第442回 なぜ気付かない? AIに意識を与えるたった一つの要素


ロボマインド・プロジェクト、第442弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

最近のAIは、テキストデータだけじゃなくて、動画や音声といったいろんな種類のデータを学習するようになってきています。
そうなると、目の前に机があるとか、スマホがあるとかって、この現実世界を認識するようになってきます。
かなり人間に近づいてきていますよね。
人間と同じ意識が生まれるのも近いんじゃないでしょうか?

ところが、そうはならないんですよ。
なぜかというと、意識にとって一番重要なものが欠けているからです。
それは、「内側からの視点」です。

僕らは、今、こうして世界を見てますよね。
目の前に机があるとかスマホがあるとかって感じてますよね。
これが内側からの視点です。

カメラで現実世界を捉えて、世界をつくったとします。
でも、それだけじゃ、世界を外から眺めてるんですよ。
内側の視点とは違うんですよ。
まぁ、これだけじゃ、外側からの視点と内側からの視点の違いがよくわからないですよね。
そこで、今回は、内側からの視点とは何か、徹底的に分かりやすく解説したいと思います。
これが今回のテーマです。
なぜ気付かない?
AIに意識を与えるたった一つの要素
それでは始めましょう!

まずは、意識の仮想世界仮説から始めます。
人は、目で見た世界を頭の中で仮想世界として構築します。
意識は、この仮想世界を介して現実世界を認識します。
これが、僕が提唱する意識の仮想世界仮説です。
なぜ、そんな風に言えるのか。
盲点で説明します。

この図を30センチほど話して、右目をつむって左目だけで黒丸を見ます。
すると、十字が消えるところがあります。
これが盲点です。

盲点というのは、網膜の中心で、視神経の受容体が存在しない点のことです。
つまり、視界の中で一点だけ、光を感知しない点があるわけです。
それが盲点です。
不思議なのは、光を感知しないなら、そこは黒く見えるはずですよね。
でも、盲点に入った十字は周りと同じ白色となって消えてしまいます。

これ、意識の仮想世界仮説で考えるときれいに説明がつくんですよ。
意識が見てるのは仮想世界でしたよね。
じゃぁ、仮想世界を作ってるのは誰でしょう?
それは、無意識さんです。
現実世界そっくりの仮想世界をつくるのが無意識さんの役目です。
無意識さんは、見えてる世界が現実だと、意識さんに信じ込ませないといけません。
だから、仮想世界におかしな点があってはいけません。
見えないからと言って穴の開いた世界を作るわけにはいかないんです。
だから、無意識さんは、盲点を周りと同じ色で塗りつぶすんです。
だから、盲点は黒い穴となって見えるんじゃなくて、周りと同じ白い色になるんです。
これが仮想世界です。

無意識さんがつくるのは、外の世界だけじゃありません。
この自分の体も無意識さんが作ったものです。
この話、ハロルド・クローアンズの『失語の国のオペラ指揮者』にも出てきます。

クローアンズ先生が、シャワー室から出る時、右足の親指を敷居にぶつけたそうです。
実は、数週間前に右足の親指を骨折していて、ようやく治りかけたたそうです。
その指をぶつけたものだから、めちゃくちゃ痛かったそうです。
不思議なのは、シャワー室から出るなんて、今まで何千回ってしてます。
その間、敷居に足の親指をぶつけることなんか一度もありませんでした。
それなのに、よりによって、骨折してるときに限って、足の親指を敷居にぶつけたわけです。
これは、たまたまでしょうか?

クローアンズ先生は、たまたまじゃないって言います。
そのことをちょっと詳しく説明します。
神経は、体中に張り巡らされています。
そして、体に何か触れたり、痛みがあると、すぐに気づきますよね。
でも、普段、服を着たり、腕時計をしてても、身に着けてることは気にならないですよね。
考えたら不思議です。
これも、無意識さんを考えたらわかります。

無意識さんの役目は、意識さんに、正しい世界を提供することでしたよね。
その目的は、意識さんに適切な判断をしてもらうためです。
余計なことを気にしてたら、大事な判断ができません。

一方、体中に張り巡らされた神経からは脳に絶えず信号が行ってます。
服や腕時計が肌に触れるたび、何か触れてるぞって信号を脳に送ります。
それを全部気にしてたら、何が重要で、何が重要でないか分からないですよね。
そこで、その寄り分けをするのが無意識さんの役目です。
常に触れてる服とか腕時計のことは、意識さんに知らせないようにするんです。
フィルターにかけてるわけです。
意識さんに知らせるのは、いつもと違うことだけです。
たとえば、道を歩いてて、誰かに肩を叩かれたすぐに気づきますよね。
めったに起こらないことは、意識さんにちゃんと伝えるわけです。

体中に張り巡らされた神経は、皮膚刺激だけじゃなくて、関節の曲がり具合とかも脳に伝えます。
それらを受け取った脳は、自分の体の姿勢とか、手足の位置を計算します。
これが意識さんが感じる体で、ボディーイメージともいいます。
これも、無意識さんがつくる仮想的な体といえますよね。
そして、ボディーイメージがあるから、狭い家でも、手や足をぶつけることなく歩けるわけです。

さて、足の親指を骨折したクローアンズ先生は、絶えず痛みの感覚が脳に伝わってたはずです。
でも、常に感じてる感覚はフィルターにかかって感じなくなっていましたよね。
ただ、全身からの感覚は、ボディーイメージにも使われます。
足の親指からの感覚が脳に伝わらなくなると、ボディーイメージも正確に作れません。
つまり、足の位置を正確に把握できなくなるわけです。
だから、クローアンズ先生がシャワー室から出るとき、足の親指を敷居にぶつけてしまったんです。
これが、あの日、クローアンズ先生に起こったことです。
つまり、骨折してるときに限ってぶつけたのは、たまたまじゃなかったんです。
神経科医のクローアンズ先生も、意識が感じてる体は、仮想的な体だっていってるわけです。
それがボディーイメージです。

じゃぁ、そのボディーイメージは誰のためにつくられたんでしょう。
それは、意識さんですよね。
意識さんが適切な行動ができるように、注意を向けないといけない情報だけ伝えるわけです。
つまり、意識さんに、感じて欲しい体を無意識さんは作り出してるんです。
意識さんが感じる体、これは意識さんからの視点ですよね。
これが内側からの視点ってことです。

さっきの盲点もおなじです。
意識さんに見て欲しい世界を無意識さんは作り出してたわけです。
盲点で実際には見えない部分があるけど、だからと言って、それをわざわざ意識さんに気付かせる必要はないわけです。
余計なことを気付かせずに、もっと大事なことに集中できるように。
そう思って無意識さんがつくってるのが仮想世界です。
ここにも、意識さんがどんな風に世界を見るかって視点がありますよね。
これが内側からの視点です。

今見えてるこの世界、それから今感じてるこの体。
それが意識が感じる仮想世界です。
でも、それは、現実世界のありのままじゃないんです。
余計なノイズはカットして、必要な情報だけで作られた世界です。
逆に言えば、僕らが感じてる世界は、現実の世界からはかけ離れてるんですよ。

でも、そんなこと、思ったこともないですよね。
それどころか、今見てる世界はありのままの現実世界、今感じてる体はありのままの現実の体って思ってますよね。
なぜ、そう思うのでしょう?
それは、無意識さんに、そう思わされてるからです。

それじゃぁ、一体、なんでこんな複雑な仕組みにしてるんでしょう?
意識は、ありのままの現実世界を感じればいいじゃないですか?
そのことについて、別の視点から説明します。

ライントレーサーってマイコンロボットがあります。

これは白い紙に書いた黒いラインに沿って走る単純なロボットです。
仕組みは簡単です。
白か黒かの光センサーでラインを検知します。
このセンサーをたとえば4個取りつけます。
そして、真ん中の二つのセンサーが黒で、両端の二つのセンサーが白となるようにタイヤを制御します。
たとえば右二つのセンサーが黒と判定したら左に寄ってると判断して右に曲がります。
左二つのセンサーが黒と判定したら、右に寄ってると判断して左に曲がります。
こうやって黒いラインに沿って走行することができます。

さて、このロボットは意識はあるでしょうか?
さすがに、これは意識があるとはいえないですよね。

それじゃぁ、どうなったら意識があるといえるでしょう?
たとえばですよ。
黒のラインから外れて、自分で進みたい道を自分で決めて走り始めたらどうでしょう。
「誰かに決められたラインを走るだけの人生なんてこりごりだ」
「俺は俺が決めた人生を歩むんだ」
そんな風に行動し始めたらどうでしょう?
これなら、意識があるように思いますよね。
じゃぁ、どう改造したらそうなるんでしょう。

まず、今のライントレーサーはセンサーに反応して動くプログラムです。
つまり、どう行動するかは、センサー信号に決められてるんです。
これじゃぁ、意識とか意志が生まれる余地がないですよね。
だから意識があるとは感じないんです。

意識があるとしたら、自分で決めて行動できないといけません。
そのためには、センサー信号と行動とを直結したらダメなんです。
センサー信号は、あくまでも行動するための参考です。
最終的に行動を決定するのは意識です。

センサー信号というのは外部環境を検知してるわけですよね。
このセンサー信号を参考に行動を決定するプログラムを作ったとします。
そのプログラムが意識になりそうです。

じゃぁ、意識プログラムが行動を決定するには何が必要でしょう?
それは、外部の現実世界です。
ただ、現実世界をそのまま見せたんじゃ意識は混乱してしまいます。
だって、体中に張り巡らされた神経から絶えず信号がきてたら、何が重要で、何が重要でないかわからなくなって、どう行動したらいいかわからないですから。
そこで、意識プログラムが混乱しないように整理する必要があります。
それをやってるのが無意識プログラムです。
無意識プログラムは、意識プログラムにわかりやすい世界をみせて、自由に行動できるように手配します。
でも、本当は、自由に行動できるように思わせるだけで、無限の選択肢が用意されてるわけじゃありません。
選択肢というより、これは注意した方がいいって情報だけ意識に提示するんです。
たとえば、骨折してる足の親指をぶつけたぞとかって情報です。
その情報が、「痛み」です。
その情報を受けて、意識は足に注意を向けます。
無意識の役目はそこまでです。

さっきのライントレーサーとの違いがわかりましたか?
ライントレーサーは、センサー信号で直接タイヤを制御してましたよね。
同じように制御するとしたら、足の痛みを感じた無意識は、体を直接制御して病院に向かわせます。
これが意識をもたないシステムです。

でも、僕らはそうじゃないですよね。
「足が痛いから、病院に行くか」
「このぐらいの痛みなら我慢して会社に行くか」
そんな風に考えますよね。
そう考えるのが意識です。

ライントレーサーとの根本的な違いが何か、分かりましたか?
ライントレーサーの行動を決めたのはプログラムです。
もっといえばライントレーサーの設計者が、ライントレーサーの行動を決めてるわけです。

それに対して、意識は、自分で自分の行動を決めます。
病院に行くことも、無理して会社に行くことも、どちらの行動もとれます。
最終行動決定権は意識が持ってるんです。
この違いは大きいですよね。

人間を設計したのが神だったとしましょ。
でも、その神が人間の行動を決めてるわけじゃないんです。
最終的に決めるのは、人間の意識ってことです。

意識が自分で行動を決める事、これは自由意志と言ってもいいと思います。
ちなみに、現代科学では人は自由意志を持ってないという考えが主流です。
つまり、ライントレーサーみたいに、無意識がすべての行動を決めてるって考えです。
でも、僕らは、自分の意志で行動を決めてるって感じてますよね。
これに対しては、意識は、自分の行動を後から自分が選んだと思い込んでるだけだと説明します。
これが、現代科学の意識の考えです。

さて、この考え、どう思います?
もしそうだとしたら、意識が存在する理由がないですよね。
いったい、何のために意識を生み出したのか、その説明がされてないですよね。

それに対して、僕の考えは、意識は完全な自由はないかもしれないけれど、行動の最終決定権は持っているというものです。
完全な自由がないというのは、無意識が用意した選択肢の中からしか行動を選択できないってことです。
でも、これは無意識に制御されてるってこととは違います。
たとえていえば、簡単な仕事は社員に任せて、一番重要なことだけ、社長が決める会社みたいなものです。
社長が意識です。
そんな会社を見て、この会社は社員がコントロールしてるとは言わないでしょ。

これが僕らの意識が普段感じてる感覚に近いですよね。
その出発点が、内側から見た世界です。
内側からの視点を中心に、心のシステム全体を構築すると、自ずと意識が生まれるわけです。

今のAIは、入力データをどう処理して、どう出力するかってことしか見ていません。
これは、システムの外からの視点です。
この視点からは、ライントレーサーみたいな意識のないロボットしか生まれません。
今のAIに欠けてるのが内側からの視点というのはこういうことです。

はい、今回はここまでです。
面白かったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、動画で紹介した意識の仮想世界仮説に興味がありましたら、こちらの本を読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!