ロボマインド・プロジェクト,第420弾!
こんにちは,ロボマインドの田方です.
もしかしたら,僕は,根本的な勘違いしてたかもしれません.
ChatGPTとかの大規模言語モデルってありますよね.
大量の文書を学習して自然な会話ができます.
ただ,ChatGPTがやってるのは,次に来る単語を高精度に予測するだけです。
だから,ChatGPTは言葉の意味を理解してません.
だって,ChatGPTは現実世界を生きてないですから.
現実世界を経験せずに,言葉の意味を理解するなんてできません.
これだけは,僕は確信を持って言えます.
今まで,そう言ってきたんですけど,実は,最近,このことに確信が持てなくなってきたんですよ.
ChatGPTが進化したとか、新理論が発表されたとか、そういうことじゃないです.
そうじゃなくて,オリヴァー・サックスの本を読み返してたら,とんでもない話が出てきたんです.
今回は,オリヴァー・サックスの『妻を帽子とまちがえた男』からです.
サックス博士がマドレーヌに出会ったとき,彼女は60歳でした.
彼女は,脳性麻痺で生まれたときから目が見えませんでした.
アテトーゼ型脳性麻痺だったので筋肉に異常がでます.
たとえば自分の意志とは関係なく体が勝手に動いたり,全身の緊張が高まってうまくしゃべれなかったりします.
だから,生まれたときからずっと,介護されて生きてきました.
事前に,そう聞いてたサックス博士は,おそらく,かなり知能も低いだろうと思っていたそうです.
ところが,実際に会ってみると,彼女は流暢にしゃべったそうです.
話すときに痙攣することもなくて,まれに見る知性と言語能力を持った女性だったそうです.
知識がかなりあったので,「すごい読書量ですね.点字はすらすら読めるんですか?」って質問しました.
そしたら,「いいえ,私の読書は全て,録音か他人に読んでもらってるんですよ」って答えたそうです.
これを聞いてサックス博士は驚きました.
というのも、脳性麻痺は通常、手の影響は比較的少ないからです。
痙攣したり,力が弱かったりしますけど,知覚への影響は普通はありません.
そこでテストすると,感覚能力は完全で,全く損なわれてないことが分かりました.
手に触ると、すぐに分かります.
痛さや温度も分かります.
ところが,何を触ってるか当てることができないんです.
サックス先生が自分の手を載せても,それが何か分かりません.
何かを感じるけど,それが意味することが分からないんです.
彼女は,脳性麻痺で生まれて,自分では何もできないと思われていたので,手取り足取り介護されてきました.
食事もトイレも,全て家族がしていました.
自分の手で食べたこともないんです.
普通なら,生後数か月経つと,ハイハイしたり,いろんなものに触れたりして世界を理解しようとします.
そういった経験を一切せずに,60年暮らしてきたんです.
だから,手に触れたものが何かを認識することすらできなくなっていたんです.
第415回で,生まれつき目が見えない人が,50歳で手術して,目が見えるようになったヴァージルの話をしました.
ヴァージルは,あらゆるものを手で触って世界を認識していました.
だから,今まで触って認識してたものは,術後,すぐに見て理解することができました.
でも,今まで感じたことがなかったことは,その意味が理解できませんでした.
たとえば,目で見て遠近感とかはわからないようで,遠くにいる小鳥が目の前にいると思って驚いて逃げたりしていました.
今回は,それよりもっと悪い状況です.
マドレーヌは,見えないだけじゃなくて,手で触れて世界を認識したことがなかったんですから.
ただ,読み聞かせで読書はしてて,流暢に会話もできます.
これって,よく考えたらChatGPTと同じですよね.
世界を経験せずに,言葉だけ学習して会話してるんですから.
でも,マドレーヌは間違いなく,言葉の意味を理解してます.
と言うことは,ChatGPTも言葉の意味を理解してるってことになりますよね.
これが今回のテーマです.
田方敗北
ChatGPTは言葉の意味を理解していた!
それでは,始めましょう!
マドレーヌは,手指の感覚は完全に生きています.
ただ,使ってこなかっただけです.
このことを知ったサックス博士は,何とかして,マドレーヌに物を認識させようとしました.
でも,これは,本当に難しいことです.
だって,マドレーヌは,生まれて事の方,ものを認識したことがなかったんですから.
それどころか,自発的に動くこともありません.
食事もトイレも,すべて他人にしてもらっていました.
必要なのは,自分から手を動かすってことです.
手を動かそうって衝動です.
これが,昔できていて,今できないなら,思い出せばいいだけです.
でも,マドレーヌの場合,生まれてから,一度も自分で手を動かそうと思ったことすらないんです.
そんな人が,自発的に手を動かすことなんてできるんでしょうか?
サックス先生は,手を動かそうという衝動を何とかして起こそうとしました.
そこでサックス先生は,食事の世話をする人にこう指示しました.
マドレーヌに食事を持って行ったとき,食べさせるんじゃなくて,そばに置くだけにするようにって.
あと少しで手が届くとこに置くようにって.
お腹が空いたとき,何とか自分の力で食べないとって衝動を利用しようとしたんです.
そうしたら,ある日,ついにそれが起こったんです.
自分の手を伸ばして手探りでベーグルを掴んだんです。
そして,みごと、それを口に持って行って食べたんです.
60年生きてきて,生まれて初めて,自分の手で食べ物を食べたんです.
まぁ,マドレーヌがベーグルを食べるって,ちょっとわかりにくいですけど,マドレーヌは名前ですからね.
まぁ,それはいいとして,今まで,ただ,されるがままに生きていた人が,自発的に行動できるようになったんです.
一旦,できるようになると後は早いです.
ヘレンケラーが,waterって単語を知ったとたん,驚くべき速さで言葉を吸収していったのと同じです.
彼女は,ものを触って認識できるようになると,積極的にいろんなものを触って理解しようとしました.
彼女の興味は,まずは,食べ物から始まりました.
ベーグルは柔らかくて,真ん中がへこんでるってことを知りました.
ものには,様々な形や硬さがあるってことを理解していきました.
普通なら,赤ちゃんの時に経験することを60歳になって初めて経験するんです.
それにしても,脳ってすごいですよね.
60年間,一度も使ってなくても,ちゃんと機能するんです.
それから,かわいそうって思って,全部世話してたらダメなんですよね.
自分から行動するように仕向けないと,能力があっても、失われてしまうんです.
食べ物の次は,食器や道具に興味が行きます.
フォークの先は,先が尖ったものが何本かに分かれているとかって形を神妙に探ります.
一度わかると、次は,ちょっと触れただけで,それが何か分かるようになります.
これができるようになって,彼女の世界は大きく変わりました.
世界とは,なんて魅力的で,神秘と美しさに満ち溢れてるのかって思うようになりました.
形を理解すると,今度は自分で形を作りたいと言いました.
これも,子供の成長と同じです.
粘土を渡されると,彼女が最初に作ったのは靴ベラでした.
ちょとユーモラスで,流れるようで力強い曲線をもった作品でした.
次の興味は,ものから人間へと移っていきました.
人間の体と顔を探索せずにいられないようでした.
彼女は,なでるように触るだけで,対象を深く鋭く把握していきます.
彼女に触られることは,素晴らしい体験だったってサックス先生は言います.
想像力豊かで美的感覚の優れた芸術家に撫でられてると感じたそうです.
彼女が最初にベーグルを掴んでから,ここまで1か月も経っていません.
それから1年も絶たないうちに,彼女は,粘土で人の頭や体を創る盲目芸術家として,その地域で有名になりました.
その作品は,驚くほど表情が豊かで,エネルギーにあふれてたそうです.
彼女は,目が見えず,手で触ることもなく生きてきました.
直接外界を感じることなく生きてきたので,世界とはどういうものか知らなかったわけです.
それが,手で触れることを覚えて,60歳になって,初めて,世界を認識できるようになったんです.
これで,ようやく全盲の人と同じ状況です.
さっき紹介した全盲のヴァージルは,50歳のとき,初めて目が見えるようになりました.
その時,今まで感じてた世界とのギャップに苦しみましたけど,マドレーヌはそれはありません.
どうも、脳は、世界に対する普遍的な認識能力があるようです。
それは生まれながらに持っていて、消えることもないようです。
ただ、ヴァージルは、目が見えるようになったとき戸惑ったことがありました。
それは、世界が同時に全部存在するってことです.
今まで,触れたとこだけ存在して,触れてないとこには何も存在しないって世界観でした。
歩きながら自分の周囲に世界が立ち現れるって感じです。
自分中心に世界が存在するって世界観です。
たぶん、元々,脳の中にあるのはこの世界観です.
ただ,マドレーヌは,手で触って認識するってことすらしてなかったので,その世界観すら持っていなかったんです.
それが手で触れることで,物があるって世界に気づけたんです.
一旦気付くと,どんどん探索して,世界が広がります.
最後には,自分がものを作り出したくなるんです.
これが,人が本来もつ,世界との関り方です.
ところが、世界への入り口がないと,世界が存在することすら気づけません.
でも,世界への入り口さえ見つかれば,必ず,もっと世界を知りたいって思うんです.
側頭葉にはいろんな形に反応する脳細胞が存在します.
さらに顔の表情に反応する脳細胞なんかもあります.
つまり,世界はいろんな形があるとか,人はいろんな表情をもってるってことは,脳の中で生まれる前から知ってることなんです.
その世界観は全ての人が共通に持ってます.
これは,世界への扉が開いたら自動的に動き始めるんです.
だから,目が見えない人は顔に触れて,顔の表情を確認したくなるんです.
僕らも,人に会ったら,まず,顔を見ますしね.
まず,膝を見るとかって人とか、あまりいないと思います.
でも,脳で決められてるのはここまでです.
自分の周囲だけに世界があるとか,広い世界の中に自分がいるとかって世界観は生まれつき持ってないんです.
それは生まれてから作り出されるんです.
だから,目が見えない人は,自分の周囲だけの世界を想像します.
目が見える人は,広くてどこまでも続く世界を想像します.
これは意識の仮想世界仮説にもぴったり当てはまります.
意識の仮想世界仮説というのは,僕が提唱してる意識仮説です.
人は,目で見た世界を頭の中で仮想世界として構築します.
意識は,その仮想世界を介して現実世界を認識します.
これが,意識の仮想世界仮説です.
目が見えない人の場合,手で触って仮想世界を構築します.
ただ,想像する世界が自分の周りだけとなるだけです.
目が見える人も見えない人も共通するのは,世界の中に「もの」があるって形で世界を認識するってことです.
そこまでは,脳の仕組みで決まってるわけです.
この話,もう一歩進めると,面白いことが見えてきます.
それは,人が認識できる世界の限界です.
子どもの頃,宇宙の果てってどうなってるんやろって想像したことありますよね.
なんでも,この宇宙は,ビッグバンで始まったそうです.
ビッグバンで,光とか素粒子が生まれて,そこから宇宙が始まりました.
その宇宙は今も膨張してて,僕らはその中にいます.
ビッグバンから光も空間も生み出されました.
じゃぁ,この宇宙の外はどうなってるんでしょう?
空間が存在しないはずですよね.
でも,空間が存在しないって、うまく想像できないですよね.
つまり,ここが想像の限界なんです.
僕らの脳は,世界の中に「もの」があるって形で世界を認識するようにできてます.
だから,その形式に当てはまらない世界をうまく認識できないんです.
だから,宇宙の果てを想像しようとすると,頭がこんがらがるんです.
それに比べたらダークマターとか,まだ,理解できます.
なんでもこの宇宙には,目に見えない物質,ダークマターが全宇宙の質量の25%も占めるそうです.
でも,目に見えないから観測されたこともないそうです.
それがどういうものかさっぱり分からないですけど,想像することはできますよね.
なぜ,想像できるかっていうと,世界のなかの「もの」って形式に収まるからです.
想像できる形式だから,想像できるわけです.
最後に冒頭の話に戻ります.
ChatGPTは,本当に言葉の意味を理解してるのかって話です.
今までの話から,言葉の意味の一番の根本は,人が生まれつきもってる世界の認識の仕方だってわかってきました.
つまり,世界のなかに「もの」があるって形式です.
その世界観は生まれつき持っていて,消えることがありません.
だから,60歳になって,生まれて初めてものを知覚しても,世界を理解することができるんです.
さて,ChatGPTはどうなんでしょう.
大量の文書を学習するだけで,世界の中にものがあるって世界観を獲得したんでしょうか?
もしそうなら,言葉の意味を理解してるといえるかもしれません.
さて,どうなんでしょうねぇ.
はい,今回はここまでです.
面白かったらチャンネル登録,高評価お願いしますね.
それから,今回紹介した意識の仮想世界仮説に関しては,こちらの本で詳しく語ってますので,良かったら読んでください.
それじゃぁ,次回も,おっ楽しみに!