第473回 『テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想』橘玲② 〜進化の極致 自閉症とテクノ・リバタリアン


ロボマインド・プロジェクト、第473弾!
こんにちは、ロボマインドの田方です。

今回も、橘玲の『テクノ・リバタリアン』の続きを読んでいきます。

今回の話、僕の最近の関心にかなり近くて、僕の仮説がかなり整理されてきました。
僕の最近の関心の一つが右脳と左脳です。
第463回、第465回で意識は左脳に宿るって仮説を唱えました。
そして、第471回でそれを若干修正して、どちらかに宿るってわけじゃなくて、左脳寄り、右脳寄りって、人によって偏りがあるってとこに落ち着きました。

もう一つの関心が自閉症とサヴァンと天才の関係です。
そのことを取り上げたのが第468回の「人工サヴァン」、第470回の「サヴァンは天才なのか」です。
サヴァンというのは、特殊な能力を持つ自閉症のことです。
たとえば見たものを写真のように記憶する写真記憶とか、日付をいっただけで曜日を答えるカレンダーサヴァンとかが有名です。
それから、第428回「究極のサヴァン」では、床にマッチ棒が散らばったのを見て「111」って一瞬で数える双子を紹介しました。
その双子は、その後、「37,37,37」って三回いいました。
111を「37×3」に因数分解までしたんです。
さらに、双子は20桁の素数を言い合うゲームをして遊ぶんです。
トンデモナイ数学能力です。

自閉症は、症状が重い自閉症から軽いアスペルガー症候群まで幅広く連続してるので自閉スペクトラム症とかASDと言います。

自閉症は知的障害、とくに言語障害として現れます。
サヴァンは、特殊な能力があるけど知的障害を伴う自閉症って位置づけです。
自閉症傾向はあるけど、言語障害を伴わないサヴァンが天才と言われます。
その一人が、イーロン・マスクです。

イーロン・マスクには自閉症の子どもがいて、理論物理学者のスティーブン・ホーキングには自閉症の孫がいます。
じつは、社会的に成功した知能の高い家庭に自閉症の子どもが生まれる確率が高いとも言われています。
自閉症の発症率は一般に1~2%ですけど、最も裕福な家庭を調査したところ、家族に約8%も自閉症がいたそうです。
マサチューセッツ工科大学、MITの卒業生の間では自閉症が生まれる確率は10%ぐらいって言われています。
そこで、イギリスの発達心理学者サイモン・バロン=コーエンがそれを調査しようとしたらMITのブランドに傷がつくとして学長命令で調査が中止させられたそうです。
そこで、オランダのシリコンバレーと呼ばれるアイントホーフェンで調査したところ、自閉症の発症率が他の地域より4倍以上高かったそうです。

ここから、いろんなことが見えてきます。
まず、自閉症は遺伝が関係するということです。
自閉症の遺伝子は、天才にも自閉症にもなる遺伝子です。
遺伝ということは、人類の進化の方向を示してるとも見えます。
少なくとも、その遺伝子を持ったテクノ・リバタリアンが、今後の世界を決定づけることは間違いありません。
これが今回のテーマです。
人類の進化の極致
自閉症と天才とテクノ・リバタリアン
それでは始めましょう!

左脳が得意なのは言語で右脳が得意なのは見たものをイメージとして認識することです。
一般に女性はおしゃべりです。
これは左脳の処理が得意ということです。
一方、女性は地図を読むのが苦手だったり図形問題が苦手とも言われます。
これは右脳の処理が苦手ということです。
つまり、人の能力は左脳か右脳かどちらかに偏るようです。

それから、人と動物の一番の違いは言葉をしゃべることです。
見たものを概念として捉えて、それに名前をつけたものが言葉です。
つまり、左脳には、物事を抽象的な概念にする機能があるといえます。
人は、この機能を獲得して、言葉をしゃべるようになりました。
そして、言葉をしゃべるようになって複雑な人間社会がうまれました。

そこで、社会を言葉を中心に考えてみます。
すると、言葉を理解する左脳を中心に社会は成立してることが見えてきます。
個人と社会を結び付ける接点が左脳というわけです。

または、言葉を理解して意思疎通が取れるかどうかが社会の一員として受け入れられるかどうかの最低条件というわけです。
だから、言葉を理解できないと、知的障害として社会から排除されるんです。
図形問題が解けないからといって、社会から排除されることはありません。

ただ、言葉を獲得して人間社会が生まれたっていうのは逆じゃないかって思ってるんですよ。
どういうことかって言うと、先に生まれたのは人間社会を生み出すって目的じゃないかってことです。
その目的のために発明された手段が言葉なんです。
具体的に考えてみます。

たとえば学校に入学したり、新しい学年になってクラス替えしたとします。
その時、自然とクラスの中で人間関係がつくられますよね。
みんなに慕われるリーダーが生まれたり、気に障ることを言って、みんなに疎まれる子が生まれたりとかです。
そんな関係を敏感に感じ取ってクラスの中でうまく立ち回るのがその社会の一員になるってことです。
ここでリーダー的存在をA君、みんなから疎まれてる子をB君としましょう。
文化祭とかの催しを決めるとして、A君とB君がそれぞれ意見を出して、意見が分かれたとします。
そんな場合、本当はB君の意見に賛成でも、A君に賛成って言ってしまうことってありますよね。
社会の一員になるとは、こういう事です。
これは、空気を読む感覚ともいいます。

僕が思うに、この感覚がまず生まれたんですよ。
ユヴァル・ノア・ハラリはサピエンス全史でホモ・サピエンスは、7万年前、認知革命が起こったと言います。
認知革命で獲得したのは、目に見えないものを想像する能力です。
神とか共通の祖先とかです。
これによって宗教や神話が生まれて人々がまとまるようになったというわけです。
目に見えないものを認識するというのは、抽象概念を認識するともいえます。
そして、この時期、ホモ・サピエンスは言語能力も獲得したわけです。

僕も、この説が正しいと思っていました。
でも、最近考えてるのは、神とか宗教とかより、もっと根本的な力があるんじゃないかってことです。
だって、日本人のほとんどは無宗教で神も信じてないっていうじゃないですか。
それでも安定した社会は作られてるでしょ。
むしろ、日本人は世界の中でまとまりが強いと思います。
じゃぁ、その社会をまとめる根本的な力って何でしょう?

それが、誰がリーダーで、だれを排除すべきかって見極める能力です。
生まれながらに誰もがこの能力をもってるから、自然とまとまった人間社会が作られるんです。

こう考えたら、この力こそ、人間社会を生み出す根源的な力といえるでしょう。
そして、集団内の微妙な力関係を仲間と共有するために発明されたのが言葉なんです。
たとえば、「A君ってすごいよなぁ」って、誰を中心にまとまるかを指し示す言葉です。
「B君って、ちょっとかわってるよね」って集団から排除する生贄を見つけ出す言葉です。
これらの言葉で、社会が自然とまとまっていくんです。

これらが指し示す言葉の究極が神とか悪魔です。
社会の中心となるシンボルと、社会から排除すべきシンボルです。

男性より女性の方がおしゃべりで言語能力が高いですよね。
クラスのなかでは、男子より女子の方が、細かいグループがいっぱいできます。
これも、言語能力の高さが社会をより細かく分けると考えたら理解できます。

自閉症の人はこの能力が低いと言われています。
たとえば第466回で紹介したビジュアル・シンカーのテンプル・グランディンは自閉症で、他人の感情が理解できないっていいます。
テンプルは家畜施設の設計者として成功しています。
ある時、自分の設計した機械が定期的に故障したそうです。
調べてみると、故障するのはある男が働いてるときに起こることがわかって、その男を問い詰めたところ、犯人であることを自白したそうです。
その男は、テンプルの同業者だったんですけど、テンプルのせいで仕事が減って逆恨みして犯行に及んだそうなんです。
テンプルにはこの行動が全く理解できなかったそうです。
仕事がなくなったのは、自分の設計よりテンプルの設計の方がいいからで、仕事が欲しければ、テンプルよりいい仕事をすればいいだけじゃないかってことです。

まぁ、理屈はわかりますけど、その男の気持ちもわかりますよね。
でも、相手の気持ちが理解できないのが自閉症です。

それから、第352回では、脳を磁気刺激するTMS治療でアスペルガー症候群が治ったジョン・エルダー・ロビソンを紹介しました。
ロビソンは、TMSの効果がてきめんで、突然、他人の気持ちが理解できるようになったといいます。
そして、いつも親しげに話しかけてきてた友達が、じつは、自分をからかってることがわかったんです。
奥さんが、「あの人はあなたをバカにしてるのよ」っていっても「そんなことないよ。あいつはいいやつだよ」って言ってましたけど、奥さんの言ってることが正しかったんです。
他人の気持ちを理解できないとはこういうことなんです。

そして、テンプルもロビソンも社会的に成功しています。
テンプルは、家畜施設の設計者で動物学者として大学の教授も務めています。
ロビソンは、ピンクフロイドの音響エンジニアとしてツアーに参加してました。
ロビソンは、スピーカから鳴る音が頭の中で波形として感じられて完璧にチューニングできたそうです。
その後、自動車のエンジニアとしても成功しました。
エンジン音を聞くだけで、だれが来たかわかるほどだったそうです。
これって、まさに、右脳が得意な知覚したそのままを感じ取る能力です。

言語能力は、社会を作るために発達しました。
それは、相手やみんながどう思ってるのか感じ取る能力で、この能力をもって者同士で集団の中の微妙な人間関係がつくり出されます。
そして、それを行ってるのが左脳です。

冒頭でも語りましたけど、人は左脳寄りか、右脳寄りかに能力が偏ります。
両方の能力を満遍なくつかえることはありません。
そして、自閉症は右脳寄りです。
だから、他人の気持ちを理解するのは難しいです。
その代わり、右脳が得意な特殊な能力をもちます。

ここをもう少し掘り下げて考えていきます。
リーダーとか、みんなから疎まれる存在って抽象的な概念を指し示すために言葉が生み出されました。
つまり、言葉によって、目に見える姿から抽象的な概念を抽出する機能が発達したわけです。
元々はリーダーや生贄をあぶりだすために発達した抽象化機能ですけど、後に、あらゆる物を抽象概念として抽出できるように発展しました。
抽象概念として取り出せば、あとは名前をつけるだけです。
名前をつけることで、概念を操作できます。
これが理論的思考です。

左脳と右脳はトレードオフの関係になっていて、左脳寄りになると右脳の機能が制限され、右脳寄りになると左脳の機能が制限されるってことです。
左脳寄りとは、おしゃべりだけど地図を読めないとかです。

じゃぁ、逆に右脳寄りになると、左脳の機能の何が失われるんでしょう。
おそらく最も原始的な機能が失われるんでしょう。
具体的には、相手の気持ちを理解する機能です。
残るのは、抽象化して操作する機能です。
つまり、理論的に考えたり、しゃべったりする機能です。
だから会話はできます。

ただ、微妙な空気を読むとかはできなくなります。
その代わり、見たままを記憶する写真記憶とか、図形問題を解いたり、一瞬で因数分解する数学能力といった右脳の機能が目覚めます。
そして、その能力を維持したまま、左脳の理論的思考ができるとしたらどうでしょう?

それこそが天才ですよね。
それが、イーロン・マスクです。
百科事典を丸暗記して、どんな問題でも解決する能力です。
電気自動車や全自動運転者、人類を火星に届ける夢を実現できる人です。
それが、テクノ・リバタリアンです。

イーロン・マスクは、子どもころは友達がいなかったといいます。
ピーター・ティールも同じです。
シリコンバレーには、そんな人たちが集まってきているそうです。
ピーター・ティールは、シリコンバレーで出会った仲間と、会うたびに数学の問題を出し合っていたそうです。
どんな問題かって言うと、「整数には約数の個数が奇数個のものと偶数個のものがある。約数の個数が偶数個であるz未満の整数の個数はいくつか?」とかって問題です。
何を言ってるのかさっぱり分かりません。
普通の人が、「最近、誰々は調子のってよなぁ」とかって言っても全然乗ってこないけど、こんな数学の問題だと、生き生きとするわけです。
これがテクノ・リバタリアンです。

これがもっと右脳寄りになったのがサヴァンです。
サヴァンになるとうまく会話もできません。
でも、一瞬見ただけの光景を記憶だけでそっくり絵にかいたり、一度聴いただけの曲をピアノで演奏できたりします。

テクノ・リバタリアンは、右脳と左脳のバランスが絶妙なわけです。
言葉はしゃべれますけど、相手の気持ちを汲んだり、空気を読むと過は苦手です。
その代わり、物事を完璧に記憶して、さらにそれを頭の中で操作して問題を解決できます。
その際、余計な感情に左右されなくて、数学的に最適な行動を選択できます。

前回、第472回でも指摘しましたけど、イーロン・マスクもスティーブ・ジョブズも能力が低い従業員はすぐにクビにしてました。
最適な行動を躊躇なくとれるのがテクノ・リバタリアンです。
一方、従業員の雇用を最優先した日本のシャープは倒産してホンハイに買収されました。

これが今、世界で起こっていることです。
これは、テクノロジーが社会を動かすって単純な話じゃありません。
そうじゃなくて、社会的活動を重んじる脳より、数学的な理論を重んじる脳をもった人間が社会を動かすようになってきたということです。
これは一種の適者生存です。
つまり、これは人類の脳が進化したということです。
進化した脳をもったものが、次の時代を作ります。
それがテクノ・リバタリアンです。

はい、今回はここまでです。
面白かったらチャンネル登録、高評価お願いしますね。
それから、よかったらこちらの本も読んでください。
それじゃぁ、次回も、おっ楽しみに!