第440回 人類のIQの上昇 それは進化ではない!


ロボマインド・プロジェクト、第440弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

第329回で「この50年の人類のIQの上昇と心の進化」について語りました。
オタゴ大学のジェームズ・フリン教授は、多くの国で世代ごとにIQスコアが上昇してることを発見しました。
それによると、1950年からIQの平均値は20ポイントも上昇してるそうです。
これをフリン効果といいます。

これは実感としても感じます。
たとえば、フリン教授は、親が人種差別することがどうしても許せなくて、よく言い争いになってたそうです。
そこで、「もし、お父さんが、ある朝起きたとき、黒人になってたらどうなると思う?」って聞いたそうです。
そしたら、「朝起きたら黒人だって? そんな奴見たことないだろ」って反論されたそうです。
どうも、仮定して考えるってことができないみたいだったそうです。
起こり得ないことでも想像するって、抽象的で高度な思考です。
そう考えたら、親の世代はIQが低いといえそうです。

それから、仮面ライダーのストーリーの進化も取り上げました。
僕が子供の頃見てた仮面ライダーは、怪人が悪で、ライダーが正義で分かりやすかったです。
それが、2022年に作られた「仮面ライダーブラックサン」は、怪人というだけで悪と決めつけていいのかって問いかけます。

怪人撲滅派と怪人養護派が出も争ったりします。

いやぁ、今の子どもは、こんなライダーを見てるんですよね。
こんな話を聞くと、確かに、IQが高くなっていると思います。
心は、間違いなく進化してます。

ただ、分からないのは、そんなに簡単に進化するんでしょうか?
普通、進化って何万年、何十万年ってかかります。
それに、進化というのは、環境に適応できない個体が淘汰されて遺伝子がちょっとずつ変化することです。
1世代、2世代で目に見えるぐらい遺伝子が変化することなんて、まずありえません。

それじゃぁ、心の進化は起こってないのか?
これが謎だったんですけど、それが、今回、ようやく謎が解けました。
進化には、本物の進化と偽物の進化があったんです。
それが今回のテーマです。
人類のIQの上昇。それは進化ではない!
それでは、始めましょう!

今回も、神経科医のクローアンズ先生の『失語の国のオペラ指揮者』から取り上げます。

サミュエル・ヘンストン(黒人の初老)は鉱山で作業をしていて、昏睡状態で病院に運ばれてきました。
一酸化炭素中毒です。
一酸化炭素中毒は脳に恒久的な損傷を起こす恐れがあります。
そこで、目が覚めたヘンストンに研修医が認知テストをしました。
たとえば、歴代の大統領の名前とか、サミュエルが住んでるシカゴ市長の名前とかを聞きましたけど、どれも正しく答えられませんでした。
それから、カナヅチ、木切れ、ノミ、スパナの写真を見せて、「この中から仲間外れはどれですか?」って聞きます。
サミュエルは1分ほど写真を見つめて、「わかりません。みんな仲間だよ」と答えました。
サミュエルは一酸化炭素中毒で、記憶力、認知能力に後遺症がでてると判断されました。

次に、念のため、クローアンズ先生も同じテストすることになりました。
まず、生まれてから今までのことについて質問します。
すると、学校には2年しか通っていなくて文字も読めないことがわかりました。
どうやら、新聞も読まないので大統領や市長の名前を知らなかったようです。
でもテレビで野球は見ます。
シカゴ・カブスの大ファンだそうです。
クローアンズ先生はシカゴ・ホワイトソックスのファンだったので野球談議に花が咲きました。
往年の名試合など、かなり詳しく覚えていました。
どうも記憶障害などなさそうです。
一酸化炭素中毒の後遺症はなさそうです。

じゃぁ、仲間外れクイズはどうでしょう?
あんな簡単な問題が解けないなんておかしいですよね。
これは、文字を読み書きできないことに関係してるってクローアンズ先生はいいます。
実は、ここに、心の進化が関係してくるんです。

話し言葉も書き言葉も、どっちも言葉なので同じと思いますよね。
でも、そんなことないんですよ。
メラビアンの法則って聞いたことありますか?
コミュニケーションで影響を与えるのは、言語情報が7%、聴覚情報が38%、視覚情報が55%だそうです。
つまり、言葉の内容より、言い方とか、表情の方が影響を与えるってことです。
これは、分からないでもないです。
会話してるとき、言ってる内容はわからなくても、相手が怒ってるのか、泣いてるのか、バカにしてるのかってことは伝わりますよね。

コミュニケーションで一番重要なのは、相手が何を伝えたいかです。
それは、意味というより感情です。
それがわかれば、どう受け答えしていいかわかります。
怒ってる相手に対しては謝るとか、泣いてる相手に対しては心配するとかです。

ところが、文字は、意味以外の情報がすべてそぎ落とされます。
書き言葉は、直接感情を伝えません。
伝えるのは意味内容だけです。
意味内容から感情を読み取って、初めて相手が何が言いたいのかが伝わるんです。
別の言い方をすれば、話し言葉は具体的で、書き言葉は抽象的です。
こう対比すると、話し言葉と書き言葉って、かなり違うってわかりますよね。

それじゃぁ、読み書きはどこで学びますか?
学校ですよね。
学校では、国語、算数、理科、社会って学びますよね。
学校で、まず教えられるのが、こうやって世界を分類することです。
こうやって、物事を分類して、理論的な思考ができるようになるわけです。

こう考えたら、なぜ、サミュエルが仲間外れ問題を間違えたかもわかりますよね。
カナヅチ、ノミ、木切れ、スパナ。
どれも家を作るとき使います。
どれも仲間です。

でも、僕らは「木切れ」が仲間外れって思いますよね。
それは、カナヅチ、ノミ、スパナは道具だけど、木切れは材料だからです。
または、道具に使われる側です。
そんな風に思うのも、使う側と使われる側って分けて考えたからです。
こういう分類する思考は学校で読み書きを学ぶ文化が作り出したものです。

文字がない時代、あらゆる物は口承伝承で伝えられていました。
神話や物語で語り伝える世界です。
そこでは、すべては具体的なストーリーで語られます。
ノミで木切れを削るシーンを思い浮かべるのが物語です。
そんな文化にいたら、木切れが仲間外れって思わないですよね。
口承伝承の文化って、単に、文字を読み書きできないってだけじゃないんです。
世界の見方、考え方が根本的に違うといえるんです。

さて、話は、これだけで終わりません。
こっから、心の進化の話に切り込んでいきます。
面白くなってくるのは、こっからです。

前回、第439回「脳の進化 文字が言語のオマケ」のサンマルコ大聖堂の話は覚えていますか?

サンマルコ大聖堂は大きなドームが特徴のヴェネツィアの教会です。
中に入ると丸いドームを四方からアーチが支えているのが分かります。

丸いドームとアーチの間の三角の隙間には天使が描かれています。
丸いドームは神が作った完璧な宇宙を表しています。
その下の四人の天使は福音書を書いたマルコ、マタイ、ルカ、ヨハネの四人の伝道師を表しています。
この教会は、一見、四人の伝道師を讃えるために建てられたように見えます。
でも、それは逆なんです。
丸いドームを四方からアーチで支えると、必然的に四つの三角の隙間が生まれます。
三角をそのままにしておくのがもったいないから四人の天使をかいたっていうのが正解です。
つまり、ドームとアーチは教会の重要な構造ですけど、三角の隙間や天使はオマケです。
でも、教会を訪ねた人がみたら、オマケのために建てられたと勘違いしてしまうんです。
進化生物学者のスティーブン・ジェイ・グールドは、これによく似たことは生物の進化でも起こってると指摘しました。
そして、クローアンズ先生は、文字もそれと同じだと指摘したんです。
どういうことかと言うと、言語を獲得してのは人類の進化の賜物です。
でも、文字は進化で獲得したんじゃなくて、オマケだって言うんですよ。

脳の中で言葉を理解するところはウェルニッケ野です。
10万年近くかけて、人類はウェルニッケ野を獲得したわけです。
それに対して文字の歴史はたかだか5000年です。
しかも、一般の人が文字を使うようになったのはせいぜい200年です。
それは、進化じゃなくてオマケだというんです。
ウェルニッケ野は進化で獲得したものなので、生まれながらに持った機能です。
でも、文字は進化で獲得したものじゃなくて、生まれたあと、教えられて獲得する機能です。
これが前回、語った内容です。
今回は、これを、もう少し突っ込んで考えます。

生まれたばかりの脳は過剰なシナプスの結合があります。

ニューロンが何でもかんでもつながってる状態です。
シナプスの結合は1歳頃がピークで、その後徐々に減って15~6歳ごろに落ち着きます。
この期間に言葉のシャワーを浴びることでしゃべれるようになるんです。
これは、余計なシナプスが取り除かれて、埋もれていた言語能力が浮かび上がるって感じです。
これをシナプスの刈り込みといわれています。
母国語はこの期間に身に付きます。
逆に言えば、この期間を過ぎてから外国語を学ぶのは難しいのです。
たとえば、日本語はRとLを区別しません。
これは、RとLを区別するシナプスが刈り取られたからです。
だから、後から英語を学ぼうとしてもRとLを聞き取れなくて苦労するんです。

生まれたばかりの脳はあらゆるニューロンがつながってるわけです。
これは、情報が多すぎるとも言えます。
そこから、不要なシナプスを刈り取ることで、情報が整理されて世界の見通しが良くなってきます。
その時の周囲の環境に合わせた脳が形作られるわけです。
だから日本人は日本語がしゃべれるようになるし、アメリカ人は英語が喋れるようになるわけです。

これ、言ってみたらタイ焼きみたいなものです。

タイ焼きって、鋳型に生地を流し込んで、あんこのをのせて焼いて作りますよね。
これを脳に当てはめると生地が脳で鋳型が環境です。
環境にあった形に脳が仕上がるわけです。

あんこや生地が最初から決まってる構造です。
これが進化で獲得したものです。
これはどの店でも同じ普遍的な構造です。

でも、鋳型の形は店によってちょっと違うわけです。
日本語の鋳型だと日本語をしゃべる脳になって、英語の鋳型だと英語をしゃべる脳になるわけです。

生地が焼かれてる間が15歳までの成長期です。
焼き固まったら、別の形に変わるのは難しいです。
だから、大人になってから外国語を学ぶのは難しいわけです。

鋳型に入れて焼き固めるのが学校教育です。
そこで、文字の読み書きとか習うわけです。
そう考えると、鋳型って重要ですよね。
この鋳型が環境です。

環境は変化しますよね。
特に人工的な環境は10年でかなり違ってきます。
人工的な環境っていうのは、都市とか科学技術といったハードウェアだけじゃなくて、考え方とか倫理観といったソフトウェアもです。
昔は許されたことでも、今は許されないことなんていっぱいあります。
最近の芸能ニュースをみてたらよく分かります。

ここで最初の話に戻ります。
心は進化してるのかって話です。
僕が子供の頃に見てた仮面ライダーは怪人が悪者で、仮面ライダーが正義って決まってました。
でも、今の仮面ライダーは本当に怪人は悪なのかって問いかけます。
僕は、この変化は心が進化したと思っていました。
つまり、脳が進化したと思ってたんですよ。
でも、脳は進化してません。
だって、進化って何十万年ってかけて獲得するものですから。

じゃぁ、何が進化したんでしょう?
もう、分かりましたよね。

それは環境です。
進化したのは脳じゃなくて環境なんです。
生地やあんこは変わらなくても、鋳型が変わるとタイ焼きの形がかわります。

学校に行くようになると、文字を読み書きできるようになります。
誰もが学校にいく環境になると、誰もが文字を読み書きできるようになります。
学校で国語算数理科社会って学ぶと、理論的な思考ができるようになります。
これは心が進化したんじゃなくて、環境が進化したわけです。
進化で脳が変わったんじゃなくて、15歳までの環境で刈り取られるシナプスが変わったんです。
以前は、怪人と悪に結びついてたシナプスしか残らなかったわけです。
怪人と善が結びついてたシナプスは完全に刈り取られてたわけです。
それが、現代の環境だと、怪人のシナプスは悪にも善にもつながったままなんですよ。

世代によって考えが違うのは、心が進化したわけじゃありません。
進化したのは、環境なんです。
もっと言えば、進化した環境に合うようにシナプスが刈り取られたわけです。
心は、進化で獲得したものと、シナプスの刈り取りで獲得したものの二種類の側面があります。
この二つは、分けて考えないといけないってことです。

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それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!