第467回 本の表紙そのまま


ロボマインド・プロジェクト、第467弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
今回は、この本『発達障害の私が夫と普通に暮らすために書いているノート』の紹介です。
著者の「ななしのうい」さんは夫と結婚してから、自分が発達障害であることに気づいたそうです。
自分の感じ方が、どうも、他の人と違うってことに気づいて、普通の人の考え、感じ方を自分なりに整理してノートにまとめたそうです。
さらに、それをツイッターにも投稿したら、同じようなことで悩んでた発達障害の人がいっぱいいたみたいで、「それ、分かる!」ってバズったそうです。
それが今回紹介する本です。

ういさんは発達障害と言いましたけど、正確にはASDとADHDの併発型です。
ASDというのは自閉スペクトラム障害のことです。
僕は、いつも自閉症と一言で言ってますけど、じつは、自閉症は01で切り分けられるものじゃなくて、症状が軽いものから重いものまで連続して存在してて、それをてスペクトラムと言います。
症状が重いのが自閉症で、軽い場合はアスペルガー症候群で、これらを総称してASDといいます。

ADHDは注意欠如・多動症といわれる発達障害で、落ち着きがなかったり、行動を抑制できなかったりします。
ASDとADHDはどちらもメジャーな発達障害で、症状も似ていて、両方持ってる人は割と良くあるようです。

僕は脳の仕組みとか、脳内の情報処理に興味があります。
それも、ニューロンレベルじゃなくて、意識や主観がどんなふうに感じるのかって一番上のレベルに興味があります。
ここ最近、取り上げてるのは右脳と左脳の処理の違いです。
前回、第466回は、自閉症で社会的にも成功してるテンプル・グランディンの書いた『ビジュアル・シンカーの脳』を取り上げました。
テンプルがいうのは、社会には二種類の人がいて、一つは、言葉で考える言語思考で、もうひとtうは映像で考える視覚思考だそうです。
そして、ほとんどが言語思考だけど、ASDは視覚思考だそうです。
この視覚思考のことをビジュアル・シンカーとよびます。

言語思考と視覚思考では脳の情報処理が根本的に違います。
その違いがわかれば、発達障害の人がどんなふうに感じて、なんでこんな行動を取るのかよく分かります。
今回、紹介する本に書いてあることも、すべて、脳の処理の違いで説明できるんです。
これが今回のテーマです。
発達障害の私が夫と普通に暮らすために書いてるノート
それでは、始めましょう!

この本の最初に、発達障害の解説があります。
それによると、発達障害というのは知的能力の高さでなくて、能力の偏りやばらつきで決まるそうです。
能力は言語優位か視覚優位に分けます。
前回、言語思考と視覚思考の話をしましたけど、それと同じですね。
そして、前回のテンプルも今回のういさんも視覚優位です。
ういさんは、夫から記憶力がいいといわれたとき、「それは見たものだけ」って答えてます。
見たものをそのまま記憶するって、いわゆる写真記憶です。
僕の中では写真記憶は天才の条件の一つとなっています。

子どものとき百科事典を丸暗記したってのは、天才あるあるのエピソードです。
たとえば、南方熊楠は、友達の家にある江戸時代の百科事典『和漢三才図絵』105巻を3年かけて書き写したそうです。

イーロン・マスクも子供のころに家にある百科事典を丸暗記したそうです。
これが天才あるあるです。

写真記憶ができるのは視覚能力が異様に高いわけです。
そのかわり言語能力が低くなります。
言語能力が低いと、しゃべり始めるのが遅かったりします。

実際、南方熊楠は6歳までしゃべれなかったそうです。
それから、アインシュタインも初めてしゃべったのが3歳で、6歳になってもうまくしゃべれなかったといわれてます。
そして、アインシュタインも発達障害と言われています。
イーロン・マスクは、アメリカの人気コメディー番組「サタデー・ナイト・ライブ」に出演したとき、自分はアスペルガー症候群だと告白しました。

ASDは視覚優位の人が多くて、写真記憶ができる人も多いです。
たとえば、第419回で紹介した画家、スティーブン・ウィルシャーは自閉症の画家として有名です。
彼れは、一度見たた、記憶だけでそっくりそのまま描くことができます。

これ、記憶だけで描いているんですよ。
すごいですよね。

写真記憶を持ってるから、記憶だけで絵を描くことができるわけです。
ここまでは理解できるんですよ。

分からないのは、イーロン・マスクみたいな天才は何が違うのかってことです。
それが、ようやくわかってきたんです。

写真記憶は視覚思考ですよね。
でも、百科事典は言葉で書かれていますよね。
言葉ということは言語思考です。
つまり、天才は、視覚思考と言語思考の両方をもってることなんですよ。
視覚能力と言語能力に偏りがあるんじゃなくて、どちらも優れてるのが天才なんです。
実際、南方熊楠はしゃべるのは遅かったですけど、後に、20か国語以上を理解できるようになりました。

イーロン・マスクは、あまりにも頭が良すぎて医者に相談に行ったそうです。
問題を聞くと、考えずにおれなくて、たいてい、答えがわかるそうです。
この間も、ある物理学者から何年も解けない物理学の難問を聞かされたら、すぐにこうやったら解けるんじゃないか思いついたそうです。
とにかく、頭が休まることがないからバカにする薬を出してくれって医者にお願いしたそうです。
医者も半信半疑だったそうですけど、それじゃぁということで、頭の回転を抑える薬を出したそうです。
それから数か月後、イーロンマスクが物理学の難問を解決した論文を発表してたってニュースを聞いて、あの話は本当だったって分かったそうです。
いやぁ、天才も、なかなか大変ですよね。

それから視覚優位の人は物を探すとかパズルが得意ともいいます。
これも分かりますよね。
写真を撮ったように頭の中に入ってるからです。
その代わり、視覚優位の人は、部屋を片付けなるそうです。

前回紹介したテンプルも仕事部屋はぐちゃぐちゃだそうです。
机のあちこちに本や書類の山ができてるそうです。
でも、テンプルが言うには、ぐちゃぐちゃでも、どこに何が置いてあるか全部把握してるそうです。
だから、部屋を片付けられると困るそうです。
「あの書類の山の上から3番目にはさんでた書類をどこにやったの」ってなるそうです。

今回のういさんも、部屋はぐちゃぐちゃで片づけることはしてなかったそうです。
夫に指摘されるまで、なんで部屋を片付けないといけないのか理解できなかったそうです。
ぐちゃぐちゃの部屋を見ても、言語思考の人と視覚思考の人では、どんな風に感じるのか全然ちがうようなんです。

それからASDの特徴に感覚過敏があります。
大きな音に敏感だったりします。
ういさんも、大きな音にびっくりするたびに「大げさ」って言われるそうです。

外出するときは常にイヤホンを付けて音楽を聴いてるそうです。
それは、好きな音楽を聴きたいからってだけじゃなくて、目の前に見えるもの、聞こえる音全てが気になるからだそうです。
人の声、車の音などの環境音がごちゃ混ぜになって聞こえて耐えられないそうです。
それで、音楽を聴いて周りの音が気にならないようにしてるそうです。
ういさんは、それが当たり前と思っていて、他の人は、よく我慢できるなぁと思っていたそうです。

なぜこうなるか、脳の仕組みから説明できます。
その話は、第364回「明朝体を読めない、津軽弁を離さない自閉症」で電圧計を使って解説しました。

電圧計って、数ボルト~数百ボルトまで測定できますけど、電圧に応じて線を差す位置を変更しないといけません。
たとえば、1.5Vの電池を300Vで測定すると針が全く動きません。
その時は線を3Vに接続します。
逆に、100Vの電圧を3Vで測定すると針が振りきってしまいます。
その場合は、線を300Vにするわけです。
人の場合は、入力される音を無意識が自動で調整してるんですよ。
だから、多少大きな音がしても、それほど驚かないんです。
でも、ういさんの場合、無意識の調整がうまくできないので、ちょっと大きい音がしただけでもびっくりしてしまうんです。

無意識は、音の大きさだけでなくて、指向性も調整してます。
たとえばパーティ会場でも、会話は聞き取れますよね。
でも、それを録音して持ち帰って再生すると、周りの音がうるさくて、会話を聞き取れないんですよ。
これは、パーティーで話をするとき、無意識が自動で雑音を抑えて、相手の音だけ拾って、るんですよ。
ういさんはこの機能がうまく働かないから、周りの音が気になって仕方ないんです。

それから電圧計は、電圧がないとき0Vを指すように針の位置を調整する校正が必要です。
人の場合、校正も自動で行います。
この校正というのは相対的に調整する機能とも言えます。

じつは、ASDの人の中には絶対音感の人が多いんですよ。
普通の人は、相対音感です。
相対音感っていうのは、他の音との比較でドレミを認識することです。
これがドならこれはミとかって感じです。
これに対して絶対音感の人は、他と比べなくて、一音だけ聴いて「ド」とかって分かります。

これを電圧計で考えると、相対音感の人は電圧計の0Vみたいにドの位置を確定しないとレとかミがわかりません。
でも、絶対音感の人は0Vがどこかって固定されてるわけです。
だから、一音だけ聴いてもレとかミって答えられるんです。
ASDの人は、感覚の相対的な自動調整機能が働かないおかげで、生まれつき絶対音感をもってると言えるんです。

それから、ASDの人は、音だけでなくて、人にさわられるのも苦手だといいます。
ういさんも、女子同士のボディタッチが嫌だって言います。
これも、何かに触れたとき、無意識が感覚を調整する機能が働かないから、不快に感じると考えたら理解できます。

それから、ういさんは、物がこすれる音も苦手だそうです。
こすれる音は、どれも、黒板を爪でひっかいた音みたいに感じるそうです。
これも、無意識がノイズを程よく聞こえるように調整してないから、全て不快に聞こえるんでしょう。

それからASDの人は、予定どおりにいかないとパニックになります。
ういさんも、予定がズレた時点で、どうしようもない不安が襲ってくるって言います。
予定をたてなおしたらいいといって、何事もなかったかのように振る舞う夫が信じられないといいます。

今度は、これを視覚思考と言語思考で考えてみます。
言語思考の人は、言葉で考えます。
言葉というのは、現実世界にあるものから抽象的な意味を取り出したものです。
考えるというのは、言葉をつかって抽象的な意味を操作することです。

一方、視覚思考は現実世界にあるものをそのまま受け取ります。
写真を撮るように記憶したり、調整なしで周りの音を感じるとかです。
つまり、現実に起こったことをそのまま受け取って感じるしかできないんです。
だから予定が変更になったら、どうしていいか分からなくてパニックになるんです。
でも、言語思考者は、出来事を抽象化して、予定を組み立て直すことができます。
だから、何事もなかったかのように振る舞えるんです。

ういさんは、自分が感じてることって、みんな同じように感じてると思っていたそうです。
まぁ、確かに、他の人がどんなふうに感じてるのかなんて、外からみても分からないですしね。
共感覚をもってる人も同じようなことを言ってました。
共感覚っていうのは、別の種類の感覚を同じように感じることです。
その人は、数字に色を感じる共感覚をもっていました。
学校で、「この7は緑が薄いよね」って言ったら、不思議な顔をされて、「あれ、7が緑にみえるのは私だけ?」って、その時初めて気づいたそうです。
そのぐらい主観的な感覚って他からは分かりにくいし、人によっても違うわけです。

これが主観や意識が面白いとこです。
科学っていうのは、客観的な事実を重視するので、主観で何を感じるかは気にしません。
でも、人間と同じ心を持ったAIをつくろうとしたら、意識や主観でどんな風に感じるか無視するわけにはいきません。
だから、この分野の解明って、今後、絶対必要になってくるんですよ。
次回も、引き続いてういさんの本を読み解いていこうと思います。

はい、今回はここまでです。
面白かったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それからよかったら、こちらの本も読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!