ロボマインド・プロジェクト、第443弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
今回のテーマはかなり重いです。
ハンチントン舞踏病って難病があります。
この女性には雑誌を机において、水を飲むように指示しただけですけど、左手と左足が勝手に動いて、まるで踊っているようにみえますよね。
これがハンチントン舞踏病です。
ハンチントン病が恐ろしいのは遺伝病だからです。
それも、完全な優性遺伝です。
つまり、遺伝子をもっていたら必ず発症します。
遺伝病で悩ましいのは子供を産んでいいのかどうかってことです。
自分が遺伝子を持っている場合、遺伝する確率は50%です。
遺伝子をもっていない同士なら、発症する確率は0%です。
今回も、ハロルド・クローアンズの『失語の国のオペラ指揮者』からです。
クローアンズ先生はパーキンソン病が専門ですけど、ハンチントン病のアドバイザーも務めていました。
そこで、ハミルトン夫人に最初に出会ったのは1970年頃だそうです。
それから、3世代にもわたってハミルトン一族との付き合いが始まりました。
今回、難しいテーマというだけじゃなくて、闇深いドラマにもなっています。
最後に、とんでもない結末が待ってます。
正直言って、胸糞ドラマです。
愛と憎しみの遺伝子
ハンチントン舞踏病
それでは始めましょう!
ハンチントン病は今から150年ほど前、アメリカの医師ハンチントンが発見しました。
1970年当時は、ハンチントン病は遺伝病と言うことは分かっていましたけど、遺伝子までは特定されていませんでした。
わかっているのは優性遺伝だということだけです。
それから、ハンチントン博士は、三つの特徴を書き残しています。
一つ目は、遺伝するごとに発症年齢が早まること。
二つ目は、男性の方が遺伝しやすいこと。
三つめは、最後は狂気の症状が出ることです
ただ、どれも科学的根拠に乏しくて、かなり怪しいです。
たとえば、発症年齢が早まるのは、遺伝病なので、親が発症する子どもは普通よりり注意深く観察しますよね。
それが原因で、早期に発見されるだけとも考えられます。
男性の方が遺伝しやすいというのも統計的に優位がいえるほど症例が集まってるわけではありません。
それから、最後に狂気の症状が出るというのは、舞踏病という症状からの偏見でしょう。
さて、ハミルトン夫人はクローアンズ先生のところに息子のビル・ハミルトンを連れてきました。
ハミルトン夫人の夫のデイブはハンチントン病と診断されて州立病院でベッドに縛られて亡くなったとのことです。
デイブの母親も同じ州立病院でベッドに縛られて亡くなったそうです。
息子のビル・ハミルトンにもハンチントン病の徴候が出ています。
ビルは当時35歳でした。
結婚して娘さんもいます。
ハミルトン夫人がいうには、息子のビルは亡くなった夫のデイブと全く同じだそうです。
何が同じかと言うと、二人とも、発症する前から性格が変わり始めたそうです。
夫のデイブは、どんどん頑固になって、癇癪を抑えられなくなっていったそうです。
そして、そのあと、ハンチントン病の症状が出たそうです。
それが、37歳か38歳のときです。
息子のビルも、どんどん頑固になって、自分を抑えられなくなってきました。
そして、そのあと、症状がでるようになったそうです。
症状が出たのは31歳の時です。
世代を追うごとに発症が早まっているようです。
息子のビルは、ハミルトン夫人の隣でおとなしく座っていますけど、時々不自然な動きをします。
間違いなく、ハンチントン病の症状です。
ハミルトン夫人がいうには、最近は、息子はかっとすると、手が付けれなくなってきたとのことです。
それを何とかしたいというのが診察の目的でした。
そこで、クローアンズ先生は、ハンチントン病の異常行動を抑えるのに効果がある抗精神薬を処方しました。
クローアンズ先生がビル・ハミルトンに直接会ったのは、これが最初で最後になります。
次にハミルトン夫人に会ったのは、3年後でした。
今度は、孫娘を連れてきました。
息子のビルの娘のペニーです。
ペニーは、当時16歳でした。
ペニーが言うには、将来、結婚したとき、子どもを産んでいいのか悩んで、それで祖母につれられてクローアンズ先生のところに相談に来たと言うことです。
ビルはますます怒りっぽくなって、妻はそれに耐えかねて何年も前に逃げ出したそうです。
そんな家庭だったので、ペニーも早く結婚して家を離れたいと思っていたわけです。
ただ、当時は、まだハンチントン病の遺伝子は発見されていません。
ハンチントン病が発症する平均年齢は37、8歳です。
16歳のペニーがハンチントン病の遺伝子を持ってるかどうか、確かめようがありません。
ただ、ハンチントン病の症状を抑える薬はありました。
それは、ドーパミンをブロックするということもわかっていました。
ドーパミンというのは神経伝達物質の一種で快楽物質とも言われています。
楽しいときや目標達成したときとかに分泌されてやる気を出す役割があります。
適度に分泌されると脳が覚醒して集中力が高まりますけど、ただ過剰に分泌されると怒りっぽなって、イライラしたり、キレやすくなります。
ペニーの父のビルや、祖父のデイブは、頑固で自分を抑えられなくなったってハミルトン夫人も言ってました。
これも、ドーパミン過剰と考えれば納得がいきます。
そこで、クローアンズ先生は、ハンチントン病はドーパミンに過剰にで起こるんじゃないかって仮説を立てました。
ということは、もし、ハンチントン病の因子をもっているのなら、ドーパミンを過剰に与えるとハンチントン病を人為的に引き起こせるかもしれません。
ハンチントン病の因子をもっていなければ、ドーパミンを過剰に与えても発症することはありません。
このことを検証するために、クローアンズ先生は大学と共同してハンチントン病を判定するプロジェクトを実施することにしました。
そこに、ペニーにも参加してもらったんです。
まず、ハンチントン病の遺伝子を持ってる可能性がある30人のグループと、ハンチントン病の遺伝子を持っていない正常な30人のグループにわけます。
そして、両方のグループにドーパミンを増やす薬を投与して定期的に観察します。
その結果、正常なグループでは、一人もハンチントン病の症状は出ませんでした。
ところが、ハンチントン病の遺伝子を持ってる可能性のあるグループだと10人がハンチントン病の症状を起こしました。
次に、その10人の薬の投与をやめると、すぐに症状は出なくなりました。
このことから、この10人はハンチントン病の遺伝子を持ってる可能性が高いと思われます。
ペニーは、実験の2か月の間、毎朝鏡を見続けて、症状が出ないか確認していました。
そして、実験の期間中、ハンチントン病の症状が一切出なかったそうです。
この結果にペニーは大喜びしていました。
ただ、クローアンズ先生は、これでハンチントン病の遺伝子を持ってないと決まったわけじゃないと忠告しました。
その確率が50%よりは、かなり低くなったというだけで、完全に安心できるわけじゃないと念を押しました。
そうは言われても、16歳のペニーは、すっかり安心しきっていました。
まぁ、これは仕方ないことです。
それからしばらく、ハミルトン家との接触は途絶えました。
ただ、数年後、ビル・ハミルトンの噂を耳にしました。
ハンチントン病の会合で、見知らぬ男がクローアンズ先生のところに近づいてきて、ビル・ハミルトンが亡くなったと教えてくれました。
なんでも、火事で焼け死んだとのことです。
その日ビルは酔っぱらっていたそうです。
ビルはヘビースモーカーでした。
どうやら、寝タバコだったようです。
それから、その男は声を潜めてこういったそうです。
「寝室には、ガソリンがまかれていたそうです」
検視官は自殺と判断しました。
自殺は、ハンチントン病では珍しくないことだそうです。
その次にハミルトン家に会ったのは、それから7年後です。
例のドーパミン実験の追跡調査のため、ペニーを探したんです。
実験では、ハンチントン病の可能性のある被験者30人のうち、20人がドーパミンを投与してもハンチントン病の症状が出なかったです。
その人たちは、ハンチントン病の遺伝子は持ってないと考えられたわけです。
ただし、本当にそうかどうかは時間が経たないと分かりません。
追跡調査の結果、一人は発症してることがわかりました。
つまり、実験で遺伝子を持ってないとされても、5%の人は遺伝子をもっていたわけです。
そして、ペニーもこのグループに属しています。
だから、もしかしたらペニーも発症してないかとクローアンズ先生は心配していました。
探した結果、ペニーはすぐに見つかりました。
元気に暮らしていて、結婚もして、3人の子どもを育てていました。
診察の結果、ハンチントン病も発症していませんでした。
クローアンズ先生もほっとしました。
ただ、ハンチントン病の平均発症年齢は37、8歳です。
安心するのは、まだ早いです。
残念なことに、その心配は現実のものとなりました。
それから15年後、ペニーが再び診察室に訪れたんです。
一方、この15年の間、ハンチントン病自体にも大きな進展がありました。
ついに、ハンチントン病の遺伝子が特定されたんです。
それは、通常の遺伝子異常とちょっと違っていました。
通常は、遺伝子の一部が欠けていたり、間違ってたりします。
ところが、ハンチントン病の場合、そうじゃなくて、遺伝子が通常より過剰にあったんです。
その遺伝子は元々反復してるもので、正常な人の場合、平均して18回の反復してます。
ところが、ハンチントン病の場合、反復回数が平均して47回あって、多い人だと100回以上ありました。
そして、正常な遺伝子とハンチントン病遺伝子が交配すると、反復回数の多い方が発現するんです。
これがハンチントン病が優性遺伝の原因です。
さらに、遺伝子の反復回数は遺伝するごとに多くなります。
そして、反復回数が多いほど、早く発症することも分かっています。
つまり、ハンチントン病は世代を追うごとに、早く発症するのは正しかったんです。
ハンチントン博士の書き残しの一つが科学的に証明されたわけです。
さらに、遺伝子の反復は精子と卵子の生成のときに起こることもわかりました。
そして、それは卵子より精子の方が起こりやすいことも分かりました。
つまり、ハンチントン病は女性より男性の方が遺伝しやすいということです。
ハンチントン博士の二つ目の書き残しが正しいことも科学的に証明されたんです。
さて、話しをペニーに戻します。
ペニーは、今も、毎朝起きると、まず鏡を見て、ハンチントン病の症状が出てないか確認してるそうです。
そして、今も出ていません。
今回、ペニーは、18歳になる長男のグレッグを連れてきていました。
グレッグは、ペニーの隣におとなしく座っていますけど、時々、不自然な動きをします。
30年前、ハミルトン夫人が息子のビルを診察室に連れてきたときと同じです。
ペニーの息子、グレッグもハンチントン病の症状が出ています。
クローアンズ先生は、グレッグを正式にハンチントン病と診断しました。
しかし、グレッグは、まだ18歳です。
症状が出るのが、世代を追うごとにかなり早くなっているようです。
ただ、不思議なのは、母親のペニーです。
ペニーにはハンチントン病の症状がみられません。
それなのに息子のグレッグに症状がでるのが解せません。
もしかして、夫がハンチントン病かと疑いましたが、ペニーの夫は正常なことは間違いないです。
と言うことは、ペニーはまだ症状が出てないだけで、ハンチントン病の遺伝子を持ってる可能性が高いです。
今では、遺伝子検査すれば確かめられます。
そこで、クローアンズ先生はペニーに遺伝子検査を勧めました。
ところが、ペニーはそれを断固として拒否します。
でも、心配なのはペニーだけじゃありません。
残りの二人の子どもにも遺伝してるかもしれないことです。
それでもペニーは、二人の子どもは絶対に遺伝してないって言い張ります。
この頑固さは、父親を思い出させます。
ペニーの父、ビルもハンチントン病が発症する前、どんどん頑固になっていったと言っていましたよね。
そこで、クローアンズ先生は場所を移して、二人っきりになってペニーを説得することにしました。
そこでもペニーは、検査しても意味がないと言い張ります。
たしかに、検査で分かることは遺伝子を持ってるかどうかだけです。
それが分かったからと言って治療できるわけではありません。
たしかに、ペニーの言う通りかもしれません。
本当に検査を受けさせた方がいいのか、クローアンズ先生も悩み始めました。
そう思ってるとき、ペニーがようやく重い口を開きました。
「長男だけがハンチントン病で、他の二人の子がハンチントン病じゃないのには理由があります」と。
「じつは、グレッグは夫の子どもじゃないんです」
「グレッグは、私の父、ビルの子どもなんです」
「父は、私をレイプしたんです」
これで全ての謎が解けました。
長男のグレッグは、ビルからの遺伝でした。
ハンチントン博士の三つ目の書き残しが思い出されます。
「患者は最後に狂気の症状がでる」と。
それから、クローアンズ先生は思い出してこう言いました。
「お父さんは、かなり以前に亡くなりましたよね」と。
そうしたら、ペニーはこう言いました。
「私が妊娠6か月のとき、事故でなくなりました」と。
たしか、寝タバコで火事になったはずです。
ただ、寝室にはガソリンがまかれていました。
調査の結果、自殺とされていましたけど、ガソリンをまいたのが本人かどうかは分かりません。
「もしかしてペニーが・・・」と思いましたけど、クローアンズ先生は、それ以上、踏み込むことはしませんでした。
ペニーはさらにこう言いました。
「検査を受けたくないのは、もし、私がハンチントン病の遺伝子を持ってないことがわかったら、夫にことのことが知られてしまうから」だと。
そこで、クローアンズ先生は、それは心配ないと言いました。
検査結果は、私とあなたの二人だけの秘密にしておけばいいと。
それを聞いて、ペニーは検査を受ける決心をしました。
その結果、晴れて、ペニーにはハンチントン病が遺伝してないことが分かりました。
さらに、二人の子どもも検査したところ、二人ともハンチントン病の遺伝子を持ってないことが分かりました。
三代にもわたってハンチントン病に呪われてたハミルトン一族は、ようやくその呪いから解放されたのです。
はい、今回はここまでです。
何とも言えない話でしたよね。
おもしろかったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、良かったらこちらの本も読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!