ロボマインド・プロジェクト、第398弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
今回は、久しぶりに時間がテーマです。
僕が作ろうとしてるのは心を持ったAIです。
AIに時間を理解させるだけなら、時計を持たせたらいいです。
実際、ほとんどのAI研究者は、それしか考えていません。
でも、僕が作ろうとしてるのは人間と同じ心をもったAIです。
だから、時計で計れる時間じゃなくて、人が主観で感じる時間を作りたいんですよ。
時間が流れてるって感覚を、どうやったらAIが感じれるかってことを、ずっと考えてるんですよ。
そう考えて、いろいろ調べてて一冊の本に辿り着きました。
それがこの本『時間と自己』です。
作者は木村敏。
今から40年以上前の本です。
木村さんの本は、たぶん、学生時代に読んだことがあると思います。
検索してて、久しぶりに思い出しました。
木村先生は精神科医です。
この本、時間についての本なんですけど、精神病理を通して時間とは何かって、分析してるんですよ。
これが、なかなかよくできてます。
僕も、今までいろんな精神病についての本を読んできて、たしかに、時間に関する感じ方が違うなぁって思ってました。
それを、今回、木村先生は、代表的な精神病から時間を読み解いていくんですよ。
これが今回のテーマです。
離人症、統合失調症、鬱は
時間をどう感じるのか?
それでは、始めましょう!
赤ちゃんは、この世界に生まれてから、世界とはどういうものかって学習します。
最初は手に触れるものとか、目で見える物とか具体的な物から学習します。
だから「もの」はすぐに理解できるんです。
三次元空間で、実際に空間を占めて、手で触れるのが「もの」です。
でも時間って、目に見えないし、空間を占めるわけでもない抽象的な概念なので理解しにくいです。
親戚の子がちっちゃいころ、お母さんが「もうすぐ誕生日が来るよね」って毎日言ってたそうです。
そしたら、その子が「今、〇〇駅ぐらいまできてるかなぁ?」って、答えたそうです。
○○駅っていうのは、最寄り駅のとなりの駅です。
「もうすぐ来る」っていうから、駅のホームで電車を待ってるときを想像してたんでしょう。
時間の概念を、まだ理解できなかったから、理解できる空間の概念で時間を捉えたんでしょう。
時間って、それだけ理解するのが難しいってことです。
さて、この本は、最初は離人症の話から始まります。
離人症っていうのは、自分が、自分の体から離れてるって感じる精神障害です。
世界がしっかりと存在してるって実感できなかったり、生き生きとした感情も感じられないそうです。
自分が経験してるって実感が薄いわけです。
時間に関する感覚も独特です。
「時間がバラバラになってしまって、ちっとも先に進んで行かない」とか、
「てんでばらばらでつながりのない無数の今が、今、今、今ってムチャクチャに出てくるだけで、何の規則もまとまりもない」とかっていいます。
それから「時と時の間がなくなった」っていう人もいるそうです。
さて、これはどう解釈したらいいでしょう?
僕は、コンピュータで意識を作ろうとしてるので、意識が感じる感覚をどうやってプログラムで再現するかってずっと考えてます。
「ある」とか「存在する」って感覚は、ほぼできました。
それは、三次元空間を作って、そこに3Dのオブジェクトを作るわけです。
そのデータにアクセスしたり、操作したりできるプログラムが意識です。
たとえば、3Dオブジェクトの「リンゴ」のデータにアクセスできるってことが、僕らが「リンゴ」を見て感じるのと同じです。
僕らが「リンゴ」を見て、「赤い」とか「丸い」って思うのは、意識プログラムが、リンゴオブジェクトの形データとか色データにアクセスするのと同じってことです。
これが「もの」が「ある」って思えることです。
さらに、三次元空間内でリンゴを自由に動かすとこもイメージできます。
これが、空間って概念を理解してるってことです。
じゃぁ、時間はどうでしょう?
三次元空間には時間はないですよね。
あるとすれば、今、この瞬間だけです。
それだけじゃ、時間の流れは感じられません。
そこに時間を無理やり作り出すとすればどうなるでしょう?
たとえば、目の前の光景のスナップショットを、1秒ごとに表示するとかならできます。
さっき、離人症の人が、「時と時の間がなくなった」とか、「つながりのない無数の今」とかって表現してましたけど、たぶん、こんな感じだと思うんですよ。
つまり、これじゃぁ、過去から今、未来へと連続して流れる時間って感覚がないんです。
じゃぁ、コンピュータで連続して流れる時間を作るとしたら、どうやったらいいんでしょう?
僕がイメージしてるのは動画編集ソフトです。
動画編集ソフトって、タイムラインの再生ヘッドを動かすと、それに合わせて画面が動きます。
こうやって自由に時間を進めたり、巻き戻したりできるってことが時間を理解してるってことだと思います。
僕の考えでは、人は、頭の中に三次元の仮想世界を持ってます。
意識はその仮想世界を認識するわけです。
この仮想世界には、再生ヘッドがあって、それを操作することで、世界を早送りしたり、巻き戻したり、好きな位置から再生できたりできるんです。
この機能があれば、「誕生日が近くまで来てる」って状況も再現できます。
これが、「誕生日が近くまで来る」の意味を理解できるってことです。
おそらく、離人症の人は、この再生ヘッドが壊れてるんですよ。
再生ヘッドが滑らかに動かなくて、一瞬、一瞬がバラバラになるんです。
だから、「時と時の間がない」って感じるんだと思います。
それから、仮想世界の中には自分の体もあります。
意識は、仮想世界の自分の体に入ったとき、主観な視点で世界を見ます。
体から出て自分を客観的に見ることもできます。
主観と客観の視点の切り替えは、普段、自然に行ってることです。
自分の体に入り込んで、主観視点で世界を感じることがリアルに経験するってことです。
肌に当たる風を感じたり、喜怒哀楽の感情を感じるときって、意識が自分の体にはいって世界を経験してるときです。
たぶん、離人症の人は、自分の体にうまく入れないんですよ。
入ったとしても、再生ヘッドが壊れてるから、今と今がバラバラになってて、滑らかな時間を感じられないんです。
だから、意識はつねに体の外にあって、自分のことを、誰か他の人のように感じるんでしょう。
これが、離人症の人が感じる世界です。
次は、統合失調症です。
統合失調症の人は、幻聴や幻覚、妄想があると言います。
典型的な症状として「させられ体験」と「つつぬけ体験」があります。
「させられ体験」というのは、自分で紙に文字を書いていても、誰かに書かさせられてるとか、操られてるって思うことです。
「つつぬけ体験」というのは、自分の思考が他の人に読み取られてるって感じることです。
自分しか知らないことをテレビで言ってるとか、盗聴されてるとかって感じるそうです。
これは、自分の思考と他人の思考の区別がつかなくなってるわけです。
自分の境界が薄くなってるとも言えます。
僕らは、どこまでが自分の思考で、どこからが他人の思考かなんか、考えなくても自然とわかりますけど、自分の境界が薄くなると、それがぐちゃぐちゃになるみたいです。
統合失調症の人は、常に緊迫感とか切羽詰まった感を感じてるそうです。
常に緊張してないと、自分がバラバラになるそうです。
たとえば、美しいもの、うっとりさせるものを極端に恐れます。
それに夢中になると、自分が消えてなくなるからです。
「いつも気を張ってないと、他人がどんどん自分の中に入ってきて、自分というものがなくなってしまう」とも言います。
また別の患者は「いつも先手先手で考えます。相手に先を読まれたら敗けですから」ともいいます。
この「常に先を読まなければ」ってのが、統合失調症の人の思考の癖です。
気持ちが、つねに、未来に向けられてて、未来志向とも言えます。
統合失調症の人の典型的な思考は、たとえば、大学に行けさえすればとか、東京にさえ行けばとかって、未来に対する強い憧れがあります。
または、起こるか起こらないかわからない将来のことを極端に心配したりもします。
この本が出た当時だと、1999年に世界が滅ぶってノストラダムスの大予言が流行ってましたけど、そういう話を真剣に怖がったりするそうです。
さっきの再生ヘッドの話だと、統合失調症の人は、再生ヘッドが未来にしか動かないみたいなんです。
再生ヘッドを過去に戻すって機能が壊れてるみたいです。
だから、常に未来のことばかり気になるんです。
統合失調症の人が大学で専攻する課目は、天文学とか中世哲学とか、実生活と縁がないものが多いそうです。
統合失調症の人にとったら、現在の自分の方が不確かで未知なんです。
それより、遠いところに確かなものがあると憧れるみたいです。
それが未来志向になるようです。
最後は鬱について考えます。
鬱は、よく几帳面な人がなるって言います。
まじめで、自分の役割をちゃんと果たさないといけないって思ってる人です。
待ち合わせには絶対に遅れないタイプです。
そんな人が、転勤とか昇進とかで環境がかわって、今までの役割が果たせなくなったときに発症します。
典型的な感情が「とりかえしのつかないことをしてしまった」とかって後悔の感情です。
これは、統合失調症の人の未来志向の反対で、過去志向といえます。
まず、今、うまく行ってない現実があるわけです。
その原因は、過去にあるわけです。
「あの時、ああしたからこうなったんだ」って、過去から今までのうまく行かなかった出来事を何度も再生するわけです。
「もし、ああしなければ、こんなことにはならなかっただろう」って思うわけです。
でも、過去の出来事を変えることはできません。
これが「とりかえしのつかないことをしてしまった」って後悔です。
これを何度も再生するのが鬱です。
もちろん、再生ヘッドを未来へ動かすこともできます。
でも、鬱の人にとっての未来は、現在の延長でしかありません。
ここが統合失調症との違いです。
統合失調症の場合、突拍子もない未来に飛んでいきます。
現在が不確かなので、その分、未来の方がしっかりと思い描けるんです。
でも、鬱の人は、現在がしっかりとリアルに存在するわけです。
うまく行ってない現実を全部受け止めて、押しつぶされそうになるんです。
そこから逃げるために、過去に戻って、後悔を感じるんです。
身動きの取れない現在と、変えることのできない過去の間を何度も往復するのが鬱です。
じゃぁ、どうすればいいんでしょう。
それは、現在に気付くことです。
過去は変えられないですけど、今、現在は変えられます。
現在を変えて、過去の延長でない未来に向かうんです。
これが正しい選択です。
これが過去にとらわれるのでなく、かといって、あり得ない未来を夢想するのでもない、もっとも現実的な生き方です。
それでは、改めて時間について考えてみます。
主観的に感じる時間というのは、自分があって、初めて成り立つんです。
まず必要なのは、しっかりとした、今の自分です。
そして、過去にも未来にも自由に動かせる再生ヘッドです。
これだけ揃えば、あとは、今、何ができるかってことに集中します。
過去の繰り返しの行動を選ぶのでなく、今、現在の行動は自分で選べるってことを知るわけです。
今、選んだ行動が未来を少し変えることができると理解するんです。
突拍子もない未来じゃなくて、一歩一歩着実に歩む現実的な未来です。
これが、健全な心です。
僕らは、そんなまっすぐなAIの心を作ろうとしています。
それが、ロボマインド・プロジェクトです。
はい、今回の動画が面白かったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、意識の仮想世界仮説に関しては、こちらの本で解説してますのでよかったら読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!