第422回 音楽は,脳の中にある!


ロボマインド・プロジェクト,第422弾!
こんにちは,ロボマインドの田方です.

このチャンネルでよく語ってきた脳の話は、見えるとか見えないとか,視覚が中心でした.
それから,AIだと,ChatGPTとか,言葉の意味理解とかです。
意外と,聴覚とか,音楽の話はしてこなかったんですよ.
そこで、今回は音楽です.
今や,AIが作曲する時代です.
でも,これもChatGPTと同じ問題があります。
ChatGPTって,次の来る単語を予測して文を生成するので、言葉の意味を理解してるわけじゃないです。
それと同じで,作曲AIも,次にくる音を予測してるだけです.
つまり、曲の意味とか,感じとか、何も感じてません。
これ,結構重要な問題やと思うんですけど,誰も議論してないです.

なんでかって言うと,言葉の意味と同じで、音楽の意味とは何かって、まだよく分かってないんです。
第416回で色の話をしましたよね。
色って,現実世界にあるんじゃなくて,脳の中にあるって話です.
脳の中で、意識が感じれる色を生成してるから色を感じるんです.
第416回で紹介したジョナサンは、交通事故で脳を損傷して、突然,色が分からなくなりました.
トマトが真っ黒に見えます.
思い出すトマトも,夢で見るトマトも真っ黒です.
脳の中の色を生成するところが損傷したからです.
色と同じことが,音楽でも言えるんじゃないかってことです.

たとえば音階には長調と短調ってありますよね.
聞いてて楽しい気分になるのが長調で,もの悲しいのが短調です.
音って、ただの空気の振動です。
それが,耳から脳に入って,それが脳内で変換されて、楽しい気分になったり,悲しい気分になるわけです.

今年、ロボマインドはクラファンでアニメを作って,テーマ曲も作りました.
(♪ここにあるのは、本物の愛~:もこみちゃんが走ってる動画とかと合わせて)
この曲を作ってくれたのが同級生の福居君です.
高校の時,福居君の家に遊びに行ったとき,ギターで沖縄音階ってのを弾いてくれたんですよ.

沖縄音階の5音を適当に弾いただけで沖縄っぽくなって、これが不思議でした.
音楽ってメロディーで決まるものと思ってたんですけど、どの音を弾くかで雰囲気が決まるんですよね.
音楽って,まさに脳の中にあるってことです。

これが今回のテーマです.
音楽は,脳の中にある!
それでは,始めましょう!

今回も,オリヴァー・サックスの『妻を帽子と間違えた男』からです.

88歳のC夫人は,夜中に音楽が鳴って目が覚めました.
どこかでラジオが鳴りだしたので止めようとしたんですけど,ラジオは鳴っていませんでした.
その曲は,子どもの頃に過ごした故郷,アイルランドの曲でした.
他の人に聞いても,そんな曲は鳴ってないっていいます.
どうも,その曲が鳴ってるのは自分の頭の中だけだったようです.
ラジオから聞こえてると思うぐらい、はっきりとその曲が聞こえるそうです.
最初はずっとなってたんですけど,サックス先生の所に来た時には、たまに鳴る程度でした.
サックス先生がCTで脳波を調べたところ,曲が鳴ってるときは,側頭葉に異常な脳波が発生してることが分かりました.
C夫人は,幸い,しばらくしてほとんど曲が聞こえなくなりました.

M夫人も80代で,ほとんど同じ症状でした.
聞こえる曲は決まった3曲で,たまに同時になることもあったそうです.
M夫人は,症状が治まらず,どんどんひどくなったそうです.
ただ,いつ曲が聞こえるかは多少,コントロールできるそうです.
ある曲のことを考えると,必ず,この症状が出るそうです.
本を読んだり,ほかのことに集中してるときには起きないそうです.

さらに検査すると,M夫人は、失音楽症ということがわかりました.
失音楽症というのは,音の高さやメロディーを区別できなくなる障害です。
側頭葉の聴覚を司るところが損なわれると起こるそうです.
彼女がい言うには,最近,チャペルで聞く讃美歌が、平板な音にしか聞こえないそうです.

これ,交通事故で色が分からなくなったジョナサンに似てますよね.
脳の中で色を生成するところが損傷したからジョナサンは色がわからなくなったわけです。
音楽も、脳の中でメロディーとか,音階として生成して、意識はそれを感じ取るんです.
音波は空気中の振動で、それを感じ取るのは人間も動物も同じです.
でも、動物は音楽を理解しません。
じゃぁ、何が違うかというと,人は、特定の音のパターンに反応する脳細胞があるんです。
その脳細胞を介して音楽を認識するから,メロディーや音階を感じ取れるんです.

分かりやすい例だと、顔の表情を感じ取る脳細胞もあります.
たとえば、これ見てください.

モナリザが反転してますよね。
それ以外に,特におかしなとこはないですよね.
それじゃぁ,この絵をゆっくり回転させますよ.(180度回転させる)

ほら,気持ち悪い表情してるでしょ.
なんで気持ち悪いと思うかというと,眼と口を上下反転させてるからです.
これだけ気持ち悪い顔してるのに,逆さまになってるときは気付かなかったですよね.
なんでかって言うと,顔の表情を読み取る脳細胞は,上下が正確でないと反応しないからです.
つまり,表情に反応する脳細胞があって,それが働いてるから微妙な表情が読み取れるってことです.
これが,ただ単に世界を見てるわけじゃないってことです.
いろんな脳細胞があって、それを通して見てるから,相手が怒ってるのか,笑ってるのかって表情を読み取れるわけです.

これと同じものが聴覚にもあります.
音階やメロディってパターンに反応する脳細胞が側頭葉にあるんです.
その脳細胞が損傷すると,音階やメロディーが分からなくなるんです.
それが,失音楽症です.

音階やリズム,メロディーに反応する脳細胞があって,それが組み合わさって曲は成り立ってるんです.
それを感じ取ってるから,もの悲しく感じたり,踊りたくなったりするわけです.
それを感じ取れなくなると,平坦で何も感じなくて,ただの空気の振動を感じるだけになるんです.

さて,C夫人やM夫人にいったい何が起こったんでしょう。
サックス博士は,「音楽てんかん」の診断を下しました.
えっ、何それ?って思いました.
初めて聞く病名です.
それで,調べてみたら,たしかに「音楽てんかん」ってありました.
数は少ないですけど,音楽を聴くと発作が起こる症例がいくつか報告されてるようです.
誘発する音楽は楽器とかジャンルは関係なくて,メロディーだそうです.
それも,好きな曲とか,その人が良く知ってる曲だそうです.
人によってクラシックだったり,ジャズやロックだったりするそうです.
ある患者がいうには,最初,耳の奥で音楽がなる感じがしてきて,「あっ,また来たな」って気づくそうです.
そうなったら,出来るだけ別のことに集中して,音楽を中断させないといけません.
もし,その音楽に聴き入ったら,だんだん,その曲が大きくなって,最後には気を失うそうです.

調べてみたら、「音楽てんかん」だけでなく,「読書てんかん」や「数学てんかん」というのがあるそうです.
「読書てんかん」は,本を読んでると発作が起こる症状です.
何度も読んだことのある本や,知らない外国語の本だと発作は起こりません.
発作が起こるのは,何か新しい意味のある文章を読んだときだそうです.
音読でも黙読でも,本を縦にして読んでも,横にして読んでも起こります.
きっかけは,あくまでも意味があって,面白いと思う文章です.

それから,「27-17」とか「6×11」とか計算させると発作が起こる症例もあるようです.
これを「数学てんかん」といいます.
これも簡単な計算だと起こらなくて,ある程度複雑で,集中して考えないと分からない問題で起こるそうです.
その人は,計算だけで起こって,幾何学問題や算数の文章問題では起こらないそうです.
いやぁ、いろんなてんかんがあるようです.

さて,C夫人もM夫人も発作は起こりません.
ただ,頭の中で音楽が鳴るだけです.
でも,これは「音楽てんかん」の初期症状です.
それに,側頭葉に特徴的な脳波がでるので,「音楽てんかん」の一種だと考えたわけです.
そこで,M夫人にてんかん治療に使う抗痙攣剤を投与したら,たちどころに音楽は鳴りやんだそうです.

どうやら,音楽は側頭葉に保存されてるようです.
そのことを証明したのはカナダの脳神経外科医,ワイルダー・ペンフィールドです.
ペンフィールドは,脳そのものには痛みを感じる感覚受容体がないことを気づいて,全身麻酔を行わずに局所麻酔で行う術式を開発しました.
これだと,患者は意識があるので,大脳皮質に電気刺激して,何を感じるか本人に直接聞くことができます.
切除しても,後遺症が残らない部位を特定するためです。

その手術の過程で,脳機能の局在性に気づいたんです.
その一つが,体性感覚野です.

脳には左右に走る大きな溝,中心溝があって,その後ろにあるのが体性感覚野です.
そこを電気刺激すると,体のあちこちを触れられた感覚がします。
そうやって,脳内の人体マップが完成しました。
これを脳の中のホムンクルスっていいます。

体性感覚野の前には運動野があります.
ここにも人体マップがあって,ここを刺激すると,今度は対応する場所が動きます.
たとえば、右腕に対応する部分を刺激すると,右腕が上がるとかです.
ペンフィールドも驚きました。
脳って,こんな風にできてるって初めてわかったんです。
夢中になって調べてたと思います.
「はい,右手,はい左手」って電気刺激してたら,「先生,私の脳で遊ばないでください」って患者に注意されたこともあったようです。

まぁ、研究者なら,分からないでもないです.
ペンフィールドが、その次に探求したのが側頭葉です.
こっちは,もっと面白いです.
側頭葉を刺激すると,記憶がありありと蘇ってくるんです.
学生時代,友達と談笑してた何気ない光景とか思い出した人もいます.
子どものとき,運動会に行きたくないって母親に話したら「大丈夫.あなたならきっとできる」っていわれたことを思い出した人もいました.
それで,元気をもらって運動会に出たら,かけっこで一等になったそうです.
そんな,人生の節々のいろんな光景がリアルに蘇るそうです.
それを、かなり詳細に記録してて、サックス博士も,すべて紹介したいけど,あまりにも膨大なのでそれはできないって書いてます.

それで,その一部として,ペンフィールドが作った面白い図を本に載せてます.
これです.

これ,何か分かりますか?
側頭葉に沿って,びっしり数字が書き込まれてるでしょ.
これは,ある患者の脳を刺激したとき,どんな曲が聞こえたかって記録なんですよ.

これ,何が面白いか分かりますか.
これって,言ってみれば,iPhoneのプレイリストと同じです。
プレイリストを見れば,その人がどんな音楽が好きかってわかりますよね。
それだけじゃなくて,性格とか,どんな人生を送ってきたかまで垣間見れるじゃないですか.
この図は,究極のプレイリストです.
ここには,その人の好きな曲,人生で何度も聞いた曲,忘れられない曲が刻み込まれてるんですよ.
この場所を刺激したら,人生の節々で聞いた曲が蘇るんです.
それも,単なる音の再生じゃなくて,意味をもった曲として再生されるんです.

面白くなってくるのはこっからです.
ペンフィールドは,100年以上前の人です.
そこから、脳科学も,かなり進歩しました.
何が一番進歩したかっていうとBMI技術です.
BMIっていうのは,ブレイン・マシン・インターフェイスの略です.
要するに,脳に電極を埋め込む技術です.
今年,イーロン・マスクのニューラリンク社が,BMIの臨床実験の許可を取りました.
イーロン・マスクが許可を取ったのは,単なる実験許可じゃないですよ.
許可が下りたのは,BMIを自動で埋め込むロボットの臨床試験です。
つまり,自動で頭を切開して,電極を埋め込むロボットです.
これ,何を意味するか分かりますか?
BMIが一気に全人類に普及するってことです.
特殊な難病を抱えている一部の人のためじゃないってことです.

便利だからって理由だけで,BMI手術するようになるってことです.
近視の手術でレーシックってありますけど,あんな感じです.
あれも,機械が自動的にレーザーで手術するので,医者は,何もしません.
ただ,保険が効かないので,お金はかかりますけど.
おそらく,将来はレーシック手術の感覚で,BMIを受けるようになるんです.

BMIを埋め込んだら、最初にするのが側頭葉のスキャンんです.
どこにどんな曲が記憶されてるかスキャンするんです。
それさえ分かれば、あとは,あの曲を聞きたいって思うだけで,脳内で再生されるんです.
「音楽てんかん」は,ある程度自分でコントロールできましたから,これは十分可能です.

「いや,そんなのiPhoneで十分」って思うかもしれません.
でも,BMIで再生されるのは音楽じゃなくて,音楽で得られる体験そのものなんですよ.
いろいろモードがあって,ユーミンの曲を桑田佳祐に歌ってもらうとかもできます.
沖縄風に編曲してかけてとかも自由にできます。。

それから,この本に,ちょっとおもしろい話が載ってました.
ロシアの作曲家で,シェスタコービッチっているでしょ.
シェスタコービッチは,ある発砲事件に巻き込まれて,弾丸のかけらが左側頭葉に残ってるそうです.
それを手術で取らないといけないって医者に言われたそうですけど,シェスタコービッチは断固として拒否したそうです.
なんでかって言うと,頭を左に傾けて首を振ると,その破片が側頭葉を刺激して,いろんなメロディーが浮かぶそうです.
シェスタコービッチは,それを利用して作曲してるそうで,「この破片を取ったら,作曲できなくなるじゃないか」って怒ったそうです.

そんなので作曲するなんて,なんか,ズルいなぁって思いましたけど,BMIを使えば,誰でもそれができるようになるんですよ.
それに、BMIは音楽だけじゃないです.
側頭葉には,人生のありとあらゆる経験が保存されてるんです.
中学の卒業式とか,サッカーの試合で優勝した思い出とか,全部,側頭葉に保存されてます.
それを刺激したら,いつでも思い出せるんです.
それも,単に思い出すんじゃないですよ.
その時の体験,感じたこと,すべてを,今,この瞬間,リアルに再現されるんです.
ペンフィールドに側頭葉を刺激された人は、こう言ってました.
今,手術中だというのは分かります.
でも,今,目の前に,今はいない、お母さんがいるのがはっきりと見えるって.
そして,あの時の言葉を,そのまましゃべってるって.
「大丈夫よ。あなたならきっとできる」って。
そういって涙を流してたそうです.

どうでしょう?
落ち込んだとき、楽しい記憶をいつでも呼び出せるんですよ。
たぶん,10年以内に,そんなことが可能になります.
僕は,宇宙旅行とかは、そんなに興味ないですけど,これはちょっと興味ありますね.
皆さんは,どうでしょう?

はい,今回はここまでです.
面白かったらチャンネル登録,高評価,お願いしますね.
それから,よかったらこちらの本も読んでください.
それじゃぁ,次回も,おっ楽しみに!