ロボマインド・プロジェクト、第466弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
今回は、この本、『ビジュアル・シンカーの脳:「絵」で考える人々の世界』の紹介です。
この本、YouTubeチャンネル「ゆる言語ラジオ」で紹介されて話題になりました。
YouTubeを見たときは「へぇ」と思っただけだったんですけど、作者を見て、急に興味が出てきました。
作者は、テンブル・グランディンです。
テンプル・グランディンを最初に知ったのは、今から20年以上前、オリバー・サックスの『火星の人類学者』です。
ここには、自閉症の見る世界がどんなものか、ものすごく興味深く書かれていました。
同じ世界を生きていても、こんなにも認識の仕方や感じ方が違うのかって驚きました。
このころから、脳の世界に魅かれていったんですよ。
最近、いずれ人間をはるかに超えた超AIが生まれるって議論がされています。
超AIに人類が支配されないようにするにはどうすればいいのかって議論です。
僕は、そんな漠然とした話より、人間の脳はどんなふうに世界を認識するのかって具体的な話に興味があるんですよ。
自分以外の人も、同じように世界を認識してるのかです。
それが、どうも人によって認識の仕方や考え方が違うみたいなんです。
その一つが映像で考えるか言葉で考えるかです。
映像で考える人のことを視覚思考者、またはビジュアル・シンカーって言います。
これが今回のテーマです。
ビジュアル・シンカーの脳 「絵」で考える人々の世界
それでは、始めましょう!
まず最初に、テンブル・グランディンについて紹介しておきます。
彼女は家畜施設の設計が専門です。
特に、動物に苦痛を与えずに屠殺する施設の設計で有名です。
コロラド州立大学の教授もしていて、自閉症を抱えながら社会的に成功した人物として有名です。
彼女の主張は、この世には言葉で考える言語思考者と視覚で考える視覚思考者の二つのタイプがあるというものです。
そして、彼女は完全なビジュアル・シンカーで、この本はビジュアル・シンカーの視点から書かれた本です。
それじゃぁ、視覚思考者と聴覚思考者とでは、どんな風に考え方が違うんでしょう?
具体例を見ていきます。
ある食肉加工工場で、どうしても牛が通路の途中で立ち止まるところがあるそうです。
牛が立ち止まると、怒鳴ったり、電気式の突き棒で押したりして、なんとか牛を歩かせようとします。
その様子を見ていたテンプルは、牛が立ち止まる通路に入って行って、牛と一緒に歩いたそうです。
通路に入ったとたん、牛がなぜ、立ち止まるか分かりました。
斜めに差し込む日の光、ぶら下がってる鎖、ロープの影。
これらが牛たちをおびえさせてたんです。
それらを丁寧に取り除くことで、牛は立ち止まらなくなったそうです。
これが視覚思考者です。
でも、今まで、誰も通路に降りて確かめた人はいませんでした。
それどころか、通路に降りるテンプルを見たとき、彼女は頭がおかしくなったんじゃないかって思ったそうです。
これが言語思考者です。
それじゃぁ、整理していきますよ。
まず、今まで誰も通路に降りなかったと言うことは、社会のほとんどの人は言語思考者と言えそうです。
それじゃぁ、テンプルは、なぜ、通路に降りたんでしょう?
それは、現場を見ないと分からないと思ったからです。
つまり、視覚思考者は目に見えるものに答えがあると考えるわけです。
というか、見えるものが全てです。
頭で考えるより、見て感じます。
鎖やロープの影に違和感を感じます。
動物と同じ感覚です。
それに対して言語思考者は言葉で考えます。
動かない牛に「歩け!」って怒鳴ります。
それでも歩かないなら、電気杖で苦痛を与えます。
牛は、苦痛から逃れようと歩くはずです。
これが言語思考者の考え方です。
つまり、考えの基本は理屈です。
第464回、465回と右脳と左脳の違いについて語ってきました。
実は、視覚思考者と言語思考者は、右脳と左脳に分けることができるんです。
右脳は、現実世界にあるものを視覚などの感覚器から直接感じ取ります。
これが視覚思考です。
一方左脳は、現実にあるものを抽象化した概念で考えます。
たとえば、数字とか、時間とか所有権とかは抽象的な概念です。
これらは見たり触ったりできるものじゃありません。
つまり、現実世界に存在して直接知覚できないものです。
たとえば、3個のリンゴがあったとします。
そのリンゴは現実に存在しますけど、「3」って個数は抽象概念です。
リンゴは太郎のものとかお店のものとか、誰のものかって概念も抽象概念です。
そういった概念を扱うのが左脳です。
左脳は現実に存在するものの背後に意味があると考えます。
だから現実より背後の意味を重視します。
リンゴは誰のものかとか、値段はいくらとかを気にするわけです。
そして、「AすればBとなる」といった理屈を考えます。
だから、「牛が動かないなら電気針で突け」って発想になるんです。
視覚思考者はクリエイティブとも言われます。
高校生を視覚思考者と言語思考者のグループに分けて、未知の惑星の絵を描かせたそうです。
そしたら、視覚思考者は色鮮やかでファンタスティックな惑星をかきました。
ある子は、四角い惑星で、ピラミッドとかペンギンが所狭しとかきこまれた惑星をかきました。
一方、言語思考者のかく惑星は丸くて、よくあるタイプの惑星でした。
惑星は丸いって発想しか出ないんでしょう。
惑星は丸いって、まさに言語での理解です。
ある子は、絵に言葉を書き添えて、後から塗りつぶして消していました。
たぶん、イメージじゃなくて言葉しか出てこなくて、つい、言葉で説明を書いたんでしょう。
でも、言葉でかいたらダメだと思って自分で消したんです。
言語思考者は、規則を守るマジメタイプが多いとテンプルは言います。
一方、視覚思考者はクリエイティブですよね。
クリエイティブって表現は曖昧ですけど、こうしてみると、クリエイティブとは、頭の中に映像が思い浮かぶ視覚思考のことといえそうです。
視覚思考者が思い浮かべる映像にはいいとか、悪いとか、こうすべき、これはダメって概念はありません。
あるとすれば、それは後から付けた意味です。
視覚思考者は、ただ、自然と映像が思い浮かぶようです。
言語思考者は言葉から映像を思い浮かべようとします。
言葉は意味を持ちます。
意味から映像を思い浮かべようとしたら、惑星は丸いしか出てきません。
「もっとクリエイティブに考えるべき」なんて自分に言い聞かせても、何も思いつきません。
これが言語思考者です。
視覚思考者は目で見える世界、現実世界そのものを重要視にします。
言語思考者は、見えるもののその背後にある抽象的な概念とか意味を重要視します。
これは、二つの考え方の軸があると見ることもできます。
現実に見える世界に沿って横に伸びる軸と、現実から抽象的な方向に縦に伸びる軸です。
視覚思考者は現実軸に沿って考えて、言語思考者は抽象軸に沿って考えるわけです。
それから動物は視覚思考です。
第423回で「犬になった医者の世にも奇妙な物語」を語りました。
薬物常用者の医者がいました。
その医者は、ある日、目が覚めたときあらゆる感覚が異常に鋭くなっていたのを感じたそうです。
まるで高感度カメラのようにあらゆるものがはっきり見えたそうです。
そして、なにより嗅覚が異常に鋭くなったそうです。
患者の臭いから感情を嗅ぎ分けることができたそうです。
まさに犬になった気分です。
ありとあらゆるものがリアルで、圧倒的な現実感を持って感じられたそうです。
その感覚にあるとき、一切の抽象的な思考ができなかったって言います。
見たまま、知覚したままをありのままに感じるしかできません。
あらゆる思考が生々しい現実世界に張り付いていて、一歩引いて観察するなんてできなかったそうです。
自分と現実世界が一体となっています。
これが動物の感覚です。
現実世界にあるものをダイレクトに感じるわけです。
通路で鎖やロープの影におびえて立ちすくむ牛もそんな感覚なんでしょう。
そして、テンプルもです。
自閉書の人は知覚に敏感になると言われてますけど、こんな感覚なんでしょう。
さて、ここからは、オリヴァー・サックスの本で語られてたテンプルを紹介します。
サックス先生が初めてテンプルに会った時のエピソードです。
「旅はどうでしたか?」とか「コロラドはどう思いますか?」といったやり取りもなく、いきなり、自分がなぜ動物行動学に興味を持ったかについて語り始めましたそうです。
サックス先生は昼食を取ってなくて、お腹が空いてたので、テンプルがコーヒーを勧めてくれないかと待っていましたけど、そんな気配は一切なかくて、ついに自分から「コーヒーはありませんか」って口にしたそうです。
そしたら、「あっ、気付かずにすみません」もなく、ただ、コーヒーポットのところに案内してくれたそうです。
オリヴァー・サックスって、こういうのがうまいんですよ。
自閉症特有の性質をさらっと書けるんです。
自閉症の人って、他人の気持ちを読むのが苦手なんです。
そのことは知ってましたけど、他人が何を考えてるのか分からないのに、なぜテンプルは動物の気持ちが分かるのかが不思議でした。
相手の気持ちを理解するには、相手に立場になって考える必要があります。
これは、「心の理論」とも言われて、2歳ぐらいの子どもや自閉症の人は持てないと言われています。
それが今回、ようやくわかりました。
テンプルは、動物の気持ちを想像してるんじゃないんです。
テンプルは動物と同じ感覚で現実世界を感じてたんです。
それが視覚思考の脳です。
視覚思考の人は、頭の中で映像で再現して考えます。
テンプルは製図の平面図を見ただけで、それを頭の中で立体として再現できます。
子どものころから機械を分解したり、宇宙や科学の本を読むのが大好きでした。
規則正しく動く天体の動きをリアルに想像するのが楽しかったそうです。
でも、小説は意味が分からないそうです。
特に、複雑な人間関係が理解できないそうです。
ロミオとジュリエットを読んでも、ジュリエットは一体何を言ってるんだって思っていたそうです。
機械や天体と違って、人間の行動は予測がつかないって言います。
たしかに言葉には言外の意味が含まれますよね。
テンプルはそれを読み取れないんです。
「コーヒーをもらえますか」って言葉に、それ以上の意味は感じ取れません。
だから、サックス先生は、「こんなこと言ったら、気が利かないことを責めてるように思われないか」って心配する必要はなかったんです。
言葉に裏があるなんて思ってもいないからです。
目に見えるものが全て真実と考える視覚思考者は、言葉に表されたものが全てとしか思えないんです。
だから比喩も理解できないそうです。
テンプルはクリスチャンで教会で牧師の説教を真剣に聞いていたそうです。
ある時、牧師が「あなたの前には天国に続く扉がある」と言ったそうです。
でも、どこを探しても天国に続く扉は見つからなかったそうです。
その頃、テンプルが住んでた学生寮が増築工事してました。
屋上に上がると、扉だけが取りつけられていて、その扉を開くと、青空がすっと見えたそうです。
それを見て、ようやく天国に続く扉を見つけたと安心したそうです。
これが視覚思考者です。
テンプルはサックス先生に「言葉で考えるとはどういうことですか?」と何度も聞いたそうです。
自閉症の人は驚異的な記憶力を持つ人が多いです。
写真を撮ったかのように記憶するので写真記憶とも言われます。
テンプルも同じで、いろんな場面を映像として記憶しています。
それは自分の経験だけじゃなくて、過去に見た映画やドラマもです。
そして、似た場面に遭遇すると、過去の映像を再生して、こんな状況で人は怒るとか、機嫌が悪くなるって理解するそうです。
そうやって、自分には持ち得ない「嫉妬」って感情を理解するそうです。
自閉症の人は他人の気持ちが分からないといわれますけど、テンプルはこうやって、苦労して人間社会でやっていってるわけです。
そんなことをしなくてもいい言語思考者は、どんな風に考えてるのか。
それが不思議で、何度も「言葉で考えるとはどういうことですか」ってサックス先生に聞いてたんです。
さて、冒頭で超AIの話をしましたよね。
超AIが登場したら人類を支配するんじゃないかとか、人類を絶滅させるんじゃないかって議論のことです。
超知能に限らず、宇宙人が地球に攻めてくるのはSF映画の定番です。
ところで、なんで宇宙人や超AIは人類を滅ぼしたり、支配するんでしょう?
それは、地球の資源を奪ったり、人類を奴隷として使いたいからですよね。
つまり、自分の星の資源がなくなったから地球に奪いにきたり、自分が働かなくても生きていくために人類を奴隷として支配するということです。
まぁ、分からないでもないです。
僕が小学校の頃は、21世紀までに石油が枯渇して、人類はエネルギー不足になるって教科書に書かれていました。
でも、そうはならなかったです。
なぜなら、太陽光発電とか、石油以外のエネルギーを使えるようになったからです。
つまり、技術の進歩で解決したわけです。
これはエネルギーだけじゃありません。
機械やロボットのおかげで製造業や農業で人手がいらなくなってきました。
AIの発展で、あらゆる仕事で人が働かなくても社会が維持できるようになると思います。
ベーシックインカムの実現です。
働かなくても生きていくのに必要なお金が全員に支給される社会です。
おそらく、文明が発達した社会は必然的にそうなるでしょう。
つまり、宇宙人も超AIも人類を支配したり絶滅させる必要はないわけです。
地球に攻めてくる宇宙人とか、人類を支配するAIとかって、過去の人類の行いを宇宙人やAIに投影したわけです。
でも、それは過去の話で、未来の人類は、資源にも労働にも困ってません。
何が言いたいかって言うと、宇宙人や超AIが出てきたときの問題は、人類が支配されないためにどうすればいいのかってことじゃないんですよ。
心配すべきはそこじゃなくて、僕らと全く異なる思考をする知性と共存する社会について心配しないといけないんですよ。
現在の社会は言語思考者が作っています。
言語思考者は、視覚思考者がいるななんて思ってもいません。
その一方、少数派の視覚思考者は、なんとか言語思考者に合わせようと苦労して生きています。
さて、超AIが出現したら、人類を支配することはなくても、超AIが社会を設計することは間違いないです。
ここで一つ疑問があります。
超AIは、果たして言語思考者なのか視覚思考者なのか?
その答えは既に出ています。
AIは視覚思考者です。
この話は、第464回、465回で語っているので、興味があるのはそちらを見てください。
今は、それより重要な話です。
超AIが視覚思考者なら、未来社会は視覚思考者が作った社会になりますよね。
その社会は、言語思考者にとっては間違いなく生きづらい社会になります。
超AIから、クリエイティブ性がないとか、「どうして、そんな当たり前のことしか思いつかないの?」って言われます。
「まさか、言葉で考えてるんじゃないでしょうね」とか。
言語思考者にとっては、まさに地獄です。
超AIが出現した未来。
一番心配しないといけないのはここなんですよ。
皆さんも、今の内から映像で考えるように訓練しておいたほうがいいですよ。
はい、今回はここまでです。
今回の動画が面白かったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、よかったらこちらの本も読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!