第469回 発達障害は、なぜ、ゴミを捨てられないのか?


ロボマインド・プロジェクト、第469弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

さて、今読んでるのは、この本『発達障害の私が夫と普通に暮らすために書いてるノート』ですけど、表紙になかなか興味深いことがかいてあります。

「25歳で初めてゴミをゴミ箱に入れる練習をした」です。
よく意味がわからないです。
なんでも、著者のういさんの部屋にはゴミ箱がないそうです。
じゃぁ、ゴミはどうしてたのかというと、これが想像のかなり斜め上を言ってました。
これが、ういさんの部屋です。

ゴミ箱がないので、基本、ゴミは床に投げ捨てられます。
ういさんは鼻炎持ちなので、鼻をかんだティッシュが部屋のあちこちに散らばってます。
その他、スーパーのビニール袋とか本屋の袋とかいろんなゴミが散らばってます。
ゴミだけじゃなくて、ブラウスとかドライヤーとか、いるものも床に散らばっています。
じゃぁ、ゴミはどうするのかというと、気が向いたとき、その辺にあるスーパーの袋に入れて口を縛って放置します。
ゴミが入った袋が溜まってきたら、気が向いたとき大きなゴミ袋に入れて放置します。
そして、気が向いたとき、大きなゴミ袋を外に捨てに行きます。
かなりワイルドですよね。
でも、これはういさんに限らず、ASDなどの発達障害あるあるだそうです。

その他の発達障害の特性として白黒思考というのもあります。
これは、ものごとをすべて白か黒かで捉えることです。
これは完璧思考や、「すべき思考」にもつながります。
「~すべきだ」「~しなくてはいけない」という考えに固執することです。

ポトフ事件というのがあったそうです。
ういさんがレシピ通りにポトフを作ってたら、それを見てた夫が「その工程いる?」って言ったそうです。
そしたら、ういさんは「もう作らない。知らない」といってリビングに行ったそうです。
仕方なく夫が続きを作ったそうですけど、最後に、「味付けはどうしよう」ってういさんに聞いたら、ういさんがブチぎれたそうです。

ういさんの行動、よく分からないですよね。
でも、発達障害の特性には当てはめたらわかってきます。
ういさんからしたら、「私のやり方に口出ししたから、夫がつくるべきだ」と思ったわけです。
これは「べき思考」です。
ポトフは夫の料理になったのに、味付けを私に聞くのはおかしいのでブチ切れたわけです。
自分の料理、夫の料理ってどっちかに決めたがるのは白黒思考です。
じゃぁ、一体なんで、こんな風に考えるんでしょう?
これ、第463回で提唱した僕の新しい意識仮説で全て説明できるんです。
これが今回のテーマです。
発達障害は、なぜ、ゴミを捨てられないのか?
それでは、始めましょう!

僕の意識仮説を簡単に説明すれば、「意識とは単独で存在するのでなく、社会システムの一部だ」ということです。
これは、意識があるから社会は存在するともいえます。
このことを指して、第463回では意識は社会ネットワークを構成する機器だといいました。

たとえばインターネットを想像してください。
インターネットというネットワークを作り上げてるのは具体的には通信プロトコルです。
通信プロトコルというのは、通信のルールとか仕組みのことです。
お互いに共通のプロトコルをもってるから通信できます。
同じプロトコルを持った者同士はすぐに繋がるし、同じプロトコルをもってないとつながりません。
言い換えると、同じプロトコルを持ってないものは通信から排除されます。
それが社会です。
何が言いたいか分かりますか?

つまりね、人が集まると社会が生まれるでしょ。
社会というのは、異質な者を排除する仕組みをもってるからまとまるといえるんです。
たとえばクラスには、必ず「あの子、ちょっと変わってるよね」って言われる子が出てきます。
それが顕在化したのがいじめです。
逆に言えば、いじめを生み出してるのはプロトコルです。
でも、それは安定した社会を作り出すのに必要不可欠なものともいえるんです。

じゃぁ、社会を安定させるプロトコルとは、具体的にどういう仕組みなんでしょう?
それは、一言で言えばフィードバック制御です。

フィードバック制御というのは、たとえばサーボモータに搭載されててモーターを高精度に制御する仕組みです。

モーターの回転角度はエンコーダで検出します。

コントローラはモーターに回転指示を出すと同時にエンコーダでモーターの回転角度を検出します。
これがフィードバック信号です。
そして、コントローラは目的の回転角度との差が小さくなるようにモータの角度を微調整します。
図を見たら分かると思いますけど、制御ループがぐるっと回って閉じていますよね。
だから、フィードバック制御のことを閉ループ制御とも言います。

この逆が開ループ制御です。

開ループ制御はコントローラはモータに対して回転指示を出すだけです。
これだと大雑把な動きしかできません。

例えば目の前に水の入ったコップがあって、それを手で掴むとします。
これをフィードバック制御と開ループ制御で考えてみます。

まず、コップのだいたいの位置を把握して、手をコップの近くまで持って行きますよね。
そして、コップを見ながらちょうどつかめる位置に手を調整してコップを掴みます。
この目で見ながら手の位置を調整するのがフィードバック制御です。

これを、最初にコップの位置をだいたい見定めて、後は何も見ずにコップを掴むってのが開ループ制御です。
これだと、上手くいけばちゃんとコップを掴めますけど、行き過ぎるとコップを倒してしまうし、届かないと何もない宙を掴んでしまいます。
微妙な調整ができないとこうなります。

僕は、このフィードバック制御が社会を安定させるプロトコルとして機能すると思うんですよ。
サーボモータでいうと、コントローラは意識です。
そしてモーターは体です。
意識が体を動かします。
その時、その行動が社会的に正しいかどうか検出するエンコーダがあるわけです。
意識は、エンコーダからの信号に基づいて、こう行動しないといけないって感じるわけです。
これを感じれるから、人は社会で求められる行動をとれるんです。
そして、その行動を取れない人を見ると「あの子、ちょっとおかしくない」ってなるんです。

じゃぁ、この時エンコーダが出力するフィードバック信号の正体はなんでしょう。
それは感情です。
もっといえば、「恥」って感情です。
こんな行動とったら恥ずかしって思う感情がフィードバック信号です。
これは他人の視点ともいえます。
「少なくともこのぐらいのことができないとねぇ」って他人の思いを汲み取る能力です。
社会のメンバーは、これを感じながら行動するわけです。
こうやってまとまりのある社会ができるんです。

自閉症やASDの人は、相手の立場に立って考えられないと言います。
だから、空気が読めないとか、言葉の意図が読み取れないって言われます。
これも、相手の視点というフィードバック信号を感じられないと考えたら理解できます。
ういさんは、自分が発達障害だと知っても、特に何も感じなかったそうです。
不便だとは思うけど、ショックを受けるとかはなかったそうです。
これも、他人からどう思われてるかってフィードバック制御が機能してないと考えたら理解できます。

そう考えたら、部屋がゴミだらけでも気にしないのも分かります。
ういさんは、部屋が散らかってても特に困ってなかったので、なんできれいにしないといけないのか分からないっていいます。
部屋をきれいにする一番の動機は、友達が部屋に来た時どう思われるかって視点かもしれません。
他人から何と思われるか感じなかったら、部屋をきれいにしようと思いもしないわけです。

そういえば、僕も、子どもの頃は髪型とか一切、気にしなかったです。
それが高校ぐらいになると、ムースとか付けて髪の毛を整えるようになりました。
さすがの僕も、他人とか異性の視線を気にするようになったからです。
まぁ、それもサラリーマンぐらいまででしたね。
サラリーマンを辞めてからは、何十年も髪型とか気にすることなかったです。
次に髪型を気にしたのは、YouTubeを始めた数年前です。
社員から、「髪、もうちょっとちゃんとした方がいいんじゃない?」っていわれたんですよ。
最初、「何言ってるの?」って思いました。
そんなこと考えたこともなかったんですけど、改めて第一回の動画を見なおすと、たしかに、髪、ボサボサでした。

他人の視線を一切感じないと、こうなるんですよ。
フィードバック信号がないと、何か困らない限り、改善しようとか思いもしないんですよ。
そうやって、ちょっとずつ、社会から浮いていくんです。
ほんと、気を付けないといけませんよねぇ。

さて、ここで発達障害の特性をおさらいしておきます。
まず、白か黒かで捉える白黒思考ってありましたよね。
中間がないわけです。
これも、フィードバック制御と開ループ制御で考えればわかります。
開ループ制御だと、コップの位置を決めたら、何も見ずにコップに手を伸ばすだけです。
うまく掴めればいいですけど、たいてい、手が当たってコップを倒すか、何もない宙を掴むかです。
まさに白黒思考ですよね。
目で確認しながら微調整するってことができないわけです。

それから、べき思考っていうのもありましたよね。
ポトフの作り方に夫が口を出したら、最後まで夫がつくるべきとかって。
これも、微調整ができないって考えたら同じですよね。
「こうした方がいいんじゃない」
「味がちょっと薄いんじゃない」
そんな風に調整しながら料理を作ることができないわけです。
最初に決めたら、それしかできなくて、途中で口出ししたなら、口出しした者が最後まで責任を持ってやるべきってなるんです。

フィードバック制御というのは、最終目標と比べながら適宜調整しながら行動を制御することです。
僕らは、これが当たり前と思って自然にできます。
でも、それはフィードバック制御の仕組みをもってるから自然とできるんです。
その仕組みをもってない人にとっては、それができるのが不思議なんです。

フィードバック制御というのは、人々がバラバラに行動せずに、ある一定の範囲に納めるための必要不可欠なプロトコルです。
その機能がうまく働かないと、社会にうまくなじめません。
僕が社会にうまくなじめないのも、その機能に、若干バグがあるからみたいです。

さて、最後に、ういさんがどうやってゴミを捨てられるようになったかを見ていきます。
行動の原動力は感情です。
これは、僕がいつも言ってることです。
ここでいう原動力というのは、エネルギー源というわけじゃありません。
サーボモータは電気で駆動します。
この時、駆動電力がエネルギー源です。
一方、サーボモータにはコントローラから回転指示の信号が送られたり、エンコーダーからコントローラにフィードバック信号が送られたりします。
そして、コントローラが意識でしたよね。
ここで、コントローラから回転指示信号を送ってモーターを回転させることが行動です。
つまり、行動の原動力は、駆動電圧でなくて信号電圧のことです。

そして、その信号電圧の一つがフィードバック信号です。
フィードバック信号が、「恥」という感情です。
自閉症やASDの人は、恥ずかしいという感情のフィードバックを感じられません。
だから部屋をきれいにしようって行動の原動力が生まれないわけです。
じゃぁ、どうすればいいでしょう?

そこで、ういさんが取ったのは、別の感情を利用することです。
ういさんがゴミ箱にゴミを捨てるたびに、旦那さんは、「すご~い!よくできたね」って褒めたそうです。
褒められると嬉しいです。
ういさんは、褒められたくて、ゴミをゴミ箱に捨てるようになりました。
褒められて嬉しいって感情を原動力にゴミ箱に捨てるようになったんです。
やがて、褒められなくてもゴミ箱に捨てられるようになったそうです。
そこまで2年かかったそうです。

発達障害を抱えながら社会に適応するにはどうすればいいのか。
そのヒントになればと思います。

はい、今回はここまでです。
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それから、よかったらこちらの本も読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!