第463回 右脳に意識はない 〜意識中継器仮説


ロボマインド・プロジェクト、第463弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
意識の定義については、僕なりにほぼ完成されていたんですけど、今回、それが大きく変わりました。
今まで、意識って右脳にも左脳にもあると思っていました。
ところが、右脳には意識がないんです。
意識は左脳にしかありません。
その代わり、右脳と左脳をまとめて自分と定義しました。
今までは、意識と自分をあまり区別してなかったんですけど、それは違うってわかったんです。
どういうことかって言うと、意識の重要な側面が見えてきたんです。
それは、ネットワーク機器としての意識です。
ネットワークに接続されてるのが左脳です。
右脳はネットワークに接続されてないスタンドアローンです。
ネットワークというのは、人と人がコミュニケーションする社会のことです。
コミュニケーションに使うのが言語です。
それを担当するのが意識です。
言ってみれば、意識はネットワークの中継器です。
一方、右脳はネットワークにつながっていません。
つまり、右脳は意識につながっていません。
これが今回のテーマです。
右脳に意識はない。
意識中継器仮説。
それでは、始めましょう!

なんで意識の定義を見直すことになったかというと、今読んでる山鳥先生の『脳からみた心』です。

今読んでるとこが、右脳と左脳の話です。
そこで、分離脳の話が出てきました。
分離脳の話は、このチャンネルでも何度も紹介してたので、今さら新しい話はないと思ってたんですけど、そうでもなかったんですよ。
新しい話というより、今まで、僕が見過ごしてたんです。
まずは、簡単に分離脳についておさらいしておきます。

右脳と左脳は脳梁という部分を介してつながっていて、これを切断したのが分離脳です。
なぜ切断するかというとてんかんの治療です。
てんかんの発作は、脳の神経細胞が過剰に興奮して起こります。
神経細胞の興奮は、ひどい場合は脳全体に伝播します。
それを防ぐために、脳梁を切断することがあります。
これが分離脳手術です。

最初に分離脳手術を行ったのがアメリカの脳外科医ファン・ワーグネンで、1940年のことです。
手術は成功して、無事、てんかんを抑えることができました。
しかも、ほとんど副作用はありませんでした。
患者は、今までとの違いに気づくこともありません。
これには多くの人が驚いて、学者の中には、「脳梁は右脳と左脳がバラバラにならないようにつなぐための役目しかない」とまでいう人もいたそうです。

そんなわけないだろうって思ったのが神経心理学者のロジャー・スペリーとマイケル・ガザニガです。
1960年代のことです。
二人は、分離脳患者の右脳と左脳に別々に質問する手法を考えました。
体と脳は交差していて、右半身は左脳、左半身は右脳が制御します。
これと同じで視界も脳の中で交差していて、右の緑の視界は左脳、左の赤の視界は右脳に入力されます。

スペリーらは、これを利用した装置を作って、分離脳患者を試験しました。
患者の前に左右にスクリーンを置いて、左右のスクリーンに別々に映像を映します。
眼球が動くと、反対側の映像も見えますけど、一瞬だけ表示するとで、右脳または左脳だけに映像を見せることができます。
たとえば、右のスクリーンに鍵の絵を一瞬表示します。

患者に、「何が見えましたか?」って質問すると「鍵」と答えます。
机の上にはいろんなものを置いてあって、スクリーンでさえぎられて見えませんけど触ることはできます。
そこで「今見たものを右手で選んでください」というと、手探りで鍵を選びます。

右のスクリーンに映像を表示したということは、その映像は左脳に入力されましたよね。
左脳は言語を担当するので、「何が見えましたか?」って言葉の意味を理解して、見たもの答えたわけです。
左脳は右半身を制御するので、左脳が見たものは右手は知ってます。
だから、右手で鍵を選ぶことができました。

今度は、同じ事を左右逆にしてテストします。

つまり、左のスクリーンに鍵の映像を一瞬表示して、右脳にだけ見せます。
次に、「何が見えましたか?」って聞きます。
すると、「一瞬ぴかっと光っただけで、何も見えなかった」って答えます。
言葉を理解するのは左脳です。
でも、左脳には鍵の映像は入力されてないので、「何も見えなかった」と答えたわけです。
かろうじて見えたのが、左のスクリーンに投影された光だったので、ぴかっと光ったとしか答えないわけです。

質問に回答するのは左脳だから、左脳が見てないから答えられないわけです。
ここまでは分かりますよね。
ここで注目してほしいのは、「何も見えなかった」って発言です。
「見えない」と感じてたは何ですか?
それは「意識」でしすよね。
つまり、意識は左脳に宿るんです。

この実験、まだ続きます。
今度は「今見えたものを左手で選んでください」って言います。
当然、「いや、何も見えなかったのでわからない」っていいます。
それでも「勘でいいので選んでください」っていいます。
そしたら、見事、鍵を選んだんです。
「なんでわかったんですか?」って聞いたら、触った時、「あれっ、これかなぁと思って選んだだけです」っていいます。

さて、ここです。
ここでも、はっきり「わからない」っ言ってますよね。
わからないと思ってるのは意識ですよね。
考えたり、発言したり、行動したりするのが意識です。
その意識は、自分は見てない、何もしらないと言いきってるわけです。
それなのに、左手は「鍵を見た」って知ってたわけです。
だから鍵を触った時「あれっ」って思ったんです。

じゃぁ、左脳に意識が宿ってるとしたら、右脳は何なんでしょう?
右脳も自分ですよね。
ここで、僕は自分と意識を分けて考えることにしたんですよ。
本来、左脳も右脳も自分ですよ。
ただ、分離脳という特殊な状況になったから自分が二つに分かれたわけです。
そして、重要なのは、そのうち、一方、左脳に意識があるってことです。
今まで、意識と自分って同じだと思ってましたけど、どうも違うようなんです。
じゃぁ、どう違うんでしょう?

まず言えるのは左脳は言語を扱うってことです。
言語の目的は何でしょう?
他人とのコミュニケーションですよね。
これをコンピュータでたとえると、メールやLINEで他の端末と通信するのが左脳といえます。
インターネットが、いってみれば社会です。
左脳は、社会ネットワークを構成する端末、または中継器です。
ネットワークとして見ると、意識の役割はデータを受け取って、解釈して、データを返すことです。
これが意識が存在する目的です。
この見方は新しいですけど、かなりすっきりするんです。

今、脳の話しかしてませんけど、自分というのは体も持ちますよね。
体は、現実の物理世界にあって、知覚を通して現実世界を感じます。
食べたり寝たりして、現実世界を経験するのは体です。
左脳、右脳、体、この三つで自分は構成されるんです。

そのうち、左脳はネットワークにつながって他人とコミュニケーションします。
その時使うデータが言葉です。
言葉は、考える時にも使います。
思考の目的は行動の決定です。
「お昼にカレーを食べようかなぁ。いや、昨日もカレーやったからラーメンにしよう」とかって考えますよね。
これ、言葉を使わずに考えるのは難しいです。
そして、考えた結果、行動します。
行動するのは体です。
ここで、左脳の意識と体がつながります。

昨日、何を食べたか思い出すのも意識です。
記憶したり思い出したりするのも意識の役目です。
長期記憶だけでなく、たった今の短期記憶も左脳の役目です。

たとえば、これは山鳥先生の脳卒中になった患者にひっ算の計算をしてもらった例です。

右は、右手を使って、左は左手で同じ計算をしてもらいました。
この人は、少し右に麻痺があって、右手がうまく動かないですけど、右の計算はちゃんとできています。
左手は利き手じゃないので、うまく書けないのはわかりますけど、数字がデタラメです。
字が汚くなっても、計算の仕方を忘れるのはおかしいです。
実は、この患者、脳卒中で脳梁のほとんどが損傷していたんです。
つまり、分離脳と同じ状態になってたんです。
ひっ算の計算をするとき、繰り上がりの数を一時的に覚えて、それを足したりって作業が必要ですよね。
数字も言語の一種とも考えられるので、計算とかも左脳の処理になるようです。

じゃぁ、右脳は何をするんでしょう?
この人は、左手で数字を書こうとすると、「6」が出てきて仕方ないって言ってたそうです。
たしかに、やたらと6を書いてます。
どうも、右脳は意識的に操作できるものじゃなくて、内側から沸きあがるものを感じ取るもののようです。

そのことは、前回、第462回「意識からみた右脳と左脳の違い」で話しました。
脳卒中で左脳が停止して、右脳だけで感じる世界を感じた脳科学者、ジル・ボルト・テイラーは言いました。
その時、頭の中のおしゃべりが完全に消えたって。
「今日は何をして、それが終わったら次は何をするか」って、普段、ずっと考えていますよね。
これ、すべて言葉ですよね。
それが消えたわけです。
その時感じるのは、ただ、今、この瞬間だけです。

自閉症の東田直樹さんは、桜吹雪を見ると、あまりの美しさに圧倒されて動けなくなると言います。
おそらく、自閉症の人は右脳で感じるんだと思います。
その他、プールに潜って、水中からキラキラ光る空を見上げる自閉症の子の話もしました。
これらに共通するのは、今、この瞬間に見たり感じることを味わってることです。
これが右脳の自分です。

桜をみて、今年は桜が早いとか遅いとか言ったりしますよね。
これが言語でのコミュニケーションです。
でも、言葉にした時点で、もう、桜の見ていません。
でも、東田さんは、桜を見て、全身で感じてるんです。
今、この瞬間を味わってるんです。
それが右脳の役割です。
自分で感じて、それは他人に伝える必要もありません。
右脳は、他人につながってなくて、自分の体とだけつながって、ただ、今、この瞬間を感じるだけです。
コンピュータでいえば、どこにもつながらないスタンドアローンです。
左脳、右脳、体。
この三つの関係が分かってきましたか?

本来、この三つは全てつながって、それが自分です。
それが、左脳と右脳を分離する特殊な状況になると、自分の機能が分かれて明確になったわけです。

もう少しスペリーの実験を見てみます。
分離脳の実験で、右脳も簡単な単語なら理解できることがわかりました。

たとえば左のスクリーンに「NUT」と一瞬表示して右脳に文字をみせます。
何が見えたか質問しても、何も見えないといいます。
そこで、左手で選んでもらうと、ちゃんとナットを選ぶんです。
右脳は見えたものを知ってるからですけど、今回似たものは単語です。
右脳も言葉を理解してるようなんです。

さらに、「今見たものと組み合わせて使うものを選んでください」っていうと、左手はちゃんとボルトを選ぶんです。
つまり、単語の意味まで理解してるってことです。

ただ、右脳で理解できる言葉はここまでです。
スペリーの実験によると、「笑う」とか「うなずく」といった動詞は右脳は理解できなかったようなんです。
ここ、もう少し考えてみます。
「うなずく」ってコミュニケーションの一種でしょ。
他人とのコミュニケーションは右脳の機能にないので、理解できないんでしょう。
ただ、「笑う」は、楽しいときに出る感情の表現です。
感情的なものは右脳の役目ですよね。
「笑う」は右脳でも理解できていいんじゃないでしょうか?

でも、そうじゃないんですよ。
感情って、内から自然と湧き起こるものでしょ。
桜吹雪をみて「きれい」って感じるとか。
笑うも、楽しいって感じて、思わず笑ってしまうものです。
今、「思わず」っていったでしょ。
「思う」とか思考は意識の仕事です。
右脳は、内面から沸き起こるものを感じるだけです。
その時現れる表情が「笑顔」です。
「笑え」といわれたから笑うものじゃありません。

他人とコミュニケーションしたり、考えたて行動を決定するのが左脳の意識です。
行動して実際に動くのが体です。
目や耳の体の知覚を介して美しい光景や音楽を感じるのが右脳です。
これが、左脳、右脳、体の関係です。

現代社会は、圧倒的に左脳優位となっています。
他人とコミュニケーションして、考え、比較し、行動する。
すべて左脳の意識が行ってることです。
そうやって努力して、他人より高い地位やお金を獲得して幸せになります。

でも、ここには右脳の自分はいません。
ジル・ボルト・テイラーは言いました。
右脳の世界を感じたとき、圧倒的な幸福感を感じたって。
それ以上、何も必要なかったって。
右脳は、他人と比較することなく、ただ、ありのままの今を感じるだけで幸せになります。

右脳には意識はないですけど、右脳も自分の一部には違いありません。
それも自分だけで100%完結する自分です。
左脳の意識も自分ですけど、左脳の自分は、他人との比較で決まります。
他人との比較なので、そこには100%満足することはありません。

左脳の意識では感じれなくても、100%完璧な自分は右脳にちゃんといるんです。
そのことを覚えておいてください。

はい、今回の動画が面白かったらチャンネル登録、高評価、お願いしますね。
それから、よかったらこちらの本も読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!