第47回 解決!意識のハードプロブレム⑤ 〜ホムンクルスの無限後退(デカルト劇場)と意識の仮想世界仮説


ロボマインド・プロジェクト、第47弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

目で見たり、耳で聞い音は、脳の中でどうやって処理されてるか分かります?
それはですねぇ、目で見た映像は脳内のスクリーンに投影されて、音は脳内のスピーカーから再生されるんですよ。
ほんで、椅子に座ってそれを見てる小人がいるわけです。
こんな感じです。

「へぇ、そういう風になってたんだ」
って、納得してくれる人、まず、いないですよねぇ。

もし、そんな小人がいるんなら、じゃぁ、その小人が見たものはどうなるのってなりますよね。
それは、もちろん、その小人の頭の中にも小人がいて、ほんで、その小人の頭の中にも小人がいてって・・・

こんな感じになるわけです。
これを無限後退って言います。

これは、古典的な意識のモデルで、ホムンクルス・モデルとかデカルト劇場とか言われています。
これを指摘したのが、哲学者ダニエル・デネットです。
(哲学者 ダニエル・デネット 1942~)

デネットと言えば、第37回、38回で取り上げた「フレーム問題」で、洞窟の話を考えた人です。
爆弾がのったバッテリが洞窟の中にあって、それをロボットが取ってくるって思考実験です。
バッテリを取るのに、壁の色が変わらないかとか考えてたら無限に考えることがでてきて、ロボットがフリーズするって話でした。

この手の思考実験を聞いてて思うのは、みなさん、ほんと、無限が好きですよね。
プログラムを作ったことのある人なら分かると思いますけども、無限になることなんか、普通にあることなんです。
どうも、哲学者って、プログラムを作ったことがないなんか、無限に対して、思い入れみたいなのがあるみたいなんですよねぇ。
ほんで、無限がでてきたら、「ほらねっ」ってドヤ顔になって、そこで思考停止するみたいなんですよ。
なんか、あっさいですよねぇ。

まぁ、それはともかくとして、僕が言いたいのは、無限後退とか、意識のハードプロブレムとか、思考実験してるだけじゃ、意識は解明できないってことなんです。
こういった、浅い議論はそろそろ抜けて、意識モデルを実際に設計していきましょうってことです。

ほんで、それをやってるのが、ロボマインド・プロジェクトってわけです。

ロボマインド・プロジェクトの理論の基盤となってるのが、「意識の仮想世界仮説」です。
詳しくは、第21回「意識の仮想世界仮説」や、第41回「自由意志は存在するか?③」を見てほしいんですけども、一言で言えば、頭の中に仮想世界を創って、意識はそれを観察するってモデルです。
このモデル、ホムンクルス・モデルと同じじゃないかって、質問を受けることがあるんです。
そこで、今回は、その点を明確にしていこうと思います。

そこで登場するのが、前回出てくれたルンバ君です。
ルンバ君、改造して意識をもちましたよね。

ルンバ君が認識してる世界ってこれでしたよね。
部屋の地図です。
これ、つい勘違いしてしまうんですけど、ルンバ君は、この地図を見てるわけじゃないんですよ。
見てるんじゃなくて、理解してるんですよ。

もう少し丁寧に説明しますね。
これは、部屋の壁です。
これが自分です。ルンバ君自身です。

このまままっすぐ進んだら、壁にぶつかります。
これが地図を理解してるってことです。

自分が、部屋のどこにいるかとか、どこに向かってるかとかがわかります。
壁までの距離がどのくらいかとかもわかります。

つまり、世界そのものを表してるってことです。
目の前に壁があるってことが分かるってことが重要なんです。
そして、もっと重要なのは、何センチ先に壁があるから、じゃぁ、どうしようって考えることができるってことです。

ここ、ものすごく重要なんで、丁寧に説明しますよ。
以前のルンバ君は、壁にぶつかったら、センサーが検知しました。
ほんで、ちょっと下がって向きを変えて、掃除の続きをします。

重要なのは、壁にぶつかったことをセンサーが検出したことじゃないですよ。
そこじゃなくて、「あっ、壁がある」って思うことができるってことです。

いいですか、以前のルンバ君は、壁にぶつかった時、その後の行動が決められていました。
これは、プログラムで決まってるわけです。

ところが、今のルンバ君は、壁があるって認識します。
その後、どうするかを、自分で決めることができるんです。

止まることもできます。
引き返すこともできます。

これって、自分で行動を決めてるってことです。
つまり、自由意志です。
ルンバ君は、自由になれたんです。
プログラム通りに動くだけのロボットから、自分で決めて、行動することができるようになったんです。

ここで気を付けてほしいのは、この自由意志も、プログラムなんですよ。
プログラム通りに動いたら、自由意志じゃないって勘違いしてる人がいるんですけど、これも、よくある浅い議論なんですよ。
無限といっしょですよね。
プログラムで実現したら自由意志にならないよって、そこで思考停止してしまうみたいなんです。
そうじゃなくて、自由意志を持てるようなモデルを考えて、それをプログラムで実現しようって考えるべきなんです。
思考実験ばかりしてるから、30年経っても、何も変わっていないわけです。
意識は、ソフトウェアで実現されるんですよ。

おっと、話を元に戻します。
ルンバ君は、白地に黒い線が描かれた地図を眺めてるわけじゃないってことでした。

じゃぁ、ルンバ君が見てるのは何?
それは、この地図がルンバ君にとっての世界なんです。

ルンバ君は、床の上を動くだけなんで、こんな風に2次元で世界を感じてます。
壁が世界の端です。
それ以上はいけません。

そうやって世界を感じてるわけです。
でも、こんな地図じゃ、ちょっと味気ないですよね。
じゃぁ、どうしましょう?

ルンバ君に足を生やして、高くしてあげましょう。
高さを感じて、3次元を感じさせてあげましょう。

そうすると、この地図も、3次元のCGになりますよね。
色も付けてあげましょう。

机の上に、きれいな花瓶が載ってるのが見えたりします。
すべて3DCGで描かれます。

3DCGなので、見えてるものだけじゃなくて、様々なデータを設定することができます。
花瓶は、大きくて重いとか、落とすと割れるとか。
しかも、100万円もするとか。

この部屋を掃除するように言われたけど、この花瓶は気を付けて扱わないといけないよなぁ。
これが、ルンバ君が感じてることです。
さっきまでの地図とだいぶ、かわってきましたよねぇ。
僕らが見て、感じてる光景に近づいてきましたよね。

さて、わかってきましたか?
ルンバ君は、単純な地図をバージョンアップさせて、本物そっくりの世界を創りました。
こう思った人、
それ、完全に間違です。

そうじゃないんですよ。
本物そっくりの世界なんて、この世にないんですよ。
世界は、外に存在するんじゃないんです。

いや、それも、ちょっとちがうかなぁ。
世界があると思うのは、そういう世界が存在すると認識できるからです。
認識できる世界がある。
出発点はここなんですよ。

2次元の地図を見ていたルンバ君は、世界は2次元だと思っていました。
そうじゃなくて、2次元を認識できるから、2次元の地図を理解できるんです。
世界を2次元の地図変換して、それを認識することで、世界は2次元だと思ってるわけです。

でも、世界は2次元じゃないですよね。
3次元ですよね。

そう思うのは、僕らが3次元を認識できるからです。
3次元を認識できる仕組みを持ってるからです。
見た世界を3次元世界に変換して、それを認識してるからです。
頭の中に、3次元に変換した世界を創って、それを認識してるわけです。
外の世界を見てるわけじゃないんです。

そんなわけないでしょ。
だって、私は、今、世界を見てます。
間違いなく、この目で、世界を見てるんです。
それこそが、世界は、自分の外にあるって証拠じゃない!

あなたは、そう、言うかも知れません。
でも、あなたが眼で見た物って、眼球の網膜に投影された映像ですよ。
いや、映像ですらなくて、単なる点々の集まりです。

たとえば、この部屋、3次元に感じますよね。
じゃぁ、点々を集めたら3次元になりますか?

そうじゃなくて、意識が認識できる3次元空間ってのが頭のなかにあるわけです。
そこに、点々を配置するから、それが3次元に感じられるわけです。

もし、あなたが昔のルンバ君だったら、この世界は、白地に黒い線で出来てるっていいますよ。
だって、そう見えるんだもんって。

あなたの頭で認識できること、それがが、世界の限界なんです。
今、あなたが見てる世界、それは、目の前にそういう世界があるわけじゃないんです。
目の前の世界を、あなたが認識できる形に変換してるだけです。
頭の中に再現して、それを見てるんです。

これが、意識の仮想世界仮説です。
哲学者が議論してる意識とは、モデルの具体性とか、現実可能性とか、全然レベルが違うってことがわかると思います。

意識科学は、思考実験から、そろそろ、具体的な設計段階に進むべきなんですよ。
哲学者が扱うんじゃなく、ソフトウェア・エンジニアが扱う段階なんです。

そして、それをしてるのが、ロボマインド・プロジェクトというわけです。
もし、興味があれば、あなたもロボマインド・プロジェクトに参加(チャンネル登録)してください。

それでは、次回も、お楽しみに!