ロボマインド・プロジェクト、第450弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
山鳥重さんの『脳からみた心』を読み続けていますけど、前回で第一章の「言葉の世界」が終わって、今回は第二章の「知覚の世界」です。
第二章の冒頭には、こう書かれてあります。
「外界がそのまま自分の心に映し出されていると信じてると思っている人が多いが、心はそんな単純ではない。
心の中で外の世界が一から作り出されて、心はそれをイメージとして経験する」
これ、まさに、僕が提唱する意識の仮想世界仮説そのものです。
いろんな精神疾患の患者を診てきた先生が、僕と同じ考えに至ったわけです。
さて、今回は、二人の患者を紹介します。
Aさん(40代のおとなしい男性)は、たまに、「昨日、UFOを見た」とか「山猿が食事を取る」とか、おかしなことを言います。
Bさん(50代男性)は、自分は自宅にいると思い込んでいます。
「ここは家なわけないでしょ。だって家族がいないじゃないですか」っていうと「息子がいます」といって、視線を上の方に向けて「おーい、一郎!」って呼びかけます。
どうやら、2階の息子に声をかけたようです。
もちろん、返事はありません。
だからと言って、何度も呼び掛けるわけでもなくて、それで終わりです。
そんな会話を交わしたら、僕らは、この人は頭がおかしいんじゃないかって思いますよね。
でも、僕らも、この人たちも見てる世界は全く同じです。
つまり、物理的な情報をいくら集めてもこの人達のどこがおかしいかわかりません。
何が言いたいかと言うと、この人がおかしいって科学じゃ分からないってことです。
でも、話してたらおかしいってすぐに分かります。
ということは、外の世界がおかしいんじゃなくて、彼らが見てる頭の中の世界がおかしいってことです。
じゃぁ、僕らが感じてる世界と、彼らが感じてる世界とは、一体何が違うんでしょう?
これが今回のテーマです。
こうやって頭の中の世界が壊れていく・・・
それでは、始めましょう!
さて、さっきのAさん、枕もとの電気が切れかかってて、チカチカしてるのを気にしていました。
どうもそのことを思い出して、「UFOを見た」と言ってたようです。
それから病院は山のふもとに建ってて、サルがでてきてもおかしくない場所です。
入院患者は自分の部屋で食事を取って、食事の時間がおわったら、看護師さんが食事を片づけます。
Aさんが「山猿に食事を取られた」といってたのは、その後のようです。
どうも、食事が無くなってるのに気づいたとき、普段から、猿が出そうだと思ってたのを思い出して「山猿に食事を取られた」と言ったようです。
UFOにしても山猿にしても、本当なら大変なことだと思いますけど、Aさんは特に興奮することもなく、平然とそう言ってました。
そこが不思議です。
Bさんも同じです。
病院を家だと勘違いすることはあるかもしれません。
ただ、「おーい、一郎」と呼びかけて返事がなかったら、普通なら、もう一回呼びかけるか、「おかしいなぁ」ってなりますよね。
でも、Bさんは、一回呼びかけたらそれでおわりです。
何も不思議と思っていないようです。
さて、この二人、脳のどこが損傷してるかというと、どちらも右脳に脳梗塞があります。
左脳は問題ないので、言葉は普通にしゃべれます。
共通するのは、どちらも、深く考えたり、不思議に思わないことです。
その時、ふと思ったことを口に出しただけのようです。
この話で思い出すのが分離脳手術の患者の話です。
分離脳手術というのは、左脳と右脳をつなぐ脳梁を切断する手術のことです。
重度のてんかんなどの場合に、行われる手術です。
ある分離脳患者に将来の夢を左脳と右脳と別々に聞きました。
そしたら左脳は「製図家」って答えました。
ところが右脳に聞いたら「カーレーサー」って答えたそうです。
これ、フロイトなら、「カーレーサーになりたいって思いを抑圧してる」とかって言いそうですよね。
僕は、何でも無意識の抑圧で片づけるフロイトはちょっとどうかと思っています。
これも、そんなややこしい話じゃないと思うんですよ。
おそらく、その時、窓の外で車が通る音がするとかしたんでしょう。
「車」と「将来の夢」から連想して出てきた単語が「カーレーサー」だったので、そう答えただけだと思います。
これも、僕が勝手にそう思ってるわけじゃなくて、根拠はちゃんとあります。
それは、右脳と左脳の働きの違いです。
この話は第441回でしました。
プロ指揮者チェザロは脳梗塞で左脳のほとんどを損傷して完全にしゃべれなくなりました。
ところが、今でも現役の指揮者として活躍しています。
つまり、音楽を理解する能力は右脳にあるようなんです。
もう少し説明すると、右脳が感じ取るのは現実世界そのもののようです。
たとえば、太鼓の達人ってゲームがありますよね。
これは、YOASOBIの『アイドル』の太鼓の達人です。
このゲーム、頭の外の現実世界に流れてる音と完全に同期して太鼓を叩かないといけませんよね。
こんな風に現実世界を直接感じ取るときに使うのが右脳です。
一方、左脳が感じるのは仮想世界です。
人は目で見た世界を頭の中で仮想世界として構築します。
意識は、この仮想世界を介して現実世界を認識します。
これは意識の仮想世界仮説といって、僕が提唱してる心のモデルです。
現実世界を直接感じるのが右脳なのに対して、仮想世界を介して現実世界を認識するのが左脳です。
左脳は、仮想世界を使うことで、理論的な思考ができます。
僕らは、この左脳の機能をプログラムで実現しています。
それでは、コンピュータが現実世界をどうやって認識して、どういう風に理論的に思考するかを説明します。
ここでは簡単にするために現実の三次元世界でなく数学世界というものを考えます。
数学世界では数式を実行します。
たとえば、こんな数式があったとします。
Let a = 1 + 2;
これをコンピュータが実行するバイトコードという形式に変換するとこうなります。
これがメモリ空間にそのまま格納されます。
メモリ空間の上半分にあるのは、1とか2とか変数aです。
下半分に書かれてあるのはオペコードといって、上半分を操作する手順です。
この場合だと、1と2を取り出して、それを足し算した答えを変数aに代入するって手順が書かれてあります。
次は、これを現実世界で考えてみます。
まず、上半分に書かれているのは、ある瞬間の世界の状態でしたよね。
たとえば今、家にいるとします。
家にはリビングと風呂と寝室があって、リビングの机の上にラーメンがあるとします。
これが、今という瞬間の世界の状態です。
これがメモリ空間の上半分に書かれます。
具体的にはラーメンオブジェクト、風呂オブジェクト、寝室オブジェクトってオブジェクトとしてメモリに格納されます。
そして、下半分のオペコードには「ラーメン食べたら風呂入って寝る」って、オブジェクトを操作する手順が書かれてるわけです。
こんな形でに世界を認識するのが左脳です。
だから、たとえば、今風呂に入ってるとしたら、「さっきまでラーメンを食べてて、風呂から上がったら寝よ」とかって考えることができるわけです。
つまり、左脳が感じる世界には過去とか未来の時間があります。
さらに、この仕組みから論理的推論もできるようになります。
つまり、「AしたらBとなる」って経験から、Aが起こったらBが起こるだろうって推論ができるってことです。
これは原因結果とか因果関係を理解するとも言えます。
こうして考えたことは、全て言葉で表現できますよね。
だから、言語は左脳の担当なんです。
一方、右脳には今、この瞬間しかありません。
太鼓の達人とか、今、この瞬間に集中しないとできませんよね。
「昨日、何食べたかなぁ」なんて一瞬でも考えたら、太鼓が遅れてしまいます。
昨日の事を考えるのは左脳です。
これが左脳と右脳の違いです。
そして、右脳と左脳から情報を受け取るのが意識です。
意識は、左脳でいろいろ考えたり、右脳からの情報で今、この瞬間の世界を感じたりします。
両方を使い分けます。
ただし、現代人は左脳優位となっています。
たとえば、「この仕事がおわったら、次はどうしよう」って常に考えています。
これが左脳です。
でも、狩猟民族とかは違います。
いつ、危険な動物が襲ってくるかわからないので、常に周りの状況を敏感に察知します。
つまり、右脳優位となっています。
意識は、こんな風に左脳と右脳の両方を使って世界を認識します。
さらに、右脳が感じる今、この瞬間は、左脳の仮想世界にも使われます。
仮想世界というのはバイトコードで書かれたメモリ空間のことです。
メモリ空間の下半分には、オペコードでオブジェクトを操作する順番が書かれていましたよね。
これを使って論理的に考えるわけです。
何か起こったら、前に戻って原因を探したり、次に進めて次に起こることを予測したりするわけです。
そして、このとき、今、この瞬間を指し示すのが右脳です。
こう考えるとさっきのAさんやBさんの頭の中がどうなってたのか分かってきそうです。
もし、Aさんの言う通り、本当にUFOが来てたり、山猿がご飯を盗ったりしてたら、そりゃ、大変なことですよね。
地球が宇宙人に侵略されるかもしれませんし、入院患者が山猿に襲われるかもしれません。
でも、Aさんは、そんなこと心配する様子はありません。
つまり、「もしこうなら、こうなるだろう」って推論をしてないってことです。
Bさんも同じです。
もし、本当に息子さんがいるなら、呼びかけたら返事するはずです。
返事がないってことは、息子がいないってことです。
とういことはここは自宅じゃないかもしれない。
そんな推論ができてないわけです。
つまり、AさんもBさんも左脳の推論機能がうまく働いてないようなんです。
じゃぁ、一体どこがおかしいんでしょう?
推論機能はオペコードを前後に動かすことで実現できてましたよね。
そのためには、まず、今、オペコードのどの位置を実行してるのか把握しないと行けません。
今現在は右脳が感じ取るものです。
でも、AさんもBさんも、右脳が脳梗塞になっています。
だから、今、実行してるオペコードの位置をしっかり保持できないんです。
今、何をしたか分からなくなれば、次に起こることも予想できませんよね。
だから、「一郎!」って呼びかけたら、返事が返ってくることを予想しないから、呼びかけっぱなしになるんです。
僕らと、感じてる世界が違うから、うまく話が噛み合わないわけです。
こう考えたら、きれいに整理できてきますよね。
まとめますよ。
僕らの意識は左脳と右脳の両方から情報を受け取って現実世界を認識します。
ただ、現代人は左脳優位となっています。
そして、左脳は「もの」があるってある瞬間の世界の状況と、その状況を変化させるオペコードで世界を把握します。
今、認識してる世界の状況は、オペコードの今実行してるコードです。
それを指し示すのが右脳です。
だから、右脳が損傷すると、いま、考えてることを維持できなくなります。
そうなると、その人の感じる世界はどうなると思います?
それは、ふと、今、思ったことだけで完結する世界となります。
それが、「食事がなくなったのは猿が取っていったのだろう」とか、「夜、チカチカ光ってたのはUFOが来てたんだろう」って思いつくだけです。
それ以上深く考えたり、心配したりすることはありません。
同じ世界を見て、同じような状況を認識してたとしても、処理方法が違うと全く違う世界を感じるんです。
僕らは脳内で同じ処理をしてるから会話が成立するんです。
だから、人と自然な会話ができるAIを作るには、同じように世界を認識する仕組みを作る必要があります。
それを無視して文章や動画を学習させてるから、今のAIは会話が噛み合わなかったり、平気でウソをつくわけです。
はい、今回はここまでです。
面白かったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、今日、紹介した意識の仮想世界仮説は、この本で詳しく語ってますのでよかったら読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!