ロボマインド・プロジェクト、第445弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
ハロルド・クローアンズの『失語の国のオペラ指揮者』を読んでますけど、今回は狂牛病とかクロイツフェルト・ヤコブ病です。
狂牛病が話題になってたのは、20年以上前です。
国内でも発見されて、全頭検査とか、プリオンとかそんな話が話題になったのは覚えています。
まぁ、そんな単語だけは覚えてますけど、それほど深く考えたことはなかったです。
今回、クローアンズ先生の本を読んでたら、この病気、生命の歴史から考えるとあり得ないことばかりなんです。
病気の原因って遺伝子とか感染とかいろいろありますよね。
感染症の原因はウィルスとか細菌です。
でも、狂牛病とかクロイツフェルト・ヤコブ病の感染源はプリオンです。
だから、これらの病気のことをプリオン病ともいいます。
プリオンっていうのはタンパク質を表すプロテインと、感染を表すインフェクションを足した造語です。
つまり、感染源はタンパク質なんです。
まず、こっからおかしいんですよ。
遺伝病は、遺伝で病気が伝わりますよね。
感染症は、最近やウィルスです。
これらはDNAやRNAで感染します。
でも、タンパク質はDNAやRNAを持っていません。
それなのにどうやって感染するんでしょう。
生化学的にあり得ないんです。
そして、プリオンが感染するのは脳だけなんです。
しかも、プリオン病が発見されたのは100年ぐらい前です。
どうも、プリオン病は自然界では起こり得ないようなんです。
プリオン病って、人間が期せずして作り出した、自然界ではありえない病気なんですよ。
ダーウィンの進化論からは絶対に生まれない病気なんです。
この話聞いたとき、人類は、なんちゅうもんを作ってしまったんやって思いました。
これが今回のテーマです。
生化学的にあり得ない病原体
プリオン
それじゃぁ、始めましょう!
始まりは1930年代のアイスランドです。
奇妙なヒツジの病気に関心をもった獣医がいました。
足がもつれる若いヒツジが時々現れました。
死んでから解剖してみると脳がスポンジ状にスカスカになっていました。
感染が疑われたので、病死したヒツジの脳を健康なヒツジの脳に接種したんです。
でも、1年経っても何も起こりませんでした。
ところが1年以上経ってから、足がもつれるようになって、死んでしまいました。
解剖してみると感染していました。
細菌は見つからなかったので、未知のウィルスかと思われました。
この病気が次に注目されたのは、アイスランドの反対側にあるパプアニューギニアです。
1957年のことです。
パプアニューギニアにはフォア族という未開の民族が住んでいました。
部族間で戦いを繰り返して、人肉食も行う原始人です。
ここに、クールーという恐ろしい病気がありました。
発症すると、最初、平衡感覚がとれなくなって、やがて亡くなります。
フォア族の死因のトップがクールーで、全人口の12%も亡くなりました。
病気にかかるのは、おもに女性と5歳以下の子どもです。
死体を解剖してみると、脳細胞が空洞化してスポンジ状になっています。
アイスランドのヒツジと同じです。
クールーも感染を疑われました。
100%死ぬ病気なので人で試すわけにはいきませんので、チンパンジーで試すことにしました。
クールーで亡くなった人の脳をチンパンジーの脳に接種したんです。
そしたら、18か月の潜伏期間を経て発症して、やがて亡くなりました。
1年以上の潜伏期間はアイスランドのヒツジと同じです。
伝染するのは間違いありません。
ただ、その頃にはウィルスではないことも分かっていました。
病気で変性した組織を接種すると感染するんです。
細菌でもなくウィルスでもなく感染するなんて、生化学的に考えられません。
そんなあり得ないことが起こってたんです。
感染するメカニズムは分かりませんが、どうやって感染したかは明らかになってきました。
調べてみると、その地域では、60年程まえから儀式的に人肉食をするようになってたそうです。
人肉食をするのは主に女性で、死んだ親戚や友人の脳を食べる習慣があるそうです。
人肉食をすると戦闘能力が弱まるとのことで、男は人肉を食べてなかったそうです。
女性が食べる時、小さい子供も一緒に食べていたそうです。
だから、女性と子供にだけ感染してたわけです。
フォア族は、西欧文明社会の支配下にはいるようになって人肉食が厳しく禁じられました。
その結果、病気は激減し、ついに撲滅したそうです。
次は、クロイツフェルト・ヤコブ病です。
この病気は、アイスランドのヒツジやパプアニューギニアのフォア族と違って文明社会で発生しました。
同じような脳の病気ですけど、似てるところと違うところがあります。
似てるのは脳の変化です。
亡くなった人を解剖してみると、脳細胞に空洞ができてスポンジ状になっています。
そして、チンパンジーに感染することも確かめられました。
ということは、人から人に感染するはずです。
違うのは、アイスランドのヒツジやパプアニューギニアのフォア族みたいに、特定の集団で感染してないってことです。
クロイツフェルト・ヤコブ病は、100万人に一人の割合で発症します。
じゃぁ、その人達はどうやって感染したんでしょうか?
フォア族の場合、感染した人の脳を食べたことが原因でしたよね。
でも、文明人は人の脳を食べる習慣がありません。
じゃぁ、脳を食べる以外に、人の脳を体内に取り入れる可能性はあるんでしょうか?
じつは、いくつかルートがあります。
たとえば、小人(こびと)症という病気があります。
身長が伸びない病気です。
小人症の治療には、成長を促す人の脳下垂体ホルモンを使います。
一人の治療に約1万人から脳下垂体ホルモンを採取する必要があります。
この治療を受けた人のなかに、クロイツフェルト・ヤコブ病を発病する人が一定の割合います。
その割合は、1万人の中にクロイツフェルト・ヤコブ病が含まれる割合とちょうど同じです。
それから、日本では硬膜移植でクロイツフェルト・ヤコブ病に感染した例があります。
硬膜というのは脳を覆っている硬い膜です。
脳外科手術で硬膜に穴をあけることがありますけど、その後、硬膜を移植して塞ぎます。
このとき移植される硬膜は、死体から採取されていました。
その遺体が、クロイツフェルト・ヤコブ病にかかっていた場合、硬膜移植で感染するわけです。
ただ、現在では遺体から硬膜を移植することは禁じられているので硬膜移植で感染することはありません。
通常起こり得ないですけど、何らかの原因でクロイツフェルト・ヤコブ病に感染した脳を体内に取り込むと感染してしまいます。
それじゃぁ、どうやって感染するんでしょう?
そのメカニズムも、今ではかなり解明されてきています。
感染源は、ウィルスでも細菌でもありません。
それは、最初にも言いましたけどプリオンです。
プリオンっていうのはタンパク質です。
タンパク質で病気が移るって、じつはトンデモないことなんですよ。
何がとんでもないかって、お医者さんなら分かると思うんですけど、一般の人には、そこがわかりにくいですよね。
なので、ここを基本から順に説明します。
人の体は細胞でできてますよね。
まずは、細胞からどうやってタンパク質ができるか説明します。
これが細胞です。
細胞の中の核の中にDNAがあります。
DNAがほどけて、RNAに写し取られると、それが核から外に出ていきます。
そして、核の外にはリボゾームがあります。
RNAは設計図で、リボゾームは設計図を基にタンパク質をつくる工場です。
つまり、RNAに書かれた順番にアミノ酸をつなげていくんですよ。
アミノ酸がつながってできたのがタンパク質です。
こうやって細胞でタンパク質が合成されるんです。
さて、ウィルスはRNAしか持ってません。
だから、ウィルスは自分ではタンパク質を作れません。
そこで、他の細胞に乗り移って、勝手にリボゾームを使って自分のタンパク質を合成するんです。
ずるいですよねぇ。
これがウィルスによる感染です。
それから、細胞はタンパク質の合成だけじゃなくて、細胞自体が分裂して増殖します。
このときDNAもコピーされます。
こんな風にして、人体ではいろんな方法で細胞やウィルスが増殖します。
たとえば、インフルエンザの場合はウィルスで増殖します。
がん細胞は、細胞分裂で増殖しますし、
どれも、DNAやRNAを使って複製しますよね。
ところが、タンパク質はDNAやRNAを持っていません。
つまり、タンパク質だけで増殖するって、今までの生化学の常識じゃありえないんですよ。
じゃぁ、どうやって増殖してたのかってことです。
なんと、化学反応を使ってたんです。
化学反応の一種に重合ってあって、それを使ってたんです。
重合っていうのは、モノマーからポリマーを合成するときに使うものです。
いってみれば、プラスチックを作るときに使われる化学反応です。
もはや生物じゃないですよね。
これがプリオンです。
そうやってプリオンが複製されたとしましょ。
分からないのは、なんで、それが脳の障害を引き起こすのかです。
つまりね、プリオンは肝臓や腎臓の障害にはならないんですよ。
脳でしか問題を起こさないんです。
これも謎なんですよ。
ここでもう一回、細胞の増殖の話に戻ります。
よく人体の細胞は数か月から数年で完全に入れ替わるって言いますよね。
これ、半分正しくて半分は正しくないんですよ。
さっきも言いましたけど、細胞は細胞分裂します。
その場合は、完全に細胞が入れ替わります。
でも、人体の細胞はそんな細胞ばかりじゃないんですよ。
入れ替わったら困る細胞もあるんですよ。
それが神経細胞です。
たとえば海馬にある脳細胞は記憶に使われます。
ある人の海馬には、トム・クルーズ細胞が見つかりました。
トム・クルーズ細胞は、トム・クルーズの写真を見ると発火します。
写真だけじゃなくて、「トム・クルーズ」って文字を見たときも発火します。
さらに、トム・クルーズを思い出したときにも発火します。
つまり、この脳細胞がトム・クルーズを覚えてるんです。
もし、トム・クルーズ細胞が消えたらトム・クルーズの記憶も消えてしまうんですよ。
ミッション・インポッシブル見ても、「元気なオッサンが危ないことしてるなぁ」としか思わないんですよ。
そんなん嫌でしょ。
だから、脳細胞は入れ替わらないんですよ。
じゃぁ、どうしてるかって言うと、入れ替わるんじゃなくて、部分的に修理しながら細胞を維持してるんです。
これなら、トム・クルーズのこと忘れないですよね。
それじゃぁ、どうやって修理するかです。
修理するときに材料として使うのがタンパク質です。
実は、タンパク質って、分子構造が同じでも立体構造が異なることがあるんですよ。
アミノ酸が鎖みたいにつながってるのがタンパク質なんで、そりゃ、多少、形が違うこともあります。
でも、分子構造が同じやと見分けがつきません。
だから、細胞を修理するとき立体構造が違うタンパク質を間違って取り込んでしまうんですよ。
でも、立体構造が違うと、ちゃんと働いてくれないので、その脳細胞は死んでしまいます。
細胞分裂するタイプなら、細胞が死んでも新しい細胞に置き換わるだけです。
でも、脳細胞は細胞分裂しないので、死んだら終わりです。
だから、クロイツフェルト・ヤコブ病にかかると、脳がスカスカのスポンジ状になるんです。
その原因のタンパク質がプリオンです。
それでは、最後に狂牛病の話をします。
プリオンで感染するのは、感染した脳やせき髄を食べたり移植したときだけです。
でも、牛って草食動物ですよね。
他の牛の脳やせき髄を食べることはありません。
じゃぁ、狂牛病は何で起こったんでしょう?
それは、人間が牛に飼料として食べさせてたからです。
病死した牛の骨を砕いて飼料に混ぜてたんです。
つまり、感染した牛の骨髄を食べることで感染が広がったんです。
さて、こうして見てみると、プリオン病がいかに特殊な病気かってことがわかりますよね。
おそらく、プリオン自体は太古の昔から存在してたようです。
ただ、ふつうは感染することはありません。
なぜなら、自然界では、仲間の脳や骨髄を食べることはありませんから。
肉食動物が食べるのも、自分の仲間じゃなくて他の種です。
だから、プリオンが増殖することはなかったんです。
プリオンの増殖は、すべて人為的な行為で起こりました。
人肉食の習慣とか、脳の硬膜や脳下垂体の移植。
それから、草食動物の牛に、牛の骨髄を食べさせるとかです。
こんなことが起こるなんて、ダーウィンも想定していませんでした。
長い生物の歴史の中で、この100年になって、初めて人間がおかしなことをしたことで、生物が全く想定してなかった病原体が生まれたんです。
考えたら恐ろしいことですよね。
はい、今回はここまでです。
この動画がおもしろいとおもったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、よかったらこちらの本も読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!