第413回 田方の理論は全て勘違いだった!


ロボマインド・プロジェクト,第413弾!
こんにちは,ロボマインドの田方です.

最近,「心の哲学」を復習してるんですよ.
「心の哲学」って,意識とは何かって問題を哲学的に追及する学問です.
意識のハードプロブレムとか,クオリアとか,哲学的ゾンビとかが有名です.
このチャンネルでも,何度も取り上げてますし,意識に興味がある人なら、聞いたことがあると思います.
そしたら,とんでもない勘違いしてたってことに気づいたんですよ.
僕が今まで考えてたクオリアは,クオリアじゃなかったんです.

それから,「心の哲学」では,意識に関して有名な思考実験がいくつかあります.
たとえば「哲学的ゾンビ」とか,「中国語の部屋」とか,「コウモリになるとはどういうことか?」とかです.
どれもこのチャンネルで何度か取り上げてます.
でも,有名な思考実験の中で,一つだけ取り上げてないのがあります.
それは,「マリーの部屋」って思考実験です.
なんで取り上げてないかって言うと,あまりにも当たり前すぎて,どこが問題か,よくわからなかったからです.
これも,今回,ようやく意味がわかりました.

この研究を本格的に始めたのが10年前なんですよ.
意識に関する理論とかを思いついたら,当時はブログを書いてて,3年前から,YouTubeを始めました.
僕がいつも語ってる意識の仮想世界仮説っていうのは,約10年前に思いついたものです.
目で見た世界を頭の中に仮想的に作って,意識は,仮想世界を介して現実世界を認識するって仮説です.
それ以来,今,見えてる光景は頭の中の仮想世界を見てるんだって思うように訓練したんですよ.
そうしたら,心の哲学の問題が,ほぼほぼ解決されるってことが分かったんです.
そんな風にずっと考えてたもんだから,クオリアも,意識の仮想世界仮説に合うように,普通とは違った解釈になってたんですよ.

さっき,最近,あらためて「心の哲学」を勉強してるいったでしょ.
心身一元論とか,二元論とか,そんなのを復習してます.
そしたら,その中で,聞きなれない意識の理論を見つけたんですよ.
それは,「意識の表象理論」です.
なんか地味で,メジャーな理論じゃないから、今まで見過ごしてきました.
でも,今回,改めて調べてみると,これ,意識の仮想世界仮説にかなり近いってことが分かったんです.
それから、「マリーの部屋」って,「説明のギャップ」っていう「心の哲学」の問題を分かりやすくした思考実験です.
そして,「意識の表象理論」は,「説明のギャップ」を矛盾なく説明する唯一の理論とありました.
意識の仮想世界仮説も,説明のギャップを矛盾なく説明できるんですよ.
そう考えたら,「マリーの部屋」の問題もわかってきました。
全て,僕がクオリアの解釈を勘違いしてたことが原因だったんです.
これが今回のテーマです.
田方の理論は全て勘違いだった!
それでは,始めましょう!

まずは,意識の仮想世界仮説のことは,いったん忘れてください.
何も知らない状態から,一般的に語られてるクオリアについて,ゼロから考えていきます.

クオリアについてを調べると,「意識にのぼってくる感覚の経験」って出てきます.
それから,クオリアは「何らかの脳活動によって生み出される」ともあります.
脳には神経細胞が張り巡らされていて,それが次々に発火して情報が伝達されて処理されていきますよね.
そんな光景を想像しておいてください.

目の前にリンゴがあるとします.
それを見たとき,視神経から脳内の神経細胞が次々に発火するわけです.
その中の,どこかの時点でリンゴがあると意識が感じたり,赤いって感じたりするわけです.

ここで,「マリーの部屋」の思考実験の説明をします.
マリーは天才科学者です.
何らかの事情で白黒の部屋に閉じこもっています.
だから,生まれてこの方,色というものを見たことがありません.
ただ,あらゆる文献を読んで,この世界には色があることとか,「赤い」とか「青い」って言葉がどういうものかは完全に理解しました.
さて,ある日,マリーが部屋から出ました.
さて,その時,マリーは,色について何か新しい情報を得るでしょうか?

これが「マリーの部屋」の思考実験です.
「そりゃ,今まで感じたことのない何かを感じるだろ」って思いますよね.
僕も,ずっとそう思って,つまらない思考実験やって思ってました.
でも,この思考実験,そういうことがいいたいわけじゃなかったんです.

まず,こんな思考実験が生まれた背景から説明します。
それは,「物理主義」です.
物理主義というのは,この世のあらゆる現象は物理的に説明できるって考えです.
あらゆる現象のなかには意識とか心もあるわけです.
つまり,「リンゴがある」とか「赤い」って意識で感じることもすべて,神経細胞の発火で説明できるって立場です.

もっと言えば,視神経から信号が伝達して「赤い」って感じて,それを言葉にするまで、全部対応する神経細胞があるって考えです.
ということはですよ.
一対一に対応してるなら,神経細胞の発火を逆に再現することもできるはずですよね.
つまり,「リンゴは赤い」「夕日は赤い」「赤は色」「青とは違う色」とかって赤に関するあらゆる説明を理解すれば,共通の「赤」の神経細胞も発火してるはずです.
だから,マリーが部屋の外を出て,赤を見たとき発火する神経細胞は,既に経験してるはずです.
だから部屋からでても「あぁ,あれが赤ね」って知ってたことのように感じるはずですよね.
でも,もし,そうならずに,「あれが,赤なの!」って驚いたら,物理主義が間違ってるってなります.
哲学者フランク・ジャクソンは,物理主義が間違ってるって批判するために「マリーの部屋」の思考実験を考えたわけです.

なにも、本気でマリーは新しい経験をするかしないか分からないといってるわけじゃないんです.
そうじゃなくて,マリーは新しい経験をするでしょ.
マリーは新しい経験をしたんなら,物理主義はまちがってるでしょ.
これが,フランク・ジャクソンが言いたかったことです.

「マリーの部屋」は,元々「説明のギャップ」って問題があって,それを分かりやすく説明するための思考実験です.
「説明のギャップ」というのは,神経細胞の発火をくまなく調べても,どこにも「赤い」って主観的経験が見つからないってことです.
主観が感じることと,神経細胞との間には大きなギャップがあるって問題です.

それから,注意してほしいのはクオリアって主観的経験でしたよね.
主観的経験っていろんなものを含んでいます.
今までの説明でも,神経細胞の発火からクオリア,意識が感じることまで,全部含まれていましたよね.
経験というのは,神経細胞の一連の信号伝達で,その過程の一部が意識だったり,赤いってクオリアって感じです.

さて,「心の哲学」では,意識とかクオリアを解釈するいろんな理論が提案されています.
その中の一つに表象主義とか意識の表象理論というのがあります.
表象というのは,知覚したイメージのことです.
たとえばリンゴを見たとします.
表象理論では,これを,リンゴの知覚像が作られたと考えます.
カメラで外界を捉えて,その外界の写しの知覚像を作るので,「カメラ・モデル」と言われたりします.
それから,「心とは,表象の処理装置」とも言われます.

僕は,表象理論の解説読んだとき,これって,意識の仮想世界仮説その物じゃないかって思いました.

意識の仮想世界仮説では,現実世界のリンゴを知覚して,それを頭の中の仮想世界にオブジェクトとして生成します.
オブジェクトを作るって考え方,カメラで捉えて像をつくる表象理論と同じ考えですよね.

それから,表象理論では,クオリアは,志向性をもった表象と解釈します.
分かりやすく言うと,意識が表象に向けられること,これが志向性です.
クオリアの意味って,主観的な経験でしたよね.
だから,クオリアは,意識が表象に向けられる全体を指すんです.

実は,ここが表象主義と意識の仮想世界仮説の違いなんです.
意識の仮想世界仮説では,オブジェクトそのものをクオリアと呼んでました.
これは,クオリアの本来の意味から考えると正しくないんですよ.

クオリアは,知覚するって経験を伴わないといけないので,経験全体を指さないといけないんですよ.
経験には知覚対象と,知覚する主体が存在するって考えが意識の仮想世界仮説の前提となっています.
つまり,対象と主体とを分けて考えてるんですよ.
でも、普通は分けずに,一体の経験としてクオリアと呼ぶんです.
ここを,僕は勘違いしてたんです.
このチャンネルでも、今後は、クオリアの説明として、きちんと経験も含むようにします。

さて、表象主義に対する批判もあります.
表象主義は,知覚した像を作るってだけのモデルです.
だから,「私」が「見る」って経験が説明できないって批判されます。
これに対して、意識の仮想世界仮説では、主体として意識が別にあります.
つまり,オブジェクトを認識する意識プログラムがあって,意識プログラムがオブジェクトのデータを受け取るというのが「見る」という経験というわけです.
なぜか,表象理論には、表象を知覚する主体が別に存在するって考えは持っていなかったようなんです.

そんな違いはありますけど,表象理論と意識の仮想世界仮説はかなり似ています.
たとえば,表象理論では,「心とは,表象の処理装置だ」って言います.
意識の仮想世界仮説では,意識がオブジェクトを認識したり操作したりします.
「リンゴがある」って思ったり,「リンゴを食べよう」って考えたりするってことです.
システム全体が,オブジェクトの処理装置といえますよね.

表象理論の細かい話もしときます.
表象理論では,表象は内容と性質に分けます.
どういうことかというと,「リンゴ」って文字で書いたとするでしょ.
「リンゴ」の文字はカタカナ三文字だとか,文字の色は黒いってのが性質の部分です.
果物のリンゴって思い浮かべる部分が内容です.
それで,表象は内容を指すわけです。

ここで重要なのは,「リンゴ」とか「赤」って文字は,表象を指し示す記号ともいえるんです。
こっから,「説明のギャップ」や「マリーの部屋」の思考実験が解決するんです.
「赤」という言葉を聞いたら、「赤」って色を思い浮かべますよね.
そのとき、それに対応する神経細胞の発火があるわけです.
つまり,「赤」って文字と、赤を感じたときの神経細胞を結び付けたわけです.
ただ、この結び付けは人が勝手にしたことで,必然性はありません.
だから,赤を見たこともない人が、「赤」って言葉をいくら唱えても,赤を見たときの神経細胞が発火するわけじゃありません.
科学者マリーが,赤について言葉でいくら学んでも,赤の神経細胞が発火しないわけです.
だから,マリーが白黒の部屋から外に出て,赤を見たとき,今まで発火したことがなかった神経細胞が発火します.
これがマリーが初めて体験する赤です.

これ,今、何を証明したかわかりましたか?
今の話,全て物理的に矛盾しないでしょ.
つまり,この世界に現象は全て物理で説明できるって物理主義を壊してないんですよ.
意識や心って性質を物理主義の範囲でちゃんと説明できたんですよ.
「説明のギャップ」が解決したわけです.
物理主義から意識を説明する意識理論は,量子脳理論とか,統合情報理論とかいっぱいありますけど,「説明のギャップ」を解決したものは,唯一,表象理論だけだと言われています.

「マリーの部屋」の提唱したフランク・ジャクソンは,物理主義を批判する目的で「マリーの部屋」って思考実験を作りました。
でも、この話には続きがあって、なんと,フランク・ジャクソン自身,後に表象主義に転向したそうです.

そして,この意識の表象理論と同じことをしてるのが意識の仮想世界仮説です.
だから,意識の仮想世界仮説は,物理的なコンピュータで,意識や心を完全に再現できるんです.

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それから,意識の仮想世界仮説に関しては,こちらの本を参考にしてください.
それじゃぁ,次回も,おっ楽しみに!