第403回 あなたの脳が、物語にひきつけられる理由


ロボマインド・プロジェクト、第403弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

今、ハリウッドでストライキが起こってるって知ってますか?
ストライキの一つが、米脚本家組合です。

脚本家組合が求めてるのは脚本をAIに作らせないってことです。
AIに脚本家の仕事が奪われるってことを危惧してるわけです。

たとえば、最近はChatGPTで簡単に物語を作れます。
ChatGPTに、「宇宙人が地球に攻めてきて人類を滅ぼす物語を書いて」っていえば、すぐに、それらしい話を作ってくれます。

もう、ここまでできるんやって、僕もびっくりしました。
ハリウッドの脚本家が恐れるのも無理ないです。
たとえば、今までの面白い脚本を大量に学習させたら、いくらでも面白い脚本が生成できます。
やり方は、物語を自動でいくつか生成して、対決させて、面白い方を残すわけです。
そうやって勝ち残った面白い物語同士を掛け合わせてさらに面白い物語を生成します。
それをさらに対決させてって繰り返せば、究極に面白い物語が最後に残りますよね。
そんなことされたら、そりゃ、脚本家はみんな失業してしまいます。

でも、脚本家の皆さん、安心してください。
そうはならないですから。
なんでかって言うと、ChatGPTとかの大規模言語モデルがやってることって、単語の次に来る単語を予測してつなげて文章を生成するだけですから。
これで、文法間違いのない自然な文は作れます。
でも、文脈とか、ストーリー展開とか、どうなったら物語が終わるとか、そんなことは理解してません。
まして、物語が面白いかどうかなんか判断できません。
実際、ChatGPTで物語はいくらでもつくれますけど、それを夢中で読むなんてことないですよね。

それじゃぁ、面白い物語をAIで作ることはできないんでしょうか?
それをするには、まずは、物語とは何かを解明しないといけません。
つまり、僕らが夢中になって物語を読んでるとき、脳内で何が起こってるかです。
僕も、これをずっと考えてたんですけど、なかなか分からなかったんです。
ところが、この前から紹介してる本『学ぶ脳』にこのことが書いてあったんですよ。

これが今回のテーマです。
あなたの脳が、物語にひきつけられる理由
それでは、始めましょう!

物語の理解には前頭前野が関係します。
前頭前野は大きく三つに分かれます。

一つは、赤く囲った内側前頭前野です。
脳は右脳と左脳に分かれていますけど、その間の内側の部分です。
もう一つは、青色で囲った外側の外側前頭前野です。
最後の一つが緑で囲んだ眼窩前頭前野です。
目のすぐ上の部分です。

前頭前野は知能を司っていて、生命維持には直接関係ありません。
このチャンネルでも何度か紹介したフィネアスゲージは、鉄道工事で、目の下から1mの鉄棒が突き刺さって、眼窩前頭前野を損傷しました。

これだけ大きな事故だったのに、後遺症はほとんどなくて半年後には元の仕事に復帰したそうです。
ただ、性格がガラッと変わっていました。
以前は思慮深い紳士だったのが、女性に下品な言葉を投げかけたり、儲け話に簡単に騙されたりするようになったそうです。
どういうことかというと、眼窩前頭前野というのは、衝動的な欲望を抑える機能があります。
フィネアスゲージは、この部分を損傷したので、衝動を抑えきれずに行動するようになったわけです。

それでは、外側前頭前野にはどんな機能があるでしょう。
ここは、カテゴリー化や分析的思考にかかわります。
僕らは、イヌやネコを見分けることができますよね。
これは多くのイヌやネコを見ることで、カテゴリー分けしたからです。
そういった機能が外側前頭前野にあるわけです。
でも、カテゴリーに分けたり、分析したりって、これじゃぁ、物語にならないんですよ。
物語に必要な大事なものがないんです。
それがなにかというと、それは時間です。

じゃぁ、時間は脳の中のどこが関係するかというと、デフォルトモード・ネットワークです。
デフォルトモード・ネットワークは、脳内ネットワークの一つです。
脳内ネットワークというのは、いくつかの脳の領域がつながって連動して活動するネットワークのことです。
デフォルトモード・ネットワークを構成する一つが、内側前頭前野です。
それから、デフォルトモード・ネットワークは、海馬とも関連してます。
海馬はエピソード記憶に関連していて、過去の思い出とかはデフォルトモード・ネットワークで再現されます。

デフォルトモード・ネットワークは、過去の思い出だけじゃなくて、自由に想像したりするときにも使います。
つまり、物語が再現されるのはデフォルトモード・ネットワークと言えます。

さらに、内側前頭前野と頭頂連合野内側部は共感にかかわっています。
この共感っていうのが物語にはものすごく重要な役割をはたします。

ハイダーとジンメルのアニメーションっていう古い心理実験があります。

三角とか丸が動くだけのアニメです。
最初、枠の中に大きな三角がいて、枠の外に小さい丸と小さい三角が現れます。
すると、大きい三角がドアを開けて枠の中から出てきて、小さい三角にぶつかります。
小さい丸は枠の中に入ってドアを閉めると、大きい三角が枠に入ってきて、ドアを閉めます。
外にいた小さい三角がドアを開けて小さい丸が枠の外に出て、小さい丸と小さい三角は遠くにいきます。
大きい三角は最後は枠にぶつかって枠をこわします。

これだけのアニメーションなんですけど、小さい丸と小さい三角は仲良しで、大きい三角にいじめられてるって思ってしまいます。
小さい丸が枠の中で大きい三角に追いつめられると、つい、感情移入して、「逃げろ!」とかって思ってしまいます。
ただの丸と三角だけなんですけど、感情があるって思ってしまうんですよ。
これが共感です。

でも、同じアニメをみても自閉症の人はそう感じないそうです。
自閉症の人は共感力があまりないといいます。
だから、このアニメを見せて、内容を説明してもらうと、三角と丸がどう移動したってことしか言わないそうです。
実際、自閉症の人は、複雑な人間関係がでてくる推理小説や恋愛小説が苦手だそうです。
なんでその人がそんな行動するのかが理解できないからです。
それより、科学とかノンフィクションを好むそうです。
天体の動きとか、自動車の仕組みとかは難なく理解できるそうです。

つまり、物語に必要なのは時間と共感です。
時間って概念はどういうものか、最近の動画で何度か語っています。
それは、スクロールバーのようなものです。
種があるとして、スクロールバーを左から右に動かすと、種から芽が出て花が咲きます。
頭の中でこういう状況を思い浮かべることができるのが時間の概念を理解してるってことです。
目に見えないけど、時間のスクロールバーを認識して操作できるってのが時間の意味を理解してるってことです。

この時間って概念、もう少し突っ込んで考えてみます。
種は時間が経過すると、芽が出て花が咲くわけですよね。
つまり、種は芽が出て成長したいわけです。
成長して花が咲くってのが、種の望みです。
そして、時間の経過で望みの状態に近づけば嬉しいんです。
望みの状態にならなければ悲しいわけです。
共感というのは、対象の望みを理解できると言えそうですよね。
共感できるっていうのは、自然と、対象の望みを感じるってことです。

さっきのアニメーションだと、小さい丸と小さい三角は仲良く遊びたいって望みがあると感じるんです。
意地悪な大きい三角から逃げたいんだろうって思うんです。
これが、小さい丸と小さい三角に感情移入するってことです。

さて、ここで、一つ疑問が出てきます。
なんで、小さい丸と小さい三角に感情移入するんでしょう?
大きい三角に感情移入する人はいないんでしょうか?

たとえばドラえもん見ると、みんなのび太に感情移入しますよね。
ジャイアンに感情移入するって人、聞いたことないです。
大多数がのび太に近いからだって説明はできると思います。
でも、クラスにはジャイアンみたいないじめっ子もいますよね。
でも、そんないじめっ子も、ドラえもんを見たらのび太に感情移入して見ます。
これ、考えたら不思議ですよねぇ。

こっからは、僕の仮説です。
さっき言いましたけど、人は、そのものの感情を感じ取ります。
このとき、一番分かりやすいとか、強く出る感情に感情移入するんです。
強い感情ってのは、生物が本来持ってる本能的な感情ってことです。

一番優先順位が高いのが危険から逃れるってことです。
たとえ狩猟民族だったとしても、獲物を捕まえることより、危険から逃げることの方が優先順位が高いわけです。
それが脳のアルゴリズムです。
だから、悪い奴にいじめられてる状況を見ると、逃げなきゃって弱い側に感情移入するんです。

逆に言えば、感情を発生しない対象には感情移入しないわけです。
さっきの丸と三角のアニメなら、枠に感情移入する人なんていないでしょ。
種から芽が出る場合なら、芽に感情移入して、成長して花を咲かせたいよなぁって思うわけです。
残された種に感情移入して、「うわ、内側からなんか出てきて、体が割れた。苦しい」とかって思わないでしょ。
物語を理解するには、対象の望みを自然と感じる機能、これが必要なんです。

でも、まぁ、ここまでは、何となくわかってました。
でも、この本読んで、「へぇ、なるほど」って思った話があったんですよ。
物語に重要な、もう一つの脳の機能があったんです。
それが何かというと、発散的思考です。
ちょっとわかりにくいと思うので、その反対の概念から説明します。
発散的思考の反対は収束的思考です。

さっき、外側前頭前野はカテゴリー分けをするって言いましたけど、これが収束的思考です。
つまり、いろんな犬や猫を見て、それらの共通項をまとめて犬とか猫ってカテゴリーにまとめる機能です。
似たものに注目して、まとめる機能、これが収束的思考です。

それじゃぁ、収束的思考の反対の発散的思考ってどういうものでしょう?
それは、似たものをまとめるんじゃなくて、他と違うもの、例外に注目する思考です。
なんで、それが物語になるか絵本で説明します。
レオ・レオニのスイミーって有名な絵本があります。

これは、黒い色をした小魚、スイミーの物語です。
友達はみんなきれいな赤色をしてます。
でも、みんなは大きな魚を恐れて、自由に泳げません。
そこで、スイミーが提案します。
みんな集まって大きな魚のふりをしよう。
僕が目になるからって。
そうやって、大きな魚のふりをして、自由に泳げるようになりました。

さて、もし、外側前頭前野の機能しかなくて、収束的思考しかできなかったら、この話、どうなると思います?
「一匹だけ黒いけど、他は全部赤い魚だ」
「黒は例外、または誤差だから小魚は赤いってカテゴリー分けしよう」ってなりますよね。
それじゃぁ、スイミーの話が成り立ちません。
つまり、収束思考だと物語にならないんです。

つまり、物語を生み出すのは、例外とかはみ出したものなんです。
例外の方が重要なんです。
はみ出し者が物語を動かすんです。

共通点を探してまとめる機能じゃなくて、他との違いに注目する機能があるんです。
その機能があるから物語が動き出すんです。

これだけの機能を持たせたら、AIで物語を生み出すことができそうですよね。
たとえば、平和で平凡に暮らしてる一家があったとします。
お父さんとお母さんと僕と妹で暮らしてるとかです。
これだけじゃ、物語にならないってわかりますよね。

物語になるには普通と違う例外が起こらないといけません。
たとえば、ある日、未来の自分がやってきて、今すぐ逃げろって言われるとか。
または、朝起きたら、妹と体が入れ替わってたとか。

例外や特殊なことが起こるわけです。
物語は、例外を中心に動き始めます。
主人公は、「えー、どういうこと!」ってなりますよね。
こういう強い感情に、読み手は自然と感情移入します。
何とかしなければって思うわけです。
これが物語にひきつけられるってことです。

登場人物に強い感情が発生したということは、どうなりたいかって状況が生まれるわけです。
あとは、時間軸を進めるだけです。
そしたら、勝手に登場人物が動き出して物語が動き始めます。

ここで、時間について考えます。
時間って、方向がありますよね。
逆転することはないですよね。
でも、ほとんどの物理法則は時間に方向性がありません。
たとえば振り子があるとするでしょ。
揺れている振り子を撮影して、逆再生しても気が付かないでしょ。
これが時間の方向がないってことです。

でも、物理法則で唯一、時間の方向が存在するものがあるんです。
それはエントロピーです。
コップの水にインクを一滴たらすと、インクは水の中に拡散するでしょ。
これを動画に撮って逆再生したら、すぐに分かるでしょ。
拡散してたインクが集まることは絶対にないからです。

このインクを拡散させてるのがエントロピーです。
拡散する方向がエントロピーが増えるっていいます。
時間が経過すると、必ずエントロピーが増大するわけです。
掃除せずにいたら、だんだん、部屋が汚れていくのもエントロピーが増大してるからです。
時間とともに、勝手に部屋がきれいになるってこと、絶対ないでしょ。

さて、インクを垂らした瞬間、インクが一か所にまとまってます。
これが例外です。
例外的な状況は、時間とともに平凡な状態に向かいます。
平凡な状況っていうのがコップの中にインクが拡散した状況です。
これがエントロピーの法則です。

物語も同じです。
例外を作っても、物語は時間経過とともに平凡な世界に進みます。
そうなったら物語は停止してしまいます。
だから、そうならないように適度に例外を発生させます。

例外なんで、何でもいいわけです。
たとえば、食事のとき、お母さんが生のサンマを丸のみして食べたりします。
子どもは目を丸くして見ています。
「地球人は、魚をたべるんだろ?」ってお母さんがいいます。
これで、また物語が動きはじめましたよね。

これだけの機能を作ったら、面白い物語を生成するAIができそうですよね。
ただ、例外を作るのはできても、終わらせるのは難しいですよね。

朝起きたら、体が妹と入れ替わってた。
お母さんは、生のサンマを丸のみする。
未来の自分は、今すぐ逃げろっていう。
そんなこと、言われなくても分かってます。

問題は、これをどう終わらせるかです。
これをAIに考えさせるのは、まだ、難しいです。
そう考えたら、当分はハリウッドの脚本家の仕事はなくならないようです。

はい、今回の動画が面白かったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、良かったらこちらの本も読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!