第430回 右脳と左脳の根本的な違いとは?


ロボマインド・プロジェクト、第430弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
さて、前回、意識はプログラムだって話をしました。
じつは、新しい意識理論を考えてましてね、その大前提が意識はプログラムだってことです。
その話をしてたら前回は終わってしまいました。

新しい理論っていうのは、意識がプログラムとして、その根本的な情報処理って何かってことです。
それで考えてたのは、右脳と左脳の役割です。
右脳と左脳について、今までもかなり考察してきましたけど、まだ、分からない点がいっぱいあるんですよ。
たとえば半側空間無視です。
右脳が損傷すると、左側を無視する半側空間無視って症状がでます。
たとえば、ご飯を食べる時、左にあるおかずだけ残したりします。

じつは、この半側空間無視って、左しか起こらないんですよ。
右側を無視する半側空間無視って存在しないんですよ。
つまり、左脳を損傷したからといって、右側を無視する人はいないんです。
これ、考えたら不思議でしょ。
実際、なぜそうなるのか、まだ分かってないんですよ。
そのことをずっと考えてまして、ようやく分かりました。
それを追及してたら意識の新しい理論が生まれたってことです。
これが今回のテーマです。
右脳と左脳の根本的な違いとは?
それでは始めましょう!

半側空間無視って、左が見えないんじゃなくて、本人にとったら、左に世界が存在しないんですよ。
左に世界が存在しないって、よく意味がわからないですよね。

車いすに乗った、ある半側空間無視のおばあさんがいました。
そのおばあさんは、ご飯を食べ終わったと思ったら、右の視界にテーブルの左側が入るように車いすを回転させるんです。
そしたら、右の視界に左のおかずが入ってきて、食べ残してることに気づいて、全部食べることができます。
ただ、不思議なのは、車いすを回転させる方向です。
左に回転させたらいいと思いますよね。
ところが、このおばあさん、右にほぼ360度回転させるんですよ。
「なんで左に回転させないんですか?」って聞いたら、左に回転させるって思いつけないからだそうです。
だから、食事が終わったら右に回転するって覚えておくそうです。
そして、右に回転して、右の視界におかずがみえたら、「あっ、食べ残してた」って気づけるってことです。
左に回転することを考えることもできない。
これが左に世界が存在しないって感覚です。
何となく分かってきましたけど、でも、まだ、なぜ、半側空間無視は左だけに起こるのかよく分かりません。

そこで、別の症例も紹介します。
右脳が損傷した人と、左脳が損傷した人に、同じ絵を描いてもらいました。

左が元の絵です。
真ん中が右脳だけで描いた絵です。
右が、左脳だけで描いた絵です。
これを見たら、左右の脳の特徴がわかりますよね。
右脳が損傷したら左半分が見えないとかじゃないんです。
そうじゃなくて、右脳は全体に注目して、左脳は内側に注目するんです。
どうも、右脳と左脳では、注目する向きが違うようなんです。

つまりね、右脳は外向きなんですよ。

それに対して、左脳は内向きなんですよ。

左脳と右脳では、対象に対して、意識が向かう方向が内と外で逆なんです。

だから、右脳が注目するとしたら、輪郭とか外側なんですよ。
それに対して左脳が注目するとしたら、内側なんです。
意識が注目するっていうのは、この動きにのって対象を見たり情報処理することです。
ふつうは右脳と左脳が両方働いているから、外側にも内側にも両方に注目できます。
だから、全体の輪郭にも注目できるし、内側の細かい部分にも注目できるんです。
これが、左脳が損傷して右脳だけしか働かなくなると、意識は、外側の輪郭しか注目できなくなるんです。
逆に、右脳が損傷して左脳しか働かなくなると、意識は内側の細かい部分にしか注目できなくなるんです。

こう考えたら、半側空間無視が左側しか起こらないことも納得がいきます。
左側を無視するということは右脳が損傷したわけです。
右脳が損傷したということは、意識は外側に注意を向けれなくなります。
だから、左に回転するってことすら思いつけないんです。
注意を向けれるのは内側だけです。
だから、視界の内側となる右側のおかずは全部食べます。

一方、左脳が損傷して右脳が生きてる場合はどうでしょう?
左側を認識できます。
さらに注意は外に向かいます。
だから、左半分が見えるだけじゃなくて、右を向いてみようって思うこともできるんです。
そう思えたら、しめたものです。
眼球をちょっと右に回転させたら、右側が視界にはいってきて、右側にある物に気づきます。
だから、右側半側空間無視は起こらないんですよ。
これで、右側半側空間無視が起こらない原因がわかりましたよね。

さて、前回、意識はプログラムだって話をしました。
意識とは情報処理そのものだってことです。
今回の話で、情報処理には内向きと外向きの二種類の方向があるってわかりました。
右脳が外向きで、左脳が内向きです。

そう考えると、いろんな話が説明がつきそうです。
まずは、左脳が脳卒中になって右脳だけの世界を経験したジル・ボルト・テイラーです。
ジルは、脳卒中になった時、体の境界が感じれなくなって、世界に溶け出す感覚を感じたって言ってました。
さらに、体が膨張して、世界と一体となったって。
これはワンネスとか、一瞥(いちべつ)体験とか、悟りを開いた人の感覚と同じです。
これは、左脳が損傷したり、左脳の活動を抑制して、右脳が活性化して起こると考えると納得できますよね。
内向きに抑える左脳が停止したので、意識はどんどん外に拡大して世界と一体となったわけです。

逆に、第260回では、脳卒中で右脳が損傷した山田規矩子さんの話を紹介しました。
たとえば道路のセンターラインってありますよね。

これが、山田さんにはこんな風にバラバラに感じるそうです。

これも、右脳が損傷したことを考えればわかりますよね。
広がる方向に注意を向けるのが右脳です。

線があったら、その延長を作り出します。
その機能が損なわれたから、線を延長してつながるって感覚がもてなくなって、センターラインがバラバラに感じたんでしょう。

そういえば、自閉症の子の特性に指差しが理解できないってのがあります。
「あっち」って指を指しても、指先を見るんです。
指の指す方向を見ないんです。
これも、もしかしたら右脳のもつ、広がる方向に意識を向けるって機能が失われてるからかもしれません。

逆に、自閉症の子はこんな緻密な絵をかきます。

内側がびっしり描き込まれていますよね。
これは左脳のもつ内側に注意を向ける機能が優位に働いているからかもしれません。

内側は緻密に描き込まれますけど、外側には何も描かれていないのは、外に向かう注意が欠けてるとすれば納得できます。

どうも、左脳と右脳って、注意を内側に向ける機能と、外側に向ける機能に分かれるみたいなんです。
そして、この二つの機能がうまくバランスを取ってるんです。
たぶん、人によってどちらがより強く現れるか違うんだと思います。
注意が内側に向かう傾向が強い人は、物事に集中するタイプです。
そのかわり変化が苦手です。
逆に、注意が外側に向かう傾向が強い人は、集中力がなくて、すぐに他のことが気になります。
その代わり、変化には臨機応変に対応できます。

今度は別の角度から考えてみます。
ここで、意識の仮想世界仮説について説明しておきます。
意識の仮想世界仮説というのは僕が提唱する意識仮説です。
人は、目で見た世界を頭の中で仮想世界として構築します。
意識は、この仮想世界を介して現実世界を認識します。
これが意識の仮想世界仮説です。

人の特徴は、目の前にない世界を想像できることです。
だから、昨日の出来事を思い出したり、神話や物語を理解できます。
この想像するときに使うのが想像仮想世界です。
つまり、仮想世界というのは二つあって、一つが、目の前の現実世界を再現する現実仮想世界で、もう一つが、過去とか未来とか、目の前にない世界を想像するときに使う想像仮想世界です。

僕は、よく脳をCPUにたとえて説明します。
脳がCPUなら、意識はCPUの上で動くプログラムだって。
このことは、このチャンネルの第一回から主張してきたことで、この考えは今も変わっていません。
ただ、だからと言って脳とCPUは全く同じかというとそんなことはありません。
タンパク質か半導体かって違いももちろんあります。
けど、僕が知りたいのは、計算機としての根本的な部分です。

たとえば、CPUには足し算回路や掛け算回路、論理演算回路があります。
これら基本回路を使ってあらゆる計算をしてるわけです。
もっと言えば、ノイマン型コンピュータです。
基本回路をどんな順番に使うかった指示をかかれたのがプログラムです。

でも、さすがに、脳がノイマン型コンピュータと同じなわけがありません。
じゃぁ、脳はどんな基本回路、つまり基本処理があるのか。
それをずっと考えていたんですよ。
それが、今回の内向きと外向きです。

これで、ようやく本題に入れます。
知性とは何かって考えてました。
それで辿り着いた一つが、抽象化能力です。
第423回で、犬になった医者の話をしました。
犬になったっていうのは、嗅覚が犬並に鋭くなったってことです。
そうなると、どうなったと思います。
現実世界のすべてが生々しくリアルに感じられたそうです。
そうなると、どうなると思います?
物事を一歩引いて、抽象化して考えられなくなったそうです。
これが動物の感じてる世界です。

人は、現実を一歩引いて、抽象化して考えることができます。
つまり、知性の基本は、抽象化する能力といえそうです。
じゃぁ、物事を抽象化するって、具体的に脳の中でどうやって処理することよって考えてたんです。

そこで想像仮想世界です。
これも、人間しか持ち得ないものです。
仮想世界は、コンピュータだと、たとえば3DCGで作られます。
「リンゴがあるとします」って言ったら、想像仮想世界に3Dのリンゴオブジェクトを生成して、意識はそれを認識するわけです。
これが目の前にないものを想像するってことです。

さて、想像仮想世界にリンゴオブジェクトを生成しました。
想像仮想世界って、必ずしも現実にある物を反映する必要がないわけです。
意識の基本機能として、内向きと外向きの処理があるわけですよね。
あらゆる物事にこの機能を適用するわけです。
今、想像してるリンゴにもこれを適用してみます。
思い浮かべてるリンゴに対して、内向きの処理をするとどうなるかっていうと、リアルにリンゴをイメージすることです。
目の前で、手に取ってるように、リンゴのつやとか、ちょっとした汚れとか、細部まで思い浮かべます。
できるだけ具体的に思い浮かべること、これが内向きの処理です。

逆に外向きの処理は、細部を無視して、リンゴを一般化します。
つまり、抽象的なリンゴって概念になります。
じゃぁ、さらに抽象化するとどうなるでしょう?
それは、リンゴって具体的なものを抽象化するから果物って概念になるでしょう。
それをさらに抽象化すると、食べ物とか、植物の実となるでしょう。
こんな風に物事を抽象化して概念としてとらえること、これが外向きの処理です。
これが知性です。
内向きの処理と外向きの処理、それから想像仮想世界って仕組み。
これらがそろって、初めて物事を抽象化することができたんです。
それが人間が獲得した知性です。

どうでしょう?
人間の脳が行ってる情報処理が、かなり具体的になってきましたよね。
今まで、僕が解明してきたのは、このうちの仮想世界です。
仮想世界はオブジェクトで構成されます。
オブジェクトには、色とか形ってプロパティがあるとか、落ちるとかって動きを示すメソッドがあるとかです。
そして、オブジェクトを認識するのが意識プログラムです。
この意識プログラムの中身については、今まで、よく分からなかったんです。
プログラムって、最終的にはコンピュータのもつ基本回路に還元されますよね。
ノイマン型コンピュータなら足し算回路とか掛け算回路とか論理演算回路です。
脳の場合、それがよく分からなかったので、いまいち、意識プログラムの中身の処理がよく分からなかったんです。
ただ、オブジェクトの中身は、脳の中でどんなふうに保持されてるかはかなり分かりました。
それは、側頭葉にあります。

こんな風に、基本的な形の要素は側頭葉にあって、それを組み合わせてオブジェクトがつくられるわけです。
そうやって作られたオブジェクトを処理するのが意識プログラムってとこまでは分かってましたけど、その処理の基本要素が何かが分からなかったんです。
側頭葉にある脳細胞みたいに足し算や論理演算する脳細胞は見つかってません。
それが、今回、わかったわけです。
それは、なんと右脳と左脳だったんです。
何らかの計算処理をする脳細胞を探してたんですけど、右脳と左脳だったんですよ。
意外と大きかったですねぇ。
ノイマン型コンピュータは、基本回路を使いまわして処理するんですけど、やっぱりノイマン型コンピュータとはかなり違う構造のようです。

たとえば、仮想世界も右脳と左脳にあるわけです。
たとえば、スーパーに言って、目の前にリンゴがあったとします。
意識がそれを認識するというのは、意識は、現実仮想世界のリンゴオブジェクトをうけとってるわけです。
意識は、細部に注目しようと思えば左脳の処理結果を受け取ります。
そしたら、ちょっと傷があるぞとかってことに気づきます。
全体を把握しようと思えば右脳の処理結果を受け取ります。
そしたら、「リンゴのとなりに梨があるなぁ」とかって気づきます。
または、想像仮想世界のリンゴオブジェクトの右脳に注意を向けると、「果物を買うんだったら、他の果物を買った方がいいかも」って思うこともできます。

どうです?
脳というコンピュータの仕組みの大枠がみえてきましたよねぇ。
10年以上前から、世界中で人の脳をそのままコンピュータでシミュレーションしようって動きがあります。
もしかしたら、人の心がコンピュータで再現されるんじゃないかってことです。
ただ、正直言って、あまりうまく行っていません。
たとえば、ヨーロッパのヒューマン・ブレイン・プロジェクトは10年で約1000億円の予算を使いましたけど、2023年にプロジェクトを終了しました。
これ以上予算を使っても、何も成果が生まれないからです。

なぜ、失敗したか分かりますか?
それは、今の脳科学で分かってることは、脳のほんの一部だけだからです。
丸や四角を脳のどの脳細胞が解析するかとか、それを組み立ててもっと複雑な形を解析するとかまでは分かっています。
でも、そっから先は何にも分かっていないんです。
そんな状態で、脳と同じ神経回路をコンピュータでシミュレーションしたところで、心が生まれるわけありませんよね。
そんなこと、やる前から分かっています。
1000億円も書けないと分からないんですかねぇ。

それよりもやるべきは、脳の中でどうやって心がつくられるのかって心のモデルを作ることです。
脳というコンピュータは、どんな基本処理を持ってるかを解明することです。
ただ、それは脳を観察しても見えてきません。
もし、それで分かるなら、とっくに解明されているはずです。
そのやり方でわからないなら、次は、いろんなモデルを提案して、どれが一番、自分らが感じてるものに近いかかを判断するってやり方しかありません。
ただ、このやり方は誰もやっていません。
やってるのは、世界中でロボマインドだけです。
今回、右脳と左脳で外向きと内向きの二種類の情報処理を行ってるって新たな理論を提案したわけです。
これが、世界で最も人間の心に近い人工知能理論となります。

はい、今回の動画がおもしろかったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、ロボマインドの理論の基本、意識の仮想世界仮説に関しては、こちらの本を参考にしてください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!