第446回 脳の進化から解明! ネアンデルタール人は、なぜ絶滅したのか?


ロボマインド・プロジェクト、第446弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

ハロルド・クローアンズの『失語の国のオペラ指揮者』も今日が最終章です。
最後は何かと思ったらネアンデルタール人でした。
やっぱりこれが来たかって思いましたね。
ネアンデルタール人、これ、本当に謎なんですよ。
ネアンデルタール人は、ホモ・サピエンスより体も大きくて、脳も大きいです。
言葉もしゃべってましたし、道具も火も使ってました。
狩りも上手で、重病人や虚弱な仲間の面倒を見てた形跡もあります。
社会を築いてたんです。
ネアンデルタール人とホモ・サピエンスが同じ時期、同じ地域にいた形跡は世界中にあります。
同じ洞窟に住んでいた形跡すら残っています。
つまり、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスは共同で暮らしたり、家族を築いていました。
種が離れすぎると子どもが生まれませんけど、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人は子供を産むことができたようです。
それなら、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人と種が混ざり合うはずですよね。
ところが、DNAを調べた結果、現代人はホモ・サピエンスのDNAしかありません。
ネアンデルタール人のDNAはないか、あってもほんの僅かです。
つまり、ネアンデルタール人はホモ・サピエンスと交わることなく絶滅したんです。
ホモ・サピエンスより体も脳も大きいネアンデルタール人がなぜ、絶滅したのか?
これが謎なんですよ。
ホモ・サピエンスがネアンデルタール人を虐殺して根絶やしにしたって説もあります。
まぁ、人類の戦争の歴史を見てみれば、それも考えられなくはないですよね。
この問題に、クローアンズ先生は、脳と進化から答えを出すんです。
これ、あぁ、なるほどって思いました。
今まで聞いたなかで一番納得しました。
これが今回のテーマです。
脳の進化から解明!
ネアンデルタール人は、なぜ絶滅したのか?
それでは、始めましょう!

さて、人間の特徴って何があるでしょう?
二足歩行、言葉をしゃべる、脳が大きい、道具を使うとか、いろいろありますよね。
ここで重要なのは、どれが本物の進化で、どれが本物でないかを見極めることです。
これ、意外と難しいんですよ。
今、人間にあって、他の動物にないものを取り上げただけです。
次は、どの順番に何が起こったかを推測します。
たとえば、二本の足で立てるようになって手が自由になったから人間は道具を使うようになったとかです。
いかにもありそうな説ですよね。
でも、もし、これが必ず起こるなら、カンガルーも二本の足で立って手が自由です。
でも、カンガルーが道具を使ってるとこ見たことありません。
ここから、道具の使用は本質じゃなくてオプションです。
道具を使うかもしれないし、使わないかもしれないってことです。
この話は、サンマルコ大聖堂を例に挙げて説明してきました。

サンマルコ大聖堂は、丸いドームが特徴の教会です。
中に入ると、ドームを丸いアーチが支えてるのが見えます。

ドームとアーチの間には三角の隙間があってそこに天使が描かれています。
天使は福音書を書いたマルコ、マタイ、ルカ、ヨハネの四人の伝道師を表しています。
これを見ると、「この教会はきっと四人の伝道師を称えるために建てられたんだ」って思いますよね。
でも、この教会を支える重要な構造はドームとアーチです。
その構造から必然的に三角の隙間は生まれます。
隙間をそのままにしとくのはもったいないから天使を描いたわけです。
つまり、ドームとアーチが本質で、天使はオプションってことです。
人間でいえば、道具をつかうってのはオプションです。
または、人間は道具を使うために進化したわけじゃないってことです。

進化って、体の構造が変化することですよね。
キリンなら首が長くなるとかです。
体の構造の変化が本質で、道具とか言語とかの機能は後です。
体の変化として考えられるのは二足歩行と脳の巨大化です。
じゃぁ、どっちが先でしょう?
その話は第434回でしましたけど、二足歩行が先です。
人は二足歩行するようになって、鼻と肺をつなぐ気道と、食べ物が通る食道が直結して口で呼吸できるようになりました。
この構造によってしゃべれるようになりました。
構造が先で機能は後からついてくるオプションってことです。

さて、ここで問題が出てきました。
二足歩行の次の構造の変化は頭を大きくすることです。
ところが、二本足で立つと骨盤の形が変形して赤ちゃんを産みにくくなったんです。
つまり、頭が大きい赤ちゃんを産めないんです。
それでも頭を大きく進化させないといけません。
じゃぁ、どうすればいいでしょう?
方法は二つあります。
一つは体を大きくして骨盤を大きくすることで頭の大きな赤ちゃんを産めるように進化することです。
もう一つは、生まれるときの頭は小さくて、生まれてから頭を大きくすることです。
体を大きくすることを選んだのがネアンデルタール人です。
そして、生まれてから頭を大きくすることを選んだのがホモ・サピエンスです。
人間の脳はチンパンジーの脳の3倍以上あります。
実は、生まれたときの脳の大きさは、チンパンジーも人間もあまり変わらないんです。
ところが、生まれてから大人になるまで、チンパンジーの脳は30%しか大きくならないのに、人間の脳は300%も大きくなるんです。
これがチンパンジーとホモ・サピエンスの違いです。

それじゃぁ、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人との違いは、何を生み出したんでしょう?
こっからが本題です。

チンパンジーは言葉を話さないです。
それは気道と食道が別となってる喉の構造によるものです。
そこで手話を教えたらどうなるかって実験が世界中で行われました。
そしたら、ある程度言語を使えるようになったんです。
「鍵を冷蔵庫に入れて」っていったら、ちゃんと言われた通りにできます。
文の意味を理解できるんです。
でも、できるのはここまでです。
「昨日、遠足で動物園に行った」なんて文は作れないんです。
つまり、過去の思い出とかは語れないんです。

じゃぁ、人間と何が違うんでしょう?
ここで、意識がどのように世界を認識するかについて説明します。
人は目で見た世界を頭の中で仮想世界として構築します。
意識は、この仮想世界を介して世界を認識します。
これを意識の仮想世界仮説といって、僕が提唱してる意識仮説です。
おそらく、チンパンジーもこうやって現実世界を認識してると思われます。
だから、「鍵を冷蔵庫に入れる」ってことが理解できるんです。

じゃぁ、「昨日、動物園に行った」が理解できないのはなぜでしょう?
昨日の出来事って、今、見てる目の前の世界とは違いますよね。
つまり、チンパンジーに認識できるのは、目の前の現実世界だけなんです。
だから、過去とか未来の出来事を想像することができないんです。
過去とか未来とか想像するには、また別の仮想世界が必要です。
それを想像仮想世界といいます。
チンパンジーは、想像仮想世界を持ってないから、目の前にないことを想像したり、語り合うことができないんです。

じゃぁ、想像仮想世界はどうやって生まれたんでしょう?
それがチンパンジーの脳と人間の脳の違いです。
人間の脳は、生まれた後、3倍以上に大きくなりましたよね。
これは構造です。
構造から機能が生まれます。
おそらく、生まれた後、脳が大きくなった部分に想像仮想世界がつくられたんだと思います。
ここでいう人間というのはホモ・サピエンスのことです。
ネアンデルタール人は違います。
ネアンデルタール人は、体を大きくして骨盤を大きくして大きな脳を獲得しました。
つまり、ネアンデルタール人の大きな脳は、生まれたときから大きいんです。
だから、生まれてからは、それほど脳は大きくなりません。
そうなると、想像仮想世界がつくられないかもしれません。

サンマルコ大聖堂の構造はドームとアーチでしたよね。
ドームとアーチの間に三角の隙間ができたんですよね。
三角の隙間に天使をかくかどうかは、オプションです。
かいてもいいし、かかなくてもいいんです。

文字もオプションです。
でも、言葉は構造です。
世界中で言葉を持たない民族はありません。
でも、文字をもたない社会はありますし、人類の歴史をみれば、文字を読み書きできる方が少数です。
だから文字はオプションです。

仮想世界を使って現実を認識する仕組み、構造です。
これは、チンパンジーもホモ・サピエンスもネアンデルタール人も持ってます。
ネアンデルタール人は、ホモ・サピエンスと同じのどの構造をしてるのでしゃべっていたはずです。

そして、ホモ・サピエンスは生まれた後に脳が大きくなります。
これは構造です。
大きくなった部分にオプション機能が追加されます。
文字はその一つです。
おそらく、想像仮想世界もオプションなんです。

オプションが機能が追加されるかどうかは、生まれた後の環境で変わってきます。
人の脳は15、6歳でほぼ完成します。
生まれてから15,6歳まで脳が成長します。
その間に行くのが学校です。
これが環境です。
学校って環境で文字を教えられたら文字を書けるようになるんです。
学校に通わなかったら文字を書けるようになりません。
文字だけじゃなくて言葉もです。
動物に育てられるとか、生まれてから一切しゃべりかけられることなく育った子どもの例があります。
その子が言葉を理解できるようになるかどうかは発見された年齢によります。
15、6歳までに発見されたらしゃべれるようになりますし、それを過ぎてたらしゃべれるようになりません。
ヘレン・ケラーが言葉を覚えれたのも、7歳の時にサリバン先生に出会ったからです。
15歳を過ぎてたら、いくらサリバン先生でもヘレンに言葉を教えることはできなかったでしょう。

さて、今、問題にしてるのは言葉でなくて想像仮想世界です。
想像仮想世界も、生まれてから獲得するオプション機能です。
想像仮想世界があるから、過去や未来を想像することができるんです。
オプションということは、想像仮想世界を持たない民族もいるんでしょうか?
もしいるとしたら、その民族は過去や未来を理解できないんでしょうか?
はい、そうなります。
それがピダハンです。

ピダハンはこのチャンネルで何度もとりあげましたけど、アマゾン奥地に住む未開の民族です。
過去や未来って概念を持たないことで有名です。
過去や未来を理解できないことはないようなんですけど、目の前にない出来事を軽視するようで、過去や未来のことを考えるのは意味がないと思ってるようです。
そうやって過去や未来を考えないから、ピダハン族は、その機能がほとんど発達してないってのが正解です。
そうなるとどうなると思います?
たとえば保存食ってものが存在しないんです。
保存食って、将来に備えて蓄えておくものですよね。
でも、将来のことを考えないので保存食って考えがないんです。

それから、道具も大事にしません。
たとえば、釣り道具を与えて、釣りを教えると、これは便利だって喜ぶんです。
だからといって、釣り道具を大事にするかというと、そんなことないんです。
釣りが終わったら、その辺にほったらかしにすんです。
大事に扱わないと使えなくなるってことが理解できないんです。

それだけじゃないですよ。
男たちはギリギリにならないと狩りに行かないんです。
お腹が空いて、食べ物もなくなったってなって、そろそろヤバいってなって初めて狩りに出かけるんです。

そんな生活してたら、生き延びるのも難しいですよね。
それでも生きていけるのはアマゾンの豊かなジャングルがあるおかげです。
食べ物が無くなってから、ジャングルに行けば、いつでも果物や動物がいます。
そんな環境だと、将来のことを心配しなくても生きていけるわけです。

でも、地球は、そんな環境ばかりじゃないですよね。
日照りが続いたり、冷夏だったりするだけで木の実が実らないってことよくありますよね。
山の木の実が成らなくて、動物が山から町に降りてきて民家を荒らすとかって話、よく聞きます。
人間の場合、そうならないように食料を蓄えたりしてるわけです。
それができるのは、想像仮想世界を持って、過去の出来事から学んだり、将来を心配できるからです。

想像仮想世界は脳のうち、生まれてから大きくなる部分に追加される機能でしたよね。
ネアンデルタール人は、生まれたときから大きな脳を持ってるので、生まれた後はそれほど脳は大きくなりません。
ということは、想像仮想世界が追加される隙間がないわけです。
生まれたときから持ってるのは現実世界を認識する現実仮想世界です。
これはチンパンジーでも持ってます。
生まれたときから脳が大きいと言うことは、現実を正確に把握する能力はホモ・サピエンスよりネアンデルタール人の方が優れていたかもしれません。
たとえば、わずかな音や臭いでどこに敵や獣がいるかを察する能力とかです。
ホモ・サピエンスより体も大きくて筋肉もありましたから、戦ったらホモ・サピエンスは負けていたでしょう。
でも、実際は、ホモ・サピエンスだけが生き残って、ネアンデルタール人は絶滅しました。
それは、ホモ・サピエンスが戦ってネアンデルタール人を絶滅させたというより、環境の変化でネアンデルタール人が絶滅したんだと思います。
将来に備えて食料を蓄えないとかです。

たぶん、「将来に備えて食料を確保したほうがいいよ」ってネアンデルタール人に忠告してたと思います。
でも、想像仮想世界を持たないネアンデルタール人は、それが理解できなかったんですよ。
チンパンジーにいくら言葉を教えても、目の前にあるものしか理解できないのと同じです。

生物の進化は環境が押し進めます。
恐竜が滅んだのは、巨大な隕石が落ちて地球が寒冷化したからだと言われています。
その種が生き延びるか絶滅するかは、どれだけ環境の変化に耐えられるかで決まります。
ホモ・サピエンスは、過去から学び、将来に備える能力を獲得しました。
それを獲得しなかったネアンデルタール人は、ちょっとした環境の変化で絶滅したんでしょう。

人類学は、化石から推測します。
でも化石からわかるのは、体や頭の大きさだけです。
それだけじゃ、なぜネアンデルタール人が絶滅したのか分かりません。
重要なのは、化石で残らない部分、つまり脳です。
それも、脳の中でどんな処理をしてるかってソフトウェアの部分です。

20世紀はDNAで人類学が大きく進歩しました。
21世紀は、脳の中の処理で、さらに人類の歴史が解明されると思います。

はい、今回はここまでです。
面白かったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、動画で紹介した意識の仮想世界仮説に関しては、こちらの本で詳しく説明してますのでよかったら読んでください。
それじゃぁ、次回も、おったのしみに!