第408回 発見!ゼロを認識する脳細胞


ロボマインド・プロジェクト、第408弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

第401回~403回で『学ぶ脳』って本を紹介しました。

作者は、脳神経科学者の虫明元(むしあけはじめ)教授です。
この虫明教授が面白い論文出してますよって教えてもらったんですよ。
それが、ゼロを認識する脳細胞が見つかったって論文です。
これ、よく考えたら、とんでもない話です。
だって、ゼロって数学上の概念ですよね。
人間がいなくても、この宇宙に普遍的に存在する概念です。
それが脳の中に見つかったんですよ。
「えっ、どういうこと?」ってなりますよね。
これが今回のテーマです。

発見!
ゼロを認識する脳細胞
それでは始めましょう!

実験は、サルを対象に行われました。
サルに、簡単なゲームをしてもらいます。
モニターに丸い玉がいくつか表示されます。

それから、サルの手元には回転レバーがあります。
レバーを右に回転させると玉が増えて、左に回転させると玉が減ります。
最初に目標とする玉が表示されます。
たとえば、この場合3個です。
その後、玉の数が変わります。
この場合1個です。
サルは目標の数、3個になるようにレバーを右に回転させて玉を増やします。
そして、3個になったら、報酬としてジュースがもらえます。
こんな風にして、玉の数を増やしたり、減らしたりして目標の数に合わせます。

この場合だと、目標は0個です。

だから、レバーを左に回転させて玉を減らします。
そうして、玉が全部消えて0になったらジュースがもらえます。

さて、この実験中、脳の神経細胞活動を記録したところ、強く反応する細胞が見つかったそうです。
それは、二種類ありました。

一つは、ゼロだけに反応して、それ以外の数には反応しないゼロ細胞です。
有るか無いかに反応するので、これをデジタルゼロ細胞と名付けます。

もう一つは、4,3,2、1とゼロに近づくにつれて反応して、ゼロに最も強く反応する細胞です。
つまり、数の順番に対して反応するわけです。
これをアナログゼロ細胞、または順番細胞と名付けます。

これらの細胞、今まで、認知モデルでは確認されていました。
今回、これを細胞レベルで確認したものとなります。
たとえば、メンタルナンバーラインという認知モデルがあります。
たとえば、1〜9の数字を左から順にならべて、1を指差してくださいって言うと素早く指差せます。
今度は逆に、左から9〜1の順に並べて1を指差してくださいって言うと、さっきより時間がかかります。
これは、頭の中では通常、数字は左から右に認識するから、右に1があると、ちょっと遅れるわけです。
こんな風に、人は、頭の中で順に並べて認識することは既に知られていました。
これをやってたのが、順番細胞ってわけです。
このことが、今回、脳細胞レベルで解明できたわけです。

ちなみに、左から順に思い浮かべるのは日本人や欧米人とか、左から右に文字を書く民族だからです。
右から左に文字を書くアラビア文字を使う人は、頭の中でも数字は右から左に並べるそうです。
方向が逆になったとしても、順番に並べるのは同じです。

第400回で、右と左が存在しないアボリジニの話をしました。
アボリジニは、右と左って言葉をもってなくて、その代わり、すべて東西南北で表現します。
たとえば、数字を順番に並べるとき、小さい順に、東から西に並べるそうです。
並べる基準となる方向が違いますけど、順番に並べるのは同じですよね。
これも、順番細胞があるからです。

次は、デジタルゼロ細胞です。
行動経済学では、「無料」の威力といわれる効果があります。
「高級チョコ」と「普通のチョコ」を販売する実験をしたそうです。
高級チョコは15セント、普通のチョコは14セントにしました。
すると、高級チョコから売れていくそうです。
1セントの違いなら、高級チョコの方がお買い得と思うんでしょう。

そこで、両方のチョコを1セントずつ値下げしていったそうです。
高級チョコを14セント、普通のチョコを13セントとかです。
そうやってちょっとずつ値下げしても、高級チョコの方から売れていったそうです。
ところが、高級チョコが1セント、普通のチョコが無料になったとたん、無料のチョコが圧倒的に人気になったそうです。
合理的に考えたら、1セント高くても、高級チョコの方が人気にならないとおかしいですよね。
でも、「無料」になったとたん、その関係が一気に逆転するわけです。
無料になると、どっちが得かとか、高い安いとかとは別のエネルギーが発生して、行動がガラッと変わるみたいなんです。
このことを、1セントでも失いたくない心理って、今まで説明されていました。
そんな抽象的な説明が、今回、脳の中に発見されたわけです。

4から1に減っていくときにはほとんど反応しないけど、0になった瞬間、大きく活動する神経細胞です。
この神経細胞があるから、ゼロになったとたん、「あっ」って思うんです。

以上のことから、ゼロとか順番って概念は脳細胞として存在するってわかりました。
これ、どういうことか分かりますか?
これ、今までの常識を覆すことを言ってるんですよ。

いいですか?
ゼロとか順番って数学上の概念でしょ。
ガリレオは言いました。
「自然は数学の言葉で書かれてる」って。
つまり、数学って自然の中に組み込まれてるんです。
人間と関係なく、数学はこの宇宙に存在するわけです。
そう信じてきました。

でも、そうじゃなかったんです。
ゼロと順番も、客観的に存在するものじゃないんですよ。
どちらも、頭の中にあるんです。
つまり、主観なんです。
人間がいるから、ゼロとか順番が存在するってことなんですよ。

おそらく比較って概念も脳の中にあると思います。
第349回で平等の概念は、赤ちゃんでも持ってるって話をしました。
こんな場面を赤ちゃんに見せます。
おもちゃで遊んでる二人の子どもが、大人から「お片付けしなさい」と言われて、二人ともお片付けします。
その後、大人は子供にご褒美をあげるんですけど、平等にあげる場合と、一人だけにあげる場合の二つの場面を見せます。
すると、赤ちゃんは一人だけにあげた場面の方を長く見続けたそうです。
これは、本来なら平等にご褒美をもらうべきなのに、一人だけご褒美をもらうのはおかしいと思ったからです。
この実験の注目すべきところは、赤ちゃんは、まだ言葉を理解してないってことです。
つまり、平等って概念は、教えられて獲得したんじゃなくて、生まれつき持ってるってことです。
平等って理解できるには、等しいとか、どちらが大きいとかって比較の概念を持ってるからです。
生まれつき持ってるってことは、比較の脳細胞が頭の中にあるわけです。

=(等号)とか、<>(不等号)って、数学の概念ですよね。
これも、普遍的に存在する概念じゃなくて、人間の頭の中、つまり主観的な概念といえるんです。

19世紀に心理主義が流行りました。
あらゆるものを心理で解釈しようって考えです。
たとえば、哲学者のフッサールは元々数学者で、数学を心理で解き明かそうとしてました。
つまり、数学的な概念は自然界にあるんじゃなくて、心の中にあるって考えたわけです。
ただ、後に、フッサール自身が、「あれは間違ってた」って心理主義を批判しました。
でも、今の話を踏まえると、これ、まんざら、間違いでもないんですよ。
むしろ、これからの主流になるかもしれないです。
心理というより、脳細胞で分析する方法です。
あらゆる学問の根本が、脳神経細胞に見つかるかもしれません。

今まで、心理学って、なんかちょっと怪しいとこがありましたよね。
怪しいというか、「それって、言ったもの勝ちやん」って思うとこがありました。
たとえば、フロイトは、なんでも性的抑圧で説明します。
男の子は皆、母親を性的に欲してるとか。
そういわれたら、「いや、そんなこと、考えたことない」って言いますよね。
でも、そう言ったらフロイト派の人は、「それは無意識が抑圧してるからだ」って言うんです。
無意識を持ち出されたら反論のしようがないですよねぇ。
でも、なんか、もやもやします。
でも、これが無意識で抑圧してる脳細胞だって見つかったら、科学的に証明されたことになりますよね。
でも、まぁ、母親を性的に欲してる脳細胞が見つかるとは思えないですけどね。

そんな脳細胞は見つからないと思いますけど、もっと重要な概念の脳細胞は既に見つかってます。
それが何かというと、時間細胞です。
この話は、第111回で取り上げました。
それは、物事の順番を記憶する脳細胞です。
その脳細胞があるから、起こった出来事の順に頭の中で再生できるんです。
つまり、これが時間を作り出すんです。
僕らが時間の流れを感じるのは、この脳細胞があるからなんです。

こう考えたら、僕らが認識してることって、全て、それに対応する脳細胞があるといえますよね。
言い換えたら、世界は頭の外にあるんじゃなくて、頭の中にあるんです。

最後に、今後、起こり得る恐ろしい話をしたいと思います。
今、脳科学で一番ホットな技術といえば、BMIです。
ブレイン・マシン・インターフェイスです。
脳にチップを埋め込む技術です。
一番有名なのは、イーロン・マスクのニューラリンク社です。
ニューラリンクが、ついに、今年、人間の脳にチップを埋め込む臨床試験を開始することが決まりました。
これは、人類に革命を起こすことは間違いないです。
今は考えられないですけど、将来、誰もが脳にチップを埋め込む時代が来ます。
「いくら何でも、そんなことあり得ない」って思いますよね。
でも、20年前、誰もがスマホを持つ時代が来るなんて思ってなかったでしょ。
でも、今、電車に乗ったら、全員、スマホを見てます。
技術の進化は止めることできないんですよ。

イーロン・マスクといえば、もう一つ有名なのがテスラです。
電気自動車です。
ヨーロッパじゃ、2035年以降、電気自動車しか販売できなくなります。
これが現実です。

さて、YouTube見てたら、テスラをハッキングしたって動画が見つかります。
外部から電気自動車を勝手に操縦したりするわけです。
これ、電気自動車だから、まだ、いいですよ。
将来、BMIがハッキングされることもあり得ますよね。
つまり、外部から、脳内に埋め込んだチップをハッキングするんです。

これ、考えたらホンマ、怖いですよ。
いや、大統領を暗殺させたりとか、明らかにおかしいのはすぐにわかります。
これは、まだ、マシなんですよ。
本当に怖いのは、ハッキングされてることに本人も、周りも気づかない場合です。
たとえば、今回、ゼロ脳細胞を紹介しましたよね。
ゼロ脳細胞があるから、無料になった瞬間、「あっ、お買い得!」と思って、急に普通のチョコレートが人気になりました。
これ、ゼロ脳細胞をハッキングしたらどうなると思います?
無料でなくても、「あっ、お買い得!」って思わせることができますよね。
店頭で、特殊な電磁波を送ってBMIをハッキングして、特定の商品を買わすことができるんですよ。
しかも、本人は、「お買い得」って思って買ってるわけです。
まさか、他人に操られてるなんて思ってないわけです。
それだけじゃないですよ。
好きでもない相手を好きにさせることとかもできます。
そんな商売が生まれるかもしれません。
10年後、とんでもない世の中になってるかもしれませんよ。

はい、今回の動画が面白かったら、チャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、良かったらこちらの本も読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!