ロボマインド・プロジェクト、第449弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
僕が作ろうとしてるのは普通に会話ができるAIです。
普通の会話って、意味を理解して会話するってことです。
まず、意味があって、それを表現するために人類は言葉を生み出しました。
と思っていたんですけど、もしかしたら、とんでもない勘違いをしていたようなんです。
どうも、言葉の意味は一番最後みたいなんです。
最初に会ったのは、意味のない言葉みたいなんです。
これだけじゃ、よく分からないですよね。
この考えに至ったきっかけは、進化生物学者のスティーブン・ジェイ・グールドのスパンドレルの話です。
これはヴェネチアにあるサンマルコ大聖堂です。
サンマルコ大聖堂は丸いドームが特徴の教会です。
中に入ると、ドームが丸いアーチで支えられてるのが見て取れます。
ドームとアーチの間には、三角の隙間ができます。
これを建築用語でスパンドレルといいます。
構造上、一つのドームに四つの三角の隙間が生まれて、それぞれに天使が描かれています。
天使は、福音書を書いたマルコ、マタイ、ルカ、ヨハネの四人の伝道師を表しています。
この教会を訪れた人はきっと、この教会は四人の伝道師を称えるために建てられたと思うでしょう。
もし、テロリストとかが四人の天使の絵を剥がしたりしたら、世界中から非難を浴びるでしょう。
でも、それで教会が崩れることはありません。
でも、アーチを支える柱を破壊したら教会が崩れますよね。
何が言いたいかと言うと、目立たないかもしれないけど構造の方が重要だってことです。
構造からたまたま生まれた三角の隙間に描かれたのが天使です。
いってみれば天使はオマケです。
でも、後から見たら天使のために教会がつくられたんじゃないかって思ってしまうんですよ。
言語も同じなんですよ。
第439回では、このたとえで文字がオマケだって語りました。
まぁ、そこまでは何となく分かります。
文字を持たない社会なんかいくらでもありますから。
でも、言語を持たない社会は存在しません。
だから、言語が構造で、文字はオマケだってことです。
次は、言語を意味と発話に分けて考えてみます。
発話っていうのは、口から発せられる音です。
発話の背後にあるのが意味です。
これ、どう考えても意味が構造で、発話がオマケですよね。
だって、リンゴを「りんご」と呼ぶか「アップル」と呼ぶか国によって違います。
でも、何と呼んでもリンゴが指す意味は同じです。
だから意味が構造で発話はオマケです。
ところがそうじゃないってことが分かってきたんですよ。
僕も、最初、「そんなはずはない」って思いました。
でも、考えれば考えるほど、発話が構造で、意味はオマケなんですよ。
これが今回のテーマです。
意味はオマケ
言語は発話から始まった
それでは、始めましょう!
脳は進化によって次々にいろんな機能を獲得してきました。
追加される機能は脳の表面に追加されます。
だから、脳が損傷したとき、進化的に後から獲得した機能から失われます。
生きる上で最も重要な機能、たとえば呼吸とか血液の循環とかは脳の奥にあります。
こういった重要な機能は最後まで失われません。
だから、脳が損傷したとき、どんな機能が失われるかから、何が最初から存在した機能で、何が後から追加された機能かが推測できます。
そこで、僕が注目したのが失語症です。
失語症患者が、どんな機能を失って、どんな機能が最後まで残るかに注目したんです。
それで、今読んでるのがこの本、山鳥重の『脳からみた心』です。
この本には、失語症患者の具体例がいっぱい載ってあります。
まずは重度の失語症患者はAさん(30代オーストリア女性)です。
Aさんは、ウィーンのシュテンゲルという学者が報告した例で、自分から話す言葉は”te-te”としか言えないそうです。
ただ、話しかけられると同じ言葉をオウム返しすることができます。
このことから、最も原始的な言語の機能はオウム返しのようです。
これ、何となく分かりますよね。
子どもが生まれたら、赤ちゃんに「パパよ」とか「ママよ」とかって話しかけますよね。
それで「パパ」とか「ママ」って言ったら喜びますよね。
赤ちゃんは意味なんかわかってなくて、ただオウム返ししただけです。
相手の言葉をオウム返しする機能は、生まれながらに持つ原始的な機能のようです。
Aさんで興味深いのは、何でもオウム返しするかというと、そうでもないんですよ。
たとえばAさんの後ろから何か話かけてもオウム返しすることはありません。
Aさんの正面で、Aさんの顔を見てしゃべりかけないとオウム返ししません。
このことから、相手と面と向かって会話するって機能も、原始的な機能といえそうです。
だから、言語学はここからスタートしないといけないと思うんですよ。
何が言いたいかと言うとソシュールです。
ソシュールは言語をパロールとラングに分けました。
ラングは文法規則に則った言語体系のことです。
パロールは個々人の発話です。
パロールは言い間違えたり言いよどんだりします。
だから、そしゅーるはパロールは研究対象としにくいっていいました。
ちゃんと確立された言語体系であるラングから研究すべきと言いました。
このソシュールから現代の言語学は始まりました。
でも、人が生まれつき持ってるのはパロールなんですよ。
ラングは生まれた後の学習で追加されたものなんですよ。
パロール、つまり発話の方に言語の本質はあるといえるんです。
次はBさん(アメリカ人男性。50歳ぐらい)です。
Bさんもは一酸化炭素中毒の後遺症でオウム返し以外はできなくなりました。
新しい言葉を記憶することもできません。
Bさんは、時々、CMなんかの短い歌やフレーズに反応して繰り返すことがありました。
あるとき、病院のスタッフは、テレビを付けていないときでもBさんがCMの歌を歌ってることに気づきました。
おそらく病気になる前の覚えた曲だろうと思って調べたところ、それは最近のCM曲でした。
記憶できないはずなのに、新しい曲を覚えていたんです。
どうも、CMの曲や特徴のあるフレーズは、自然と記憶されるようです。
これ分からないこともないですよね。
つい、CMのフレーズが思い浮かぶこととかありますよね。
小さい子は、意味もわからずCM曲を歌ったりします。
このチャンネルでもよく取り上げる自閉症の東田直樹さんも言っていました。
東田さんも、ときどき、ふと思い出したCMのフレーズを声に出して言ってしまうそうです。
一度言い出したら、最後まで言い切らないと気が済まないそうです。
急に大声をだしたらダメだと自分でも分かってても、最後まで言わずにおれないそうです。
自閉症だけでなく、トゥレット症候群の人も同じ事を言っていました。
トゥレット症候群は、チックの症状が出ますけど、突然、その場と関係のない言葉を言ったりします。
意図したことじゃなくて、ふと、出てきて、言わずにおれないそうです。
トゥレット症候群の人がいうには、抑えようと思えば抑えられないこともないけど、抑えた分だけ、後でどこかで発散しないといけないそうです。
どうも、意識とは別のところで無意識が意味のないフレーズを発話する機能があるようです。
むしろ、その機能の方が元々持ってたようです。
だから、意味のある言葉をしゃべれなくなっても、その機能は最後まで残るんです。
次はCさん(イラストなし)です。
Cさんは、オウム返しだけでなく、少し言語理解力があります。
たとえば、「あなた名前を言ってください」っていうと、「私の名前を言うんですか?」っていいます。
「あなたの住所はどこですか?」っていうと、「私の住所はどこですか?」っていいます。
つまり、オウム返しじゃなくて、「あなた」と「私」の区別はついてるようです。
このことから、オウム返しの次に獲得した機能は、自分と相手の区別といえそうです。
さっきのAさんも、自分に向けて話しかけたときだけ、オウム返ししてましたよね。
自分と相手の区別っていうのも、かなり原始的な機能のようです。
意外なのは、自分と相手の区別が最も原始的な機能というわけじゃないんです。
それより、オウム返しの方が原始的な機能なんです。
もう少し軽い失語症の場合、過去の言葉が出てくると言う症状もあります。
たとえば、「こいのぼり」と言ってくださいというと「こいのぼり」って言います。
次に、「ちからこぶ」といってくださいというと、「こいのぼり」って言ったりします。
本人は、「ちからこぶ」と言わないといけないってわかってるんですけど、さっき言った「こいのぼり」が残っていて、それが出てしまうわけです。
これは、一度聴いた言葉を覚えて、つい、それが出てしまってるようです。
意識でコントロールしようとしてるけど、それがうまく行かないようです。
最後に、Dさん(70歳ぐらいの日本人のおじいさん)の会話を紹介します。
「ここはどこですか?」
「九州の友達の消防署へ上がってきとる」
「消防署は今、火災連合週間でな、うちから順に焼いていったら早いんや」
「何を焼くの?」
「人を焼いていくんや」
「ここはどこですか?」
「ここ?ここは墓地や」
こんな感じです。
Dさんは病院のベッドに寝てるので、消防署にも墓地にもいません。
「どこ」って単語から「九州」って単語がでてきて、「九州」からなぜか「消防署」が出てきたんでしょう。
消防署は焼くってイメージと繋がっていて、焼くから「人を焼く」ってイメージがでてきて、そこから「墓地」が出てきたんでしょう。
Dさんは、新しい出来事を覚えることができなくなっていて、自分が今、どういう状態におかれてるかって状況の把握もできません。
一つのことに注意を保ち続けることができなくて、新しい刺激が来ると、すぐに注意がそっちに移ります。
ただ、意味を理解できないわけじゃありません。
「どこ?」ときかれたら九州とか消防署とか場所を答えます。
「焼く」といえば「人を焼く」ってちゃんと意味の通った文になっています。
今、どこで何をしてるかって正しい状況の理解ができてないわけです。
でも、それらしい会話はできます。
つまり、状況を正しく認識して、それと言葉とが結びつけば意味のある会話ができるんです。
これ、どいう言うことか分かりますか?
つまりね、意味のある会話は一番最後何ですよ。
それじゃぁ、一番最初は何でしょう?
これを、人類の進化から考えてみます。
まず、最初に起こったのが二足歩行です。
二本足で立って歩くことで、のどの形が変わりました。
どう変わったかと言うと、今まで鼻で呼吸して、口で食べていました。
それが、口でも呼吸できるようになりました。
これによって、様々な音をだせるようになりました。
音声の獲得です。
まず起こったのが二足歩行とかのどの形といった体の変化です。
いろんな声が出せるようになると、出しやすい音とか音のリズムとかが生まれますよね。
脳は、出しやすい音の並びを繰り返すことで音のパターンを記憶するようになります。
音のパターンの記憶という新しい機能を獲得したわけです。
このあたりから、体というハードウェアの進化から体の制御というソフトウェアの制御に移ってきました。
そして、もう一つ、ソフトウェアの進化で獲得した重要なプログラムがあります。
それが意識です。
意識は、やがて体を制御するようにもなってきました。
今まで、無意識が担っていた体の制御を、意識も制御するようになってきたんです。
そうなると、当然取り合いが起こりますけど、最終的には棲み分けすることになりました。
心臓を動かすとか単純で重要な機能は無意識が行いますけど、手足を動かしたりは意識が行います。
意識が動かす動きが随意運動で、無意識が動かす動きが不随意運動です。
それから、発話機能をもってる者同士だと、相手の言ったことを真似できます。
というか、真似したくなります。
こうしてオウム返しの機能を獲得しました。
意識はさらに進化して状況を把握するようになりました。
最も単純な状況は、今、ここという場所だったり、自分と相手という区別です。
これらの機能をもってるのがAさんです。
だからAさんは、相手の顔を見てるときしかオウム返ししません。
それから、Cさんは、「あなたの名前を言ってください」っていうと「私の名前をいうんですか?」って聞き返していましたよね。
自分と相手を区別して、さらにそれを単語に対応させることができたんです。
発話された言葉と状況とが結びついたんです。
状況を認識するのは意識でしたよね。
状況の認識とは、言い換えたら世界を理解することです。
つまり、意識は意味を理解するわけです。
そうやって意識が世界の意味を理解し、それを言葉で表現するようになります。
意味を持った言葉を操る意識の登場です。
やがて、意識は言葉を使って考えるようにもなります。
「もし、ああしたら、こうなるから、やっぱりこうしよう」とかって複雑な思考は言葉なしでは難しいですよね。
言葉で考えたことは、そのまま誰かに伝えることもできます。
こうして考えを伝えたり、意見を交換したりと、言葉でコミュニケーションするようになりました。
今では、それがすっかり言葉の目的のようになっています。
でも、それはサンマルコ大聖堂の天使と同じです。
重要なのは構造です。
言語でいう構造とは発話機能です。
サンマルコ大聖堂ならアーチとドームです。
アーチとドームの間に三角の隙間ができたわけです。
三角の隙間をそのままにしとくのはもったいないから天使を描いただけです。
発話機能ができたら、いろんな音をつなげた音のパターンを発声させてみたわけです。
発声しただけじゃもったいないから、そこに意味をのせてみたんです。
意味とは、後から描かれた天使です。
意味をのせたのは、進化の最後に生まれた意識です。
わかってきましたか?
発声機能がうみだした音のパターンが構造です。
音のパターンに追加されたのが意味です。
いってみれば、意味はオマケです。
でも、オマケといっても食玩のオマケみたいなもんです。
みんなオマケのおもちゃ目当てで買いますよね。
ラムネが食べたいからってこれ買う人いないでしょ。
でも、元々は、おもちゃはおかしのオマケです。
そのことを忘れないでください。
はい、今回はここまでです。
面白かったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それからよかったらこちらの本も読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!