がありません。
どんな動画を上げたら延びるかは、だいたい分かってきました。
でも、それをやっちゃダメなんです。

目的が違ってくるって言うのもあるんですけど、もっと重要なことがあります。
それは、それを目指すと、自分の評価を他人に預けることになるからです。

いいですか。
今の教育の問題は能力主義でしたよね。
能力主義の一番の問題は、自分の価値を他人が評価することです。
でも、あなたが何が好きで、何が得意かってことは、自分が一番わかってるはずです。
一番大事にしないといけないのはそれなんですよ。
その一番大事な物を、他人に預けたらだめなんですよ。
それをすると苦しくなるんですよ。

他人の価値観、他人の評価じゃなくて、自分の価値観で生きるんです。
それを死守するんです。
そうしたら、好きだから、楽しいから長く続けることができます。
そうやって何年も続けてたら、気が付いたら評価してくれる人も現れます。
自分から求めなくても、自然と現れます。
好きなことを続けてたら、気が付いたら、人の役にたってるんです。

これがこれからの新しい生き方です。
そういう生き方ができる環境を整える事、それが、これからの教育に必要なことです。
他人の評価なんか気にせず、あなたが、一番、楽しいと思うことをやってください。

今回の動画が、何か、ヒントになればいいと思っています。
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それから、僕が取り組んでる研究は、こちらの本に書いてあるので、良かったら読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!