第412回 AIに意識は生まれるのか


ロボマインド・プロジェクト,第412弾!
こんにちは,ロボマインドの田方です.

今回は新刊本の紹介です.
この本『AIに意識は生まれるか』です.

作者は,金井良太さん.
日本の意識研究の第一人者です.
最近だと,内閣府がムーンショット計画って目標を打ち上げましたけど,それにも選ばれてます.

内容は,ユーザーが思い浮かべた言葉や行動を脳から読み取るって技術の開発です.
今流行りのBMI,ブレインマシンインターフェイスですね.
2050年までに実現するのが目標だそうです.

僕も,金井さんのことはずっと前から注目していました.
この本には,金井さんが今までどんな研究をしてるのか,何をやろうとしてるのかが分かりやすく書かれています.
意識って,定義も曖昧ですし,人によってやろうとしてることもバラバラなんですよ.
って、そう思ってたら,ちょっと違いました.
どうも,違うのは僕だけだったみたいです.

この本読んで,意識研究をやってる人が何を目指して,何を考えてるのかはっきりわかりました.
ただ,金井さんとは,意外と同じ考えをしてるってことも見えてきました.
これが,今回のテーマです.
AIに意識は生まれるのか
それでは,始めましょう!

意識科学は,科学的なアプローチで意識を解明しようとします.
科学的アプローチっていうのは,根本を探るってことです.
20年ほど前,意識研究で一番ホットだったのが「意識と相関する神経事象」を探すというものでした.
これをNCCって言います.
中心となっていたのはフランシス・クリックです.
クリックといえば,DNAの発見で有名です.
生命の根源のDNAを発見したクリックは,次は,意識の根源を探そうとしたようです.
金井さんも,当時,fMRIとかを使ってNCCを探していたそうです.
ただ,NCCは,今では,存在しないだろうって言われています.

意識といえば,クオリアが有名です.
クオリアというのは,赤いとか,痛いとか,人が感じるものです.
クオリアこそが意識の本質です.
じつは,クオリアには二種類あります.
一つは現象的意識で,もう一つはアクセス意識です.
アクセス意識っていうのは,痛いって感じたり,リンゴは赤いって思ったりとか,報告可能な意識のことです.
普通に僕らが感じる意識はこれです.
もう一つの現象的意識というのは,報告できない意識のことです.

たとえば,こんなのを一瞬だけ見せて,「全部見えましたか?」って聞きます.
すると,ほとんどの人は,「全部見えた」って答えます.
つまり,12個の文字が意識に上がったわけです.
次に,「見えた文字を教えてください」って聞くと,4個ぐらいしか答えられないそうです.
つまり,意識に上っても,報告できない文字があるわけです.
これが現象的意識です.

なんでこんな細かい区分けをするかっていうと,それは「心の哲学」でいう機能主義を否定するためです.
機能主義っていうのは,人の意識と同じ機能を再現できれば,それは意識だって考えです.
意識とかクオリアは本人しかわかりません.
本人が報告できるのはアクセス意識だけでしたよね.
つまり,本人が報告したことだけで意識を確認したとしても,現象的意識が再現してるかどうかわからないわけです.
つまり,機能主義の考えは間違ってるといえるんです.
これを分かりやすく説明した思考実験が哲学的ゾンビです.
人間そっくりにしゃべったり行動するゾンビがいたとします.
でも,そのゾンビが現象的意識を感じてるかどうかは確認できないってことです.

この本には,その他,視覚失認の話も出てきます.
脳の損傷で,物体の形を認識できなくなった人がいます.
その人は,ポストのような穴を見せても,それが縦なのか横なのか答えられません.
でも,カードを差し込むように指示すると,見事に成功します.
つまり,穴の形は意識に上ってこないけれど,行動はできるわけです.
それから,この人,一度視界から消えると,反応することができなくなるそうです.

こんな風にして,少しずつ,意識を追いつめてました.
ただ,意識の全容解明はまだまだ先だと思われていました.
そこに,大事件が起こります.
なんと,意識が解明されたっていうんです.
意識を数式で説明できる理論が発表されたんです.
それが,ジュリオ・トノーニが発表した「意識の統合情報理論」です.
通称,IITです.
金井さんは,この理論に衝撃を受けて、一気にIITの研究にのめり込んだそうです.

IITを一言で説明すると,意識とは統合された情報となります.
その情報量をΦ(ファイ)といいます.
そして,特定の条件を満たした情報のまとまりは「必然的に」意識となるそうです.
注意してほしいのは,ここです.
よく読むと,意識を解明したというより,意識とはこうだってことを先に定義してるんです.
なぜ,それが意識といえるのかが一番知りたいんですけど,残念ながら,トノーニはそれには答えていません.
金井さん自身も,IITのΦが本当に意識かどうか証明するのは難しいと言っています.
最近,IITは疑似科学だって声明がだされて話題となっていましたし,僕も,IITに関しては,まだ疑問を持っています.

ただ,IIT以外では,結構,金井さんと同じ意見のとこもあるんですよ.
僕が,金井さんの本で最初に読んだのが『脳に刻まれたモラルの起源』です.

僕は,脳でどうやって善悪を判定してるのかとか,進化心理学の本は大好きです.
このあたりは,意識より高次の心の話ですけど,意外とこのあたりも金井さんは興味があるようです.

それから,金井さんは,意識の機能で最も重要なものを「反実仮想」と言っています.
反実仮想っていうのは,「もし,明日雨だったら」とか,目の前にない世界を想像できる能力のことです.
ベストセラーになった『サピエンス全史』でも,人類は,7万年前,虚構を創り出す能力を獲得したといいます.
これが,宗教とか噂話を作り出して,ここからホモ・サピエンスの大躍進が始まったわけです.

これが今のAIにない能力で,金井さんは,そういったAIを作ろうとしてるそうです.
それにはAIに世界モデルを持たさないといけないといってます.
もし,これができれば,AIが複雑な思考ができるようになります。

そして,これこそ,僕らが目指してるAIです.
僕らも意識を解明しようとしてますけど,一般的なやり方とは全然違います.

ロボマインド・プロジェクトは,20年程前,面白い物語を自動で作るプログラムを作りたいなぁって,僕が,ふと思いついたところから始まります.
そのためには,まずは,言葉の意味を理解できないといけないんですけど,AIは言葉の意味を理解出来ません.
なんでできないか考えた結果,意識や心を持ってないからだって結論に至りました.
それで,コンピュータに意識を発生させないといけないってなったんですよ.

意識科学の人たちは,意識はいかにして発生するのかって根本的な問いから出発してますけど,僕は心を作るために,手っ取り早く意識を発生させようとしてるわけです.
研究者というより,素人のノリでここまでやってきたって感じです.

飛行機で言えば,ライト兄弟が近いです.
ライト兄弟も研究者じゃなくて,ただの自転車屋さんです.
ある時,弟のオービルが兄のウィルバーに言うんですよ.

「兄ちゃん,スゴイこと思いついたで.
羽にエンジン乗っけて,プロペラ,ブルンブルン回したら空飛べるんちゃうかなぁ」
「オービル!
 お前,あったまええなぁ!」
たぶん,そんなノリやと思います.

当時,ライト兄弟のライバルのサミュエル・ラングレー博士は,国家プロジェクトで飛行機を開発してました.
航空力学の数式とか使って緻密に計算したりしてたと思います.
飛行機が本当に飛ぶのかどうか分からなかった当時の航空業界って,こんないろんなタイプの人がいたんです.
今の意識業界も,そんな感じやと思います.

さて,僕が作ろうとしてるのは会話したり考えたりできる心です.
「腹へったなぁ.あっ,美味そうなリンゴがあるやん」とかって心で考えますよね.
これ,全部言葉で表現してます.

言葉って記号ですよね.
つまり心とか,高次のレベルでは,記号を操るわけです.
それに対して,一番下のレベルが,脳の神経細胞です.
神経細胞レベルで,なんかごちゃごちゃあって,意識が発生するわけです.
そのあと,記号が生まれて,高次の心のレベルは,記号を使って考えたり,しゃべったりします.
ざっくり言うとこんな感じです.

脳の神経細胞って信号電圧でやり取りしてて,それが,最終的に記号になるわけです.
電圧が記号になるって,それってAD変換じゃないのって,僕は考えました。
つまり,アナログの電気がデジタルに変換されたわけです.
0101がリンゴとかって決めたら、デジタル信号は,簡単に記号に変換できますよね.

次は,脳で考えます.
さっき,物体の形は認識できないけど,位置とか,動作ならできる視覚失認の話をしましたよね.

視覚処理って位置とか動きを処理する「どこの経路」と,色や形を処理する「何の経路」の二つに分かれています.
視覚失認の場合,「何の経路」が損傷して,「どこの経路」が生きてるので位置の特定はできるわけです.
意識が見えると感じてないってことは,「何の経路」の先に意識があるわけです.
どうも,ものが見えるとか,ものがあると感じるのが意識のようです.
それから,この患者は,視界から消えると,反応することができなくなるとも言ってましたよね.
つまり、どこの経路は,目の前にある物しか反応できないわけです.
逆に,何の経路は,目の前から消えても,何があったか覚えておくことができます.
ここから,僕は,頭の中に対象を作り出して,それを認識するって意識モデルを考えました.
これを「意識の仮想世界仮説」と言います.

人は,目で見た現実世界を頭の中に仮想世界として構築するわけです.
意識は,その仮想世界を介して現実世界を認識します.
目の前にリンゴがあるとき,意識は,仮想世界に再現されたリンゴを見てるわけです.
それは,自分が作り出したものなので,目の前から消えても,「リンゴがあった」って思い出すことができるわけです.

ざっくりと,こんな意識モデルを考えたわけです.
これなんか,世界モデルに近いと思うんですよ.
それに,仮想世界なんで,目の前にない世界も再現できます.
つまり,「もし,明日雨だったら」って反実仮想も再現できるモデルになってるわけです.

三次元の現実世界をコンピュータで仮想世界として再現するとすれば,たとえば3DCGで出来ます.
まず,現実世界のリンゴをカメラで撮影して,それを画像解析してリンゴと判断します.
この段階は,今の脳科学で神経細胞レベルで、ほぼ解明されてます.
リンゴと判断したら,それを仮想世界で3Dのリンゴオブジェクトに変換します.
オブジェクトは色とか形のデータを持ってますよね.
そこに「リンゴ」って名前データをつけます。
これが言葉です.
リンゴを記号化したといってもいいです.

記号化したら,次はそれを操作できないといけません.
「リンゴの色は赤い」とか「リンゴを食べる」とかって文を作れないといけません.
ここで,僕は,文ってプログラムと同じじゃないかって考えたわけです.
「a=1+2」ってプログラム文もaとか1って文字や数字を操作してることですから,それといっしょじゃないかってことです.

じゃぁ,プログラム文を解釈実行するのは何かです.
それは,一種のヴァーチャルマシンです.
脳内にプログラム文を解釈実行するヴァーチャルマシンがあるわけです.
いや,本当にヴァーチャルマシンが脳内にあるとは思ってないです.
ただ,ヴァーチャルマシンと同じように記号を操作する仕組みが脳内にはあるんじゃないかってことです.

このことは,第409回~411回「意識をもつヴァーチャルマシンの作り方①~③」で詳しく解説しました.
簡単に解説すると,仮想世界を操作できるスクリプト言語を作ります。
このスクリプト言語は,オブジェクトを操作するのでオブジェクト指向プログラミング言語でもあります。

自然言語の文がスクリプトに変換されて,それをヴァーチャルマシンで実行することで仮想世界を自由に操作できます.
言葉どおりに仮想世界を操作できること、これが文の意味を理解したとなります.
これが文の意味を理解するの定義です.

スクリプト言語をそのままじゃ実行できないのでバイトコードに変換します.
スクリプト言語って,こんな感じです.

普通のプログラムなので,人がみて,何となく分かります.
これは,リンゴオブジェクトの基となるアップルクラスです.
ここで書かれてるのは,リンゴの色は赤色だってことだけです.
これをバイトコードに変換すると,以下になります.

これは,コンピュータが読むので,人がみてもちょっとわからないですよね.
「リンゴがあります」って自然言語を実行すると,このバイトコードがメモリに読み込まれるってことだけわかればいいです.

–[ fields ]–
[0]Apple$color Color #FF0000

それから,たとえば、この部分が,色が赤色ってことを示しています.

さて,こっからが本題です。
このバイトコードが,意識を何を意味するのかを説明します.

まず,考えたり話したりする意識プログラムがあるわけです。
意識プログラムはメモリにあるオブジェクトのデータを読み出したり,操作します.
たとえば,「リンゴは何色ですか?」って聞くと「赤色です」って答えることができます.

このオブジェクトを意識プログラムが認識するんですよね.
ということは,オブジェクトはクオリアと言えますよね。

今,目の前にある世界が,仮想世界として再現されます。
それは,具体的には,メモリ空間にオブジェクトとして生成されるわけです.
たとえば,部屋の中に机があって,机の上にリンゴがあるとします.
この時,目に見える部屋の状態がメモリ空間に再現されます.

そして,「リンゴは何色ですか?」って質問します.
それをヴァーチャルマシンが実行します.
ヴァーチャルマシンは、注目してるオブジェクトのデータを保持する仕組みを持っています.
この場合なら,リンゴに注目して,リンゴの基本データをメモリから読み取って保持します.
だから,リンゴに関する質問にすぐに答えられます.

でも,「本棚に緑色の本はありましたか?」って聞かれると,すぐに答えられません.
本棚について聞かれると,ヴァーチャルマシンは,今まで保持してたリンゴのデータを破棄して,本棚のデータを読み込みます.

さて,さっき,クオリアには二種類あるって説明しましたよね.
アクセス意識と現象的意識です.
アクセス意識って,意識が注目して,すぐに答えられる意識でしたよね.
これが,ヴァーチャルマシンがデータを保持してるオブジェクトのことです.
現象的意識は,意識に上ってない意識でしたよね.

こんなのを一瞬だけ見せられて,文字が書いてあったことはわかるけど,何の文字か答えられないのが現象的意識でしたよね.
これは,まさに,メモリにはあるけど,ヴァーチャルマシンがデータを保持してないオブジェクトです.
だから、すぐに答えれないんです。

ねぇ,こうやって,ヴァーチャルマシンが、二種類のクオリアまできちんと再現できてるでしょ.
クオリア,言葉,世界モデル,すべて再現できるのが意識の仮想世界仮説です.
ただ,これが意識と同じだって証明することは難しいです.
まぁ,それは,IITも同じです.

IIT以外にも,グローバル・ワークスペース理論とか,意識理論は他にもいっぱいあります.
それらと僕の意識モデルの一番の違いは,僕は,意識の厳密な解明は目指してないってことです.
それより,もっと上の言語とか思考まで,全体を説明するモデルだっていうことです.
逆に言えば,一般的な意識理論は,クオリアは視野に入ってますけど,言葉の意味理解まで説明できる理論にはなってないようです.

はい,今回の動画が面白かったらチャンネル登録,高評価お願いしますね.
それから,今回紹介した意識の仮想世界仮説に関しては,こちらの本を参考にしてください.
それじゃぁ,次回も,おっ楽しみに!