ロボマインド・プロジェクト、第468弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。
天才と普通の人って何が違うんでしょう?
前回、あまりにも頭がよすぎるから、お医者さんに「バカになる薬を処方してくれ」って頼んだイーロン・マスクの話を紹介しました。
もう、ここまで行ったら天才なのかバカなのかよくわからないですよね。
でも、バカになる薬があるなら、頭がよくなる薬も作れるんじゃないでしょうか。
これ、じつは既にあるんですよ。
正確には、脳を電気刺激することで一時的に天才を作り出す研究です。
この研究、きっかけはサヴァン症候群です。
自閉症の中に、特殊な能力を持った人をサヴァン症候群っていいます。
有名なのは見たものを写真を撮ったように記憶する写真記憶です。
たとえば、自閉症の画家、スティーブン・ウィルシャーは、記憶だけでこれだけの絵を描きます。
これがサヴァンです。
自閉症をテーマにした有名な映画に『レインマン』があります。
レインマンで床に落ちたつまようじを一瞬で数えるシーンがありますけど、これもサヴァンの能力の一つです。
第428回「究極のサヴァン!」で紹介した双子も、床に落ちたマッチ棒を一瞬で数えていました。
この双子、何が究極かって言うと、数を数えるだけじゃなくて、素数を判定することもできるんです。
それも20桁の素数ですよ。
サヴァンが天才っていうのもわかりますよね。
『レインマン』の監修を務めたウィスコンシン大学のトレッファートはサヴァンの症例を集めていて、あることに気づきました。
サヴァンは生まれつきと思っていたたんですけど、わずかですけど、後天的にサヴァンになった人もいたんです。
それから、カリフォルニア大学の神経学者ブルース・ミラーは、前頭側頭型認知症の患者の中にサヴァン能力を獲得した人がいることを見つけました。
その人たち共通点は、左の前頭葉がダメージを受けていたことでした。
普通の人は左脳優位です。
左脳優位だと、左脳が右脳を抑制します。
それが左脳がダメージを受けることで右脳が活性化したようなんです。
ということは、左脳の活動を抑制すればサヴァンを生み出すことができるんじゃないでしょうか?
これが今回のテーマです。
人工サヴァン
人工的に天才を作る脳実験
それでは、始めましょう!
スティーブン・ウィルシャーは、記憶だけでこれだけの絵を描きます。
普通の人が同じ光景を見たとしても、せいぜい、「たしか川があったよなぁ」とか、「高いビルとか家かがいっぱいあったよなぁ」ぐらいしか思い出せません。
見慣れた自分の部屋でも、ここまで正確に描けないです。
普段座ってる椅子の形すら、正確に思い出せません。
でも、家に帰って、椅子が変わってたら、「あれ?」って思いますよね。
これ、意識して描くことはできないけど、無意識では細かいとこまで覚えてるってことです。
今、意識っていいましたけど、じゃぁ、意識は脳のどこにあるんでしょう?
それは、第463回で語りました。
意識はあるのは左脳です。
右脳に意識はありません。
このことは、右脳と左脳をつなげる脳梁を切断した分離脳患者の実験で確かめられています。
分離脳患者の右脳だけに鍵の絵を見せて、「何が見えたか」って尋ねても「何も見えなかった」って答えます。
この時答えてるのが左脳にある意識です。
つぎに、左手で机の上にあるものを触ってもらうと、鍵を触った時「あれっ」って思うんです。
左手は右脳が制御しています。
右脳は自分が鍵を見たことを知ってるから、「あれ?」って思ったんです。
この「あれ?」って思ったのは左脳の意識ですよね。
つまり、意識が感じ取れるのは、「あれ?」だけなんです。
でも、右脳は意外なほど多くのことを知ってるんです。
じつは、普通の人でも右脳は、一度みた光景を写真みたいに記憶してるんです。
でも、左脳の意識は右脳の記憶に直接アクセスできません。
できることは、右脳が「あっ、これ知ってる!」って感じたとき、それを感じ取ることぐらいです。
それが「あれ?」です。
そして、普通の人じゃアクセスできない右脳の記憶にアクセスできるのがサヴァンです。
だから、サヴァンの人は、一度見た光景を写真のように正確に思い出すことができるんです。
つまり、左脳と右脳は独立して全く別の処理をしてるんです。
このことを端的に示すのがエイリアンハンド症候群です。
これを見てください。
今、ケースから薬を取り出して飲もうとします。
左手でケースの蓋を開けたと思ったら壁に投げつけました。
さらに左手は右手に持ったケースを叩き落とします。
床に散らばった薬を右手で集めます。
集まったところを左手がまた散らします。
これがエイリアンハンドです。
この人は、脳梁が損傷して分離脳と同じ状態になっています。
この人、右脳が制御する左手が、自分の思い通りに動きません。
今、「自分の思い通り」って言いましたけど、この「自分」っていうのが意識です。
意識は、体を制御して薬を飲もうとしてました。
つまり、目的を持って体を制御するのが左脳の意識です。
そして、右脳と左脳が切り離されると、右脳は左脳の制御を外れます。
右脳は、見た光景を一瞬で記憶するとか、床に散らばったつまようじを一瞬で数えるといった処理が得意です。
これは一種のパターン認識です。
さらに、認識したパターンに感情や行動が結びついてるんです。
たとえば集まった物ってパターンと、散らすって行動が結びついてるんです。
だから集まった薬のパターンを認識したら左手で散らすんです。
右脳が得意なのは一瞬で判断できるパターン認識です。
一方、じっくり計画を立てて考えるとかは左脳の認識の仕方です。
よく自閉症とかASDの人は予定が変更になるとパニックになったり、うまく対応できないと言われています。
前回から、『発達障害の私が夫と普通に暮らすために書いてるノート』を読んでますけど、著者のういさんも同じようなことを言っていました。
その日は朝から初詣に行く予定だったそうです。
ところが夫が、朝起きられなくて、「午後から行こう」といったら、ういさんが「予定通りじゃないから行かない」ってキレたそうです。
夫は、「予定どおりに行動するのが目的じゃない。初詣に行っておみくじを引いたり、屋台でごはんを食べるのが目的だ」って説得したそうです。
それじゃぁ、これを読み解いていきます。
予定というのは、具体的な出来事を頭の中で抽象化して、それを順番に並べて久慈立てたものです。
抽象化した概念を操作するのは左脳が得意な処理です。
だから、予定が変更になっても、予定を組み替えることができます。
これが左脳優位の普通の人の考え方です。
一方、自閉症やASDの人は右脳優位となっています。
右脳は、物事を抽象化することなく、そっくりそのまま認識します。
見た光景を写真のように全体を記憶するとかです。
「川とたくさんの家」とか抽象化した部品に分けて記憶するのは左脳の記憶の仕方です。
右脳は、一旦予定が決まったら、全体を写真に撮って固めます。
部品に分解したりなんかしません。
まして、目的に合わせて部品を組み替えるなんてできません。
認識できるのは、予定通りか、予定通りでないかの二つだけです。
だから予定通りでなくなれば、すべて終わりです。
予定通りにならなかったってパターンと感情が結びついて「すべて終わりだ」ってパニックになるんです。
これが自閉症やASDの認識の仕方です。
別の例も紹介します。
これは8歳の子がかいた馬の絵です。
いかにも子供が描きそうな絵ですよね。
4本の足があって、長い首があって、首にはたてがみがあります。
今、言葉で説明したでしょ。
言葉で説明したとおりに描いてるんです。
つまり、見たままを描くんじゃなくて、「足」とか「長い首」とか「たてがみ」とかって意味をそのまま絵にしてるんですよ。
ただ、馬らしい動きは表現されてませんよね。
左脳を使って世界を認識するとこうなるんですよ。
じゃぁ、次は、この絵をみてください。
躍動感がありますよね。
これぞ、走ってる馬ですよね。
この絵、実は、三才のサヴァンの女の子が描いた絵なんです。
見たままをそっくりそのまま捉えてることができるんです。
じゃぁ、次はこの絵をみてください。
これもうまいですよねぇ。
馬の動きを見事にとらえてますよね。
これ、誰が描いたかわかりますか?
これ、レオナルド・ダ・ビンチです。
さっきのサヴァンの少女の描いた絵に近いですよね。
じゃぁ、ダ・ヴィンチはサヴァンなんでしょうか?
さて、ここからが本題です。
レオナルド・ダ・ヴィンチは誰が何と言っても天才ですよね。
じゃぁ、本物の天才とサヴァンの違いは何でしょう。
ダ・ヴィンチは発明もいっぱいしています。
たとえば、これは空飛ぶ飛行機です。
それからヘリコプターなんかも考えていました。
羽を回転させることで空気を下に押し出して宙に浮かぶわけです。
これは、左脳が考える理論的思考ですよね。
それから、人体の解剖図もいっぱい残しています。
細部まで詳細に描くのは右脳です。
でも、描かれてるのは筋肉や骨格です。
人体を構成する部品を解明しようとしてるわけです。
部品として見るのは左脳の視点です。
そして、ダ・ヴィンチといえば、この絵です。
モナ・リザです。
写真のような写実は右脳の処理です。
でも、その背後には解剖で解明した人体の構造を認識してるはずです。
目に見えない構造を認識するのは左脳です。
それから、この絵は、美術史的には空気遠近法使われています。
手前がはっきりと見えて、奥はかすんでぼやけて見えるって遠近法です。
遠近法とかって理論も左脳が考えることです。
分かってきましたか?
ダ・ヴィンチは、見えるものをそのまま認識する右脳と、その背後にある構造とか意味を認識する左脳の両方を自在に操っているんです。
目的達成のために抽象的な概念は左脳で操作して、それを右脳を使って具体的なものに落とし込むことができるんです。
空を飛びたいって抽象的な目的を達成するための理論を考えて、さらにそれをヘリコプターや飛行機といった具体的なものに落とし込めるんです。
これが天才です。
普通の人も左脳と右脳の両方を使いこなせることができれば天才になれるんじゃないでしょうか。
でも、普通の人は左脳優位となっていて、左脳が右脳を抑え込んでいます。
ということは、一時的にこの抑制を外せばいいんじゃないでしょうか?
それが冒頭に説明した人工的に天才を作り出す脳実験です。
それでは、具体的にどんな実験をしたか見ていきましょう。
反復経頭蓋磁気刺激装置は、パルス磁場によって脳の活動を部分的に抑制することができます。
この装置で言語処理をする左側頭領域を抑制することで、空間把握能力を高めることに成功したそうです。
中には、多数の物体の数を一瞬で数えることができるようになった人もいたそうです。
まさに『レインマン』に出てきたサヴァンの能力を人工的につくり出したわけです。
別の実験も見てみます。
シドニー大学の心理研究センターのリチャード・チーとアラン・スナイダーは、経頭蓋直流電気刺激装置を使いました。
この装置は頭皮の上から1~2mA程度の微弱な直流電気を流すことで、脳の活動を抑制したり活性化できます。
そこで、左脳の言語領域の活動を低下させると同時に、右脳の右前側頭葉を活性化させました。
それで、このパズルを解いてもらったんです。
九つの点がありますよね。
これを一筆書きで4本の直線で全てを結ぶという課題です。
わかりましたか?
正解はこうです。
なるほどと思いますよね。
この問題、電極を付けない33人に解いてもらったところ、誰一人正解する人はいませんでした。
次に、電極で左脳を抑制して右脳を活性化すると、33人中14人、40%もの人が正解したんです。
さて、これについて考えてみます。
九つの点を一筆書きの直線で結ぶわけです。
理論的思考をするのは左脳です。
左脳は「点と点を直線で結ぶ」と言葉で考えます。
言葉は意味をもっています。
つまり、言葉で考えると、知らず知らずのうちに、直線は点と点の間を結ぶってルールに縛られるんです。
これじゃぁ、九つの点を超えて線を伸ばすって発想は生まれてきませんよね。
これは、馬を描くとき、四本足で長い首とたてがみがあると言葉で考えて描くのと同じです。
言葉で考えた時点で、実際の馬は見てないわけです。
そこに電流で左脳を抑制して右脳を活性化させます。
右脳は意味を考えるんじゃなくて現実そのものをみます。
すると、点をつなぐ直線を引くとき、何も端の点で止める必要はないって気付きます。
(一本目の横線を右に延長して描く)
これに気付いたら後は簡単です。
直線が曲がるのも点の位置に限りません。
(一本目の線の右端で折れ曲がるとこを描く)
そうして直線を伸ばして、曲げて4本の直線で全ての点を通過する一筆書きが完成します。
これが右脳で考えるということです。
逆に左脳で考えると、意味に縛られた常識の中の発想しか生み出せません。
ただし、完全に右脳が独立していしまうと、ただの思い付きの行動となってしまいます。
エイリアンハンドが薬の蓋を壁に投げつけるのと同じです。
目的を持って行動しないと、好き勝手に暴れるだけです。
目的を持つのが左脳です。
目的は失わずに、意味のルールだけを緩めることで、右脳で大胆な発想をして思いもよらない解決方法が見つかるんです。
これが天才のやり方です。
ぜひ、参考にしてください。
はい、今回はここまでです。
今回の動画が面白かったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、よかったらこちらの本も読んでください。
それじゃぁ、次回もおっ楽しみに!