第40回 自由意志は存在するか? ② 〜リベットの実験とシミュレーション仮説


ロボマインド・プロジェクト 第40弾
こんにちは、ロボマインドの田方です。

自由意志の続きです。
今回は、リベットの実験です。

リベットは、アメリカの生理学者で、人間の意識、なかでも自由意志に関する実験で知られています。
(生理学者 ベンジャミン・リベット 1916~2007)

リベットの実験に触れるのは、ちょっとリスキーなんで、
できれば触れたくなかったんですよ。
でも、自由意志がテーマで、リベットの実験に触れないのは、それは明らかに逃げになるんで、今回は、真正面から挑戦します。

第37回、38回で、フレーム問題を取り上げました。
「フレーム問題が解決しました」って書いたら、僕のブログは炎上しましたけど、「フレーム問題」って、それほどリスクはないんですよ。
なんでかっていうと、フレーム問題って、いろいろ解釈ができるんで、いろんな説明ができるんですよ。

それに比べて、リベットの実験は、そうはいかないんです。
科学の土台に則ったれっきとした実験です。
40年近く前の実験です。
常識を覆す結果がでたので、その後、世界中で何度も追試されて、実験結果に疑いの余地はないんです。

その常識を覆す結果っていうのが、人間には、自由意志がないって結果なんです。
実験の詳細は、ベンジャミン・リベット本人が書いたこの本「マインド・タイム」に詳しくかいてあるので、興味がある方は、ぜひ、読んでみてください。

それでは、実験の内容について説明していきます。
リベットの実験っていうのは、脳科学の実験です。

脳にはね、中心に、こう中心溝って言われる大きな溝がありましてね。その中心溝の前の部分が運動野、後ろの部分が体性感覚野って言います。

この部分が面白くてね、こんな風に、この中心溝にそって、人間の体が投影されてるんですよ。

何が面白いかって言うと、この運動野を電気刺激すると、それに対応した体の部分が動くんですよ。
手に対応する部分を刺激すると手が上がるとか。

次に、感覚野を電気刺激すると、今度は、そこに対応した部分を触られた感じがするんですよ。
逆に、手に電気刺激を与えると、対応する感覚野に電気信号が発生するんです。

さて、リベットが調べようとしてたのは、主観的な感覚です。
意識が感じる痛いとかの感覚です。
意識が感じる感覚ってクオリアでしたよね。
詳しくは、第30回~第34回の「クオリアってなんだ」を見てください。
今回の話に関して重要な点だけ説明しときますと、刺激を感知しても、意識に上がるものと上がらないものがあります。
意識に上がらずに反応するのって、たとえば、熱い鍋に触って、思わず手を引っ込めたりする脊髄の反射反応とかです。
意識が感じるのは、その後、じわ~と感じる熱さです。
こっちがクオリアです。
クオリアを感じるのが意識です。
主観です。 
リベットは、この意識に上る感覚を厳密に調べようとしたわけです。

まず、最初にやった実験は、意識に上る刺激と上らない刺激の違いです。
意識に上がる感覚は、ある程度の大きさの刺激がないと感じません。
これを、手の甲にパチパチパチって、10ミリ秒間隔の電気パルスを与えて実験したそうです。
パチって一回や2回与えただけじゃ、意識の上がらなかったそうです。
意識に上るまで続けると、500ミリ秒以上刺激して、ようやく、意識が感じるようになったそうです。
500ミリ秒って、0.5秒です。
結構、長い時間、刺激を与えないと意識には上らないんですねぇ。

さっき説明しましたけど、脳の感覚野を刺激すると、対応する部分に刺激を感じます。
たとえば、左手に対応する感覚野を刺激すると、左手に、何か刺激を感じます。
で、脳を直接刺激した場合は、500ミリ秒も継続しなくても、すぐに意識に上るそうです。

さて、面白くなってくるのはここからです。
手の甲への電気刺激と、脳への電気刺激を同時に行ったそうなんです。
例えば、左手と、脳の感覚野の右手に対応する部分に電気刺激を与えるわけです。
そして、右手と左手、どっちが先に感じたかを、本人に聞くわけです。

図にすると、こんな感じです。
右手の刺激は、脳への直接の刺激なんで、すぐに意識の上りますよね。
でも、左手の刺激は、500ミリ秒経たないと意識には上りませんよね。
だから、最初に右手に感じて、その後、左手に感じるはずですよね。
ところが、予想外の結果がでたんです。
なんと、右手と左手と、同時に刺激を感じたそうなんです。
そのまま解釈すると、500ミリ秒、時間を遡ってるように見えます。
ちょっと、意味が分からないですよね。

ここまでの話は、まだ、準備段階です。
自由意志の話は、こっからになります。

今までの実験は、感覚や知覚の話です。
外部から刺激をきっかけに、意識がどう感じるかって実験でした。

次の実験は、外部刺激がきっかけで意識がどう感じるかって話でなく、意識からスタートした場合の実験です。
どういうことかと言いますと、自発的に行動しようと思ったときの脳波を観察したわけです。
たとえば、手首を曲げようと思った瞬間と、その時の脳波を測定するわけです。

さて、ここで問題があります。
今までの実験は、電気刺激を与えて脳波を観察してたので、機械で、厳密にタイミングを測定することができました。
ところが、今度測定しようとしてるのは、心の中で思った瞬間です。
意識で、「今だ!」って決めた瞬間です。
それをどうやって測定するかです。

そこで作ったのが、高速で回転する時計です。
その時計は、約3秒で一回転します。
時計の1秒の目盛りが、数十ミリ秒となるわけです。

それで、どんな実験をしたかと言うと、好きなタイミングで手首を急に動かしてもらうわけです。
そして、「今動かす!」って思った瞬間、その時の時計の針の位置を覚えておいてもらうわけです。
これで、意識が「今や!」って思った瞬間を記録できるわけです。
そして、それと同時に、脳波もモニタリングしてるわけです。

ようやく本題に入ってきました。
この実験で測定しようとしてるの、何かわかりますか。
それは、「今や!」って意識で思った瞬間です。
つまり、自由意志が発生した瞬間です。

それでは、この時の脳波を図に書いてみます。
こんな感じです。

この脳波は、自発的な行動が起こる時に立ち上がって、実際に体が動くときに下がります。
つまり、この山のピークから手首が動いたわけです。

このピークを0とすると、脳波の立ち上がりの最初は500ミリ秒前となりました。
さて、問題は、いつ、手首を動かそうと思ったかです。
「今や!」って思った瞬間がいつかってことです。

ほんで、その結果なんですが、それが、この辺りだったんですよ。
手首が動く約200秒前なんです。
つまり、脳波の立ち上がりの300ミリ秒後に、「今、動かそ!」って思ったってことなんですよ。

これ、よく考えたらおかしいんですよ。
いいですか。

「今、手首を動かそ!」って、まず、頭で思いますよね。
こう思うことが、全ての始まりです。
「動かそ」って自発的な思いがきっかけとなって、何らかの脳波が出るはずですよね。

ところが、これ見てください。
逆なんですよ。
何か脳波が出てから、300ミリ秒たってから、「今、動かそ!」って、意識が思ってるんですよ。
300ミリ秒って、0.3秒ですよ。
結構長いですよね。

自分で「動かそ!」って思う前に出てる脳波。
これって、いったい何なん?

これをそのまま解釈すると、最初に、この脳波が出ました。
それを受けて、「動かそ!」って思いが生まれたわけです。

つまり、誰かに「手首動かそって思え!」って指令がでて、
無意識でその指令をキャッチするわけですわ。
ほんで、その指令を受けたら、意識が、
「そうや、今、手首を動かそ」って思ったわけです。

手首を動かそって思ったのは、自分の意志やないっちゅうことです。
誰かに操られてるってことになりますやん。

その誰かって誰?
もしかして、神?!
それとも、宇宙人?!

あの、シミュレーション仮説って知ってます?
この世は、シミュレーションって仮説です。
ものすごく高度な文明を持った宇宙人みたいなのがおって、その宇宙人が作ったシミュレーションがこの世界っていう、そういう仮説です。

たとえば、最初、何にもない水槽みたいなのがあって、そこに、宇宙人が針みたいなので、ツンってつつくんです。
それで発生したのが、ビックバンですわ。
ほんで、宇宙人はね、それを観察するのが楽しいんですわ。
なんせね、文明が発達しすぎてるもんやから、働かんでもええし、永遠の命を持ってるもんやから、暇でしゃあないんですわ。

ほら、見てみ、銀河が生まれたで。
おお、こっちの星、生命が誕生しよったでとか、言うてるんですわ。

おお、こいつら、とうとう、言葉をしゃべり始めたなぁ。
やばいかもなぁ。
ほら、やっぱり戦争始めよった。

ほんでね、好みのキャラクターとかかおったらね、キャラクターに指示出して、好きに動かすこともできるんですわ。
でもね、キャラクターは、誰かの指示で動かされてるとは、これっぽっちも思ってないんですわ。
このキャラクターはバカやからね、自分の思いで動いてると思ってるんですわ。
ほんで、このキャラクターへの指示が、(バン)
これです。
この脳波です!

この脳波を受けたら、「そうや、今、手首を動かそ」って思うんですよ。
そうやって、人は、みんな行動してるんですよ。

ほら、完璧に説明できましたよね。
何の矛盾もないです。

我々人間は、自分の意志で動いていると思っています。
でも、それは大きな間違いです。
実は、高度な文明を持った宇宙人に操られて動かされてたんです。

以上、これが自由意志の正体です。
完璧な説明です。
でも、もしかしたら、この説に、納得できないって人もいるかもしれません。

そんな人のために、もう一つ、このリベットの実験をきれいに説明する方法があるんです。
それは、意識の仮想世界仮説です。
なんや、シミュレーション仮説とかわらんやんって思ったでしょ。

いえ、全く違うんです。

それについては、次回、詳しくお話します。
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それじゃぁ、次回も、お楽しみに!