ロボマインド・プロジェクト、第454弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
第449回で「意味はオマケ 言語は発話から始まった」で、言語は意味を伝えるためじゃなくて、発話から始まったって説を唱えました。
まぁ、月に一回は思いつく僕の新仮説の一つですけど、これと同じ事を言ってる人がいました。
理化学研究所の脳科学総合研究センター生物言語研究チームの岡ノ谷一夫さんです。
生物言語研究って言ってる時点で、言葉を使うのは人間だけじゃないってことが前提になってますよね。
今回参考にしたのは、この本『言葉はなぜ生まれたのか』です。
第390回でシジュウカラの言語を解明した鈴木俊貴さんを紹介しましたが、岡ノ谷さんが研究したのはジュウシマツです。
この本には、その他、デグーやハダカデバネズミなど、いろんな動物の言語についても書かれています。
この本を読んだら、長い間疑問だった言葉の秘密が分かったんですよ。
それは、意味と言葉の関係です。
それは、この動画の後半で詳しく語っています。
これが、今回のテーマです。
言葉はなせ生まれたのか
それでは、始めましょう!
ここに二つの動物のグループがあります。
一つは、人間、鯨、鳥です。
もう一つは、犬、猫、サルです。
この二つのグループの違いが分かりますか?
答えは、発声学習ができるかできないかです。
人間、鳥、鯨は、自由に音声を出せます。
だから、生まれた後から、いろんな音声を学習することができます。
でも、それ以外の動物は、生まれもった鳴き声以外、発声することができません。
じゃぁ、音声を自由に出せる秘密は何でしょう?
それは、口呼吸することです。
口で呼吸すると、口や舌を使って音を変化させることができます。
それから口呼吸には、もう一つ重要な点があります。
それは、息を止めることができることです。
息を止めると、音を区切ることができますよね。
これによって、一音、一音、細かく区別して発話できるようになります。
一つ一つの音のことを音素とかエレメントといいます。
「あ」とか「い」のことです。
ジュウシマツの場合、「ギ」とか「ピョ」とかってエレメントがあります。
エレメントを繋げてまとめたものがチャンクです。
ジュウシマツなら、「ギピョ」とか「ピジビョ」ってチャンクがあります。
人間なら、「り・ん・ご」とかです。
つまり、チャンクは、一種の単語です。
そして、チャンクを規則に従って並べたら文になります。
この規則が、文法です。
こうして音を自由に出して、区切ることが、言葉の第一歩だってわかりますよね。
ヒトは、二足歩行することでのどの形が変化して、さらに口で呼吸できるようになって言葉をしゃべれるようになったわけです。
こうして考えると、言葉は意味内容より、音声が先だってわかりますよね。
このことは、第449回で語ったことと同じです。
449回では、失語症でしゃべれなくなったとき、どんな機能が最後まで残るかを考えました。
最後まで残るのは最も基本的な機能だと考えたからです。
重度の失語症患者をみてみると、最後まで残るのは、相手の言った言葉を真似る機能でした。
真似ることができるってことは、まず、いろんな音声を発声することができないといけません。
そらからもう一つ重要なのは、自分の音声が相手と同じだと判定する機能です。
これを行うのは脳の中のミラーニューロンです。
相手と同じ音声が出たらミラーニューロンが反応するんです。
ミラーニューロンが反応するから、つい、真似したくなるんです。
これは、失語症になっても最後まで残る強力な機能です。
ミラーニューロンが反応するのは音声だけじゃないです。
リズムとかイントネーションにも反応します。
つまり、歌や音楽です。
先の失語症患者も、他人の言った言葉だけじゃなくて、テレビのコマーシャルとかも、ついつられて歌います。
リズムに合わせて踊るのも、人間と鳥だけだそうです。
この動画みてください。
インコがリズムに合わせて踊るんですけど、めちゃくちゃかわいいですよ。
この動画、いくらでも見れます。
僕は、世界は頭の中にあるっていつも言ってますけど、こういう動画を見ると、その意味がわかります。
頭の外で流れる音は空気の振動です。
それはどんな生物にとっても同じです。
でも、つい体が動いてしまうのは、リズムを感じてるからです。
つまり、リズムは頭の外にあるんじゃなくて頭の中にあるんです。
そして、感じたリズムに合わせて動くと心地よく感じるわけです。
だから、つい、踊りたくなるわけです。
音声も同じです。
音声を聞き分けて、それと同じ音声を出したとき心地いいんです。
発声が言葉の始まりです。
意味はその次です。
次は、意味と言葉がどうやってつながったかを見ていきます。
たとえばデグーっていうネズミがいます。
デグーは、鳥や人間のように発声学習はできませんけど、何種類かの鳴き声を持っています。
鳴き声は行動内容で使い分けています。
たとえば、「ピル」とか「ピ」って短く鳴くときはあいさつで、ピィーって長く鳴くときは求愛行動です。
その他「キキッ」は警戒で、「キィー」は威嚇、「ギャー」は攻撃です。
つまり、鳴き声と意味が結びついているんですよ。
それから、ハダカデバネズミってネズミがいます。
毛が無くて出っ歯が特徴で、デバって呼ばれています。
デバは、群れで行動してて、群れにははっきりとした順位があります。
一番上が女王で、その次が王様、その次が兵隊で一番下が働きネズミです。
順位は体の大きさで決まります。
そして、「ピュゥ」って鳴き声であいさつするんですけど、相手によって使い分けるんですよ。
小さいデバは、自分より偉い相手には「ピュー」ってていねいにあいさつをします。
大きいデバは、下っ端のデバに対して「ピュ」っとしかあいさつしかしません。
これ、何となく分かりますよね。
野球部とかで後輩が先輩に「ピュ」としかあいさつしなかったら、「もっとちゃんとあいさつしろ」って怒られそうですよね。
この感覚がわかるってことは、僕らも上下関係を識別する機能をもってるってことです。
識別したら、何らかの形で表現しないとおれないわけです。
それがあいさつって形となって現れるんです。
意味は頭の中にあります。
発声パターンも頭の中にあります。
でも、意味と発声パターンは別にあります。
いろんな意味と、いろんな発声パターンが頭の中にうまれると、それらは必然的につながります。
意味と発声パターンがつながったものが言葉です。
ここからは僕の考えになります。
僕は、意識の仮想世界仮説という意識仮説を提案しています。
人は、目で見た世界を頭の中で仮想世界として構築します。
意識は、仮想世界を介して現実世界を認識します。
これが意識の仮想世界仮説です。
仮想世界は、たとえば三次元世界です。
三次元世界なら3DCGで表現できて、重力といった物理現象も再現できます。
ただ、世界は三次元世界だけじゃなくて、たとえば音楽も一種の世界です。
音楽世界にはリズムやメロディーがあります。
音楽世界という仮想世界を頭の中に作ることが音楽を理解するってことです。
つまり、空気の振動を頭の中の音楽世界でリズムやメロディーとして意識は感じるわけです。
そうやってリズムを感じるから、リズムに合わせて体を動かすことができるんです。
これが音楽を理解してるってことです。
その他社会的な上下関係を表す世界もあります。
これがあるから、相手は自分より上か下かわかるわけです。
そして、それに応じてあいさつとか態度を変えるわけです。
注意してほしいのは、音楽や上下関係って物理世界にあるわけじゃないってことです。
あるのは頭の中です。
つまり、僕らが感じて生きているのは、頭の外の物理世界じゃなくて、頭の中の仮想世界なんです。
そして、僕は、意味を理解するとは、仮想世界を作れることだと定義しています。
たとえば、空気の振動をリズムとかメロディーを持った音楽世界として再構築したことが、その音楽の意味を理解したということです。
音楽を理解したら、それに合わせて踊ったり、声に出して歌ったりできるわけです。
頭の中に上下関係世界があるから、向こうからやってくるのが先輩か後輩かといった上下関係世界に当てはめることができます。
それができるとあいさつの仕方も変わってきます。
そして、あいさつは言葉です。
これが意味と言葉が結びついた状態です。
最後に、ジル・ボルト・テイラーの話をしたいと思います。
左脳が脳卒中になった脳科学者です。
この話、今まで何度も紹介したんですけど、昨日、たまたま、ほかの人がYouTubeで紹介してるのを見て、大事なことを見落としてたってことに気づいたんです。
それは、言葉の意味理解と単なる意味理解とは別だってことです。
自分が脳卒中になったことに気づいたジルは、同僚に電話をかけて助けを求めることにしました。
かなりい苦労しましたけど、何とか電話ができて受話器に向かって話そうとしました。
ところが、口からは「ワォワォワォ」としか声が出なかったそうです。
これは、左脳が損傷してる証拠です。
左脳には言語野があって、言語野は発話を担当するブローカー野と意味理解を担当するウェルニッケ野があります。
おそらくブローカー野が損傷してたから、うまく言葉にできなかったんです。
ここまでは理解できます。
問題はその次です。
電話から聞こえてくる相手の声も「ワォワォワォ」としか聞こえなかったそうなんですよ。
おそらく同僚は、声からジルからの電話だと分かったでしょう。
でも、どうも様子がおかしい。
「ジル、何があったんだ、ジル」と何度も呼び掛けてたそうです。
でも、ジルにはそれが全く理解できません。
ジルの耳には「ワォワォワォ」としか聞こえなかったそうなんです。
これはおかしいと様子を察して救急車を手配してくれた同僚のおかげでジルは無事、病院に運ばれました。
さて、ジルは相手の言ってることが理解できなかったですよね。
これは、意味を理解するウェルニッケ野が損傷してたからです。
でも、相手が何かを言ってるとか、自分は脳卒中になってるから病院に行かないといけないってことは分かってましたよね。
これは意味を理解できてるってことです。
意味を理解するウェルニッケ野は損傷してるけど、意味を理解する能力は失われていないってことです。
これはどういうことでしょう?
僕は、ここを勘違いしてたんです。
世界の意味を理解することと、言葉の意味を理解することとは別なんですよ。
ちょっとややこしいですけど、仮想世界仮説で考えると理解できます。
さっき、意味を理解するとは仮想世界を構築できることだって言いましたよね。
仮想世界には、音楽世界とか上下関係世界とか、いろんな世界があります。
そして、会話というのも一種の仮想世界です。
会話には、あいさつとか、相手へ呼びかけとか、応答とか、いろんな機能があります。
音楽世界にリズムやメロディーがあるのと同じです。
空気の振動を音楽世界のリズムやメロディーに変換することが音楽の意味を理解するってことです。
会話を理解するとは、相手が自分に呼び掛けてるとか、何て応答すればいいのか分かるってことです。
これが会話世界を構築するってことです。
そして、それをしてるのがウェルニッケ野なんです。
意識は、ウェルニッケ野が作った会話世界を認識して、相手が何と言ってるのか、何と答えたらいいのか理解するわけです。
ジルは、これができてなかったわけです。
だから、ジルが感じることができたのは、音の振動だけだったんです。
だからワォワォワォとしか感じれなかったんです。
これが、言葉の意味を理解できないということです。
でも、世界の意味は理解できます。
つまり、自分は今、脳卒中で、助けが必要で、それで同僚に電話をかけてるって世界の意味は理解できています。
そういう仮想世界は構築できてるってことです。
出来ないのは、言葉を仮想世界に変換するところです。
だから、相手が言ってることが、自分の仮想世界と噛み合わないんです。
これが何を言ってるのか意味が分からないってことです。
ジルの例からも、言葉と意味理解は別だって分かりました。
口呼吸して、自由に音声が出せるようになって発声学習できるようになりました。
それとは別に、仮想世界を使うことで複雑な世界の意味を理解できるようになりました。
そして、複雑な世界を表現するには、自由に変化できる音声しかありません。
こうやって、音声と意味が結びつきました。
それが言葉です。
言葉がどのようにして生まれたか、これできれいに説明がつきました。
はい、今回はここまでです。
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それから、今回紹介した意識の仮想世界仮説に関しては、こちらの本でも詳しくかたってますのでよかったら読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!