ロボマインド・プロジェクト、第435弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
僕は、脳科学の本を読んで、脳の仕組みについてあれこれ考えてますけど、実際に脳を見たり、触ったりしたことはないです。
ただ、脳ってものすごく複雑で細かな情報処理してるってことはわかっています。
だから、脳外科医って凄いなぁって思ってました。
ところが、脳外科手術って、思ってた以上にとんでもなく細かい手術してるってことがわかりました。
今回も、引き続いて、神経科医、ハロルド・クローアンズの『失語の国のオペラ指揮者』からの紹介です。
今回は、クローアンズ先生の同僚の脳外科医の手術の話です。
僕がよく見せる側頭葉の図あるでしょ。
十字や四角って形を認識する脳細胞があるって図です。
脳細胞って言ってますけど、厳密には脳細胞がまとまった円柱です。
それをカラムっていって、こんな感じで6層になってます。
カラムの大きさは、
直径約0.5㎜、長さ約2.5㎜です。
一つのカラムには、よく似た刺激に反応する脳細胞が1~10万個がまとまっています。
さて、今回出てくる脳外科手術ですけど、どんな手術をするかというと、カラムの一本一本に縦に切り込みを入れるんです。
いや、とんでもなく細かい手術ってわかりますよね。
それから、なぜ、カラムの縦に切り込みを入れるんでしょう。
これが今回のテーマです。
脳細胞単位!
驚異の脳外科手術
それでは、始めましょう!
クローアンズ先生がメアリルーに初めて会ったのは、パーキンソン病のおじいちゃんの付き添いで来た時でした。
3歳になったばかりのメアリルーはクローアンズ先生が聞く前に、「私の名前は、おばあちゃんのメアリとおじいちゃんのルーからもらったのよ」と教えてくれました。
帰る時、クローアンズ先生は手品を見せました。
そしたら、「とても面白い手品ね。友達に見せたらみんなびっくりするわ。だって、みんなおバカさんなんだもの。だから私に教えてくれない?」って言ったそうです。
それ以来、メアリルーは、毎回、おじいちゃんに付き添って一緒に来て、そのたびに、クローアンズ先生から新しい手品を教えてもらいました。
元気でおしゃべりなメアリルーが5歳になったころ、急におとなしくなりました。
それどころか、全然、しゃべらなくなったんです。
話しかけても返事をしません。
言葉を理解することも、話すこともできなくなったようです。
観察してると、時々、奇妙な動きをします。
激しく瞬きしたかと思うと、首をうなだれて、その後両手をこすります。
全く同じ動きを診察中に2回もしました。
クローアンズ先生は、何が起こってるか察しました。
てんかんの発作です。
このような発作は、通常、側頭葉に起因します。
しゃべりかけても反応しないと言うことは、言葉の意味を理解してないようです。
どうやら、言語野で発作が起こってるようです。
それも、言葉の意味を理解するウェルニッケ野です。
ただ、ウェルニッケ失語の場合、言葉の意味は理解できなくなった分、無意味な言葉をしゃべるようになります。
でも、メアリルーはしゃべらなくなりました。
これは、おそらく、ランドー・クレフナー症候群です。
ランドー・クレフナー症候群は、脳のまずい場所で、まずい時期にてんかんがおこるというかなり恐ろしい病気です。
まずい場所というのは言語野です。
まずい時期というのは、5歳~7歳です。
なぜ、この時期がまずいかというと、言語を獲得する時期だからです。
この時期に脳の中で言語機能が発達することで、言葉をしゃべれるようになります。
この病気が、かなり恐ろしい病気だってこと、わかりますよね。
クローアンズ先生は、メアリルーの前に行って、いつもの手品をしました。
そしたら、メアリルーはにっこりわらって、お返しに覚えたばかりのトランプの手品をしてくれました。
「この手品はいつ覚えたんですか?」っておじいさんに聞くと、先週教えたとのことでした。
言葉の意味は理解できないですけど、複雑な手品は理解してるわけです。
さらに、自分でも演じます。
これ、非常に興味深いです。
なぜかというと、言葉の意味は理解してないですけど、世界の意味は理解してるといえるからです。
世界の意味といっても、よくわからないですよね。
それじゃぁ、ここで意味とは何かについて考えてみます。
まず、僕が提唱する意識の仮想世界仮説について説明します。
人は、目で見た世界を頭の中に仮想世界として構築します。
意識は、この仮想世界を介して現実世界を認識します。
これが、意識の仮想世界仮説です。
仮想世界というのは、コンピュータで再現するとすれば3DCGで実現できます。
目に見えるものを3Dオブジェクトで再現するわけです。
僕は、意味が分かるとは、頭の中の仮想世界で再現できると定義しています。
これが、世界の意味を理解するってことです。
その分かりやすい例が手品です。
そういえば、僕も手品をしてる動画を一本上げています。
YouTubeを始める前、「話し方の学校」というのに通ったんです。
そこで何でもいいからスピーチをして動画で上げるって課題がでて提出した動画がこれです。
ちょっとインパクトが弱いなぁと思って最後に手品をしました。
カードマジックで使うテクニックを、アボガドとキウイに置き換えたわけです。
まぁ、手品のタネはおいといて、なぜ、手品が不思議かってことについて考えてみます。
手にアボガドを持っていました。
それが、手で隠れた瞬間にキウイフルーツに変わったのが不思議なんですよね。
これが不思議と思うってことは、物体は一瞬で別のものに変わらないって思ってるからです。
これが、たとえば液晶モニター映ってるリンゴが、バナナ、ブドウって変わっていっても不思議と思わないでしょ。
モニターってそういうものだと思ってるからです。
でも、この三次元世界は、物体は何もしない限りその場にあり続けて、一瞬で他の物に変化しないって思ってるわけです。
そんな世界は、たとえば3Dの物理シミュレータで実現できます。
たとえば、手に持ったリンゴから手を離せばリンゴは下に落ちるとか、バットにボールが当たれば、ボールは弾き飛ばされるとか、物理シミュレータで簡単に再現できますよね。
その物理シミュレータで仮想世界をつくるわけです。
つまり、頭の中に物理シミュレータがあって、そこに手に持ったアボガドを再現するわけです。
そして、それが一瞬手で隠れます。
隠れても、手の奥にはアボガドがありますよね。
そう思ってるのは、仮想世界を認識してる意識です。
ところが、手を除けると、アボガドがキウイに代わってます。
だから、意識は、「あれっ?」って不思議に思うわけです。
ねぇ、物理シミュレータを使って、手品の不思議を感じる心の仕組みが再現できたでしょ。
これが、世界の意味を感じる心ってことです。
さて、メアリルーは手品の意味を理解できるので、頭の中に仮想世界をちゃんと作ることができてるってことです。
つまり、世界の意味を理解してるわけです。
でも、言葉の意味を理解してませんでした。
じゃぁ、言葉の意味を理解できないってどういうことでしょう?
それは、言葉を聞いて仮想世界を作り上げることができないってことです。
メアリルーは、言葉の意味を理解できなくても、世界の意味は理解できましたよね。
これは、耳から言葉を聞いて仮想世界はつくれないけど、目で見て仮想世界はつくれるってことです。
言葉の意味理解は側頭葉のウェルニッケ野が関係しています。
おそらく、耳から入ってきた言葉はウェルニッケ野を介して仮想世界をつくるんです。
それは、目から入ってきて仮想世界をつくるのとは別の経路です。
だから、目で見て仮想世界を作ることはできるけど、耳から聞いた言葉から仮想世界を作ることができないわけです。
これがメアリルーに起こっていたことです。
次は、意味についてもう少し考えてみます。
意味を理解するとは仮想世界を作ることができることです。
仮想世界はオブジェクトで作られます。
手にアボガドを持っているという仮想世界は、手オブジェクトがアボガドオブジェクトを握っているわけです。
オブジェクトは、色とか形とかってプロパティと、動作を表すメソッドを持っています。
リンゴオブジェクトなら赤いとか丸いってプロパティを持っています。
手オブジェクトなら、握るってメソッドを持っています。
これらを使って仮想世界は再現されるわけです。
オブジェクトを構成する色とか形ですけど、それは側頭葉にあります。
側頭葉にあるカラムの一つ一つが色とか形で、これがオブジェクトのプロパティになるわけです。
つまり、これが世界をつくる最小の要素、または世界の意味といえますよね。
そして、カラムは一つ一つ区切られていて、カラムとカラムとは下の神経細胞のシナプスでつながっています。
たとえば赤と丸いってカラムをつなげて赤くて丸いって意味を持ったリンゴオブジェクトがつくられるわけです。
シナプスは生まれたときはぎっしり詰まっていて、それが成長とともに使わないシナプスは刈り取られて、よく使うシナプスが強化されます。
シナプス形成は2~3歳ごろがピークで、15~6歳で完了します。
そして、この期間こそ、言語を獲得する期間となります。
さて、メアリルーはてんかんの発作が起こっていました。
では、てんかんとは、具体的に何が起こってるんでしょう。
てんかんの検査は、脳波を使います。
脳波は、脳のいろんな場所で計ります。
ここに、とがった波がありますよね。
これを棘波(きょくは)といって、これが出てるところでてんかんが起こってます。
たとえば、これなどは、脳全体でてんかんが起こっている場合です。
意識を失うほどの大発作の場合の脳波はこうなります。
それじゃぁ、てんかんの脳波が出てるとき、脳では何が起こってるんでしょう?
側頭葉にはカラムがありましたよね。
カラムは一つ一つ独立してて、カラム内で情報は垂直に伝わります。
そして、カラムとカラムとは下のシナプスを介して情報が伝わります。
これが正常な状態です。
じゃぁ、てんかんが起こってるとき、どうなってるでしょう?
実は、カラムの壁を超えて、水平方向に電気信号が走るんです。
カラムって、意味を一つ一つ区切って整理した箱です。
それが、箱の壁を無視して、水平方向に電気信号が横断するわけです。
世界を構成するのはオブジェクトです。
オブジェクトは、カラムの意味で作られます。
そのカラムが、壁を超えて無秩序に電気信号が伝わったら、どうなると思います。
世界が崩壊しますよね。
世界が崩壊するって、こんなシーンをイメージするかもしれません。
でも、これは、ちゃんとした物理法則に則って崩壊しています。
重力に従って落ちるとか、ぶつかったら跳ね返ったり、壊れたりするとかです。
でも、てんかんで崩壊するのは、意味そのものです。
時間も空間も何もありません。
だから、てんかんが起こってる間は記憶がないんです。
記憶っていうのは、時間とか空間が存在する世界の中で起こる出来事です。
その時空や空間そのものが崩壊するんですから、そんな世界、認識のしようがありません。
これがてんかんです。
そして、これが言語を獲得する一番大事な時期に言語野で起こるのがランドー・クリフナー症候群です。
どれだけ恐ろしい病気がわかりますよね。
さて、ここで冒頭の話に戻ります。
クローアンズ先生は、同じ階のフランク・モレル外科医を紹介しました。
フランク・モレルはてんかんについて研究していて、新しい脳外科手術を開発したところでした。
てんかん治療で重要なのは、発作の原因です。
発作は、ある場所から発生して、それが脳全体に広がります。
なので、最初に発生する場所が重要です。
それさえ分かれば、手術でそこを除去すればてんかんは抑えられます。
ただし、それは除去できればの話です。
除去して、後の生活に支障をきたすようなら、簡単に切り取るわけにいきません。
そして、最も支障をきたすのが言語野です。
手術して言語能力が失われるなら慎重に考えないといけません。
そこで、フランク・モレルが開発した新しい脳外科手術が出てきます。
それは、脳を切り取らずに、てんかんの発作だけを抑えるという画期的な手術でした。
てんかんの発作は、カラムを水平方向に電気信号が伝わることでしたよね。
フランク・モレルが発見したのは、カラムに縦に切り込みを入れると、水平方向に電気信号が伝わることを防ぐことができるってことでした。
てんかんが発生する部分を特定できたら、そのカラムに切り込みを入れるわけです。
ただ、カラムってかなり小さいです。
直径は約0.5㎜、長さは約2.5㎜です。
これに、必要な数だけ、一本一本切り込みを入れていくんです。
いやぁ、ものすごく細かい手術ですよね。
そして、メアリルーはこの手術を受けて、手術は、無事、成功しました。
術後、発作はでなくなって、一週間もしないうちに話し始めました。
以前の明るくおしゃべりな女の子に戻ったんです。
はい、今回はここまでです。
面白かったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、動画で紹介した意識の仮想世界仮説に興味がありましたら、こちらの本で詳しく語っていますので、良かったら読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!